中東・アフリカのグリーンビジネスの今化石燃料からの移行で初合意(世界、UAE)
COP28の成果と展望(1)

2024年2月5日

国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が2023年にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された。会期は11月30日~12月13日(1日間延長)の14日間で、世界から150人以上の国家元首や政府首脳を含む約8万5,000人が参加した。会期中には、首脳級会合「世界気候行動サミット」や各国閣僚級・交渉官による交渉のほか、各国や企業、関係機関による366のサイド・イベントが行われた。

COP28では、2022年のCOP27で設立が決定していた気候変動の悪影響による損失と損害(ロス・アンド・ダメージ)に対応するための基金について、会期初日に運用開始の合意が発表された。また、パリ協定で定めた各目標に対する進捗状況について、5年ごとに包括的な評価を行う「グローバル・ストックテイク(GST)」の第1回が実施され、決定文書でパリ協定の目標達成に向けた新たな目標や、脱炭素貢献技術に関する取り組みの推進が呼びかけられた。また、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出を実質ゼロにするネットゼロ目標に向け、締約国に「化石燃料からの移行を進め、今後10年間で行動を加速させる」ことを定めた。COP26から議論の争点になっていた「化石燃料の段階的廃止」を盛り込むには至らなかったが、COPの最終合意で「化石燃料からの移行」が呼びかけられたのは今回が初めてのこととなった。

本稿では、COP28での議論のポイントや主な成果を紹介する。第2回では、COP28での日本としての成果や民間企業の動き、2024年にアゼルバイジャンで開催予定のCOP29に向けた議論の展望について取り上げる。第3回では、議長国となったUAEによる取り組みについて紹介し、結びとする。


COP28会場メイン・エントランス(ジェトロ撮影)

第1回GSTと「損失と損害」基金の議論に注目

COP28は、議長国UAEのドバイにあるエキスポ・シティーを会場として実施された。議長を務めたのはUAEのスルターン・ビン・アフマド・スルターン・アール・ジャーベル産業・先端技術相だ。ジャーベル議長は気候変動特使や、同国の再生可能エネルギー企業大手マスダールの創設者・会長でもある一方、世界有数の石油会社アブダビ国営石油会社(ADNOC)の最高経営責任者(CEO)も務める。同議長はUAEの気候変動対策で重要な位置にある人物と言えるが、議長就任に際しては、2023年5月に米国連邦議会や欧州議会に所属する133人の議員が同氏の解任を求め、ジョー・バイデン米国大統領やウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長、アントニオ・グテーレス国連事務総長らへ書簡を提出するなど、反対の動きもあった。産油国UAEでCOP28を開催し、石油会社CEOのジャーベル氏が議長を務めることに際しては、COP26(2021年11月16日付ビジネス短信参照)や、COP27で大きな争点となった「化石燃料の段階的な廃止」について、どのように議論を主導するのかという点に開幕前から注目が集まっており、一部では懐疑的な見方もあった。

COP28での議論の焦点は主に、第1回GSTの実施結果と、COP27で採択された「シャルム・エル・シェイク実施計画」で設立が決定したロス・アンド・ダメージ基金の検討・採択(2022年12月26日付地域・分析レポート参照)の2つだった(表1参照)。ジャーベル議長はCOP28開幕のスピーチで、GSTについて「パリ協定締結後、われわれは進歩を遂げてきたが、このままでは目標を達成するのが難しいことが科学的にも明らかになっている」とした上で、「GSTによって新しい道へ軌道修正し、2030年に向けてアクションを加速させていくべきだ」と述べた。また、気候変動問題を解決する重要な要素として気候変動ファイナンスを挙げたほか、化石燃料の役割について議論し、脱炭素の観点で石油・ガス企業とも積極的に関わっていくことを強調した。

