中東・アフリカのグリーンビジネスの今アルジェリアSU、孤立地域用自給自足式バイオガス製造装置を開発

2023年9月29日

アルジェリアは、国別でアフリカ最大の面積を誇る。天然ガスの生産量は世界10位、石油は同19位と、天然資源が豊富だ。人口が集中する北部の地中海沿岸地域では、電力インフラの整備も先進国並みに進んでいる。他方、人口密度が低い南部砂漠地域の農村部では、電気、ガスなど、エネルギーへのアクセスが課題となっている。また、国内でリサイクルの対象となっているごみの量は全体の4%にとどまり、ごみが資源として十分に活用されていないのが現状だ。

こうした中、2021年9月に設立されたアルジェリアのスタートアップ「グリーン・アル(Green Al)」は、孤立地域の家庭や農家が出した有機廃棄物から、バイオガスを生成し、自家用エネルギーを確保するという、自給自足式ソリューションを開発した。エネルギーへのアクセスと、ごみの資源化という2つの課題に同時に取り組んでいる。


ポリ塩化ビニル製ターポリンの家庭向け小型(1,200リットル)有機廃棄物分解処理装置
(バイオ・ダイジェスター)(写真奥)、ガスコンロ(写真手前中央)、発電用アダプター
「アダビオ」(写真手前右)で構成されている「グリーン・アル2.0」キット(グリーン・アル提供)

同社の提供するソリューションの柱は、有機廃棄物の発酵を加速する物質「バイオガス・ブースター」だ。ラクダの糞(ふん)に含まれる細菌を活用することで、発酵過程にある廃棄物を中性に保つことができ、メタン製造が可能となる。


自社開発の、有機廃棄物の発酵を促進する「バイオガス・ブースター」(同社提供)

一方、気温が違う環境で実証実験を行うために、アルジェリア国内の複数のNPO団体に対して装置を寄付し、ニジェール、スペインでもテストを実施した。現段階では国内の農家に対する販売実績がある。

グリーン・アルは、アルジェリア政府発行のスタートアップ認証を取得している。2022年4月には、インキュベーターの「テック2ハブ・ブレンコ」が開催した、再生可能エネルギー(再エネ)・省エネ・リサイクルをテーマとするイベント「アルジェリア気候変動チャレンジ(A3C)」に参加した。そこで、計300社のスタートアップの中から最優秀賞「レディー・トゥ・インベスト賞」に選ばれた実績も持つ。同年7月には、フランスのヨーロッパ・外務省とフランス開発庁(AFD)が支援する、北アフリカ諸国のスタートアップを対象としたアクセラレーションプログラム「エマージン・メディテラネアン」にも参加し、「女性起業家特別賞」を受賞した。

今後は、資金調達により事業を拡大し、3年以内に年間100万ドルの売上高達成を目指している。

今回、同社のヘイラ・ベナイッサ最高経営責任者(CEO)にインタビューを行った(取材日:2023年9月8日)。


グリーン・アルのヘイラ・ベナイッサCEO(本人提供)
質問:
ベナイッサCEOの経歴は?
答え:
ごみ処理、エコシステムの汚染分野に関するタマンラセット大学博士課程でのプロジェクトの一環として、バイオガスの研究に携わり、その時点で起業を既に視野に入れていた。2021年9月にグリーン・アルを設立し、アルジェリア首相付知識経済・スタートアップ特命担当省からスタートアップ認証を取得することができた。現在はグリーン・アルCEOのほか、アルジェリア南部にあるタマンラセット大学で助教授も務めている。
質問:
グリーン・アルを設立した動機は?
答え:
2011年にアルジェリア南部に移住し、サハラ砂漠の真ん中で暮らす住民の生活ぶりを実際に見ることができた。彼らは調理や暖房のために薪(まき)や石炭を利用しているが、それ以外のエネルギー源がない。一般家庭用のブタンガスを調達するためには、数百キロの長距離移動が必要だ。石炭は大気汚染の原因となるし、薪を作るために集落周辺のヤシの木が減少傾向にある。石炭と薪に代わるエネルギー源が必要だと思った。
博士課程1年生の時、都市部から何百キロも離れて孤立している住民のために、どのようなクリーンでグリーンなエネルギーを開発すればよいか、研究しようと決心した。
質問:
グリーン・アルが開発したソリューションは?
答え:
生ごみ、野菜や果物の皮、動物の排泄(はいせつ)物などといった有機廃棄物から、バイオメタンを生成し、ガスコンロで調理ができる。また、バイオメタンで発電機を稼働して、照明や揚水用の電気を得ることができる。バイオメタンのメタン濃度は75%以上である。
バイオ・ダイジェスターのサイズ次第だが、例えば冷蔵庫であれば、1日最大4.5~9時間動かすことができる。3カ月ごとに、バイオ・ダイジェスターの中の有機廃棄物を交換する必要がある。
一方、有機廃棄物をバイオメタンに変換する工程で、大量の利用済み有機廃棄物が生成される。この残渣(ざんさ)は、バイオ肥料として農地の土壌改良剤に利用することも可能だ。または、顧客先から生成された残渣を当社が回収し、バイオ肥料を製造することもできる。その場合は顧客に対して、装置購入時にディスカウント料金を適用することができる。
弊社のソリューションは、孤立地域のコミュニティ向けに開発されたが、ガス・電気・バイオ肥料の生産を通して、エネルギーの自給自足が可能となるため、オーガニックなライフスタイルを望む人々にも最適なソリューションと言える。ダイジェスターのサイズによるものの、平均で年間6トンのCO2排出量の削減に貢献できる。

