中東・アフリカのグリーンビジネスの今議長国UAEの成果
COP28の成果と展望(3)
2024年2月21日
2023年11~12月に国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)がアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された。本特集の「COP28の成果と展望(1)化石燃料からの移行で初合意(世界、UAE)」では、COP28の主な成果について、損失と損害(ロス・アンド・ダメージ)基金の運用開始発表や、第1回グローバル・ストックテイク(GST)の結果を中心に紹介、「COP28の成果と展望(2)COP29は気候資金目標に注目(世界、UAE)」ではCOP28における日本の活動や成果、会場における世界各国の企業の活動を振り返るとともに、次回のCOP29に向けた議論の展望について取り上げた。本稿では、議長国を務めたUAEの取り組みについて紹介する。
UAE主導の取り組み加速、ファンドやアクセラレーター創設
中東の産油国であるUAE・ドバイで開催されたCOP28。議長を務めたスルターン・ビン・アフマド・スルターン・アール・ジャーベル氏をめぐって、海外から懐疑的に受け止められた経緯は本特集の「COP28の成果と展望(1)化石燃料からの移行で初合意(世界、UAE)」に詳しい。しかしながら、今やGCC(湾岸協力会議)諸国をはじめとする中東が、産油国でありながらも石油一辺倒ではなくエネルギーシフトや産業多角化に取り組んでいるのは周知の事実だ。UAEでも脱炭素、脱石油の動きは加速しており、水素など新たなエネルギーへの投資も増加の一途をたどる(2021年9月1日付地域・分析レポート参照)(2023年11月27日付ビジネス短信参照)。UAEでCOP28が開催されたことは、産油国がエネルギーシフトへかじを切る象徴として大きな意義があったと言えるだろう。COP28を皮切りに、同国の環境・エネルギー分野の政策や企業の動きなども加速した。
開幕早々に気候関連基金への拠出を各国が相次いで発表したタイミングで、UAEは気候変動投資ファンド「アルテラ(ALTÉRRA)」を創設し、300億ドルを拠出すると発表した。COP28事務局長であるマジッド・アル・スワイディ大使が最高経営責任者を務める。アルテラは、グローバル・サウスに対する資金提供方法の改善に重点を置き、より公正な気候変動対策金融システムを構築する国際的な取り組みを推進する。気候変動対策のための世界最大の民間投資資金となり、2030年までに全世界で250億ドルを投資することを目指す。同ファンドは民間市場を気候変動投資に誘導することを目指し、投資リスクが高く、従来、資金が不足している新興市場と開発途上国に焦点を当てるとしている。COP28の行動アジェンダを支える4つの重要な優先事項である、エネルギー転換、産業の脱炭素化、持続可能な生活、気候テクノロジーへ重点的に投資するという。
さらに、脱炭素に向けた新たな取り組みとしては、UAEが主導してGlobal Decarbonization Accelerator (GDA)を開始すると発表した。GDAは、(1)未来のエネルギーシステムの普及拡大、(2)現在のエネルギーシステムの脱炭素化、(3)メタンや、二酸化炭素以外のその他の温室効果ガスの削減を3 本柱として、エネルギーシステムの変革に取り組む。GDAの枠組みで2本目の柱である「現在のエネルギーシステムの脱炭素化」の下では、石油・ガス脱炭素憲章(OGDC)を定め、世界の石油生産量の40%以上に相当する50社が署名した。2030年までにメタン排出をゼロにし、日常的な焼却を廃止すること、そして遅くとも2050年までに完全なネットゼロ操業を達成すると定めた。この憲章に署名した50社のうち29社は国営石油会社(NOC)であり、脱炭素関連の誓約書に署名したNOCの数としては過去最大となる。
アブダビの再生可能エネルギー会社マスダールは、2030年までに再生可能エネルギー総容量100GW(ギガワット)を達成するという目標に向け、グリーンファイナンスの制度を通じて今後数年間で30億ドルの調達を目指すと発表した。また、開発途上国におけるクリーンエネルギーの開発支援を目的に、政府、規制当局、銀行、信用機関などとの協力を通じて、中央アジア最大規模となる500MW(メガワット)相当のウズベキスタンのザラフシャン風力プロジェクトへの開発協力を行なうと発表した。さらに、COP28では、アンゴラの150MW太陽光発電プロジェクトを含むサブサハラアフリカ6カ国の大規模投資計画推進のための合意書に署名し、サブサハラアフリカ6カ国での10GWの洋上風力発電とグリーン水素プロジェクトにドイツ、英国、米国と150億ユーロを共同で投資するとしている。
