特集:2021年アフリカビジネスの注目ポイントコロナ禍など難題の中、国政選挙を経た次の成長に期待(エチオピア)

2021年2月5日

エチオピアでは、新型コロナウイルスの国内初の感染者が2020年3月13日に確認された。それから12月31日までの累計感染者数は12万4,264人、うち死亡者数は1,923人となった。加えて、過去25年で最も深刻と言われたサバクトビバッタ大量発生の被害、11月の北部ティグライ州での軍事衝突〔連邦政府とティグライ人民解放戦線(TPLF)〕など、2020年は波乱続きの年だった。IMFは2019年10月時点で、エチオピアの2020年の実質経済成長率を7.2%と見込んでいた。しかし、国内外の新型コロナ禍などを反映し、2020年10月の発表では1.9%へと見通しを引き下げた。その時点でのIMF予測では、2021年の成長率は若干のマイナス(マイナス0.02%)に留まっていた。ただし、2021年4月に予定される次回の見通し発表時には、軍事衝突の影響も織り込まれてくるだろう。

社会・経済のデジタル化は道半ば

2021年も引き続き、政治・社会的な課題への対応が経済に影響しそうだ。新型コロナ対策では、政府は「COVAXファシリティー」(注)を通じてワクチンを調達。まずは、年内に国民の20%に接種を実施する考えだ。繊維・縫製産業では、新型コロナの世界的まん延で輸出先市場からの受注が減少する中、マスクなど個人防護具の生産に切り替えるなどの動きがあった。2020年4月8日から5ヵ月間続いた非常事態宣言の細則で、企業は人員整理ができず、従業員に基本給のみを支払うなどの対応を講じていた。企業側では、非常事態宣言後も、受注減から基本給のみを支払って人員維持に努める一方、従業員側では、皆勤手当などがなくなったことで、生活苦から離職する動きも報じられている。今後、ワクチン接種が世界で広がり輸出先の需要が底打ちした時、これまでも問題とされてきた電力・水供給に加えて、従業員の再雇用と訓練など、供給体制の再構築が課題に浮上してくる可能性がある。

新型コロナ対策を契機とした社会・経済のデジタル化は、期待したほど進んだとはいえない。レストランなどの料理配送サービスは首都圏では広がりをみせているが、商品をインターネット上で購入する習慣はいまだ浸透していない。各銀行はこの数年、インターネットバンキングやスマートフォン用アプリを提供するようになっている。しかし、これらオンラインの手段では、異なる銀行間での支払ができないなど、利便性が劣ったままだ。インターネット会議は、国連やアフリカ連合(AU)などの国際機関や政府機関で先行して利用されている。片や、エチオピアの民間企業での活用はあまり進んでいないようだ。そのため、在宅勤務を導入している日系企業も新規顧客の開拓に苦労を強いられている。

サバクトビバッタも前年に引き続き脅威となり得る。国連食糧農業機関(FAO)は2021年1月4日時点の公報で、バッタの群れがエチオピア東部で発生、南部へ移動していると報告した。また、2月にかけてふ化による新たな群れの発生と、ケニア北部への移動が予測される。国民議会では2020年に約130万人が食糧危機にひんしたと指摘。エチオピア政府は車両や農薬散布用ヘリコプター(注2)を有効に活用し、食糧生産への被害を抑えていく必要がある。

反政府勢力との軍事衝突は、2021年1月に入ってもティグライ州山岳部などでのゲリラ戦が報道されている。アブラハム・テケステ前財務相が逮捕されたほか、セヨム・メスフィン元外相の死亡など、元政府・軍高官の逮捕や作戦中の死亡が伝えられている。ティグライ州はこれらの衝突により、基幹道路や送配電設備などのインフラ復興が必要とされているほか、国内外に逃れた避難民への食料支援や生活保護などへの対応も迫られる。

6月上旬の選挙結果に注目

こうした中で、目下、2021年最大のイベントは6月の選挙だ。5日に国政選挙、翌週12日には特別市アディスアベバ市とディレダワ市の議会選挙が行われる。選挙は当初2020年8月を予定していたが、新型コロナ対策を優先して実施を延期していた。アビィ・アハメド首相と首相自身が再編した政権与党「繁栄党」に対する国民の支持を占う選挙になる。南部諸民族州で異なる民族間の衝突や、スーダンに近いベニシャングル・グムズ州などでは武装集団による住民殺害事件が発生するなど、各地で衝突が続く。そうした中、これからの選挙期間中は、開票結果判明後も含めて混乱が予想されるため、注意が必要だ。

2018年4月のアビィ政権誕生以後、エチオピア政府は自由化路線を掲げてきた。例えば、投資法・同規則の改定や、金融機関に対する在外エチオピア人の出資参画の再度の許可などの制度変更が進められた。通信分野では、1社独占のエチオテレコムの民営化と新規ライセンスの発行プロセスが進む。また、物流部門への外資のマイナー出資も可能になった。WTO加盟交渉やアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)参加など、国際自由貿易体制への参加に向けた準備も進んでいる。

選挙が平和裏に終わればこれまで進めてきた改革が次の経済成長につながる、との期待が政府にある。


注1:
GAVI(ワクチンと予防接種のための世界同盟)が新型コロナウイルスのワクチンの公平な普及のために立ち上げた仕組み。
注2:
こうした車両や農薬散布用ヘリコプターは、国際社会の支援を受けて導入された。
執筆者紹介
ジェトロ・アディスアベバ事務所 事務所長
関 隆夫(せき たかお)
2003年、ジェトロ入構。中東アフリカ課、ジェトロ・ナイロビ事務所、ジェトロ名古屋などを経て、2016年3月から現職として事務所立ち上げに従事。事業、調査、事務所運営全般からの学びを日本企業に還元している。