特集:2021年アフリカビジネスの注目ポイント観光業に打撃も、高成長の予測(エジプト)
治安・政治に安定感

2021年2月10日

新型コロナ禍においても経済成長、失業率改善

エジプトでは、新型コロナ禍に当たり、あまり厳格な外出・営業規制がとられなかった。そうしたこともあり影響が比較的小さく、経済指標は堅調に推移している。世界銀行の「世界経済見通し外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」(2021年1月5日)によると、金融施策や経済再建計画が順調に進行し、GDP成長率は2019/2020年度に3.6%、2020/2021年度に2.7%、2021/2022年度に5.8%。世界全体や他地域と比較して高成長が予測されている(図参照)。

図:エジプトGDP成長率推移(%)
2020年度に3.6%、2021年度に2.7%、2022年度は5.8%と、世界やサブサハラアフリカ、中東・北アフリカ地域と比較して高成長を予測している。

出所:世界銀行、エジプトは会計年度

新型コロナの第1波があった2020年4~6月期、失業率が9.6%まで上昇した。しかし、2020年7~9月期には7.3%と、流行前よりもむしろ改善を示した(表参照)。また、新規起業数も一時期は減少したが、通常の水準まで回復している(2020年11月24日付ビジネス短信参照)。

消費者物価上昇率は、2017年には約30%に上り、消費が落ち込む結果を招いた。しかし、2020年は5.1%と落ち着いている(2021年1月19日付ビジネス短信参照)。一方で、貧困率は2019/2020年度は29.7%。前回調査(2017/2018年度)の32.5%からは低下したものの、引き続き高水準だ。貧困層に対する継続的な支援が求められる。政府は新型コロナの経済対策として、観光産業従事者などに対する補助金などの支援策を講じている。2020年12月以降の第2波の到来を受け、2020年12月までだった支給期間を2021年6月まで延長した。

中央銀行は金融の流動性確保や物価安定のため、新型コロナが拡大した2020年3月に12%台だった政策金利を3ポイント引き下げ9%台とした。以降も利下げの傾向を維持している。また、債務者への支払い期限猶予を各銀行に通達。こちらも2021年6月末まで延長となった。

表:エジプトにおける新型コロナ前後の経済指標
項目 新型コロナ前 第1波(4月~7月頃) 第1波以降
失業率 2020年1-3月期:7.7% 4-6月期:9.6% 7月-9月期:7.3%
新規起業数 2020年1月:2,501社 4月:246社 7月:2,209社
政策金利 2020年1月: 12.75% 3月:9.75% 9月:9.25%、11月:8.75%
外貨準備高 2020年1月:454億ドル 4月:370億ドル 12月:400億ドル
国内・国際線累計乗客数 2019年9月:320万人 2020年3月-6月:国際線停止 9月:80万人

出所:GDPは世銀、政策金利はCBE、他はCAPMAS

エジプトでも、インターネットやスマートフォンの普及に伴い、既にオンライン教育やeコマースの活用が始まっている。新型コロナによりデジタル化が一層加速したかたちだ。電子化が実行された実例としては、公共料金支払いの電子決済、補助金給付、税金支払い用カード(Meeza)の運用開始、などがある。政府はICT(情報通信技術)関連予算を積み増し、さらなるデジタル化の推進に取り組んでいる。また、中央銀行も、POSシステム機材30万台を小売店などに無料配布。電子決済を推進するところに狙いがある。その他、金融のデジタル化を進めるフィンテック企業に対する支援も行う。

人口増加により建設事業が活発に、観光業は深刻なダメージ

2010年時点で8,000万人であったエジプトの人口は、2020年に1億人に達し、2030年には約1億2,000万人になると予測されている。人口増加への対応と渋滞解消のため、郊外や地方で住宅や商業施設、インフラの整備が進んでいる。2021年には、新行政首都移転が予定され、特に新行政首都近郊の開発が活発化している。

電力確保と環境配慮の観点から、太陽光や風力など再生可能エネルギーによる発電設備建設も増加。また、地中海沖のガス田を成長産業と見込んだ大型投資もあり、資源の自給率上昇が見込まれている。地中海ガス同盟も動き始めた。将来的には欧州などへのガスの供給も見込まれている。

