特集:対内直接投資に見る中国の動向(2018年上半期)京津冀地域の対内直接投資はいずれも増加(北京市、天津市、河北省)

2018年11月9日

2018年上半期の北京市の対内直接投資は契約件数(前年同期比23.4%増の743件)、実行額(6.2%増の106億2,000万ドル)ともに増加した。うち、サービス業による投資が702件、92億7,000万ドル(全実行額の87.2%)と大半を占め、中でも科学技術の成果の実用化や研究開発・デザインなどハイテクサービス業による投資が伸びた。国・地域別ではEU(2.5倍)、米国(3.4倍)、日本(2.8倍)、韓国(4.0倍)で大幅増となった。天津市は、契約件数、契約額、実行額ともに増加し、日本からの投資実行額は2.8倍となった。河北省も契約額、実行額ともに増加した。

北京市:ハイテクサービスなどサービス業が投資増を牽引

2018年上半期の北京市の対内直接投資は、契約件数が前年同期比23.4%増の743件、実行額が6.2%増の106億2,000万ドルとなった(表参照)。北京市商務委員会によれば、2018年の外資誘致目標額の78.7%を達成した。

表:北京市・天津市・河北省の対内直接投資 (単位:件、%、100万ドル)(△はマイナス値、―は値なし)
省・市 契約ベース 実行ベース
件数 前年比 金額 前年比 金額 前年比
北京市 2016年 22,075 △ 31.8 13,029 0.3
2017年 33,611 52.3 24,329 86.7
2018年上半期 743 23.4 10,620 6.2
天津市 2016年 1,106 6.9 30,826 △ 1.7 10,100 12.2
2017年 951 △ 14.0 10,610 5.0
2018年上半期 554 30.1 12,970 10.3 2,520 4.8
河北省 2016年 162 △ 22.1 3,347 △ 41.1 7,354 19.0
2017年 194 19.8 3,707 10.8 8,490 15.4
2018年上半期 2,670 69.6 6,060 16.6
注:
天津市の2016年の実行額は外国出資者からの貸付額を除いたものである。同年の伸び率は同様の定義で計算した2015年の実行額と比較したものである。
出所:
省、市政府発表資料を基に作成

特にサービス業が好調で、契約件数が21.5%増の702件、実行額が92億7,000万ドルで実行額全体の87.2%を占めた。うち、科学技術の成果の実用化(実行額が29.4%増)や研究開発・デザイン(2.5倍)などハイテクサービス業による投資が伸びた。同市は2015年5月にサービス業開放拡大の総合試験都市に指定されて以降、サービス業に対する開放措置を相次いで打ち出している。

国・地域別ではEU主要国からの投資額が前年同期の2.5倍(5億3,000万ドル)、米国が3.4倍(3億4,000万ドル)、日本が2.8倍、韓国が4倍といずれも大幅に増加した。

日本からの投資案件をみると、エイベックスが2月26日、100%子会社を設立し、中国におけるエンターテインメント市場の拡大を背景に、中国国内でC-POP(CHINESE POP)アーティストのマネジメント事業などを行うと発表した。また、日本トリムは5月9日、慢性期疾患治療のためのフラッグシップ病院を開業した。同病院は中国において、予防・診断・治療を重視した日本式の医療サービスと、優れた医療機器を使用した慢性期疾患治療を専門にしており、多店舗展開を目指す。

北京市は4月18日に、「対外開放を拡大し、外資利用水準を高めることに関する意見外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を公布した。同意見では、高齢者サービス分野への外資企業の進出奨励や、多国籍企業の北京市での地域本部設立の支援、研究開発費用の税額控除などのメリットを適正に享受できるようにするなどの外資誘致策を示しており、対象分野での投資活発化が期待される。

また9月19日には、2019年9月末に開業予定の「北京大興国際空港」(注1)が所在する大興区を含む北京市南部の発展を促進するための「北京市南部地域の発展加速促進行動計画(2018~2020年)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」が公表されたほか、9月26日には同市での新設を禁止・制限する業種を定めたネガティブリストの改定版外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます を公布した。今後の外資の投資動向をみる上では、こうした開発計画や外資規制改定がポイントとなる。

天津市:新規投資の規模が拡大

2018年上半期の天津市の対内直接投資は、契約件数が前年同期比30.1%増の554件、契約額が10.3%増の129億7,000万ドル、実行額は4.8%増の25億2,000万ドルだった(表参照)。天津市商務委員会は2018年上半期の特徴として、新規案件の規模が大きいこと、外資産業構造の最適化が進んだこと、主要国・地域からの投資が総体的に安定していたことなどを挙げた。

産業別でみると、サービス業への投資額(実行ベース)が16億5,000万ドルとなり投資全体の65.5%を占めた。そのうち融資・リース業は前年同期比21.3%増の8億6,000万ドル、交通輸送・倉庫業は3.5倍の8,437万ドル、ハイテクサービス業は37.0%増の4,337万ドルであった。