業者向け大型(2,500リットル)バイオ・ダイジェスター「グリーン・アル6.0プロ」(同社提供)
質問:
想定される顧客は?
答え:
砂漠地域や山地など、アクセスや移動が難しい地域の住民および農家が主な顧客だ。病院、学校、食堂、レストランなどの公共施設も顧客として考えている。また、都市部に住んでいるが、何らかの理由で電気またはガスにアクセスできない住民も利用可能だ。環境にやさしいライフスタイルを求める人々も、弊社のソリューションに関心を示している。2040年にはアルジェリア国内でエネルギーへのアクセスが困難な農家、家庭の数は約380万世帯に増えると見込まれる。アフリカ全体では、この数字は3億6,300万世帯にのぼるとみられる。
質問:
海外市場への展開予定は?
答え:
スタートアップにとって、海外市場への展開は難しいが、成長には不可欠だ。現在はアフリカ、南米諸国を中心に、新市場への展開を検討しており、複数の農産品の生産・加工企業から協力依頼を受けている。当社の製品スペックと、依頼元の有機廃棄物の内容を精査した上で、可能性の高い市場を見極めたい。
質問:
事業拡大に向けた課題は?
答え:
課題は2つある。まず、他社との競争がある中、当社のソリューションレベルを維持し、需要に対応できる体制を整えることだ。自社技術のみでは限界があるため、技術連携などに関心がある企業とパートナーシップを締結し、事業を拡大したい。
次に、「グリーン・アル」キットの自社製造を実現することだ。現時点では、有機廃棄物の発酵を加速する物質は自社製造する一方で、バイオ・ダイジェスターと周辺機器は外部で委託製造している。内製を実現するためには、資金調達と安定した成長の確保が必要だと考えている。
質問:
アルジェリアのグリーンビジネスの現状は?
答え:
アルジェリア政府は、再エネの展開を加速する目標を設定し(注1)、地球温暖化対策、脱炭素化への移行をサポートする資金を用意した。国内のグリーンビジネスは、グリーンファイナンス(注2)のおかげで急速に発展し、商機は増えている。
質問:
日本企業へのメッセージは?
答え:
弊社のみならず、アルジェリアのグリーン分野のポテンシャルは高い。技術連携など、日本企業からのあらゆるパートナーシップに関する提案を歓迎する。

注1:
2035年に太陽光発電容量の目標を1万6,000MW(メガワット)に設定した「再エネ国家計画」(2021年4月に発表)など。
注2:
グリーンファイナンスは、温室効果ガス(GHG)の排出がない、または少ない「グリーン」な企業やプロジェクトに対する資金提供を指す。アルジェリア政府は2022年8月、グリーン分野などでイノベーションプロジェクトを展開している国内スタートアップを対象に、合計580億アルジェリア・ディナール(約630億円、1アルジェリア・ディナール=1.08円)のファンドを用意した。
執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
ピエリック・グルニエ
ジェトロ・パリ事務所に2009年から勤務。アフリカデスク事業担当として、フランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種事業、調査・情報発信を行う。

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