高度外国人材と創出する日本企業のイノベーティブな未来韓国政府機関、若者の日本就職へ手厚い支援
韓国高度人材の日本就職(4)

2024年12月25日

韓国で深刻化する若者の就職難を背景に、韓国政府は1998年から日本を含む海外での若者の就職支援策に着手し、2010年以降、事業規模を拡大してきた。「K-MOVE」と呼ばれる就職支援策の実務を担うのは、政府機関の大韓貿易投資振興公社(KOTRA)および韓国産業人力公団である。両機関はいずれも日本に拠点を持ち、韓国人の採用を目指す日本企業(日本に進出している韓国系企業を含む)と韓国人材とを結びつける窓口の役割を双方で連携して担っている。両機関の支援プログラムの内容、韓国若手人材の日本での就職の最新動向、および韓国人材にアピールすべきポイントについて、KOTRAおよび韓国産業人力公団のそれぞれの実務責任者にインタビューを行った。

KOTRA:海外ネットワークを強みに、海外就職先を発掘

KOTRAは、産業通商資源部傘下に設置された、貿易振興、投資誘致、人材交流を行う韓国政府機関である。世界各地に拠点を置き、国外拠点での企業サポートに強みを有する。日本における人材関連の取り組みでは、主に韓国人の就職先となりうる日本企業の募集を行い、日本企業がソウル市で開催されるグローバルタレントフェア(韓国語・英語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますおよび日本で開催されるジャパン・ジョブ・フェアへ参加、そして求職サイト「ワールドジョブプラス(韓国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(WORLD JOB+)」を利用する際の支援を行っている。KOTRAグローバル人材センターのジョン・スヨン次長に、KOTRAの支援内容や直近の韓国人材の日本での就職の動向について話を聞いた(インタビュー実施日:2024年8月28 日)。

質問:
K-MOVEにおけるKOTRAの役割、およびその目的は何か。
答え:
KOTRAでは韓国産業人力公団と協力して、韓国人材を採用したい海外企業を発掘している。KOTRAは世界84カ国に海外貿易館129拠点を有し、それらの拠点を通じ、海外企業側の求人需要を発掘している。また、若手人材に対する研修や採用後のメンタリングなど、各種の支援プログラムも実施している(図1参照)。海外拠点の中でも、K-MOVE業務の中核を担う拠点を「K-MOVEセンター」と呼び、その他の拠点と区別している。世界全体でK-MOVEセンターは計16カ所あり、日本では、東京、大阪、名古屋に立地する。その他、K-MOVEセンターではないが、福岡にも拠点がある。
K-MOVEの目的としては、韓国人材の海外での「定着」、およびその後の「帰国」の両方がある。海外で就職した後、韓国に帰国するかどうかは学生が自身の選択として決めることではあるが、KOTRAとしては、韓国の人材が将来的には帰国し、海外経験を生かして韓国経済に貢献してもらうことを狙いとしている。

KOTRAグローバル人材センタージョン・スヨン次長(ジェトロ撮影)
図1:KOTRA・海外就職支援サービスの流れ
KOTRA・海外就職支援サービスのフローは、企業による求人申請(海外貿易館)、ワールドジョブへ求人情報の登録、人材・企業間で面接を実施(韓国国内/海外)、採用・結果報告、アフターケア(メンタリング)となる。

出所:KOTRA “KOTRA SERVICE GUIDEBOOK 2024”から作成

質問:
海外就職支援事業全体の規模および、それに占める日本の位置づけは。
答え:
KOTRAでは2023年に1,263人の海外就職を支援した。毎年、海外就職者数の目標を掲げ、達成している。ただし、新型コロナウイルス禍は例外だ。渡航するためのビザもなかなか取得できないことから、海外就職者が減少した。新型コロナ禍後、海外企業側の求人需要は回復傾向にあるが、一方で、求職活動を行う学生の動きがまだ回復していない。2023年の就職支援件数を国・地域別に見ると、全体の16.4%(208人)を日本が占める。2024年は全体で1,450人の海外就職支援を目標とする中、うち日本は全体の20%を占めて最も多く、米国、ベトナムがそれに続く。

