特集:2021年アフリカビジネスの注目ポイント油価下落による外貨準備高減少と物価上昇も、なおも成長余力(ナイジェリア)

2021年2月5日

コロナ禍を契機とする油価下落で経済に大打撃

ナイジェリアは産油国だ。2019年には、輸出総額の87.2%を原油・ガスが占めていた。しかし2020年は、新型コロナ禍で世界の原油需要が大きく落ち込み原油価格も下落した。同国にとって、経済的に大きな打撃だ。2019年6月11日時点で451億7,000万ドルあった外貨準備高は減り続け、2020年5月にIMFから34億ドルの緊急融資を受けた。融資の効果で6月3日には、365億8,000万ドルまで持ち直した。しかし再び減少を続け、12月30日時点で353億6,000万ドル。2019年の輸入総額〔16兆9,600億ナイラ(約432億6,531万ドル)〕の約9.8カ月分にまで落ち込んだことになる(注)。

中央銀行は、外貨準備高減少のため外為市場に外貨を十分に供給できない状況だ。外為枠が十分でないため、現地通貨ナイラはNAFEX(貿易取引の公式レート)以上に実勢為替レートの下落(ナイラ安)が進む。12月30日時点において、NAFEXで1ドル当たり392ナイラなのに対し、公認両替商(BDC 、Bureau De Change)では475ナイラだ。需給ギャップの大きさが公式レートと実勢レートの乖離に表れたとみられる。結果、原材料の多くを輸入に頼る製造業や、国外に資金を送還しようとする海外投資家がBDCなど並行市場で外貨を調達せざるを得ない状況だ。

通貨安は、輸入品の国内価格を押し上げる。その結果として、物価が上昇している。ナイジェリア国家統計局(NBS)によると、2020年11月の前年同期比の消費者物価指数(CPI、2009年11月=100)の上昇率は14.89%。2018年1月以来の高い水準を記録し、特に食料品部門の上昇率は18.30%だった。物価上昇には、ナイラ安以外の要因もある。例えば付加価値税や印紙税の増税だ。また、新型コロナウイルス感染拡大防止対策に伴う州境閉鎖(注2)や、農作物植え付け時期の遅れ、10月に発生した全国的な抗議デモ(注3)で、物流に変調を来したことも影響したとみられる。

新型コロナウイルス感染拡大は、9月に鈍化した。しかし、12月に入って再び新規感染者数が急拡大し、政府は12月21日から飲食店や学校の閉鎖など、新たな制限措置を敷いた(2020年12月23日付ビジネス短信参照)。

今後の成長にインフラ整備が急務

ナイジェリアのGDP成長率について、IMFは2020年にマイナス4.3%、2021年に1.7%、アフリカ開発銀行は2020年に2.9%、2021年に3.3%と予測している。

OPECプラスの減産合意も奏功し、原油価格も2016年の水準にまで戻してきた。OPECバスケット価格は、12月17日時点で1バレル50.78ドルだ。2021年もこれ以上の水準を保ち、減産割り当ての影響が軽微なら、景気が回復していくものと予想される。

目下、ラゴス自由貿易区で大規模な製油所と肥料プラントが建設中だ。地元コングロマリットのダンゴテが120億ドルを投じたプロジェクトで、2021年に生産開始を見込む。完成すればアフリカ最大にして、シングルトレーンとしては世界最大級の製油所になる。ガソリンやディーゼル、航空燃料、灯油を合わせて1日当たり6,540万リットル生産できる見込みだ。これまで輸入に頼っていた国内のガソリン需要を全て国産に切り替え、輸出できる能力を備えることになる。これによりナイジェリアの貿易収支は20億ドル改善するというのが、IMFの予想だ。

2021年1月に、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が運用を開始した。自国の産業を強化して輸出競争力を高めるためには、製造業や農業の経営環境として重要な道路や港湾、電力といったインフラ整備が急務になる。


ラゴスの高級住宅街では高層マンションの建設が続く(ジェトロ撮影)

日本企業にもビジネスチャンス

最後のフロンティアと呼ばれるアフリカ。その中でもナイジェリアは、人口約2億人、年率約3%のペースで人口増加が続くアフリカ随一の巨大消費市場だ。

日本企業にとっても開拓の余地は大きい。味の素は、低所得の消費者にも購入しやすいよう小袋に分けた製品により、青空市場で販路拡大。カネカやデンカは、ウィッグやヘアエクステンション(付け毛)に用いる高機能人口毛髪素材を現地ファッションブランド向けに販売。中国製など安価品が多い当地にあって、高い人気を誇る。2016年に英国製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)の飲料子会社を買収したサントリーは、ラゴスでスポーツドリンクを製造販売する。本田技研工業は、ナイジェリアでオートバイの組み立て販売を始めてから2021年に41周年だ。最近では2019年に、悪路に強い小型スポーツ用多目的車(SUV)の組立販売を開始した。ナイジェリアの人々が元来持つ身体能力の高さに注目してサッカークラブに出資し、優秀な選手を世界に送り出すビジネスを始めた日本人実業家もいる。

ブロードバンドの普及などを背景に、海外の優秀な人材がナイジェリアに戻り、ITを駆使したビジネスを立ち上げている。2020年には、こうしたナイジェリアのスタートアップに、AAICやケップル・アフリカ・ベンチャーズといった日系のベンチャーキャピタル(VC)や商社などコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)が出資した。営業管理やフィンテックなどのビジネスをラゴスで展開する日本のスタートアップもある。

国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて、世界の政府系金融機関がアフリカの課題解決型スタートアップへの支援を拡大している。2021年は日本企業がハードウエアやソフトウエア提供などで協業して、ナイジェリア市場に進出するきっかけをつかむような年になるかもしれない。


注1:
12月30日時点のNAFEXに基づき、1ドル当たり392ナイラで換算。
注2:
州境閉鎖は 2020年6月まで続いた。
注3:
ナイジェリア警察の特別強盗対策部隊(SARS 、Special Anti-Robbery Squad)の解散を求めるもの。
執筆者紹介
ジェトロ・ラゴス事務所
西澤 成世(にしざわ しげよ)
2003年、ジェトロ入構。海外投資課、輸出促進課、ジェトロ・広州事務所、麗水博覧会チーム、環境・エネルギー課、イノベーション促進課、ジェトロ福井などを経て、2018年4月から現職。