特集:2021年アフリカビジネスの注目ポイント新型コロナ拡大も、EC市場や自動車政策、再生可能エネルギーに注目(南アフリカ共和国)

2021年2月5日

南アフリカ共和国(以下、南ア)の2020年の経済は、新型コロナウイルス感染拡大により、深刻な打撃を受けた。同年3月に国内初の感染者が確認され、政府は本格的な市中感染拡大を前に、全土で「ナショナルロックダウン」を実施。食品や医療品などの「必要不可欠」な物資とその製造関連以外の経済活動や外出に対する厳しい制限は5月まで続いた。その後、政府は経済活動の制限を段階的に緩和。しかし、それとともに感染者は増加の一途をたどった。7月には感染拡大第1波を迎え、1日当たり1万人を超える新規感染者が確認された。

2020年は新型コロナにより過去最低の経済成長率

ピーク後の9月下旬には新型コロナウイルス警戒レベルを5段階中の最低となる1に引き下げ。ほとんどの経済活動や国境を約半年ぶりに再開した。しかし、ロックダウン中の経済活動の制限の影響は大きかった。また、新型コロナ対策にかかる財政支出拡大に伴って、国際的信用が低下した。

財務省は11月に、2020年の実質GDP成長率はマイナス7.8%に落ち込むとの予測を発表した。これは、2009年(リーマン・ショック直後)のマイナス1.5%を大きく下回る水準だ。完全失業率も30%に達するなど、国内経済は厳しい状況に置かれている。

2021年も新型コロナ収束が経済再生のカギ

新型コロナ感染拡大により、経済は深刻な影響を受けた。日系企業の製造や物流の現場でも、現地職員の感染や政府の規制変更などによるビジネスへの影響が指摘される。とは言え現時点で、南ア事業の目立った見直しや他国への移転などは見られていない。アフリカの中では優れたインフラや法制度など社会基盤が整っていることを背景に、日系企業を含む外資企業は依然として南アを「サブサハラ・アフリカのゲートウエー」と位置付けているといえる。ジェトロの「アフリカ進出日系企業実態調査(2020年度)PDFファイル(1.74MB) 」でも、約半数の在南ア日系企業が2020年の営業見込みはコロナ禍でも「黒字になる」と予想。また、「今後の注目国」としても、南アがケニアに次ぐ2位となるなど、引き続き高い関心が寄せられている。

世界銀行は2021年1月5日発表の「世界経済見通し外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」で、2021年の南アの実質GDP成長率を3.3%と予測する。ただしこれは、新型コロナの感染拡大状況に大きく左右されるとみられる。ズウェリ・ムキゼ保健相は2020年12月、国内での新型コロナウイルス変異株と感染拡大第2波の確認を発表した。12月末に政府は警戒レベルを1から「調整されたレベル3」まで引き上げ、酒類販売の禁止など経済活動の制限を再び課して、感染拡大防止策を取る。政府は2021年前半に総人口の約3分の1に当たる約2,000万人分のワクチンを確保する計画を示しており、順調に投与が進むかが感染拡大の抑制と経済活動の全面再開のカギとなりそうだ。

政治面では、シリル・ラマポーザ大統領が、新型コロナ対策でも強いリーダーシップを発揮し、安定した支持を集めている。大統領は、前政権時代から尾を引く汚職問題や、国営企業(注1)改革に取り組んできた。これも支持の理由だろう。2021年には、5年ぶりの統一地方選挙が実施される。ただし、国内の新型コロナ感染拡大の影響から、現時点で具体的な選挙のスケジュールの発表には至っていない。

2021年のビジネス注目ポイント

2021年の南アにおけるビジネスの注目ポイントとして、以下3つが挙げられる。

1. 新自動車産業政策が7月スタート

南ア自動車製造者協会(NAAMSA)は2020年12月、ポスト自動車生産開発プログラム(ポストAPDPまたはAPDP2)を2021年7月1日から施行すると発表した。現行のAPDPは2013年から続き、2020年に失効していた。その執行に先立ち、貿易産業競争省は2018年11月、2021~2035年の自動車産業政策「南ア自動車基本計画2035(SAAM)」を発表。現在、ポストAPDPの詳細案を定めるパブリックコメント用の草案の発表が待たれる状態だ。2035年までの政府による投資インセンティブがさらに明らかになることで、日系企業を含む自動車関連企業にとって、長期の投資・生産計画を見込む大きな礎になる。また、2021年1月1日に運用が開始された「アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)」の今後の動きも、アフリカ域内での自動車生産・物流販売ネットワークを検討する上で、さらに重要性が増してくるとみられる。