日本就職希望者は円安により減少も、一定の人数を維持

質問:
足元では円安が進行しているが、就職先としての日本の人気は。
答え:
最近は、日本に就職したいという若者が一時期より減少傾向にある。学生の間では「日本は初任給が低い」というイメージがあり、近年の円安進行を受けて、そうした認識がさらに高まったことが一因(注1)。しかし、海外就職に関心のある学生数が全体として減少する中、日本での就職を希望する人は依然、一定の規模を占める。2024年5~6月に、我々が韓国国内の14カ所の大学を回って海外就職説明会を実施した際にも、日本への就職に関しては、説明会終了後も熱心に質問をする学生が目立った。名古屋K-MOVEセンターの担当職員からも、日本への関心は引き続き高いと聞いている。こうした日本に興味のある若者に対し、我々からは日本で成長できるチャンスを、まだ十分認識されていない日本の魅力も含めて伝えていきたい。
質問:
日本での就職に関して、どのような情報を若者に発信しているのか。
答え:
日本の企業の初任給は約3,000万ウォン(約330万円、1ウォン=約0.11円)と、韓国の約4,000万ウォンと比べ見劣りする。しかし、日本企業の給与水準が初任給の段階から入社5年後、10年後にどの程度増えていくかという具体的なシミュレーションを学生に分かりやすいよう示している。また、給与以外の魅力もアピールしている。近年、特に若者において関心が高い、ワーク・ライフ・バランスや職場の雰囲気に加え、日本での就業経験が自身のキャリア形成にいかに役立つかを説明する。職場の環境を具体的にイメージできるよう、実際に日本で働いている人へのインタビュー動画や社内イベントの写真を用いて紹介する。若者には硬い雰囲気よりも、フレンドリーで和やかな職場の雰囲気が好まれる。日本に対し親近感を持つ韓国の若者は多いため、日本ならではの魅力をもっとアピールできると思う。
質問:
日本で人気のある地域や業種は。
答え:
KOTRAでは東京、大阪、名古屋、福岡でジャパン・ジョブ・フェアを開催しているが、各フェアの参加者数を見ると、なかでも東京を中心に首都圏への関心がとりわけ高いことが分かる。続いて人気があるのが大阪だ。日本で就職者の多い業種は、首位がIT産業であり、その他サービス業、製造業が続く。近年、インバウンド市場が拡大していることを受け、日本ではサービス業の求人が旺盛だ。日本企業からは、韓国人材は日本語や英語などの優れた外国語能力、グローバルで働きたいという熱意、チャレンジ精神が評価されている。
質問:
日本での就職・生活について、韓国の若者はどのような課題を感じているか。
答え:
最大の問題は、日本語能力である。ただ、日本語があまり流暢でなかったある韓国人学生が日本で就職し、我々も心配していたが、「日本人の同僚から手厚いサポートが受けられ、心配していたほど日本で働くことも大変ではなかった」と聞き、安心した。必ずしも渡航時点で高い日本語能力がなくとも、日本側での適切な受け入れサポートが受けられれば、職場や日本での暮らしに適応できている。また、KOTRAとしても海外でのスムーズな定着を支援するため、メンタリング制度を導入している。先行して日本で働いている韓国人材のいわば「先輩」からアドバイスが受けられる制度だ。加えて、税務、法律の専門家から助言を行うなど、採用された人材が日本に定着できるようサポートしている。

