特集:2021年アフリカビジネスの注目ポイント新型コロナ禍でも投資は活発、2021年は大幅なプラス成長見込む(コートジボワール)
3月の国民議会選挙が内政安定化のカギ

2021年2月10日

コートジボワール政府は2019年末に、2020年の実質GDP成長率を7.2%と見込んでいた。だが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で外需が落ち込み、世界的なサプライチェーンが混乱。これに加えて、消費マインドの冷え込み、感染防止対策の影響などを反映し、大きく下方修正した。2020年10月時点では1.8%の見通しだ。

産業別には、まず農業が不調だった。とくに、最大の輸出産品のカカオ豆生産の減少が響いた。カカオ豆の供給過剰による国際市況の低迷が予想されることから、生産抑制を期し、政府は管理体制を強化している。製造業や石油精製、輸送、観光、商業、サービス業も、感染拡大防止措置による生産コスト上昇や需要減退で不振だった。特にサービス業で、雇用減リスクが高まっている。

新型コロナウイルス感染症に対する警戒感が高まる中、一部医療品やサービスなどについては需要の押し上げが見込まれる。一方で、封鎖措置に伴って航空便の減便や大規模なイベントなどが延期。例えば、2020年8月に予定されていた万国郵便大会議は、2021年8月に延期された。会議が開催できるのか、いまだ不透明だ。

財政悪化に国際機関が融資実行

コートジボワールでは、2020年3月11日に最初の新型コロナ感染者が確認された。その直後から、封鎖措置や行動規制など積極的な封じ込め策が実施された。併せて、(1) 脆弱(ぜいじゃく)な人々への支援、(2) 社会的セーフティーネットの拡大、(3) 深刻な影響を受けている産業や企業(注1)、世帯を支援する経済・社会・人道援助対策、(4)そのための大規模な財政支出を実施。新型コロナ禍の影響を最小限に食い止めるため迅速に対応してきた。

ロックダウンなどの封鎖措置は感染抑制に不可欠で、感染者数が比較的抑えられている。しかし、同時に経済活動が制限されることから税収減になり、片や財政支出が増加するため財政を圧迫する。財政赤字は現在、対GDP比5%に増えている。

IMF理事会は2020年4月17日、新型コロナ禍で発生した経済的影響に対応するため、コートジボワールに対する総額8億8,620万ドルの融資実行(注2)を承認した。IMFは「コートジボワールは2012年以降、IMF主導のプログラムに着手。経済改革に取り組んできたことでファンダメンタルズが強固となり、コロナ禍の影響に対するレジリエンス強化につながっている」と評価している。

また、コートジボワールは2020年4月と5月に、新型コロナウイルス対策に必要な資金を調達するため、西アフリカ経済通貨同盟(UEMOA)の地域証券取引所(BRVM)で各2億9,700万ドルのソーシャルボンド「COVID-19」を起債。UEMOA地域で初の「コロナ債」の発行となった。11月には、アフリカ地域でコロナ禍初のユーロ債を起債し、発行額10億ドルに対し、50億ドルを超える投資家からの強い引き合いを得た。

コロナ禍早期収束を前提に大幅なプラス成長を見込む

新型コロナ禍の早期収束を前提として、政府は経済の急回復を見込んでいる。2021年の実質GDP成長率は6.5%の予測で、アフリカ地域でも上位の成長率になるはずだ。コロナ禍で、経済活動は大きな打撃を受けた。しかし、制限措置が段階的に解除されるとともに回復に向かっている。3月に予定される国民議会選挙が平和裏に実施されれば、政治・社会情勢の安定度が増す。経済環境の改善により国際的な信用が拡大するとともに、経済活動の正常化を見込めるだろう。大型公共事業の進展で投資の拡大が見込まれ、堅調な内需が成長を後押しする見通しだ。

また、新型コロナ対策として、3月からワクチン接種の開始が予定されている。

コロナ禍でも2020年前半の投資は活発

エスメル・エシス民間投資促進担当相によると、コロナ禍の影響や2020年10月の大統領選挙実施を控えていた(注3)にもかかわらず、同年1~5月の認可ベース投資案件は前年同期比26%増加した。投資促進センター(CEPICI)によると、2018年制定の新投資法では、低開発地域への投資を促進するため、アビジャン圏(注4)外への投資には手厚い優遇措置が設けられており、最近は、地方都市への投資が増えているという。従来、選挙が実施される年は、内政混乱や治安悪化によるカントリーリスク拡大が予想されることから、投資計画の凍結や縮小の動きがみられ、投資が冷え込む傾向にあった。他方、土地収用の問題から、工業用地の整備に遅れが出ているとも言われる。そのため供給不足が懸念されているところだ。

外国企業の動きとしては、資源開発分野が好調だ。カナダB2Gold、中国Tietto Mineralsが金鉱開発、マレーシアSapura Drillingが石油堀削、ノルウェーPGSが石油開発関連事業、オーストラリアTransactysglasolがダイヤモンド開発に進出する。エネルギーでは、ナイジェリアSahara Gasがブタンガス貯蔵事業、フランスIEDがバイオマス発電事業を計画中だ。農業・食品部門では、モロッコOCPとスイスSOLEVOが稲作関係、イスラエルAgrotopが牧畜業、セネガルKireneが飲料水製造に進出する計画だ。土木事業では、フランスSogea-Statomが道路整備。サービス部門では、フランスGEMOが服飾モード店舗の展開、フランスINSIGNと35°Nordが広告代理店の展開、モロッコIntelciaがIT事業へ進出を計画している。

国民議会選挙が政権の行方を占う

コートジボワールでは、2020年10月の大統領選挙で現職のアラサン・ワタラ大統領が3選を果たした。野党は3選が憲法違反として選挙をボイコット。暫定政府の設置を宣言したことから、国内情勢の緊張が一時高まった。野党の反発が強まる中、散発的に抗議デモも広がった。デモ隊と治安当局の衝突で多数の死傷者が報告されたが、ワタラ大統領は12月に就任宣誓式を挙行した。

2021年3月に予定される国民議会選挙では、全ての政治勢力の参加が期待される。その結果として固まる議会の勢力図には重要な意味が出てくる。憲法違反として批判が強まる中で当選したワタラ政権の行方を占う選挙として注目される。選挙の平和裏な実現が政局安定化、社会融和深化のカギになるだろう。


注1:
基幹産業の農業のほか、運輸やサプライチェーンなどに関連する産業・企業が対象。
注2:
ラピッド・クレジット・ファシリティー(RCF)2億9,540万ドルと、ラピッド・ファイナンシング・インストルメント(RFI)5億9,080万ドルをあわせた支援。
注3:
選挙が実施される年は、内政混乱や治安悪化によるカントリーリスク拡大が予想される。そのため従来は、投資計画が凍結・縮小し、投資が冷え込む傾向にあった。
注4:
アビジャン圏では、工業用地や道路交通が飽和状態になりつつあるという事情もある
執筆者紹介
ジェトロ・アビジャン事務所
渡辺 久美子(わたなべ くみこ)
1990年から、ジェトロ・アビジャン事務所勤務。主にフランス語圏アフリカの経済・産業調査に従事している。