2. 再生可能エネルギー分野への参入

南ア政府は2020年9月、合計1万1,800メガワット(MW)の新規電源の公共調達を行うと発表した。これは、2030年までのエネルギー政策を定める電力統合資源計画(IRP)に基づくものだ。約5割強の6,800MWの電力を太陽光や風力を中心とする再生可能エネルギーで賄い、2024年までに独立発電事業者(IPP)から調達する。

この調達には、外国企業・投資家の参入も歓迎されている。これまでは電力公社エスコムが国内の電力市場をほぼ独占し、また、7割強の電源を石炭火力に依存してきた。しかし、エスコムの不採算経営による財政状況の悪化と電力供給の不安定化、環境への影響を解決する必要がある。そのため、政府は再生可能エネルギーへの転換に大きくかじを切ったかたちだ。日本の国土の約3.2倍の面積を有する南アは世界でも有数の日照率を有し、風力資源にも恵まれていると言われる。現に、これまでにも日系企業が再生可能エネルギーのIPP事業に複数参画した例がある。

また南アは、アフリカの中では比較的豊富な技術系人材を国内に有する。それを背景に、再生可能エネルギー分野のスタートアップ企業も勃興し始めた(注2)。そうした企業に対して、日本企業が技術・資金提供する機会なども期待できる。

3. EC市場の拡大

南アの個人インターネット普及率は56.2%だ(2017年、国際電気通信連合)。アフリカ域内では高い水準にある。

比較的近代的なインフラや物流、金融システムが整備されている南アでは、Eコマース(EC)市場が新型コロナ禍で拡大し、活況づいている。当地では、週末に大型ショッピングセンターで家族と過ごすのが余暇の1つだ。その裏腹で、小売りでのECの割合は低いと指摘されてきた。しかし、ロックダウンにより厳しい外出制限が課され、物理的に店舗での購入が難しくなった時期もある。それを契機に、消費スタイルもオンラインに変わりつつある。例えば、国内最大のECプラットフォーム「テイクアロット」は新型コロナ感染拡大以降、利益が4割増になったとの報道がある。ほか、国内の大手食品や医療品小売りチェーンなどもオンラインサイトでの売り上げを大きく伸ばしている。大手だけでなく、新しいECビジネスも生まれつつある。例えば、2018年にケープタウンで起業した「イエボー・フレッシュ」(注3)は、「タウンシップ」と呼ばれる地域の住民向けに生活雑貨を届けるサービスを行って成長している。低所得者層が集まるタウンシップ地域では、住所を持たない住民も多く、また治安も悪いことから、従来の仕組みでは配送が難しかった。それを、携帯電話のGPS技術と地域NGOとの連携で困難な課題を実現した。タウンシップの住民は安価な公共交通機関に移動手段を依存せざるを得ない。ロックダウン期間中に公共交通機関の運行が制限されたことに伴い、家庭への配達需要が低所得者層の間でも高まったことが同社のビジネスの拡大につながったかたちだ。

日本の消費財に対する認知は依然としてそれほど高くはない。そのような状況が続くにせよ、EC市場を通じて南ア市場に参入していく可能性が新型コロナ危機を経てむしろ拡大してきたと言えるだろう。


注1:
例えば、電力公社のエスコムや南ア航空など。エスコムは不採算経営が続き、財政赤字拡大の大きな要因となってきた。
注2:
サンエクスチェンジ社はその一例。
注3:
「イエボー」は、現地ズールー語で「Yes!」を意味する。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
髙橋 史(たかはし ふみと)
2008年、ジェトロ入構後、インフラビジネスの海外展開支援に従事。2012年に実務研修生としてジェトロ・ヤンゴン事務所に赴任し、主にミャンマー・ティラワ経済特別区の開発・入居支援を担当。2015年12月より現職。南アフリカ、モザンビークをはじめとする南部アフリカのビジネス環境全般の調査・情報提供および日系企業の進出支援に従事。