特集:2021年アフリカビジネスの注目ポイント2020~2021年のアフリカの主な政治・治安動向
2020年は多くの大統領が再選、国際関係に改善の動きも治安には留意

2021年2月5日

2020年から2021年初めにかけて、コートジボワール、ガーナ、タンザニアなどアフリカ各国で大統領選挙が実施された。現職の再選が目立ち、各国とも大きな混乱には至っていないものの、敗れた野党候補が不正を訴えるケースも少なくなかった。選挙に伴う混乱がビジネスの停滞を招かないためにも、政治や社会の安定は重要なテーマだ。

治安情勢については、スーダンが米国のテロ支援国家指定リストから解除されるなど進展があった一方で、ノーベル平和賞を受賞したエチオピア首相が国内の地方勢力との戦闘状態に直面するなど、各地で対立や紛争がなくなることはない状況だ。アフリカビジネスに取り組むうえでも、各国の政治・治安動向には留意が必要だ。本稿では2020年の主な選挙動向を概観し、2021年に予定される政治日程を紹介する。

2020年は多くの国で大統領が再選を果たす

2020年は、マラウイ(6月、再選挙)、ギニア(10月)、セーシェル(10月)、ブルキナファソ(11月)、中央アフリカ(12月)など、アフリカ各国で大統領選挙が実施された。ギニア、ブルキナファソ、中央アフリカは現職が再選した一方で、マラウイとセーシェルでは野党候補が勝利を収めた。

アフリカ域内では日本企業が多く進出するタンザニア、コートジボワール、ガーナ、ウガンダでも、2020年後半から2021年1月にかけて大統領選挙が実施された。

タンザニアでは、10月28日に総選挙が実施され、大統領選は現職のジョン・マグフリ氏が84.4%の得票率で圧勝した。野党は不正があったとコメントしたものの、マグフリ氏は2期目の所信表明で汚職撲滅や投資誘致に意欲を見せた。

コートジボワールでは、10月31日に大統領選挙が実施され、現職のアラサン・ワタラ氏が大差で3選を果たした。野党は投票前から3選は憲法違反として選挙をボイコット、暫定政府を設置するとして一時国内情勢の緊張が高まったが、ワタラ氏は12月14日に就任宣誓式を執り行った。

ガーナでは、12月7日に総選挙が実施され、大統領選は現職のアクフォ=アド氏の再選が発表された。これに対し野党は不正があったと反発しているものの、2021年1月下旬に新内閣の閣僚名簿が議会に提出された。同時実施された国民議会選挙では、与野党がほぼ同数になったものの、僅差で与党が多数派となっている。

ウガンダでは、1月14日に大統領選が実施され、現職のヨウェリ・ムセベニ氏が6期目の当選を果たした。投票前から有力野党候補が当局に拘束され、支持者の抗議デモで死者が出るなど混乱が生じ、野党は選挙結果の無効を主張している。

国際関係に改善の動きも、治安は引き続き注視

約4,300万人の人口を抱えながら紛争や政情不安を抱えてきたスーダンは、治安や国際関係に徐々に改善の兆しがみられる。暫定政府と反政府武装勢力(SRF)は2020年10月、和平協定に署名。12月14日には、米国がスーダンのテロ支援国家リスト指定を解除した。引き続きダルフール地方の情勢やエチオピアなど周辺国との関係に注意は必要なものの、今後のビジネス円滑化を後押しすることが期待される。なお、スーダンは10月にイスラエルと国交正常化した。アフリカでは、モロッコもイスラエルと国交正常化している。

エチオピアでは、アビィ・アハメド首相が隣国エリトリアとの外交関係再開など地域安定化への貢献が評価され、2019年にノーベル平和賞を受賞したことが記憶に新しい。しかし2020年11月、北部ティグライ州の地元政党(TPLF)と国防軍の衝突が発生し、同州に非常事態宣言を発出するに至った。その後、事態は収束に向かったものの、多民族国家において政府とTPLFの溝の深さが改めて浮き彫りになったかたちだ。

資源開発などで注目を集めるモザンビークでは、北部で武装勢力が活動を活発化させており、政府は治安対策として隣国タンザニアやEU、米国など国際社会とも協議を進めている。しかし、武装勢力の襲撃による治安悪化で、北部の天然ガス開発のプロジェクト関係者が一時退避を決定するなど、ビジネスへの影響も懸念される状況だ。

第8回アフリカ開発会議(TICAD8)が2022年に開催されるチュニジアでは、2021年1月16日に内閣改造が行われたものの、失業や貧困への不満から国内各地で暴動が発生する事態となっている。

国際テロ組織への脅威も、いまだに消えることはない。西アフリカのサヘル地域では、イスラム過激派による武装襲撃が活発化し、安全保障問題が課題となっている。同地域のニジェールで2020年に大統領選が実施された際も、マリ、ブルキナファソとの国境でテロ襲撃があり、投票は厳戒態勢の中で実施された。

2021年以降の主な政治日程

2021年は、エチオピアで、6月5日に国政選挙、同12日にはアディスアベバ市議会議員選挙などが実施予定だ。モロッコでは、9月に衆議院選挙が実施の予定で、前回2016年の選挙では「公正と発展党」が第1党となった。先述のニジェール大統領選では、2020年12月27日の投票でいずれの候補者も過半数を獲得できなかったため、2021年2月20日に決選投票が予定される。そのほか、ザンビア大統領選が8月までに実施予定で、ソマリア(2月)、コンゴ共和国(3月)、チャド(4月)、ベナン(4月)でも大統領選を実施する予定だ。また、日程は未定であるものの、南アでは5年に1度の統一地方選が、アルジェリアでは国会と県・市議会議員選挙が行われる予定となっている。ケニアの大統領選は、2022年に予定されているが、すでに有力候補者を巡る現地報道が過熱しつつある。選挙に伴う抗議活動や社会混乱などが発生すれば、企業の投資意欲や経済活動の鈍化につながりかねず、主要国の政治動向には引き続き注視したい。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部主査(アフリカ担当)
小松﨑 宏之(こまつざき ひろし)
1997年アジア経済研究所(当時)入所、総務部、研究企画部。1999年ジェトロ企画部へ異動。その後、貿易開発部、国際機関太平洋諸島センター出向、展示事業部、ジェトロ高知所長、ジェトロ・ナイロビ事務所長、ジェトロ大阪本部を経て、現在に至る(アフリカ担当)。