中東・アフリカのグリーンビジネスの今キャッサバでバイオエタノール、仏語圏アフリカ初(コートジボワール)

2023年10月19日

国連気候変動枠組み条約の締約国コートジボワールは、気候変動対策を国家開発戦略の支柱の1つに据えている。グリーン分野の事業機会は拡大しており、低炭素化・脱炭素化の取り組みや、グリーンエネルギー開発を推進する地場企業や外資企業もみられる。環境技術を導入する重点分野の1つとして、再生可能エネルギーへの転換や運輸分野が中でも注目されており、温室効果ガス(GHG)削減や環境に優しい車両の導入などに取り組む企業もある。スタートアップのエディンディア(EDINDIA)もその1つだ。同社は、フランス語圏アフリカ地域で初の試みとなるキャッサバ(注1)のかすからバイオエタノールを生産するプロジェクトを手掛ける。同社社長を務めるアベ・エディ・バレール氏にビジネスの現状を聞いた(取材日:2023年8月16日)。


エディンディアのアベ・エディ・バレールCEO(本人提供)

バレール氏は、2019年にコートジボワールの最大都市アビジャンで開催されたコンペティション「ムーブ・イノベーション(Moov Innovation)」で、「2020年にインパクトを与える20人の起業家」の1人に選ばれている。また、2020年にフランス・ボルドーで開催された「アフリカ・フランス・サミット」にアフリカ大統領評議会(CPA)の招待で出席し、気候変動との闘いに関するパネルディスカッションに参加するなど、国際的なパートナーシップ構築を通じた目標達成の探求や協力促進にも積極的に取り組んでいる。