産業人力公団:韓国の若者向け海外キャリア支援の総合窓口を担う

KOTRAが主に海外側での支援を手掛ける一方、雇用労働部の傘下機関である韓国産業人力公団は、韓国国内または海外滞在中の韓国人求職者を対象に、体系的な海外キャリア支援を行っている。韓国産業人力公団のソウル海外就業センターのイ・へウォン・センター長に、同公団の海外就職支援スキームについて話を聞いた(インタビュー実施日:2024年8月28 日)。

質問:
K-MOVEにおける韓国産業人力公団の役割は何か。
答え:
韓国産業人力公団は青年雇用促進特別法などを根拠とする、青年海外就職支援事業の代表的な実施機関である。 韓国政府は、若者の海外進出を支援するため、これまで各省庁が個別に実施してきた海外進出プログラムをK-MOVEという事業に統合し、これを推進している。
当公団は、海外就職を希望する求職者の準備レベルに合わせた海外就職関連情報の提供(各種説明会の開催および海外就職相談の実施)から海外就職に関連する能力向上のための各種教育プログラムの提供、短期海外就業体験の機会の提供、海外就職研修事業の運営や就職の斡旋、就職後のアフターサポートまでを網羅した、一連の支援を行っている。
特に、日本を対象とした海外就職支援事業を円滑に推進するため、東京に事務所を設置し、担当職員が常駐しながら、日本国内の求人企業の発掘、求職者の募集および就職支援、協力ネットワーク構築、就職者のアフターサポートなどの業務を行っている。日本側での求人企業発掘についてはKOTRAと分担して行っている。

