中東・アフリカのグリーンビジネスの今COP29は気候資金目標に注目(世界、UAE)
COP28の成果と展望(2)

2024年2月8日

2023年暮れに、国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)がアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された。本特集の前編「COP28の成果と展望(1)化石燃料からの移行で初合意」では、COP28の主な成果について、損失と損害(ロス・アンド・ダメージ)基金の運用開始発表や、第1回グローバル・ストックテイク(GST)の結果を中心に紹介した。中編となる本稿では、COP28における日本の活動や成果、会場における世界各国の企業の活動を振り返るとともに、次回のCOP29に向けた議論の展望について紹介する。

日本、AZECでのアジアの脱炭素化リードを表明

COP28では12月1~2日の2日間にわたって首脳級会合「世界気候行動サミット」が開催され、日本からは岸田文雄首相が出席した。岸田首相は12月1日、サミットの首脳級ハイレベル・セグメントにおいてスピーチを行った。スピーチの中では、世界全体として、パリ協定における「1.5度目標」の道筋にいまだ乗っておらず、軌道修正のためには2030年までの行動が非常に重要であり、2023年5月のG7広島サミットで確認した通り、全ての国が多様な道筋の下でネットゼロという共通目標を目指していくことを訴えた。その上で、日本の気候変動対策の現状について、日本は2050年までのネットゼロ達成目標のもと、2030年度の46%削減に向けて取り組みを続けており、すでに20%を削減しているとコメントした。気候資金に関しては、官民合わせて700億ドル規模の支援を行うコミットメントが着実に進んでいるとした。なお日本は、COP28開幕初日に運用開始への合意が発表された損失と損害(ロス・アンド・ダメージ)基金についても、1,000万ドルの拠出の意向を示している。

今後の日本の取り組みとしては、(1)排出削減、(2)エネルギーの安定供給、(3)経済成長の3つを同時に実現するグリーン・トランスフォーメーション(GX)を加速させ、世界の脱炭素化に貢献すると述べた。アジアにおいては、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC、注1)の枠組みのもと、2023年12月に初の首脳会合(注2)を開催することを発表した。加えて、UAEの掲げる世界の再生可能エネルギー容量を3倍、エネルギー効率改善率を2倍とする目標について、日本は太陽光導入量世界3位(図参照)であるとした上で賛同を表明した。エネルギー移行については、日本国内における排出削減対策の講じられていない石炭火力発電所の新規建設を終了するとした。

図:2022年の世界の累積太陽光発電設備容量上位10カ国
1位が中国で、世界全体に占める割合が35.0%、2位が米国で11.9%、3位が日本で7.2%、4位がインドで6.7%、5位がドイツで5.7%、6位がオーストラリアで2.5%、7位がスペインで2.2%、8位がイタリアで2.1%、9位が韓国で2.1%、10位がブラジルで2.0%、その他の国・地域の合計が22.6%である。

出所:IEA Photovoltaic Power Systems Programme (PVPS)「Snapshot of Global PV Markets 2023」を基にジェトロ作成

その他、日本はCOP28会期中、エネルギー分野を中心に16の国際イニシアティブに参加した(表参照)。

表:COP28で日本が参加した主な国際イニシアティブ
分野 国際イニシアティブ
エネルギー
  • UAE・EU主導「世界全体での再生可能エネルギー3倍・エネルギー効率改善率2倍」宣言
  • UAE・米国主導「各国の国内事情の相違を認識しつつ、2050年までに2020年比で世界全体の原子力発電容量を3倍にする」という野心的な目標に向けた協力方針を含む「原子力3倍」宣言
  • 米国主導の二酸化炭素(CO2)回収・利用・貯留(CCUS)技術、および二酸化炭素除去(CDR)の技術開発・展開加速を目指す「カーボンマネジメントチャレンジ」
  • UAE主導「再生可能かつ低炭素な水素および水素派生物の認証制度の相互承認にかかるCOP28意向宣言」
  • 国連環境計画(UNEP)・UAEが主導する「世界冷房誓約」
  • 日本・米国・フランス・英国・カナダによる原子燃料の強靭(きょうじん)なサプライチェーン実現に向けた「『札幌ファイブ』宣言」
工業など ドイツ主導の産業の脱炭素化を目指す「気候クラブ」
農業・食料 UAE主導「持続可能な農業・強靭な食料システム・気候変動対応に関する首脳級宣言」(エミレーツ宣言)
その他 国連工業開発機関(UNIDO)主導の排出削減が困難な産業におけるグリーン素材の需要創出を目指す「グリーン公共調達に関する協力意図表明文書」

