高度外国人材と創出する日本企業のイノベーティブな未来海外大学連携で事業拡大、半導体企業の人材戦略(山梨・シーマ電子)
2025年12月11日
シーマ電子(本社:神奈川県横浜市)は、山梨県韮崎市に事業所および工場を構え、半導体製造の後工程に対応した技術開発から組立、製造、評価、検査までを一貫して行う企業だ。半導体の組み立てや性能を試験・評価する装置を200台以上保有し、自社でも開発・製造している装置もある。大学の研究室が実験のために来訪することも多いという。同社は台湾およびベトナムに現地法人を設立し、グローバルな事業展開を進めている。近年では、海外への事業展開をより強化するため、海外の教育機関と連携し採用活動を行っている。海外大学の情報収集を進める中で、同社は「JETRO Overseas University Connect 日越大学のご紹介」(2025年3月19日付ビジネス短信参照)に参加し、インターン生の受け入れを実現させた。ジェトロが主催する、海外大学と日本をつなぎ、共同研究やインターンシップ、学生の採用などの産学連携を促進するイベントだ。インターンシップ実現の経緯および外国人材活躍のための同社の取り組みについて話を伺った。

ベトナムの半導体業界の発展に注目・人材採用や共同研究の可能性を探る
同社が外国人材採用に取り組んだ背景には、山梨県の少子高齢化による人材確保の難しさがある。2024年時点の山梨県の人口は約79万人で、ピーク時の2000年と比べて11.2%も減少している(注)。新卒採用が年々厳しくなる中、同社は県外ひいては国外へと優秀な若手人材を求め、2017年より外国人材の採用を開始した。新型コロナ禍で母国へ帰国してしまった人材もいたが、現在従業員72人の内、9人(ベトナム・台湾・中国)が外国籍となっている。当初は人材確保の難しさから外国人材採用を進めていたが、台湾、ベトナムに拠点を有する同社にとって、外国人材採用は、その海外拠点を軸とした事業拡大になくてはならない戦略でもある。
現在ベトナムは、政府を挙げて半導体人材の育成に注力している。半導体の前工程・後工程を含め、国内外の大学や企業と協力し、2030年までに5万人、2040年までに10万人を育成する計画を掲げている(2025年3月6日付ビジネス短信参照)。このようなベトナムの半導体産業の将来性を早くから見据え、同社は、2018年にベトナムに子会社を設立した。そして、新型コロナ禍収束後、2023年からはベトナムの短期大学と連携を強め、その卒業生を日本に迎えて1年間日本語教育を集中的に実施した後に採用するというスキームを開始した。現在までにそのスキームで5人の人材を雇用している。また、2025年2月20日に開催されたジェトロ主催のイベント「JETRO Overseas University Connect 日越大学のご紹介」にも参加。これを契機に、日越大学(2025年10月16日記事参照)の教授と直接コンタクトを取り現地を訪問、同大学からのインターンシップ受け入れを実現した。
代表取締役の小嶋朋憲氏は「ベトナムの半導体産業の動向に注目する中で、大学との連携を模索していた。日越大学も今後半導体に特化した学部を設立するという話を聞いていた。だからこそ、この大学の学生をインターンシップで受け入れようと思った。海外からのインターン生の受け入れは今回が初めての試みではあるが、できればこれからも海外の大学とインターンシップなどを通じて連携し、さらには半導体の共同研究も含む今後の可能性を探っていきたい」と語る。

社内の外国人材のアイデアが初の海外インターンシップの成功を導く
インターンシップ実施が決まってから、在留資格の申請などはすべて社内で行った。その主担当となったのが、昨年秋に採用されたベトナム人社員のティモ氏だ。彼女は、オンライン面談で留学生の受入れに際する注意点や準備についてのアドバイスを日越大学より受けた後、書類作成だけでなく、インターンシップ全体の内容の構成も練り上げた。インターンシップ生の受け入れ準備として、来日前に日本語や社内文化のオンライン研修を実施した。また、社内各部署との連絡を密にして、受け入れ後のフォローアップ体制も充実させた。山梨ならではのブドウ狩りや県内の高等専門学校生との交流会を催すなど、社内にとどまらないアクティビティも組み入れ、インターン生の日本での生活が楽しいものになるよう工夫を凝らした。
管理部管理課課長の岡野氏は「ティモ氏は日越大学と連携しながら、インターンシップのプログラム内容や社内でのフォローアップ体制、来日前の日本語・日本文化の研修プログラムなど、細かい配慮とともに作りこんでくれた。ベトナム人社員であるティモ氏の目線で考えてくれたことが非常に良かった。ティモ氏なしではこのインターンシップを実施できなかった」と、ティモ氏の活躍を高く評価した。日越大学からのインターン生リン氏も、「サポート体制が充実しており、特に日本語の研修や日本のビジネスマナーについての講義を事前に受けていたため、来日してから職場環境にスムーズに慣れることができた」と述べた。リン氏は、日本のビジネスマナーを学ぶためにインターンシップを希望した。ティモ氏の細やかなサポートで、滞在中に多くのことを学ぶことができたという。

採用後の育成プログラムが世界進出のカギに
同社では、日本人・外国人を問わず、入社後の人材育成に注力している。専門家を顧問として招き、年間を通じて業務時間内に研修を実施。半導体の基礎から応用までの最新知識や技術に対応する教育体制を整えることで、社員の技術力向上をサポートし、自社事業の質を世界レベルへと押し上げている。また、外国人社員向けには、日 本語研修やビジネスマナー講座も提供。とりわけ2025年春から採用しているベトナム人材には、ティモ氏が中心となってきめ細かな定着支援を行っている。インターン生のリン氏は、インターンシップ先を選ぶ一番の基準となるのは、学びや成長を与えてくれる環境であると語った。同社のように、入社後に継続的な学習機会が提供される環境は、外国人材の目に自らを高めることのできる魅力的な職場と映ることだろう。
ベトナムの半導体業界の発展に注目し、現地の教育機関との連携強化しつつ、事業の海外展開を目指すシーマ電子株式会社は、社内教育を充実させ、「人材」を軸に社内の体制、技術力を強化している。外国人材活用の取り組みは、今後の海外展開への大きな武器となるに違いない。
- 注:
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山梨県「山梨県人口減少危機対策特設サイト
」参照。
- 執筆者紹介
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ジェトロ知的資産部高度外国人材課
吉武 果実(よしたけ かじつ) - 2024年、ジェトロ入構。高度外国人材課で主に海外プロモーション事業を担当。




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