中東・アフリカのグリーンビジネスの今農業分野におけるカーボンクレジットビジネスの可能性(ガーナ)
日本企業も注目

2023年10月4日

ガーナ政府は近年、再生可能エネルギーの普及に向けた取り組み(2022年11月9日付地域・分析レポート参照)を掲げており、カーボンクレジット取引関連の事業も動き出している。世界銀行の森林炭素パートナーシップ基金(FCPF)によると、ガーナはREDD+(注1)に基づく二酸化炭素(CO2)排出削減を達成し、アフリカ諸国の中で2番目に多いREDD+の結果に基づく支払いを受けている。また、ガーナはFCPFと排出削減支払い協定を締結した15カ国の1つであり、現状の自然ベースの植林・森林管理から、技術ベースのバイオ炭によるカーボンクレジット創出事業(注2)の取り組みも始まっている。

オコ・エナジー(OKO Energy)は、2020年に創業した。日系企業を含む2社と連携し、廃棄物系バイオマスを持続可能なエネルギーやバイオ炭に変えるビジネスの事業化に向け、ファンドレイジングの段階にある。本稿では、オコ・エナジーの共同創設者であるコフィー・デブラ氏に計画中のビジネスプランについて聞いた(取材日:2023年8月24日)。


コフィー・デブラ氏(本人提供)

「アヤ・カーボン」のバイオ炭(オコ・エナジー提供)
質問:
オコ・エナジーの事業内容は。
答え:
シアバターの分別製造を行う日系のフジ オイル ガーナ、食用油を製造・輸出するガーナ・ナッツ・カンパニーのグループ会社、グローバルソリューションズ・オイルアンドファッツ(以下、Global Solutions Oil & Fats: GSOF)と共同で、オコ・エナジーは「アヤ・カーボン」プロジェクトを立ち上げた。2021年には米国で実現可能性調査を実施し、バイオ炭としてみなされるために重要な炭素水素比が基準値を満たしていることが証明された。今後3社で、持続可能なエネルギー供給と炭素隔離の事業を行う予定であり、現在、資金を募っている。 具体的なプロジェクトモデルは、次の通り。
(1)シアを収穫する協同組合から半加工のシアナッツを仕入れ、アヤ・カーボンの工業用地に輸送
(2)GSOFはアヤ・カーボンの工場でシアナッツからシアカーネル(注3)を取り出して圧搾し、抽出したシアバターをフジ オイル ガーナに供給、シアバターを脱脂したシアケーキ(注4)をアヤ・カーボンに販売
(3)アヤ・カーボンはシアケーキをガス化し、合成ガスとバイオ炭を生成、さらに合成ガスを酸化させてその際に発生するスチームをGSOF、フジ オイル ガーナの両社に供給(スチームはシアを融かしたり、シアカーネルの皮を剥(は)いだりする目的で活用される)
(4)オコ・エナジーはバイオ炭を現地で販売
(5)プロジェクトで創出されるカーボンクレジットを自主的炭素市場(ボランタリー市場)(注5)に販売
図:「アヤ・カーボン」のビジネスモデル
GSOFはシアナッツを仕入れシアバターを抽出しフジオイルガーナに供給、シアケーキをアヤ・カーボンに販売する。アヤ・カーボンは、これをガス化し、合成ガスとバイオ炭を生成する。さらに合成ガスを酸化させ、発生するスチームやバイオ炭を現地で販売する。このプロジェクトで創出されるカーボンクレジットをボランタリーカーボンクレジット市場に販売する。