出所:環境省、各国発表を基にジェトロ作成

日本企業の活動としては、会場のうち国連が管理し本会議場を含む「ブルーゾーン」に、日本の環境省が「ジャパンパビリオン」を設置した。「Together for Action」をテーマとして、エネルギー供給や住居、モビリティー、適応などの分野で15社・団体が出展して最新の環境技術や製品・サービスを紹介した(2023年12月21日付ビジネス短信参照)。併せて45のセミナーを開催し、日本による脱炭素社会に向けた取り組みなどの情報発信を行った。12月2日には岸田首相がパビリオンを訪れ、日本とUAEの民間企業による、脱炭素関連の先端技術協力とトランジション・ファイナンス分野での連携強化に関するMOU(覚書)締結を発表した。

また、会場の外では12月4日、ジェトロによる「Japan Green Innovation Conference」が開催され、日本企業11社(2023年12月8日付ビジネス短信参照)と日本のスタートアップ7社(2023年12月8日付ビジネス短信参照)が登壇して各社の環境技術を紹介した。


ジャパンパビリオンでのセミナーの様子(ジェトロ撮影)

スタートアップ展示が充実、日本からも出展

COP28の特徴として、会場のうち一般参加者が入場することができる「グリーンゾーン」において、テクノロジー分野における民間企業や学術機関の展示やセミナーが多数開催されたことや、スタートアップ企業の展示に力が入れられていたことが挙げられる。

「グリーンゾーン」内には、エネルギー移行や気候ファイナンス、グリーン教育など9つのテーマに沿ったエリアが設けられ、会期を通してサイドイベントが行われた。その中でも、「テクノロジー・アンド・イノベーション」の分野では2つの特設会場が設置され、会場の中では、米国のIBMやマイクロソフト、中国の華為技術(ファーウェイ)、UAEの通信大手エティサラットを保有する国営企業イーアンド(e&)などの大手IT企業が展示を行い、自社のサービスを紹介した。その他、アブダビのハリーファ大学など現地研究機関による技術展示が行われたほか、日本からは宇宙航空研究開発機構(JAXA)も出展し、地球観測衛星を用いた気候変動の影響監視への貢献について、展示やセミナーを通じて発信した。


グリーンゾーンのテクノロジー・アンド・
イノベーションハブ(ジェトロ撮影)

イーアンドによる、ライドシェアサービス部門
カリームの展示(ジェトロ撮影)

また、「グリーンゾーン」には、「スタートアップ・ビレッジ」と題したスタートアップ企業の展示エリアが設けられた。「スタートアップ・ビレッジ」には、現地アブダビのスタートアップ支援施設「Hub71」や、フランス貿易投資庁(ビジネスフランス)、香港政府系研究開発施設の香港サイエンスパーク(HKSTP)など、世界各国・地域から集まった15団体がそれぞれ取りまとめた、スタートアップ企業約150社(会期前半と後半で約半数ずつ展示)が出展した。日本からも、日・UAE先端技術協力スキーム(JU-CAT)による10社が出展した。出展した日本のスタートアップ企業は以下の通り(注3)。

  1. つばめBHB:アンモニア製造技術
  2. ジェプラン(JEPLAN):PETケミカルリサイクル技術
  3. アルハイテック:アルミ廃棄物による水素製造、リサイクル技術
  4. アークエッジ・スペース(ArkEdge Space):超小型衛星コンステレーションによる環境モニタリング技術
  5. ウォータ(WOTA):生活排水を再生循環する「小規模分散型水循環システム」、「水処理自律制御技術」
  6. ウーユー(OOYOO):空気やCO2などその他のガスの分離・精製技術
  7. エマルションフローテクノロジーズ:レアメタルリサイクルを実現する溶媒抽出技術
  8. アルガルバイオ:医療や食料供給、気候変動対策に応用可能な藻類バイオテクノロジー
  9. イーエフポリマー(EF Polymer):果物の不可食部分などの作物残渣(ざんさ)のアップサイクルによる超吸収性ポリマー製造
  10. アライドカーボンソリューションズ:天然系界面活性剤の生産技術