一方、観光業は、新型コロナにより深刻なダメージを受けた。民間航空省によると、2019年の国内・国際線累計の乗客数は毎月約300万人だった。しかし2020年3~6月に国際線を原則停止。7月に再開したものの、9月の国内・国際線乗客数は約80万人にとどまった。日本が支援し2021年の開館を予定している大エジプト博物館(GEM)は、新型コロナ禍の状況にもよるが、観光客の呼び水となることが期待される。

新型コロナで貿易は鈍化、外貨準備高は安定

新型コロナの影響で貿易、特に輸入が鈍化する見込みだ。輸出は、前年比で微減。一方で輸入は、原油価格の下落と需要減により、品目として最大の石油の輸入が大幅に減少。結果、貿易赤字は縮小が見込まれる。同国の輸出はこれまで、欧州や湾岸諸国に対する食品や資源などが中心だった。しかし、2021年1月1日に運用開始されたアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)により、アフリカ域内に向けて家電製品などの輸出を目指す企業も出てきた。

外貨準備高は、新型コロナ拡大期に減少し370億ドルまで落ち込んでいた。しかし、2020年12月には約400億ドルまで回復をみせた。アラブの春以降の政治的混乱に伴う経済悪化や観光客減少の際には、深刻な外貨不足が生じた。今回はそのような事態に陥る可能性は低いとみられる。なお、エジプトにとって重要な外貨収入源の1つは、スエズ運河の通行料収入だ。新型コロナが拡大した5月~7月は一時期落ち込みを見せたものの、2020年11月の通行料収入は約770億エジプト・ポンド(約5,082億円、1ポンド=約6.6円)で前年同月の収入と変わらない。

新型コロナ拡大期には、IMFの緊急融資が承認された(2020年6月10日付ビジネス短信参照)。これは、政府が2016年以降、IMFと進める経済再建計画を後押しすることにもつながる。政府は対外債務について、経済復興や経済成長、税収強化による税収増に加え、燃料補助金削減などの財政改革で、返済を進める計画だ。

治安・政治は安定、新型コロナ禍の経済への影響は少ない見込み

エジプト政府は近年、他国や国際機関との関係を良好に保ってきた。しかし、2020年はリビア紛争に関してトルコとの関係悪化、エチオピアとのダム問題の深刻化が報じられた。一方でカタール(2017年に断交)とは、2021年1月に国交を回復した。また、2020年12月に米国からの制裁解除を受けたスーダンとの交流が活性化する動きもある。国内でのテロに関する報道も減少。また、2020年に実施された議会選挙でも大規模なデモは起こっていないため、国内の治安・政治は安定すると見込まれる。

新型コロナの感染拡大対策を見ると、政府は、マスク着用義務や大規模集会の禁止、学校登校制限など、比較的緩やかな措置をとる。新型コロナの第1波の際は飲食店が営業停止となり飲食業界へのダメージが大きかったが、政府は徐々に規制を緩和し、現在はビジネス活動への制限は少ない。年齢中央値が約23歳と若いこともあって重症リスクが少ない人が多いためか、街は日常に戻りつつあり、カイロ市内では従来どおり渋滞が発生している。にぎわいが見られるレストランやスーク(市場)もあり、新型コロナによる経済への影響は免れないものの、一部の消費行動は続いている。


にぎわう外食店(ジェトロ11月撮影)

にぎわうスークと渋滞(ジェトロ12月撮影)

新型コロナウイルスワクチンについては、2021年1月に中国製品の緊急使用が承認された。政府はその他のワクチン確保に向けて複数ルートで交渉を進める。エジプトは、アフリカの中では比較的、医療・製薬体制が整っている。そのため、将来、現地企業によるワクチン製造が計画されるという。このほか、日系ベンチャーキャピタルによる遠隔医療診断スタートアップへの出資もあった(2020年8月28日付ビジネス短信参照)。

日系企業は、当地でのビジネスを継続または再開している(世界は今「それでもアフリカビジネスは止まらない」参照)。

執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課(2010年~2013年)、ジェトロ北海道(2013~2017年)を経て現職。貿易投資促進事業、調査・情報提供を担当。