中東・アフリカのグリーンビジネスの今 COP28開催国UAE、再エネと水素で脱炭素加速、日本企業との協業も
再エネ大手は中央アジアへの投資にも意欲

2023年10月17日

石油や天然ガスなどのエネルギー資源に恵まれる中東にとって、世界的な脱炭素の潮流は、将来的な化石燃料の需要減少へとつながる向かい風と言える。そのため、中東では産油国を中心に、従来取り組んできた石油依存経済からの脱却と併せて、地理的優位性を生かしたグリーンエネルギー開発が進んでいる。

主要な産油国の1つのアラブ首長国連邦(UAE)は、2023年11月30日~12月12日に自国で開催する国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)に向け、中東地域で特にグリーン成長への取り組みに注力している。本稿では、グリーンビジネスに取り組む主要なUAE企業の取り組みを紹介する。

UAEは2021年10月、2050年までの温室効果ガス(GHG)排出量ネットゼロの達成を目標とすることを発表した。2016年を基準年とした2030年までの国内自助努力によるGHG削減目標は、2020年に発表した23.5%から、2022年9月に31%、2023年7月には40%と、2回の引き上げを行い、カーボンニュートラルに向けたコミットメントを強化している。併せて、2017年に発表した「UAEエネルギー戦略2050」では、持続可能な成長を目指し、2050年までに国内の発電に占めるクリーンエネルギーの寄与度を50%にする目標を掲げていた。この「UAEエネルギー戦略2050」は2023年7月に改定され(詳細はUAE政府ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照)、2030年までの中間目標として、再生可能エネルギー(再エネ)の発電容量を2017年の3倍にすることや、クリーンエネルギーの寄与度を32%まで増加させることを掲げた。また、同時に「国家水素戦略」を策定し、2031年までに年間140万トンの水素製造を目指すことを発表した。

UAEが進めるこれらのグリーン政策について、アブダビ国営石油会社(ADNOC)や再エネ大手マスダールなどの同国企業が具体的なプロジェクトを進めている。UAEは砂漠地帯が多く、日射量も豊富なことから、太陽光発電に適した地域だ。また、天然ガスも多く埋蔵しており、これらの地理的優位性を生かして、ADNOCを中心にブルー水素・グリーン水素(注1)の製造プロジェクトも進んでいる(2021年9月1日付2022年11月11日付地域・分析レポート参照)。マスダールは「国家水素戦略」で2031年までの水素製造目標とされた年間140万トンのうち、グリーン水素を100万トン、ブルー水素を40万トン生産することを目指す。

再エネ大手は中央アジアへの投資に意欲

再エネ分野では、UAE国内にとどまらず、中央アジアのグリーンエネルギー開発への投資が進んでいる(表参照)。アブダビ首長国の政府系ファンドのムバダラ・インベストメントとADNOC、アブダビ国営エネルギー会社(TAQA)を株主に持つUAE再エネ大手マスダールは、2022年4月にキルギスのエネルギー省と再エネ分野の協力覚書を締結し、同年12月には発電容量200メガワット(MW)の太陽光発電所建設に関する契約を締結した。投資額は1億8,000万ドルとなる予定だ。また、マスダールはウズベキスタンでも、2022年12月にブハラ州での250MWの太陽光発電所建設事業を落札した。同社はナボイ州でも2021年8月に100MWの太陽光発電所の稼働を開始したほか、サマルカンド州(220MW)、スルハンダリヤ州(457MW)、ジザフ州(220MW)でも、太陽光発電所を建設中だ。加えて、ナボイ州で2024年の完成を目指し、500MWの風力発電所の建設も進めている。カザフスタンでは、同国エネルギー省とカザフスタン投資開発基金(KIDF)との間で1ギガワット(GW)規模の風力発電所事業の覚書を締結しており、2023年6月にカザフスタンの首都アスタナで開催された「アスタナ国際フォーラム」で同事業のロードマップに署名している。このほか、2022年11月にトルクメニスタンの国営電力会社トルクメンエネルゴと、100MWの太陽光発電所の建設に関する協力協定を締結した。

