特集:対内直接投資に見る中国の動向(2018年上半期)江蘇省は2桁増を記録、浙江省は前年割れ(華東地域2)
2018年11月9日
江蘇省の2018年上半期の対内直接投資額(実行ベース)は前年同期比10.9%増の152億1,500万ドルとなった。一方、浙江省は7.0%減の93億3,248万ドルと前年割れになったものの、先行指標とされる契約額では23.5%増となった。自由貿易試験区が設立された舟山市への投資案件の急増などが寄与した。
江蘇省:契約額、実行額ともに2桁増
2018年上半期の江蘇省の対内直接投資額(実行ベース)は、152億1,500万ドルとなった。前年同期比の伸び率は10.9%と、上半期ベースでは2015年以来3年ぶりに2桁成長を遂げ、再び拡大傾向に転じた(表1参照)。
項目 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
件数・金額 | 前年同期比 | 件数・金額 | 前年同期比 | 件数・金額 | 前年同期比 | |
契約件数 | 1,372 | 15.8 | 1,469 | 7.1 | 1,496 | 1.8 |
契約額 | 19,776 | 23.6 | 24,712 | 25.0 | 28,815 | 16.6 |
実行額 | 14,454 | 0.0 | 13,720 | △ 5.1 | 15,215 | 10.9 |
- 出所:
- 江蘇省統計局
対内直接投資の先行指標とされる契約額も、16.6%増の288億1,500万ドルと増加した。投資案件の大型化が進んでおり、投資額3,000万ドル以上の案件が前年同期比12.4%増の500件、1億ドル超の案件が15.6%増の148件とそれぞれ増加した。
産業別の投資額(実行ベース)をみると、サービス業は前年同期比26.9%増の76億4,000万ドルで、全体に占める割合は前年同期から7.2ポイント上昇して50.2%となった。教育、情報サービス、ソフトウエア、リース・ビジネスサービスなどが軒並み高い伸びとなった。製造業も、情報通信技術などを活用する先進製造業が牽引し、10.9%増の65億8,000万ドルに達した。
国・地域別の投資額(実行ベース)では、ASEAN諸国からの投資が前年同期比68.8%増の10億5,000万ドルとなった。また、「一帯一路」沿線国・地域からの投資が69.7%増の10億9,000万ドルに達したほか、主要国別ではシンガポール75.4%増、韓国73.8%増、英国43.2%増、オーストラリア38.9%増、日本37.7%増と軒並み増加した。
蘇州や無錫など蘇南地区が江蘇省向け投資の6割を占める
省内各市の投資額(実行ベース)をみると、上海市に近い蘇州市をはじめ、外資企業の多い無錫市や南京市、常州市などはいずれも2桁の伸びを示した。これらの都市が含まれる蘇南地区が省全体の投資額に占める割合も6割を超えた(表2参照)。
地域 | 市 |
2016年 実行額 |
2017年 実行額 |
2018年 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
実行額 | 構成比 | 前年同期比 | ||||
蘇南 | 蘇州市 | 3,667 | 2,247 | 2,685 | 17.6 | 19.5 |
無錫市 | 1,794 | 2,002 | 2,495 | 16.4 | 24.6 | |
南京市 | 1,768 | 1,865 | 2,091 | 13.7 | 12.1 | |
常州市 | 733 | 1,101 | 1,356 | 8.9 | 23.1 | |
鎮江市 | 925 | 957 | 550 | 3.6 | △ 42.5 | |
蘇中 | 南通市 | 1,534 | 1,622 | 1,727 | 11.4 | 6.5 |
泰州市 | 933 | 906 | 801 | 5.3 | △ 11.6 | |
揚州市 | 734 | 563 | 746 | 4.9 | 32.5 | |
蘇北 | 徐州市 | 774 | 938 | 1,126 | 7.4 | 20.0 |
淮安市 | 551 | 603 | 631 | 4.1 | 4.6 | |
塩城市 | 519 | 437 | 519 | 3.4 | 18.8 | |
連雲港市 | 294 | 319 | 343 | 2.3 | 7.8 | |
宿遷市 | 234 | 194 | 169 | 1.1 | △ 12.9 | |
全省 | 14,454 | 13,720 | 15,215 | 100 | 10.9 |
- 出所:
- 江蘇省統計局、江蘇省商務庁
蘇州市の投資額(実行ベース)は前年同期比19.5%増の26億8,500万ドルとなり、年間目標の59.4%に達した。うち、製造業の投資額が全体の57.0%となる15億3,100万ドルに達し、その9割以上は電気自動車(EV)などの戦略性新興産業とハイテク産業であった。