このほか、UAEは、アフリカのエネルギートランジションの支援のために45億ドルの基金の立ち上げを表明している。
COP28では、エネルギーのみならず多面的なアプローチで気候変動への取り組みが発表された。その1つが食料安全保障の視点だ。「持続可能な農業、強固な食料システム、および気候変動対策に関するCOP28 UAE宣言」では、152カ国が署名をし、食料システムの変革を気候変動戦略に盛り込んだ。とりわけ気候変動の影響を受けやすい地域の農業慣行の変革や食料の確保において、弱い立場の人々の食料安全保障体制の整備に焦点をあてた。さらに、UAEは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団と提携し、農業研究と関連分野におけるイノベーションに2億ドルを投資すると発表した。また、UAEが米国との提携で実施した「気候のための農業イノベーションミッション(AIM for Climate)」では、COP27時点の投資額は80億ドルだったが、COP28では170億ドル以上に増加したという。
都市化やモビリティの脱炭素化強化への取り組みもみられた。「第2回都市化と気候変動に関する閣僚会合」が開催され、「都市化と気候変動に関する共同成果声明」が作成された。この声明は、「ハイアンビション・マルチレベル・パートナーシップ連合(CHAMP)」に基づくもので、都市や地方自治体の気候危機対応に向け、資金の拡大や配備を加速するための手段強化を目的としている。ドバイでは「ドバイ2050のゼロエミッション公共交通」戦略の一環として、ドバイ道路交通局(RTA)が2050年までにゼロエミッションの公共バス、タクシー、スクールバスに完全移行することを目標としている。段階的に電気や水素をエネルギーとするバスを導入し、2040年までには全てのタクシーとリムジンをEVおよび水素自動車への完全移行を目指す。さらに、モビリティ向け水素燃料供給の取り組みとしては、アブダビ国営石油会社(ADNOC)がCOP28開催直前の2023年11月下旬、中東初の水素高速供給ステーションをアブダビ首長国のマスダールシティーに開設した。トヨタ自動車とアル・フッタイム・モーターズ、BMWが同ステーションのパイロットテスト用に水素自動車を提供した(2023年12月15日付ビジネス短信参照)。
官民で取り組むネットゼロ
中央省庁でのネットゼロ運動も加速しており、その一環として、エネルギー・インフラ省が「EARTHプラットフォーム」を発表した。同プラットフォームは、UAE 全体の統合デジタルダッシュボードを通じてネットゼロ活動を促す。エネルギー、交通、建築環境など、省庁間横断でネットゼロ目標に対する取り組みを可視化する。さらに、AI(人工知能)やビッグデータなどの先進技術を活用してデータを分析し、意思決定プロセスの迅速化に寄与するという。
このほか、市民レベルでのカーボンオフセットに関する取り組みも発表された。UAE環境アイデンティティ (UAEEI) と呼ばれるプロジェクトが立ち上がり、気候変動環境省 (MoCCAE) と民間企業が協力して、カーボンオフセットアプリを開発した。UAEEIでは、消費者の選択に基づいてデータを収集し、個人活動による環境への影響を測定する。UN Climate Changeの報告書によると、各国の気候変動対策行動計画が2030年までに温室効果ガス排出量を2019年比で2%削減するとしているところ、科学的には43%削減が必要と記されており、こうした高い目標に取り組むにあたって、個人レベルでのカーボンオフセットへの貢献の必要性も高まるだろう。
さらに来場者など個人向けの取り組みとしては、COP会場の運営そのものにおいても、環境に配慮された取り組みが多々見られた。ブルーゾーンの来場者には水筒が配られ、エキスポシティ内の複数の給水所で水をくむ人たちの列が見られた。ペットボトル利用を抑制するための試みだ。また、食事面では、会場内のケータリング業者が提供するメニューの二酸化炭素(CO2)排出量が記載されていた。また、会場内外の移動には、電気自動車(EV)や水素自動車が使われた(2023年12月15日付ビジネス短信参照)。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ドバイ事務所
清水 美香(しみず みか) - 2010年、ジェトロ入構。海外調査部中東アフリカ課、海外調査企画課、ジェトロ埼玉などを経て、2023年9月から現職。