特集:対内直接投資に見る中国の動向(2018年上半期)上海市は実行額、契約額ともプラスに、香港やシンガポールからが急増(華東地域1)

2018年11月9日

2018年上半期における上海市の対内直接投資額(実行ベース)は前年同期比6.3%増の85億6,100万ドルとなり、減少傾向から一転して増加に転じた。香港やシンガポールからの投資がそれぞれ22.2%増、35.6%増と増えるとともに、製造業が強いドイツやオランダなどが伸びを牽引したことにより、欧州からの投資額も42.2%増と急増した。

実行額の約9割はサービス業だが、製造業も前年同期の3.2倍と大幅増

上海市の2018年上半期の対内直接投資額(実行ベース)は前年同期比6.3%増の85億6,100万ドルとなった(表1参照)。また、先行指標となる契約ベースの投資額も18.1%増の215億400万ドルとなり、実行額、契約額いずれも伸び率が2017年のマイナスからプラスに転じた。

表1:上海市の対内直接投資(上半期ベース) (単位:件、100万ドル、%)(△はマイナス値)
項目 2016年
件数・金額
2017年
件数・金額
2018年
件数・金額 前年同期比
契約件数 2,671 2,306 2,177 △ 5.6
契約額 34,404 18,210 21,504 18.1
階層レベル2の項目 第二次産業 2,062 1,041 5,313 5.1倍
階層レベル2の項目 第三次産業 32,339 17,164 16,134 △ 6.0
実行額 8,667 8,055 8,561 6.3
階層レベル2の項目 第二次産業 492 540 1,188 120.0
階層レベル2の項目 第三次産業 8,175 7,515 7,374 △ 1.9
出所:
上海市統計局発表のデータを基にジェトロで算出

産業別にみると、サービス業を中心とする第三次産業の実行額は前年同期比1.9%減の73億7,400万ドルと、2年連続で前年割れとなったが、依然として投資全体の86.1%を占めた。このうち、ビジネスサービス業の投資額は15.2%増の28億700万ドルと引き続き拡大したほか、金融サービス業もファイナンスリース企業や自動車金融会社、証券会社の増資に牽引され、前年同期比3.6倍の大幅増となった。

一方、製造業の実行額は前年同期比3.2倍の11億5,700万ドルと大幅に増加した。上海ではここ数年、土地代や人件費の高騰の影響で製造業の投資が低迷してきたが、同市政府が科学イノベーションセンターを目指してハイテク企業を積極的に誘致していることもあり、外資の投資が回復している。とりわけドイツやオランダ、オーストリアなどからの製造業の投資が活発化しており、欧州全体からの投資額(実行ベース)は42.2%増の15億1,000万ドルに達した。事例としては、自動車メーカーの上海汽車集団(SAIC)が3月、オーストリアの情報機器メーカーTTTechと共同によるスマート電子制御ユニット(iECU)の開発契約を締結した。

国・地域別にみると、上位10カ国・地域(香港、ドイツ、シンガポール、米国、英領バージン諸島、ケイマン諸島、日本、英国、フランス、オランダ)からの投資額(実行ベース)は78億8,600万ドルで全体の92.1%を占めた。うち、香港からの投資は50億3,500万ドル、シンガポールは4億8,000万ドルで、前年同期に比べそれぞれ22.2%増、35.6%増となった。

下半期も投資拡大が見込まれる

上海市政府が誘致に力を入れている多国籍企業の地域統括本部、投資性公司(傘型企業)、研究開発(R&D)センターも増加の一途をたどっている。2018年上半期に新設された統括本部は17社で、2017年上半期の18社より1社減少したものの、投資性公司10社(前年同期は8社)、R&Dセンター8社(4社)はいずれも増加した(表2参照)。

表2:上海市の統括会社などの認定概要 (単位:社)
形態 新規認定
(2018年上半期)
累計認定
(2018年6月末まで)
多国籍企業地域本部 17 642
うち:アジア太平洋本部 7 77
投資性公司(傘型企業) 10 355
外資研究開発センター 8 434
出所:
上海市商務委員会

上海市政府は7月11日、規制緩和や外資への市場開放を推進する措置「上海拡大開放100条」(以下、100条)を打ち出した。これは金融業の開放や提携を中心に、さらなる開放的な産業体制、知的財産保護の枠組み、新たな輸入促進のプラットフォームを構築し、ビジネス環境の向上を目指すもの。上海市統計局は7月17日に開催された定例記者会見で、100条の実施に伴い、下半期の対内直接投資は契約・実行ベースともに拡大していくとの見通しを示した。

なお、米国電気自動車(EV)大手のテスラは7月中旬、上海市に同社にとって初の海外工場となる年産50万台の「ギガファクトリー3」(注)を建設すると発表した。上海市政府は同投資について、実現すれば製造業の投資案件としては同市にとって過去最大のものになるとしている。


注:
大規模なEV電池の生産工場。
執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所
劉 元森(りゅう げんしん)
2003年、ジェトロ・上海事務所入所、現在に至る。