右から、韓国産業人力公団海外就業局課長 イ・ヨンウ氏、ソウル海外就業センター長 イ・へウォン氏、
釜山海外就業センター 次長 ソン・ドンジェ氏、東京事務所所長 イ・ハクチャン氏 (ジェトロ撮影)
質問:
海外就職の希望者に対する支援プログラムとしては何があるか。
答え:
当公団が提供する支援事業に関する情報は、オンラインプラットホームのワールドジョブプラス(韓国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに掲載している。ワールドジョブプラスには2024年10月現在で672万人の個人会員(求職者)の登録があり、韓国の若者は本サイトを通じて、海外就職および起業、インターンやボランティアなど海外に関する情報を入手できる。具体的なプログラムは、以下の6点だ。
(1)海外就職を希望する求職者は、ワールドジョブプラスを通じて様々な国の求人企業の採用情報を閲覧し、希望する国や職種、年収、雇用形態などの詳細条件を確認の上、同サイト上で履歴書を作成・登録し、希望する企業にエントリーすることができる。また、当公団は多くの国・地域の企業関係者を韓国に招待し、毎年8月頃にKOTRAと共同で「グローバルタレントフェア」、10~11月頃に釜山市と共同で「釜山青年グローバル就職博覧会」などを開催しているほか、韓国国内で個社の採用イベントの開催を支援している。
(2)海外就職を初めて準備する求職者向けには、海外就職に関する基礎的な情報を提供する各種説明会を実施している。大学や各種教育機関の要請を受けて開催することもあれば、当公団が国別・職種別に特化した内容の説明会を企画・開催することもある。
(3)求職者が海外就職に備えて基本的な職業能力を取得できるように「海外就職アカデミー」という教育プログラムを運営している。英語や日本語など主要外国語を活用したビジネス会話や履歴書作成、面接対応に関するオンラインコースを毎月開催している。また、ワールドジョブプラスの会員には、英語または日本語の履歴書無料添削サービスを1人あたり各2回提供している。
(4)海外就職を希望する求職者を対象に、1対1のコンサルティングサービスを提供している。支援事業全般に関する案内はもちろん、就職希望国に関する就職動向および関連ビザ制度の案内など、求職者の疑問を解決しようと努めている。ソウルまたは釜山の海外就職センターで、対面もしくはオンライン方式での相談が可能だ。
(5)海外就職研修事業であるK-MOVEスクール(「韓国高度人材の日本就職(3)韓国の教育機関での海外就職支援策」参照)がある。このプログラムは、海外進出を希望する若者を対象に求人企業が求める特定の外国語能力、職業能力に対するオーダーメイド方式の研修を提供し、海外就職につなげる国費による支援プログラムである。
(6)海外就職に成功した人を対象に、現地での定着や長期的な就労の継続を促すために最大500万ウォンの支援金を提供する「海外就職定着支援金」制度(注2)を運用している。就労者の年齢や所得、就労認定基準などの支給条件を満たした就労者に限り、勤続期間別に3回に分けて支給している。
質問:
海外企業に対してはどのようなサポートを行っているか。
答え:
韓国人材の採用を希望する海外企業は、ワールドジョブプラスに企業会員として加入すると、同サイトに求人情報を掲載できる。登録した求人に応募した応募者のリストと履歴書を確認した後、面接を希望する候補者の連絡先情報を閲覧できる。同時に、ワールドジョブプラスに登録された人材のプールから希望の条件に沿って検索をかけ、条件を満たした求職者に対して、海外企業がショートメッセージ(SMS)やメールで連絡を取ることも可能だ。
ソウルまたは釜山の海外就職センターの国別担当者が、企業の求人情報ごとの進捗状況をリアルタイムでモニタリングしている。特定の求職者を対象に個別の求人情報を推薦、韓国国内の大学や教育機関、求職者コミュニティに採用情報や採用イベントを広報するなど、多くの求職者が求人企業に関心を持てるようにサポートしている。前述のように、海外企業は韓国国内で開催されるグローバルタレントフェアや面接会という対面イベントへの参加やオンライン面接も可能だ。
さらに、韓国で個別の海外企業の採用イベント開催や韓国国内のジョブフェアへの参加を支援している。企業が韓国で面接(対面・オンラインともに)を実施する場合、無料でセミナー・面接会場を貸し出している。また、グローバルタレントフェアなどのジョブフェアに参加する場合、出展ブースを提供すると同時に、条件付きで参加関連費用の一部を支援している。
質問:
日本就職支援の現状は。
答え:
新型コロナ禍の影響で海外就職者数が減少した時期もあったが、最近は回復してきた。年間約5,000人の若者が海外に就職している。2022年の国別就職先として第1位が米国、第2位は日本であり、日本での就職には根強い人気がある(図2参照)。2023年からは新たな試みとして、より短い期間に海外で働くことを体験できる「就職体験(WELL)」(韓国語参考資料PDFファイル(465KB))という新規事業を開始した。この事業は、若者が海外での仕事経験(Work Experience)と進路探求のための学習機会(Learning)を提供することで、海外進出のための梯子(Ladder)の役割を果たす事業である。参加する若者は、韓国国内で一定期間の職務および素養に関する事前教育を受け、海外で2~4カ月程度の実務を経験して帰国する。プログラムの終了後には、韓国でその後の就職支援を受けることができる。当公団は、受け入れ企業に対して、プログラムの参加人数に応じた一定額の支援金を、参加者に対して支援金および滞在費の一部をそれぞれ支給している。関心のある日本企業には、ぜひ奮って本インターンシップの受け入れ先として名乗り出ていただきたい。
図2:韓国人材の海外就職先の推移

出所:海外産業人力公団ウェブサイトからジェトロ作成


注1:
2022年9月5日付地域・分析レポート「韓国の賃金水準、日本並みに」および2021年10月4日付「中央日報」「韓国大企業大卒初任者、日本より60%高い…中小企業は大企業の55%水準」など現地報道に基づく。
注2:
2024年度の「海外就職定着支援金事業」では、支援人数は最大3,900人としている。就職後1カ月、6カ月、1年と段階的に、250万ウォン、100万ウォン、150万ウォンが支給される。
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課 課長代理
森 詩織(もり しおり)
2006年、ジェトロ入構。ジェトロ広島、ジェトロ・大連事務所、海外調査部中国北アジア課などを経て現職。

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