質問:
企業概要について。
答え:
低炭素モビリティーへの関心が高まる中、フランス語圏アフリカ地域で初となるキャッサバのかすを原料としたバイオエタノールの一貫生産プロセスの開発に取り組んでいる。ヤムスクロにある国立フェリックス・ウフェボワニ高等専門機関を卒業後、ミャンマーに留学、農業エンジニアの学位を取得し、トレーニングを受けた。エディンディアの創業は2018年だ。バイオエタノールのプロジェクトは2020年1月に着手し、同年12月に本格的にバイオエタノールの生産を開始した。原料の処理技術として連続蒸留を取り入れ、バイオ燃料を製造している。現在、月産6,000リットルのキャッサバ廃液を処理し、エタノールを生産しているが、今後6万リットルにまで増やすことを目指している。バイオ燃料として使われるバイオエタノールを得る過程で、食品用アルコール、ホルムアルデヒド、香水・化粧品用エタノール、創傷用アルコールなど、幾つかの価格競争力のある副産物が得られ、バイオ燃料とともに卸売業者を通じて販売している。消毒用アルコールの場合、卸値は1リットル当たり純度70度で2,000CFAフラン(約480円、1CFAフラン=約0.24円、一般の消毒用アルコールは2,500CFA前後)、純度90度で2,500CFAフラン(同3,500~4,000CFA)、醸造アルコール40~45度で1,500CFAフランだ。従業員数は10人、月間売上高は約500万~1,000万CFAフランといまだ小規模だが、将来的には大型から小型までの給油設備を整備し、コートジボワール全国にガソリンと混合した「バイオ燃料混合ガソリン」などのバイオ燃料を供給する計画だ。
質問:
キャッサバのかすによるバイオエタノールプロジェクト概要と取り組みについて。
答え:
キャッサバの搾りかすから得られる廃液を原料とし、バイオ燃料として使用するバイオエタノールを製造するフランス語圏アフリカ地域初のプラントだ。年間7万~8万リットルのエタノールを製造する。その全量をエタノール5%の混合ガソリン(E5)にした場合、ガソリン車で約2,000台分の燃料が得られる。バイオエタノールは大気中の二酸化炭素(CO2)を増加させないカーボンニュートラル燃料だ。ガソリンに混ぜることで、自動車から排出されるCO2の削減につながる。混合ガソリンをエネルギーとして使用した場合、CO2排出量は60%以上削減され、燃料コストの削減にもなることがエタノール100%(E100)対応の自動車用フレックス燃料変換キット「eFLEXFUEL」搭載車の実験結果から分かっている。国内では、ハイオクガソリンが1リットル当たり800CFAフランで販売されているが、バイオメタノール混合ガソリン(E5:エタノール含有量5%)では650CFAフラン、E85(同85%)では595CFAフランにまで小売価格が下がる。長期的には、コートジボワールだけでなく、アフリカで有数のバイオエタノール製造工場になることを目指し、事業拡大に取り組んでいく。また、直接的・間接的な雇用を創出し、社会的にも大きく貢献できる。具体的には、このプロジェクトによって環境汚染の緩和と女性の所得向上が実現される。キャッサバの主要生産地のコートジボワール南部地方では、キャッサバが「アチェケ」(注2)に加工される過程で、かすや廃液が排出される。従来は廃棄されていたこうしたかすや廃液を回収し、多くの女性が携わるアチャケ加工において付加価値を与えるのだ。現在、これらの廃棄物は無秩序に加工現場や道路、側溝に投棄され、悪臭や道路の荒廃、マラリアのまん延、肺疾患のような感染症を招いている。廃棄物を回収することにより、食品加工現場とその周辺の人々の生活環境改善につながる。目標は、廃棄物(キャッサバの廃液)をリサイクルし、バイオ燃料としてバイオエタノールを使用することで大気汚染と闘い、人々の生活の質の向上に貢献することだ。
また、雇用の創出や、CO2排出量の削減、エネルギー価格の抑制、キャッサバの作付け促進による食料自給率の向上、国の持続可能な開発戦略への貢献など、多様な効果が期待される。
質問:
どのようにビジネスを展開しているのか。
答え:
栽培が容易なキャッサバは、コートジボワールではヤマイモに次いで広く生産されている作物で、西アフリカ全域で主要な食糧として食生活に欠かせない。キャッサバを加工したアチェケはコートジボワールの主食の1つで、全国で食されているだけでなく、周辺諸国や欧州諸国へも輸出されており、人口増加に伴って需要が高まっている。バイオエタノールの生産コストに大きな影響を及ぼす要因の1つが資源作物の収量性だが、アチェケの加工場は、エディンディアがエタノールプラントを展開するアクペ市(アビジャンから130キロ)や経済の中心都市アビジャンの周辺地域などにあり、原料となるキャッサバのかすや廃液の80%がこうした地域で調達可能だ。ただ、難しいのは、キャッサバのペーストを乾燥させた後、でんぷん液を回収する段階だ。生産者の中には、でんぷんの量を増やすために水を加えるケースもあり、これは質の悪化につながる。この地域の5つの農業組合(バレール氏はそのうち1組織の組合長)に属する約125軒の農家と契約を結び、廃液やでんぷんのかすを1.5キログラム当たり300CFAフランで調達している。
質問:
バイオ燃料の可能性、今後の事業展開の方向性と課題について。日本企業との協業の可能性は。
答え:
今日、気候変動問題とバイオマスエネルギーへの転換は国の大きな関心事だ。しかし、キャッサバ廃液の利活用と食品リサイクルに関する国の施策は今日に至るまで存在しないのが実情だ。このプロジェクトは緊急の社会課題といっても過言ではない。将来的には、コートジボワールやアフリカ地域で、バイオ燃料としてバイオエタノールを全ての給油ステーションで供給し、住民の利益と環境保全に貢献することを期待している。一方、ここ数年来関心が高まりつつあるバイオ燃料だが、当社ではいまだ小規模な生産の段階にとどまっている。本格的な商業生産に向けて課題は山積しており、まずは経済性が十分に担保できる水準に生産技術を改善し、規格への対応や品質とともに混合率を引き上げながら、実用化を目指していく考えだ。さらなるコスト削減努力が必要と認識しており、バイオマス由来のエネルギー転換で、日本との技術提携などの可能性を探っていきたい。
質問:
政府は再生可能エネルギー普及推進などの気候変動施策を進めているが、これらの政策は事業者へ追い風となっているか。
答え:
フランス語圏アフリカ諸国では全般として、法整備、資金、指導の面などで、英語圏アフリカ諸国に比べて、企業に対する支援が不足していると考える。英語圏では、ポテンシャルが高い多数のプロジェクトに域内外の注目が集まっている。当社は現在、バイオエタノールに関する法整備と石油関連団体との連携を求めて政府に働きかけている。農業省や国家農業・地方開発庁(ANADER)と連携して、地域の環境問題にも取り組んでいる。航空業界でも、次世代バイオディーゼル燃料を導入する試みが推進されている。GHG排出削減に取り組むコートジボワールの国家民間航空機関(ANAC)は、バイオ燃料をジェット燃料として使用する代替航空燃料をテーマとする会合を近く開催する予定で、これに出席するつもりだ。

注1:
芋の一種のキャッサバは、サバナ気候や熱帯雨林気候の地域などで多く栽培されている熱帯性植物。茎の根本にできる塊根を調理して食されている。タピオカの原料でもある。
注2:
コートジボワール料理の1つ。調理方法は、皮むきしたキャッサバを粉砕し、発酵させ、プレスして水分を除去する。それをほぐして整形したものを半乾燥させ、ふるいにかけて選別したものを蒸しあげて完成。
執筆者紹介
ジェトロ・アビジャン事務所
渡辺 久美子(わたなべ くみこ)
1990年から、ジェトロ・アビジャン事務所勤務。主にフランス語圏アフリカの経済・産業調査に従事している。

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