会期中のスケジュールとしては、会期を通して行われる各国による交渉と並行して、12月1、2日の2日間で首脳級会合「世界気候行動サミット」と、今回初めて実施された、自治体首長などが集まる「COP28地域気候行動サミット」が開催された。12月3~10日(レストデーとなり交渉が行われない12月7日を除く)の8日間は、毎日日替わりのテーマが設定され、国や企業、団体による各日のテーマに沿ったサイド・イベントが開催された。

表1:COP28の概要と主な議題
項目 内容
開催期間 2023年11月30日(木曜)~12月13日(水曜)
※12月12日(火曜)までの開催予定だったが、最終合意に時間を要し、1日延長された
開催地 アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイ
議長 スルターン・ビン・アフマド・アール・ジャーベル産業・先端技術相兼気候変動特使、アブダビ国営石油会社(ADNOC)最高経営責任者(CEO)
主な議題
  • 第1回グローバル・ストックテイク(GST)の実施
  • COP27で設立が決定していたロス・アンド・ダメージ基金の検討・採択
  • 年間1,000億ドルを目標とする気候基金の早期達成
スケジュール
  • 12月1日~2日で首脳級会合「世界気候行動サミット」を実施
  • 12月3日~10日で日替わりのテーマデーが設定され、金融、エネルギー、食糧などのテーマに沿ったイベントが日々開催された

出所:UNFCCC、COP28公式ウェブサイト、ジェトロビジネス短信を基にジェトロ作成


COP28の本会議場の様子(ジェトロ撮影)

気候基金やエネルギー分野で多くの成果

COP28では、各条約締結国政府の交渉の場となる本会合の内外で、会期初日から成果の発表が日々行われた(表2参照)。

気候基金の分野では、開幕初日の11月30日にロス・アンド・ダメージ基金の運用開始への合意が発表され、最初の4年間は暫定的に世界銀行が運営することとなった。先進国の資金拠出は義務化されなかったものの、任意での拠出が促された。UAEとドイツが1億ドルの拠出を表明したほか、米国、英国、EUなども拠出の意向を示し、COP28閉幕時点で基金の総額は7億ドル以上に上った。日本は1,000万ドルの拠出を表明している。ジャーベル議長は翌12月1日に、UAEによる世界最大の気候変動対策関連の民間投資基金「アルテラ(ALTÉRRA)」の立ち上げと、300億ドルの拠出も発表した。

エネルギー分野では、幅広いカテゴリーで成果が上がった。石油・ガス業界では、12月2日にUAEとサウジアラビアが「石油・ガス脱炭素憲章」を発表した。同憲章には、世界の石油生産量の40%以上を占める石油・ガス関連会社50社が署名し、2030年までの上流部門でのメタン排出量ゼロや、2050年までのネットゼロ操業の実現などを目指す。50社のうち60%以上が国営石油会社で、脱炭素イニシアティブに取り組む社数としては過去最大となった。民間企業からは英国のシェルやフランスのトタルエナジーズといった石油メジャーが参加するほか、日本からもINPEXやコスモエネルギーホールディングス、伊藤忠商事、三井物産が署名した。また、12月5日には日本を含む66カ国(2024年1月18日時点)が賛同した「世界冷房誓約(Global Cooling Pledge)」が発表された。同誓約は、2050年までに冷房機器関連の二酸化炭素(CO2)排出量を2022年と比較して最低68%削減することや、遅くとも2030年までに、販売される新しい空調機器のエネルギー効率評価の世界平均を2022年と比較して50%向上することなどを目標としている。また、実施支援を地方自治体や民間部門、金融機関にも求めるとしており、日本ではダイキン工業が同誓約の支持を表明している(ダイキン工業ウェブサイト参照)。

水素については、12月5日に「再生可能かつ低炭素(注1)な水素および水素派生物の認証制度の相互承認にかかるCOP28意向宣言」が発表され、米国や日本、ドイツ、フランス、韓国を含む37カ国が賛同した。同宣言では、再生可能かつ低炭素な水素と水素派生物の世界市場の発展を目的として、参加国それぞれの認証制度の相互承認を目指すとしている。また、同宣言に関連して「COP28地域気候行動サミット」に日本から参加した東京都の小池百合子知事が12月1日、日本国内では初となる「水素取引所」を立ち上げる構想を発表した(2023年12月14日付ビジネス短信参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