スタートアップ・ビレッジの様子(ジェトロ撮影)

前回のCOP27においても、会場外に「クライメット・アクション・イノベーション・ゾーン」という特別エリアが設けられ、テクノロジー関連企業やスタートアップなど約20社が展示を行ったが、COP28ではスタートアップに特化した出展ゾーンが設けられ、関連する展示・イベントエリアが大幅に拡大するなど「クライメットテック(気候変動対策に資する技術)」分野での各国企業の取り組みを積極的に取り上げていた。同分野に関しては、2023年11月にUAE主導で「イノベート・フォー・クライメット・テック連合(Innovate for Climate Tech coalition)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」が発足した。同連合は、UAE再生可能エネルギー企業マスダールと、アブダビ首長国のマスダールシティに拠点を置くスタートアップ・テクノロジー・アクセラレータのカタリスト、中国のテンセントが協力し、グローバルサウスのクライメットテック・エコシステムの強化や、クライメットテック・イノベーションの促進を目的としている。COP会期中の12月2日には、バーレーン系投資会社インベストコープが、同連合との協力の一環として7億5,000万ドル規模の気候ソリューション投資プラットフォームを発表した。これらの取り組みが、クライメットテック分野でのスタートアップや、関連企業の今後の事業活動の追い風となることが予想される。

気候資金目標、排出量取引条項の議論に注目

12月11日のCOP28全体会合において、2024年のCOP29がアゼルバイジャンで開催されることが正式に決定した。開催期間は2024年11月11~22日を予定している。アゼルバイジャンは、OPECプラス(注4)のメンバーも務める産油国であり、シャーデニズ・ガス田を有する天然ガスの輸出国でもある。エジプトで開催されたCOP27、UAE開催のCOP28に続き、COP29は3年連続での化石燃料産出国での開催となる。

COP29での議題としては、気候資金に関する新規目標の設定が挙げられる。気候変動対策の資金に関しては、2010年のCOP16において、「長期気候資金」として先進国が2020年までに年間1,000億ドルを共同で提供することが決定し、2015年のCOP21において、同目標を2025年まで継続することで合意した。これに加えてCOP21では、2025年に先立って、1,000億ドルを下限とした気候変動対策資金の新たな定量的目標である「新規合同数値目標」を設定することが決定していた。この2025年以降の「新規合同数値目標」の設定が、COP29における議論のポイントの1つとなることが予想される。またCOP28では、パリ協定第6条2項と4項に関して詳細事項の合意に至らなかった。パリ協定第6条は、温室効果ガス(GHG)の排出削減量を国際的に移転する「市場メカニズム」について規定したもので、2021年のCOP26においてその実施指針について合意し、運用に向けた議論が進められてきた。そのうち、6条2項は2国間クレジットなどの協力的アプローチ、4項は国連が管理する多国間のメカニズムについて定めている。これら排出量取引に関する議論は、COP29に向けて継続されることとなった。

また2025年には、パリ協定締約国が2035年の「国が決定する貢献(NDC)」(注5)を国連に報告することとなっている。COP28で初めて実施された第1回GSTの結果を踏まえ、各国による新たなNDCの設定にも注目が集まる。


注1:
岸田首相が2022年1月に「アジア・ゼロエミッション共同体構想」を提唱。日本の技術や制度を生かしてアジア各国と協力し、アジアのエネルギー・トランジションや脱炭素化を進めることを目的とした取り組み。
注2:
AZECの第1回首脳会合は2023年12月18日に東京で開催された。詳細は2023年12月28日付ビジネス短信も参照。
注3:
企業一覧作成にあたっては、各社ウェブサイトや経済産業省ニュースリリース(2023年12月8日付)も参照した。
注4:
サウジアラビア、UAEなどのOPEC加盟国と、ロシア、メキシコなど非加盟の産油国で構成される。
注5:
Nationally Determined Contribution。パリ協定締約国はNDCとして、気候変動対策を実施しなかった場合のBAU(Business As Usual)シナリオと比べてのGHG削減目標を設定し、5年ごとに国連に報告することとなっている。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
久保田 夏帆(くぼた かほ)
2018年、ジェトロ入構。サービス産業部サービス産業課、サービス産業部商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部ECビジネス課、ジェトロ北海道を経て2022年7月から現職。

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