中東・アフリカのグリーンビジネスの今スタートアップの挑戦、太陽光から温室に電力供給(サウジアラビア)

2023年10月26日

サウジアラビアは、2021年3月に炭素排出量削減への取り組みの一環として、「サウジ・グリーン・イニシアチブ(Saudi Green Initiative (SGI)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」を立ち上げた。今後数十年でサウジアラビア国内に100億本の植樹を行い、国土の3割以上を保護地域に指定することで、世界全体の4%相当の二酸化炭素(CO2)削減を目指している。SGIではさらに、2030年までに電力の50%を再生可能エネルギーに転換、2050年までに炭素排出量ネットゼロを掲げ、再生可能エネルギーや水素事業に積極的に取り組む姿勢も打ち出している(2022年11月9日付地域・分析レポート参照)。

「世界のサンベルト」と呼ばれる地域に位置するサウジアラビアは、世界有数の日射量があり、年間の日照時間は3,000時間を超える。太陽光を電力に変換する温室用シェード(遮光)・スクリーンを製造するサウジアラビアのスタートアップ「ミライ・ソーラー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」は、折り畳み式ルーフシェードを開発、温室市場に一石を投じている。太陽光の利用に関する研究と技術開発に10年以上従事しているミケーレ・デ・バスティアーニ博士に、同社の取り組みについて聞いた(取材日:2023年9月13日)。


ミケーレ・デ・バスティアーニ博士(本人提供)
質問:
ミライ・ソーラーの設立経緯は。
答え:
当社は2019年に、キング・アブドゥッラー科学技術大学(KAUST)の全面的な支援を受け、2021年6月に法人化した。現在も研究開発部分の支援を受けながら、生産ラインを立ち上げるために地元のメーカーと関わっている。社名のミライは日本語の「未来」が由来だ。軽量で柔軟性があり、他社のソーラーパネルとは一線を画す製品であるという意味を込めて、この社名にした。
質問:
ミライ・ソーラーのビジネスモデルは。
答え:
当社は、太陽光を電気に変換する格納式半透明の太陽光発電シェード・スクリーン(ミライ・スクリーン)を製造・販売している。この製品は、折り畳み可能なソーラーパネルが連結されたもので、顧客の要望に応じて一定の遮光レベルを提供する。太陽光発電技術は単結晶シリコン太陽電池をベースにしており、太陽光が当たると発電する仕組み。この電気は、温室の運営を維持し、オフグリッドでの設置を可能とするために、様々な方法で使用することができる。ミライ・スクリーンは、植物レベルで均一な遮光を確保する独自の技術が採用されている。スクリーンは、独自の折りたたみ機能により、温室内に入る光の量を調整するために格納または拡張することができる。これによって、果樹や野菜、花卉(かき)などの生育状況に応じて、太陽光の照射量をコントロールすることができる。この技術は、農業におけるCO2排出量を大幅に削減するとともに、温室の運営コストを削減する可能性を秘めている。
元来、サウジアラビアは年間通して降雨量は少なく、恒常的な河川もない、世界で最も乾燥した国の一つ。厳しい気候条件が、サウジアラビアの農業セクターの成長を阻害する大きな要因となっていたが、近年は再生水を利用した水耕栽培式など、砂漠の中でも砂漠の中でも水耕栽培法と再生水を利用した作物栽培が可能になり、農業分野で大きく注目されている。
私たちは技術を検証するため、リヤド地域とジッダ地域にそれぞれ2カ所で計4カ所のパイロット実証設備を設置した。リヤド地域は100平方メートルと320平方メートルのプラントで実証を行い。ジッダ地域は2カ所とも250平方メートルの大きさで実施した。そのほか、サウジアラビアで開催された展示会やイベントでも試作モデルを展示するなどして認知度を高めていった。
現在、当社はMENA地域以外でのビジネスチャンスを模索しており、特に、気象条件と温室の活用がビジネスにとって肥沃な土壌である米国でのビジネスチャンスを模索している。

ミライ・スクリーン(企業提供)

温室ハウスに設置(企業提供)
質問:
競合他社に対して自社の技術の優位性は。
答え:
ミライ・スクリーンは、ダイナミックな遮光制御と発電を組み合わせた唯一のドロップイン・ソリューションである。農業用太陽光発電の技術はいくつかあり、温室での発電を組み合わせたものもある。しかし、これらの技術はいずれも静的な遮光レベルであり、植物の生育に悪影響を与えたり、発電性能に欠ける新興の太陽光発電材料を利用したりしている。また私たちは環境にも配慮しており、製品には環境負荷が比較的低く(例:バックシートはフッ素フリー)、リサイクル可能で耐久性の高い素材を使用している。
質問:
サウジアラビアへのビジネス参入を検討する日本企業にアドバイスを。
答え:
当社は創業当初からビジネスと資金面でKAUSTの支援を受けた。サウジアラビアでは、ビジネスの発展を支援するさまざまな取り組みが行われている。例えば、大学やアクセラレータープログラム「TAQADAM」(注)、公的機関や民間機関などによる支援もある。
政府は、サウジアラビア経済の石油依存を脱却し、産業多様化を目指す国家戦略「ビジョン2030」の取り組みも含め、グリーンビジネス支援に積極的だ。国内企業だけでなく、外国企業にとってもチャンスだといえるのではないか。サウジアラビアでグリーンビジネスを展開する最善の戦略は、サウジアラビアや周辺地域で開催されるSustainability MENA、国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)、World Future Energy Summitなどのイベントに参加し、サウジアラビアのステークホルダーと積極的に関わることだと考える。実際にサウジアラビアに来て、ビジネス関係者と関わることや、サウジアラビアでプレゼンスを高めることが重要ではないだろうか。ぜひ、サウジアラビアについて理解を深めてもらいたい。

注1:
サウジアラビアを拠点とし、将来性の高いスタートアップ企業の育成を目的としたスタートアップ・アクセラレーター・プログラム「TAQADAM Startup Accelerator外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」。KAUSTとサウジアワル銀行が提供している。
執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所
林 憲忠(はやし のりただ)
2005年、ジェトロ入構。市場開拓部、ジェトロ大阪、ジェトロ・プノンペン事務所、ジェトロ・チェンナイ事務所、農林水産部、国税庁、海外調査部中東アフリカ課を経て、2022年8月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所
ファハド・キナーナ
2018年11月からジェトロ・リヤド事務所勤務。対政府手続きなどの管理部門のほか、 調査補助ならびに企業からのインクワイアリ対応を担当。

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