製造業向けは8億4,000万ドルで全体の33.3%を占めた。うちハイテク製造業は1億5,000万ドルとなり、電子・通信設備製造業(8,845万ドル)、医薬製造業(5,922万ドル)への投資は大幅な伸びとなった。

国・地域別の投資額(実行ベース)をみると、香港は12.4%増の14億6,000万ドル、日本は2.8倍の2億4,000万ドル、米国が7.2倍の2億3,000万ドル、シンガポールが3.3倍の1億4,000万ドル、韓国が2.1倍の6,266万ドル、台湾が8.8倍の4,764万ドル、英国が6.6倍の1,974万ドルとなった。

日系企業の動きとしては、豊田合成が3月30日、中国で自動車用のゴム部品を製造する子会社の天津星光橡塑を完全子会社化すると発表した。豊田合成の現行の出資比率は51%だが、共同出資の鬼怒川ゴム工業などから全株式を取得する。完全子会社化により、天津星光橡塑の経営判断を迅速化するとともに、中国全体での最適な生産体制の構築を進めていくとしている。

河北省:契約額、実行額ともに堅調な伸び

2018年上半期の河北省の対内直接投資は、契約額が69.6%増の26億7,000万ドル、実行額は16.6%増の60億6,000万ドルと、いずれも堅調な伸びになった(表参照)。

実行額が3,000万ドル以上の案件は44件、投資総額で44億8,000万ドルとなり、投資全体の73.9%を占めた。契約額が1,000万ドル以上の新規案件は14件、増資は7件であった。

国・地域別の投資状況(実行ベース)をみると、上位5カ国・地域は香港(33億8,000万ドル、46.3%増)、英領バージン諸島(11億1,000万ドル)、米国(2億9,000万ドル、24.3%増)、日本(1億6,000万ドル、2.4倍)、シンガポール(1億1,000万ドル、50.6%増)となった。アジアからの投資は54.9%増の38億9,000万ドルで、投資全体の67.2%を占めた。一方、欧州からの投資は6.2%減の2億2,000万ドルとなり、そのうち英国が16.3%減の9,392万ドル、オランダが5.2倍の8,923万ドル、ドイツが37.5%減の1,666万ドルとなった。

国務院が6月10日に発表した「外資の積極的かつ有効な利用による質の高い経済発展を推進するための若干の措置に関する通知」などを受け、河北省政府は8月に「外資の積極的かつ有効な利用による質の高い経済発展の推進に関する実施意見」を公表し、ネガティブリストの導入、外資に対する「放・管・服」(行政簡素化と権限委譲、監督管理の強化、サービスの最適化)改革の深化、外資によるM&Aの奨励、外資企業への奨励強化などを通じて投資環境を整備し、対内直接投資の拡大に力を入れるとしている。また、同省は外資の雄安新区建設への参入を支援するとしており、今後、同省へのさらなる投資拡大も期待される。

京津冀一体化や雄安新区建設、環境規制に注目

京津冀(北京市、天津市、河北省)地域全体の外資投資の動向を見通す上で、北京からの産業移転などを含む京津冀地域一体化の進展、また、河北省保定市に建設中の新たな国家級開発区である雄安新区の建設動向と同区における産業誘致計画が注目される。

京津冀については、北京市発展改革委員会から「京津冀協同発展2018~2020年行動計画」が発表されており、2020年までに北京市から1,000社の一般製造業を撤退させ、「散・乱・汚」企業(注2)を一掃するなどとしている(2018年8月13日ビジネス短信記事参照)。雄安新区については、中国共産党中央委員会と国務院によって「河北雄安新区規画綱要」が承認された。綱要によれば、同区には「スタートアップ区」を設けるほか、インターネット、ビッグデータ、人工知能(AI)、最先端情報技術、バイオテクノロジー、現代金融、本部経済(統括会社など本部機能を中心とする経済)などのイノベーション型・モデル型の重点プロジェクトを集積させる方向性が打ち出されている(2018年5月7日ビジネス短信記事参照)。

他方、大気汚染対策などの環境規制が製造業などの投資に及ぼす影響についても、引き続き注視が必要となる(注3)。


注1:
北京市南部の大興区に建設中の新空港。2019年9月30日までに開業予定であることが、中国民用航空局から発表されている。
注2:
産業政策と現地の発展計画に合致しておらず、関連手続きを経ていない、安定的に排出基準を満たしていない環境汚染企業。
注3:
大気汚染防止に向けた取り組みなど、華北地域で行われている環境規制の動向については地域分析レポート「強化される環境保護対策と日本企業への影響」を参照。
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所
小宮 昇平(こみや しょうへい)
2013年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課に配属。2016年3月より1年間の海外実務研修(中国・成都事務所)を経て、2017年3月から2018年8月まで中国北アジア課に所属。2018年8月より北京事務所にて調査業務等に従事。
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所
張 敏(ちょう びん)
1999年、ジェトロ・北京事務所入構。2004年10月より調査業務に従事。