表2:COP28で発表された主な成果
分野 概要
GST
  • 1.5度目標達成のためには、温室効果ガス(GHG)を2019年水準比で2030年までに43%、2035年までに60%の大幅削減が必要と認識
  • 130カ国が2030年までに世界の再生可能エネルギー容量を3倍、エネルギー効率改善率を2倍とする目標に合意
  • 原子力エネルギー、二酸化炭素(CO2)回収・利用・貯留(CCUS)技術、低炭素水素などの技術に関する取り組み推進が呼びかけられた
気候基金
  • 「損害と損失」(ロス・アンド・ダメージ)基金の運用開始で合意
  • UAEが300億ドル規模の気候変動対策関連民間投資基金「ALTÉRRA」を発表
エネルギー
  • 37カ国がクリーン水素基準の相互承認で合意
  • 米国を含む22カ国が2050年までに原子力エネルギー発電容量を3倍に増加させる宣言を発表
  • 66カ国が2050年までに冷房機器からのCO2排出量を最低68%削減することを目指す「世界冷房誓約」に賛同
  • UAEとサウジアラビア、石油ガス関連会社50社が「石油・ガス脱炭素憲章」に参加。2050年までのネットゼロ、2030年までのメタンガス排出ゼロなどを目指す

注:情報は2024年1月18日時点のもの。
出所:UNFCCC、COP28公式ウェブサイトを基にジェトロ作成

COPとして初めて、化石燃料からの移行で合意

会期初日から多くの成果が上がる一方で、第1回GSTの決定文書については最終合意の協議が難航し、会期を1日延長して12月13日に採択となった。この決定文書について、COP28の議論の焦点となった化石燃料からのエネルギー移行を含む気候変動「緩和」のためのGHG排出量削減に関する部分を中心に、内容を振り返っていく。

決定文書の中では前提として、締約国はパリ協定の目的と長期目標の達成に向けた軌道に乗っていないことを示した。その上で、産業革命前からの世界の平均気温の上昇を1.5度に抑え、気候オーバーシュート(注2)を発生させない、または限定的に抑えるには、GHG排出量を2019年水準比で2030年までに43%、2035年までに60%削減し、2050年のネットゼロを達成することが必要だとした。

この「1.5度目標」達成に向けた排出量削減のため、締約国に対して8つの具体的な取り組み目標が示され(参考参照)、パリ協定と各国の置かれた状況や道筋、アプローチを考慮した上で、各国が決定した方法で貢献することが求められた。その中で注目すべきは、「化石燃料からの移行(transition away)」が明記されたことだ。化石燃料については、2021年に英国で開催されたCOP26で、合意文書案では石炭火力発電を「段階的廃止(phase-out)」すると記載されたが、インドや中国の反対によって表現を弱め、「段階的削減(phase-down)」での合意となった。2022年にエジプトで開催されたCOP27では、全ての化石燃料の段階的削減や段階的廃止への進展を求める意見もあったが、合意には至らず、COP26での合意を踏襲するかたちで終了した。そのため、COP28では、化石燃料の段階的削減で合意できるのか否かが焦点となった。今回の合意文書では、当初案に「化石燃料の段階的廃止」が記載されていたものの、その後の草案からは削除され、最終的には「化石燃料からの移行を行い、この10年間で行動を加速させる」という内容で合意した。「段階的廃止」の表現を盛り込むか否かについては、化石燃料の段階的廃止を求める欧米や、気候変動の影響に対して脆弱(ぜいじゃく)な島しょ国と、当該表現の削除を求める産油国などとの間で意見が対立したと報じられ、議論は長引いた。しかし、COPの最終合意文書としては初めて「化石燃料からの移行」が明記されることとなった。ジャーベル議長はこの成果について、閉幕スピーチで「歴史的な偉業」とコメントしたほか、国連によると、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局のサイモン・スティル事務局長は「ドバイで化石燃料から完全に脱却することはできなかったが、これは明白な終わりの始まりだ」と評価した。