表:マスダールの中央アジアでの主な再生可能エネルギープロジェクト
No 実施場所 種類 規模 稼働開始時期
1 キルギス 太陽光 200MW 2026年予定
2 ウズベキスタン・ブハラ州 太陽光 250MW 2024年第4四半期(10~12月)予定
3 ウズベキスタン・ナボイ州 太陽光 100MW 2021年8月
4 ウズベキスタン・ナボイ州 風力 500MW 2024年予定
5 ウズベキスタン・サマルカンド州 太陽光 220MW 未定
6 ウズベキスタン・スルハンダリヤ州 太陽光 457MW 未定
7 ウズベキスタン・ジザフ州 太陽光 220MW 未定
8 カザフスタン 風力 1GW 未定
9 トルクメニスタン 太陽光 100MW 未定

出所:マスダールウェブサイトからジェトロ作成

グリーンエネルギー・素材分野で日本との協力も強化

UAEはグリーン分野で、日本との協力関係も深化させている。

2023年7月16日から18日にかけて、岸田文雄首相が中東3カ国(サウジアラビア、UAE、カタール)を歴訪、7月17日にはUAEでムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン大統領と首脳会談を実施した。会談では、日・UAE間の脱炭素や気候変動対策分野での協力を大きなテーマの1つとして議論を行った。岸田首相は、中東地域をクリーンエネルギーと脱炭素のグローバルハブとする「グローバル・グリーン・エネルギー・ハブ」構想、これにグリーン素材分野も含めたより幅広い「グローバル・グリーン・ジャーニー」構想の実現に向けて、UAEと協力していきたいと述べ、ムハンマド大統領と合意した。また、「気候行動に関する日・UAE共同声明」〔英文PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(405KB)日本語仮訳PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(440KB)〕が発表され、脱炭素・クリーンエネルギー分野での協力強化や、COP28に向けて国際社会での気候変動対策を主導することで両首脳は合意した。

同首脳会談に際して、日・UAE企業間の新たな協業についても複数発表された。三菱ケミカルグループ、INPEX、マスダールは、世界初となる商業規模でのCO2・グリーン水素由来のポリプロピレン製造を含むカーボンリサイクルケミカル製造事業の実現に向け、共同調査に関する契約を締結したと発表した。同事業で製造されるポリプロピレンなどの製品は、従来の化石資源由来の製品と比較して、ライフサイクルを通じたCO2の大幅な削減が可能となっている。また、INPEXはマスダールとのグリーン水素・CO2を利用した「e-methane」(注2)製造事業の実現に向けた共同調査に関する契約締結も発表した。「e-methane」は、グリーン水素など、化石燃料以外のエネルギー源を原料として製造された合成メタンで、電化が困難な分野でのカーボンニュートラル化を円滑にするほか、発電・輸送用の燃料としても利用が期待される。同事業では、水素製造から「e-methane」の製造・輸送までのバリューチェーンの検討などを行い、日本への「e-methane」輸出を目指す。

このように、UAEでは、COP28開催に際し、2050年までのネットゼロ目標に向けた取り組みを加速しており、国際社会へそのコミットメントを示している。特にUAE再エネ大手のマスダールは、同国が掲げる「国家水素戦略」にグリーン水素とブルー水素の製造で貢献するほか、太陽光発電の分野では、自国での取り組みにとどまらず、中央アジアへの投資も積極的に行っている。また、2023年7月の岸田首相のUAE訪問では、日本とUAE間のグリーン分野での協力が大きなテーマとなり、国際的な気候変動対策の動きを主導すべく、官民を挙げた協業が進んでいる。


注1:
UAEのエネルギー・インフラ省によると、ブルー水素は化石燃料を水素と二酸化炭素(CO2)に分解することで製造される。CO2を大気排出する前に回収することで、排出量を抑えることができる。一方、グリーン水素は、水を電気分解し、水素と酸素に還元することで製造される。この製造工程で、再エネを利用することで、CO2を排出せずに水素を製造することができる。
注2:
日本では国際的な認知度向上を目指し、2022年11月に一般社団法人日本ガス協会から合成メタンの呼称を「e-methane」に統一することが発表されている。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
久保田 夏帆(くぼた かほ)
2018年、ジェトロ入構。サービス産業部サービス産業課、サービス産業部商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部ECビジネス課、ジェトロ北海道を経て2022年7月から現職。

この特集の記事

今後記事を追加していきます。

総論・地域横断

中東

アフリカ