特集:2021年アフリカビジネスの注目ポイント2020年はマイナス成長予測、中長期的な可能性に期待(モザンビーク)
北部治安懸念の一方、天然ガス・農業・新興サービスに注目

2021年2月5日

モザンビークでは2020年3月22日、国内初の新型コロナウイルス感染の症例が報告された。それ以降、2021年1月14日までに累計2万4,269人(検体数29万6,922件)の感染が確認されている。

影響は経済にも及ぶ。モザンビーク中央銀行によると、2020年第1~3四半期(7~9月)までの輸出総額は、前年同期比約27%減の約25億ドル(前年同期は約34億ドル)と、大きく落ち込んだ。とりわけ、石炭輸出は世界的な需要低下のあおりを受け、2020年第3四半期時点で前年同期比約51%減の約5億ドル(前年同期約10億ドル)と大幅に下落したことが響いた。

世界銀行とIMFは、モザンビークの2020年の実質GDP成長率をそれぞれマイナス0.8%、マイナス0.5%と予測。他方、今後は石炭をはじめとする鉱物資源の輸出回復が見込まれる。そのため、2021年については、それぞれ2.8%、2.1%と予測している。

北部の天然ガス開発と武装勢力問題解決の進展に注目

モザンビーク北部カーボ・デルガド州では、大型の天然ガス開発プロジェクトが進行中だ。

米国資源大手エクソンモービルとイタリア炭化水素公社(ENI)がコンソーシアムの中核を担うエリア4では、ENI主導の下、韓国サムスンなどによりコーラル・サウス鉱区向け洋上プラント(FLNG)の建設が進む。そのうちマンバ鉱区では、2020年中の最終投資決定(FID)発表が期待されていた。しかし、エクソンモービルは2020年4月、新型コロナウイルスによる資源価格の下落とエネルギー需要の低下を背景に、同鉱区のFIDを延期することを決定(2020年4月17日付ビジネス短信参照)。結局、2022年にずれ込む見通しだ。

エリア1では、フランスの資源大手トタルがコンソーシアムを主導する。2019年6月にFIDが発表された。しかし、2020年4月に建設現場のカーボ・ デルガド州アフンギ半島のキャンプ地で新型コロナウイルス集団感染が発生。対策のため一時的に建設工事中断を余儀なくされた。再開されたのは、2カ月後の6月だった。

2020年10月時点でのIMFの予測によると、2022年(エリア4コーラル・サウス鉱区で天然ガスの生産開始を予定)の経済成長率は4.7%、2024年(エリア1で生産開始予定)は11.0%だ。中長期的には成長が見込まれているわけだ。なお、これらの天然ガスプロジェクトには、三井物産が20%の出資比率でエリア1コンソーシアムに参加している。また、日揮や千代田化工もプラント建設を受注。このように、日本企業の参画もある。

一方、同州では2017年10月以降、武装勢力による地元住民を主な対象とした襲撃や、警察・治安当局との衝突が断続的に発生している。武装勢力は同州北部の沿岸部を中心に活動し、天然ガス開発プロジェクトサイトはその地域内に位置する。2020年8月には、武装勢力が港町モシンボア・ダ・プライア(注)を占拠。2021年に入るとキャンプ地に隣接する居住区が襲撃を受け、トタルは関係者の一時退避を発表した(2021年1月15日付ビジネス短信参照)。生産開始予定時期について、同コンソーシアムは当初の2024年から変更するとの発表は現時点でない。しかし、今後のプロジェクトへの影響が懸念される。モザンビーク政府はEUへの支援要請(2020年10月12日付ビジネス短信参照)をはじめ、国際社会と連携してこの問題に対処する動きを見せている。今後の北部治安情勢の安定が、開発プロジェクトの大きなカギになる。

このような状況下でも、政府や産業界は開発のモメンタムを引き続き維持したい考えだ。そのため、現時点で3つのビジネスイベントを開催する予定が示されている。具体的には、2021年3月に「モザンビークガス&パワー2021」、4月に「第7回モザンビーク鉱業・石油・ガス・エネルギー会議および展示会(MMEC)」、9月に「第7回モザンビークガスサミット」が、それぞれ実施される予定だ。

農業セクターの成長に注目

モザンビークで農業セクターは、GDPの25%を占める。就労人口では、72%が従事する。一方、農業法人や中小規模農家を全て含めた農業従事者のうち、98.7%に当たる390万世帯が平均1ヘクタール未満の耕地で生計を立てているとされる。

そこで2020年、政府主導の下で「SUSTENTA」と言われる大規模農業開発プロジェクトが国家的に展開されることになった。このプロジェクトの狙いは、(1) セクターの大半を占める小規模農家の生産性を向上させるとともに、(2) 大企業に至るまでのバリューチェーンを構築することでセクター全体の成長を促すところにある。全国から32万人以上の農家が登録。資金管理や農業技術のトレーニング、種子や肥料を購入するための融資などのサービスを受けている。そのほか、南部ガザ州では米作増強を期して5,000ヘクタールの農地開拓に着手した。政府は「SUSTENTA」による生産性向上により、2021年の同国農業セクターの実質GDP成長率は4%になると予測する。輸出用換金作物のカシューナッツは前年比44%増の約21万トン、日本への輸出実績もあるゴマは同50%増の約18万トンと想定されている。ほかにも、ヒマワリなどの製油用種子植物、マカダミアナッツやサトウキビにも生産量増加が見込まれている。これらの結果として、輸出用農作物の発掘や対日輸出の増加に期待が持てる。

「SUSTENTA」プロジェクトには、モザンビーク国内の有力企業が参加している。例えば、農業や畜産などに幅広く製品とサービスを提供する「Tecap」グループの農業資機材サプライヤー「Casa do Agricultor」は、農業資機材の供給を担う。同社はジェトロが主催する「日本・アフリカオンライン商談会(農業分野)」で、2020年12月から2021年1月にかけて計15社の日系農業関連企業と商談。モザンビーク国内市場向けの農業資機材を日本から調達できないものか検討を進めている。このプロジェクトでは、日系農業法人や農業資機材メーカーにも参入の扉が開かれていることになる。

携帯アプリを活用した新興サービスも登場

スマートフォンの普及などを背景に、モザンビークでも一般消費者向け市場でITを活用した新興サービスが誕生している。携帯アプリから24時間配車手配が可能で、透明性の高い料金を提示する「Viva Taxi」や、インターネットまたは携帯アプリ経由でレストランに料理を注文し、宅配するフードデリバリーサービス「Deliva」などだ。このような新興サービスは、主に首都マプトで展開されている。市場規模の小ささから、ウーバーやウーバーイーツなど大手外資系サービスの参入は考えにくい。国全体の成長とともに、地方都市への波及や利用の増加も見込まれる。将来的な成長市場となる可能性を秘めたビジネスと言えるだろう。


注:
モシンボア・ダ・プライアは、各エリアから約60キロに位置し、プロジェクトの物流拠点になっている。
執筆者紹介
ジェトロ・マプト事務所
松永 篤(まつなが あつし)
2015年からモザンビークで農業、BOPビジネスなどの事業に携わる。2019年からジェトロ・マプト事務所業務に従事。