その他のエネルギー分野では、2030年までに再生可能エネルギー容量を世界全体で3倍、エネルギー効率の世界平均を2倍にするという新たな具体的な目標が設定された。また、再生可能エネルギーや原子力、CO2回収・利用・貯留(CCUS)技術、低炭素水素など、排出削減に向けたさまざまな技術の開発への取り組みも進めていくことが明記された。原子力エネルギーについては、会期中に米国や日本を含む22カ国が2050年までに原子力エネルギー容量を3倍に増加させる宣言も発表した(2023年12月6日付ビジネス短信参照)。原子力エネルギーはネットゼロ達成の手段の1つとして、今後も各国での取り組みが進むことが予想される。

参考:第1回GST決定文書の中で示した1.5度目標達成に向けた排出量削減のための取り組み事項

  1. 2030年までに世界の再生可能エネルギー容量を3倍にし、世界の年間平均エネルギー効率を2倍にする
  2. 排出削減対策が講じられていない石炭火力発電の段階的廃止に向けた取り組みを加速する
  3. 21世紀中ごろより前、または中ごろまでに、ゼロカーボン燃料や低炭素燃料を利用して、ネットゼロエミッションエネルギーシステムに向けた取り組みを世界的に加速する
  4. 科学にのっとって2050年までのネットゼロを達成するために、公正で秩序ある公平な方法で、エネルギーシステムで化石燃料からの移行を行い、この重要な10年間で行動を加速させる
  5. とりわけ再生可能エネルギー、原子力、特に排出削減が困難なセクターでのCCUS技術などの排出削減・除去技術、低炭素水素の製造を含む排出ゼロと低排出技術を加速させる。
  6. 2030年までに、特にメタンの排出を含むCO2以外の排出量を世界的に加速的かつ大幅に削減する
  7. インフラ開発や、ゼロエミッション車・低排出車の迅速な導入を含め、多様な道筋によって道路輸送からの排出削減を加速する
  8. エネルギーの貧困や公正な移行への対処を行わない非効率な化石燃料補助金を可及的速やかに廃止する

出所:UNFCCC公式ウェブサイトからジェトロ作成


COP28会場の国際原子力機関(IAEA)パビリオン(ジェトロ撮影)

このように、COP28では、開幕初日にロス・アンド・ダメージ基金の運用が発表されるなど、会期の前半から大きな成果が上がった。一方で、第1回となるGSTを踏まえた最終合意については議論が難航し、当初争点となっていた化石燃料の段階的な廃止には至らなかった。しかし、排出量削減へのアプローチとして、再生可能エネルギーをはじめとする新エネルギーやCCUSなどの脱炭素技術を示し、取り組み方法も各国の事情を踏まえて決定するとしたことで、産油国などからの反発を和らげ、最終的にはCOPとして初めて「化石燃料からの移行」を盛り込むかたちで合意することができたと考えられる。加えて、「石油・ガス脱炭素憲章」をはじめ、エネルギー分野を中心に産業界の取り組みを促すような具体的目標・宣言が複数発表され、今後、民間企業の動きも活発化することが予想される。


注1:
同宣言では「低炭素」の定義について、再生可能エネルギーや原子力エネルギー、またはCO2回収・隔離によって製造された水素を含むが、GHGの排出削減対策が講じられていない化石燃料(天然ガスを含む)によって製造された水素は含まないとしている。
注2:
特定の数値を一時的に超過することを意味し、ここでは平均気温の上昇が1.5度を超えてしまうことを指している。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
久保田 夏帆(くぼた かほ)
2018年、ジェトロ入構。サービス産業部サービス産業課、サービス産業部商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部ECビジネス課、ジェトロ北海道を経て2022年7月から現職。

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