特集:対内直接投資に見る中国の動向(2018年上半期)2国間のインフラプロジェクトが進捗(シンガポール)

2018年11月9日

中国商務部によると、2018年上半期のシンガポールの対中国投資額(実行ベース)は、前年同期比24.7%増の31億3,000万ドルと高い伸びを示した(表参照)。対中直接投資全体に占めるシンガポールの構成比は4.6%と、前年(通年ベース)と比較して0.9ポイント増加し、国・地域別では首位の香港とは大きく差があるものの、2位を維持した。

表:中国の国・地域別対内直接投資(フロー)2017年 (単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
順位 国・地域 金額 構成比 前年比
1 香港 98,920 75.5 13.5
2 シンガポール 4,830 3.7 △ 21.8
3 台湾 4,730 3.6 30.7
4 韓国 3,690 2.8 △ 22.3
5 日本 3,270 2.5 5.1
6 米国 3,130 2.4 △ 18.3
7 オランダ 2,170 1.7 n.a.
8 ドイツ 1,540 1.2 △ 43.2
9 英国 1,500 1.1 △ 32.1
10 デンマーク 820 0.6 n.a.
全世界合計 131,040 100.0 4.0
表:中国の国・地域別対内直接投資(フロー)2018年1~6月 (単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
順位 国・地域 金額 構成比 前年同期比
1 香港 49,400 72.3 2.0
2 シンガポール 3,130 4.6 24.7
3 台湾 2,840 4.2 △ 5.3
4 韓国 2,310 3.4 50.0
5 米国 1,950 2.9 34.5
6 日本 1,820 2.7 5.2
7 英国 1,580 2.3 97.5
8 マカオ 860 1.3 n.a.
9 オランダ 730 1.1 △ 44.7
10 ドイツ 660 1.0 △ 40.0
全世界合計 68,320 100.0 4.1
注1:
全世界合計は実行額の使用ベース、各国・地域は実行額の投入ベース。バージン諸島、ケイマン諸島、サモア、モーリシャス、バルバドスなどの自由貿易港を経由して当該国・地域から投資された金額を含む。国・地域別の対中投資(実行ベース)の発表は2009年の途中から、各国・地域のデータにタックスヘイブン経由の対中投資額が含まれるようになった。
注2:
2015年から前年比が元建てしか公表されなくなったため、ドル建ての前年比は商務部「中国投資指南」ウェブサイト、CEICデータからジェトロが算出。
注3:
2014年以降データは1,000万ドル以上の単位で公表されているため、構成比と前年比は実際の数値と異なる可能性がある。
出所:
商務部「中国投資指南」ウェブサイト、CEICを基に作成

シンガポールによる対中投資(ストックベース)は、2000年代を通じて右肩上がりに増加している(図参照)(注)。政府主導で展開される経済プロジェクトが多くを占め、投資の主な担い手は、政府系投資ファンド(SWF)のテマセク・ホールディングス、GIC(旧称:シンガポール政府投資公社)や政府系インフラ企業アセンダス・シングブリッジ、政府系不動産企業キャピタランドなどであると言われている。また、主要業種はインフラ、不動産、物流・運輸、専業サービス(弁護士、監査法人、コンサルティング、医療)とされる。これらの企業は政府の外貨準備を運用して、中国企業に対する買収や出資を活発化させてきた。最近注目される不動産分野の投資案件では、GICが2018年5月14日、不動産投資・資産運用を手掛ける中国のNOVA(上海市)と高級賃貸アパートに投資するプラットフォームの立ち上げを公表した。投資金額は43億元(約688億円、1元=約16円)。