出所:ジェトロ作成

質問:
ガーナでのバイオ炭事業にどのようなメリットがあるのか。
答え:
農業、環境、そして経済的な価値を提供している。西アフリカ諸国にとって食料安全保障は大きな問題だが、土壌にバイオ炭を混ぜることで、土壌はより多くの水や栄養を含むことができ、収穫量の増加や化学肥料の使用量低下につながるだけでなく、バイオ炭を土壌に施用することで炭素を数百年土壌に閉じ込めることができる。また、バイオ炭の製造過程において合成ガスが発生するが、このガスを酸化させることによって生まれるスチームをエネルギーとして活用している。このスチームを利用することで、化石燃料の使用を減らすことができる。また、アヤ・カーボンでは、約40人の雇用を生み出すことで現地での雇用創出にも貢献している。
質問:
ガーナでのカーボンクレジットビジネスはどれくらい進んでいるのか。
答え:
ガーナ政府は2030年までに、64メガトン炭素換算量(MtCO2e)(注6) の温室効果ガス(GHG)削減を目標としている。ガーナでは、植林をはじめとする自然ベースでのカーボンクレジットが主流であるが、技術ベースのバイオ炭を使ったビジネスモデルを持っていることがオコ・エナジーの強みである。現在は資金調達を行っている段階ではあるが、年間で1万トンのバイオ炭の生産、2万トンのカーボンクレジット取引が可能になる予定だ。また、ガーナでは、1日当たり約1万2,710トンもの固形廃棄物が排出され、そのほとんどは野外のごみ捨て場や埋め立て地で処分されているのが現状である。現在廃棄されている有機廃棄物を活用することで、バイオ炭を活用したカーボンクレジットビジネスのポテンシャルはあるとみている。
質問:
現在の課題、今後の事業展開の方向性は。
答え:
アヤ・カーボンはコロナ禍で始まった事業であり、また、ガーナにとってバイオ炭は非常に新しいものであったため、バイオ炭を知ってもらうことに苦労した。最近は、パートナーである土壌の研究機関とバイオ炭の有用性を研究しており、肥料とバイオ炭をブレンドして使用すれば、前述のとおり環境面の負荷を下げることができる。また、ガーナは化学肥料を多く輸入しているので、化学肥料の代わりにバイオ炭の利用が進めば、コスト面でのメリットもある。バイオ炭のメリットをより多くの人に理解してもらうべく、政府に対してもバイオ炭の推奨を働きかけている。また、カメルーンでも、コーヒー豆の殻でバイオ炭を作っているベンチャー企業があり、アヤ・カーボンのビジネスモデルは、他の製造業や有機廃棄物にも応用できると考えている。
建設業界でも、バイオ炭の活用の機会が広がる動きがある。バイオ炭をコンクリートなどに混入することで、建設物の強度を高めることができるといった研究もあり、農業以外の分野での展開にも期待している。
質問:
日本企業との協業について、アドバイスを。
答え:
西アフリカは農業廃棄物や廃棄物系バイオマスが多く、また世界人口の中心もアジアからアフリカに移行する中で、非常に大きなポテンシャルを秘めている市場だ。また、ガーナナッツと日系企業のフジ オイル ガーナとの長年の協力関係が続いていることは、日本企業とガーナ企業が良いパートナーになれることを証明している。ぜひ、高い技術や専門性を持つ日本企業と一緒に、ガーナの脱カーボンと発展に貢献したい。

日本企業や若手起業家も注目

日本とガーナは距離を隔てているが、カーボンクレジット取引は距離とは無関係に実行可能だ。また、ガーナは世界2位のカカオ生産国であり、他にもカシューナッツ、パイナップル、マンゴー、ヤシ、シアなどの農産物、また、シア以外の農産物や工業へも、アヤ・カーボンのビジネスモデルを応用できる可能性がある。

ガーナのカーボンクレジットビジネスでは、アヤ・カーボン以外にも、日本企業にターゲットを絞って環境ビジネスへの参画を積極的に推進しようという動きがある。サブサハラアフリカの小規模農家向けに、農業資材の調達のためのファイナンスと農業のDX促進のサポートを行うデガスは、日本の若手起業家がガーナで立ち上げた農業商社だ。同社は「アフリカは世界の未開発農地の約6割を占め、大規模なCO2の吸収・隔離を行えるポテンシャルを秘める」とし、カーボンクレジットに関する情報提供と環境関連の事業機会の提供を目的としたアライアンス「ジャック(Japan Alliance for High Quality Carbon Credit)」を2023年7月に立ち上げた。中長期的な目標として、カーボンクレジットファンドの設立と、2030年には3,000万トンのCO2の除去を掲げている。

ガーナを含む西アフリカには、農業分野を中心に環境ビジネスのシードが眠っている。日本の企業や若手起業家もその掘り起しに動き始めており、今後の動向に注目したい。


注1:
REDD+は、途上国が、森林減少・劣化の抑制によりGHG排出量を減少させた場合や、森林保全により炭素蓄積量を維持、増加させた場合に、先進国が途上国への経済的支援(資金支援など)を実施するメカニズム。
注2:
バイオ炭とは、生物資源を材料とした炭化物であり、木材や竹などを炭にし、バイオ炭として土壌に施用することで、その炭素を土壌に閉じ込め(炭素貯留)、大気中への放出を減らすことが可能となる。
注3:
シアの木の果実からとれる種子(シアナッツ)の中にある胚。
注4:
シアの実の種からシアバターを抽出した後の残留物。
注5:
企業や個人が温暖化対策で削減したGHGの量を「炭素クレジット」として認証し、それを自主的に取引する民間主導の市場。
注6:
GHG削減量の取引単位であり、CO2の排出量を炭素換算してメガトン(100万トン)単位で表したもの。
執筆者紹介
ジェトロ・アクラ事務所
数実 奈々(かずみ なな)
2021年、ジェトロ入構。ビジネス展開・人材支援部新興国ビジネス開発課、海外展開支援部フロンティア開拓課を経て現職。

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