浙江省:実行額の減少の一方で契約額は大幅増
浙江省の2018年上半期の対内直接投資額は、実行ベースで7.0%減の93億3,248万ドルと、通年目標(172億ドル)の54.3%に達したものの、前年同期より減少した(表3参照)。
項目 |
2016年 件数・金額 |
2017年 件数・金額 |
2018年 | |
---|---|---|---|---|
件数・金額 | 前年同期比 | |||
契約件数 | 977 | 1,409 | 1,644 | 16.7 |
契約額 | 11,890 | 15,678 | 19,365 | 23.5 |
実行額 | 9,283 | 10,032 | 9,332 | △ 7.0 |
- 注:
- 伸び率はジェトロで算出。
- 出所:
- 浙江省統計局
一方、契約額は23.5%の193億6,480万ドルと、2年連続の大幅増になった。うち、1億ドル以上の投資案件が前年同期の34件から53件に増え、同投資額も23.7%増の45億8,000万ドルとなった。主にスマートカー、ICチップ、新エネルギー、情報技術などハイテク産業に関するものが多かった。
「一帯一路」沿線国・地域からの投資件数は464件で、投資額は実行ベースで88.0%増の3億8,000万ドル、契約額では3.9倍の13億9,000万ドルといずれも大幅に増加した。そのほか、英領バージン諸島などのタックスヘイブンや、EU諸国、米国からの投資(実行ベース)は、それぞれ11億7,000万ドル、4億8,000万ドル、9,883万ドルだった。
舟山市は自由貿易試験区の効果で投資急増
都市別では、杭州市の対内直接投資額(実行ベース)が14.5%減の34億7,122万ドルとなったものの、依然として浙江省全体の投資額の3分の1強を占めた(表4参照)。寧波市は2.0%増の22億657万ドルと2年連続の減少から増加に転じ、嘉興市も0.7%の微増とプラス成長を維持した。
舟山市では、2017年4月1日に浙江省内で唯一の自由貿易試験区が発足して以来、対内直接投資が急増している。実行ベースでは80.6%増の2億6,100万ドル、契約額は約23倍の27億8,739万ドルとなった。
市 |
2016年 実行額 |
2017年 実行額 |
2018年 | |||
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実行額 | 前年同期比 | 契約額 | 前年同期比 | |||
全省 | 9,283 | 10,032 | 9,332 | △ 7.0 | 19,365 | 23.5 |
![]() |
3,997 | 4,058 | 3,471 | △ 14.5 | 7,125 | 98.3 |
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2,503 | 2,163 | 2,207 | 2.0 | 2,400 | 0.7 |
![]() |
1,507 | 1,662 | 1,674 | 0.7 | 3,506 | 6.8 |
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483 | 660 | 664 | 0.6 | 1,156 | △ 22.2 |
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441 | 775 | 625 | △ 19.4 | 879 | △ 35.8 |
![]() |
88 | 145 | 261 | 80.6 | 2,787 | 22.9倍 |
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40 | 124 | 145 | 16.5 | 465 | △ 69.9 |
![]() |
34 | 242 | 123 | △ 49.1 | 272 | △ 41.0 |
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65 | 160 | 112 | △ 30.0 | 305 | △ 77.2 |
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31 | 34 | 38 | 12.9 | 126 | 2.6倍 |
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91 | 10 | 13 | 29.4 | 343 | 6.8倍 |
- 注:
- 2018年の実行額順、伸び率はジェトロにて算出。
- 出所:
- 浙江省統計局

- 執筆者紹介
-
ジェトロ・上海事務所
劉 元森(りゅう げんしん) - 2003年、ジェトロ・上海事務所入所、現在に至る。