図:シンガポールの対中国直接投資(ストック)
直接投資額は、2000年は157億ドル、2001年は157億ドル、2002年は180億ドル、2003年は198億ドル、2004年は221億ドル、2005年は272億ドル、2006年は335億ドル、2007年は402億ドル、2008年は544億ドル、2009年は622億ドル 2010年は724億ドル、2011年は852億ドル、2012年は920億ドル、2013年は1026億ドル、2014年は1144億ドル、2015年は1237億ドル、2016年は1238億ドル。前年比の成長率は、2001年は0.1%、2002年は14.8%、2003年は9.8%、2004年は11.9%、2005年は22.9%、2006年は23.0%、2007年は20.1%、2008年は35.3%、2009年は14.3%、2010年は16.4%、2011年は17.7%、2012年は8.0%、2013年は11.5%、2014年は11.5%、2015年は8.2%、2016年は0.1%。
出所:
シンガポール統計局

一帯一路事業で重要な役割を担うシンガポール

インフラ分野では、2015年11月から2国間政府プロジェクトとして進めている中国・重慶市とシンガポールを結ぶ新たな海陸複合輸送ルート「南向通道(CCI-STC)」の運用が本格化し、シンガポール企業による投資が進められている(2018年8月24日記事参照)。重慶では、シンガポール・重慶ロジスティックハブが設立されたほか、経由港となる広西チワン族自治区の欽州港には、シンガポールの海運会社パシフィック・インターナショナル・ラインズ(PIL)が地場企業と合弁企業を設立し、国際コンテナターミナルを開業した。同社は、同自治区の首都で最大の都市である南寧市に物流パークを建設することも発表している。

同ルートに関わるプロジェクトは、過去にシンガポール・中国両政府が取り組んできた「蘇州工業園区」「天津エコシティ」に続くプロジェクトで、今後もシンガポール企業による関連投資が拡大することが期待される。

中国政府が進める「一帯一路構想」(以下、一帯一路)については、8月27~28日にシンガポールで開催された大型経済フォーラム「フューチャー・チャイナ・グローバル・フォーラム」(シンガポール・ビジネス連盟、ビジネスチャイナ共催)で、シンガポールと中国の企業が連携し、一帯一路沿線国でインフラ案件の受注獲得を目指す取り組みが紹介された。シンガポール・ビジネス連盟のテオ・ションセン会長は冒頭スピーチで、「(中国からみた)一帯一路関連の対外投資の33%、対内投資の85%はシンガポール経由で行われている」と述べ、シンガポールは一帯一路事業で重要な役割を担っていると強調した。

ハイテク、デジタル分野へ拡大

近年、シンガポールの政府系企業によるスタートアップを含むテック系企業への投資が拡大する兆しがある(2018年8月13日記事)。テマセク・ホールディングスは2017年2月、中国の自動車シェアリング会社モバイク(Mobike)に出資することを明らかにした。また、同社は新興テック分野において、新たに、17ZUOYE(一起作業、北京市、オンライン教育)、Ctrip (携程、上海市、オンライン旅行予約)、NIO(蔚来汽車、上海市、電気自動車) に投資することも明らかにした。

前述以外のシンガポール企業による投資分野として、教育分野では、イートンハウス・インターナショナル・エデュケーション・グループが2017年3月、1億1,000万シンガポール・ドル(約89億1,000万円、1Sドル=約81円)を投じ、大連で5,000人の小中学生を収容できる大型教育施設を開設することを発表した。また、飲食分野では、ジャンボ・グループが2017年7月、北京市に「ジャンボ・シーフード・レストラン」の1号店を出店した。中国では上海市の3店舗を含めて合計4店舗となった(投資額は非公表)。医療分野では、民間医療大手のラッフルズ・メディカル・グループが、既存の北京市、江蘇省南京市、遼寧省大連市に加え、新たに重慶市でもクリニックを開業することを発表している。


注:
シンガポール統計局が2018年9月時点で公表している最新の対外直接投資統計は2016年(通年)のもの。
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所次長
藤江 秀樹(ふじえ ひでき)
2003年、ジェトロ入構。インドネシア大学での語学研修(2009~2010年)、ジェトロ・ジャカルタ事務所(2010~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2018年)を経て現職。現在、ASEAN地域のマクロ経済・市場・制度調査を担当。編著に「インドネシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2014年)、「分業するアジア」(ジェトロ、2016年)がある。