特集:2021年アフリカビジネスの注目ポイント新型コロナの影響は深刻も、2021年は国政選挙や二国間関係の動きに注目(モロッコ)

2021年2月5日

モロッコでは、2020年3月2日に初の新型コロナウイルス感染者が確認された。以降、政府は迅速な対応を取った。3月9日にイタリアとの航空便運航を停止したのを皮切りに、同月22日には全ての国際線の運航を停止した。また、同月19日には「衛生緊急事態」を発令してロックダウンを開始した。その後、7月からはフライトの一部再開や、文化施設やレストランの再開(収容人員を定員の50%とする条件付き)など、段階的な緩和策を進めた。なおも感染収束には至っておらず、「衛生緊急事態」は11回にわたって延長を続けてきた。現時点では、延長期限は2021年3月10日までとされ、感染収束への措置が引き続き講じられている。累計感染者数は46万144人(1月18日時点)。アフリカ大陸では南アフリカ共和国に次いで2番目だ。

フリーゾーン立地企業の創業に打撃

こうした中、タンジェやケニトラなどの産業加速ゾーン(フリーゾーン)に集積する自動車分野を中心とする製造業の操業に大きな影響が出ている。特に、フランスのルノー、グループPSA、それらに部品を供給する約250の自動車関連企業については深刻だ。ルノーは、新型コロナ禍により2020年3月から4月に工場の一部を停止し、5月まで再稼働できなかった。またグループPSAは、3月に工場を停止した後、5月から段階的に生産再開するなど、生産活動に影響があった。モロッコに進出する日系自動車部品企業からも、「納入先の需要減を受けた生産ラインが一時停止」「国際線の運航停止により日本から出張者が送り込めない」「モロッコ国内の移動制限により現場確認ができず、新製品の生産準備活動や現場管理に支障が生じている」といった声が上がった。

世界銀行は、モロッコの2020年実質GDP成長率をマイナス6.3%と予測する。第一次産業でマイナス5.7%、第二次産業でマイナス7.4%、第三次産業ではマイナス5.8%と、いずれも大きく落ち込むと見られている。また、モロッコ高等計画委員会(統計局)が発表した2020年第3四半期(7~9月)の需要項目別の実質GDP成長率は、民間消費支出が前年同期比10.5%減、政府消費支出が6.4%増、総固定資本形成が9.8%減、財貨・サービス輸出が13.7%減、輸入が11.3%減だ。2020年は経済活動が大きく縮小したことが読み取れる。

2021年の政治経済の動きは活発に

このように、新型コロナウイルスは2020年のモロッコ経済に大きく影響を及ぼした。新規感染者は11月をピークに12月から減少傾向が続く。この状況下、対内直接投資については、2020年中、案件にあまり動きが見られなかった。しかし12月に入ると、自動車用シート製造を行うAdient(米国)が投資額約1,550万ユーロで、国内2カ所目の工場の設立を発表(2020年12月21日付ビジネス短信参照)。中国のアルミ鋳物・アルミニウム自動車部品メーカーの中信ダイカスタル(CITIC DICASTAL)も、同じく12月に国内2カ所目の工場を開所した。新型コロナウイルスの国内の感染減少傾向と時期を同じくして、製造業分野の動きが再開に向かいつつある。

日本とモロッコの関係では、租税条約と投資協定の発効が見込まれる。両国政府は2020年1月に「日・モロッコ投資協定」「日・モロッコ租税条約」に署名した。ただし、効力の発生には双方が国内手続きを完了し、相手側に通告する必要がある。遅い方の通告が相手側に受領された後30日目から発効する。日本は2020年5月に国会承認、6月19日にモロッコ側に通告した。一方モロッコでは、11月16日に国内で承認が得られたとの現地報道があったものの、日本への通告日はまだ確認されていない。投資協定と租税条約が発効し、日本とモロッコの企業活動に寄与することを期待したい。

政治に目を向けると、2021年9月に衆議院選挙が予定されている(2020年12月3日付ビジネス短信参照)。モロッコ議会は二院制で、衆議院議員は直接選挙(比例代表制)、参議院議員は間接選挙(地方議会議員などの互選)で選ばれる。衆議院は395議席で任期5年、参議院は120議席で任期6年。前回の衆議院選挙は2016年10月に行われ、イスラム主義政党の「公正と発展党(PJD)」が125議席を獲得して第1党となった。勝利後の2017年3月、エル・オトマニ氏(PJD)を首相指名。6党による連立内閣が成立した。今秋の選挙に向けて、各党が新型コロナ禍からの経済復興政策や外交政策について、どのような政治方針を掲げていくのか、また、選挙の結果、どのような内閣が組閣されるのかが注目ポイントだ。

執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所長
石橋 洋一郎(いしばし よういちろう)
1999年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ愛媛、ジェトロ・パリ事務所に勤務し、2018年7月から現職。