特集:対内直接投資に見る中国の動向(2018年上半期)実行額は減少も契約額は大幅に増加(重慶市)

2018年11月9日

実行額は減少も契約額は増加

2018年上半期の重慶市の対内直接投資は、実行額で前年同期比2.6%減の42億8,600万ドルとなった。一方、契約額は3.4倍の55億6,900万ドルだった(表1参照)。

表1:重慶市の対内直接投資 (単位:件、万ドル、%)(△はマイナス値)
契約ベース 実行ベース
件数 前年(同期)比 金額 前年(同期)比 金額 前年(同期)比
2016年 224 △ 7.4 409,000 △ 15.0 1,134,200 5.4
2017年 238 6.3 383,200 △ 4.4 1,018,300 △ 10.2
2018年上半期 112 △ 6.7 556,900 238.0 428,600 △ 2.6
出所:
中国商務年鑑、重慶統計年鑑、重慶市商務委員会ウェブサイトより作成

国・地域別の投資状況(実行額)をみると、香港からの投資額が前年同期比61.7%増の21億5,658万ドルで最大となった(表2参照)。マカオからの投資は52.9%増の2億1,322万ドルで3位だった。シンガポールからの投資額は86.1%減の1億5,994万ドルと、大幅に減少した。英領バージン諸島、韓国、米国からの投資はそれぞれ26.2%減、79.0%減、71.2%減となった。日本からの投資は、実行額が大幅増となった一方、契約額は30%減少した。

表2:重慶市の国・地域別直接投資(2018年上半期) (単位:件、万ドル、%)(△はマイナス値、―は値なし)
国・地域 契約ベース 実行ベース
件数 前年同期比 金額 前年同期比 実行金額 前年同期比
香港 54 25.6 563,038 640.6 215,658 61.7
英領バージン諸島 7 75.0 38,464 1865.5 44,431 △ 26.2
マカオ 0 0 21,322 52.9
シンガポール 8 △ 27.3 10,869 △ 1.2 15,994 △ 86.1
韓国 16 14.3 5,105 950.4 8,835 △ 79.0
バミューダ諸島 0 0 8,400 全増
サモア 0 △ 100.0 909 464.6 3,753 43.0
ドイツ 3 200.0 2,371 217.0 2,234 39.4
米国 9 △ 10.0 3,242 323.2 999 △ 71.2
日本 2 100.0 463 △ 30.0 198 1423.1
注:
順位は投資額の実行ベース順。
出所:
重慶市商務委員会提供資料

産業別(実行額)にみると、製造業を中心とする第二次産業は前年同期比11.1%減の19億8,020万ドル、第三次産業が6.0%増の23億530万ドルとなった。

業種別にみると、製造業が19億5,806万ドル(前年同期比12.0%減)と最も大きかった(表3参照)。サービス業では、ホテル・飲食業が8.1倍の122万ドルと大幅に増加したほか、卸・小売業が41.0%増の1億3,317万ドル、金融業が23.5%増の11億5,897万ドル、不動産業は19.9%増の2億7,845万ドルとなった。一方で、水利・環境・公共施設管理業は94.9%減の2,362万ドル、情報サービス・ソフトウエア産業は2.8%減の856万ドルだった。

表3:重慶市の業種別対内直接投資(2018年上半期)(単位:件、万ドル、%)(△はマイナス値、―は値なし)
業種 契約ベース 実行ベース
件数 前年同期比 金額 前年同期比 実行金額 前年同期比
第一次産業 3 0.0 20,360 16.7 85 全増
階層レベル2の項目 農・林・牧・漁業 3 0.0 20,360 16.7 85 全増
第二次産業 27 8.0 285,744 358.3 198,020 △ 11.1
階層レベル2の項目 採鉱業 0 0 △ 100.0 1,020 2166.7
階層レベル2の項目 製造業 26 23.8 255,755 2667.3 195,806 △ 12.0
階層レベル2の項目 電力・ガス・水力生産業 0 △ 100.0 0 △ 100.0 262 全増
階層レベル2の項目 建築業 1 △ 66.7 29,989 △ 38.7 932 1764.0
第三次産業 82 △ 9.8 250,751 195.2 230,530 6.0
階層レベル2の項目 交通輸送・倉庫・郵政業 5 25.0 6,777 66.6 17,087 215.0
階層レベル2の項目 情報サービス・ソフトウェア産業 7 40.0 4,507 △ 1.4 856 △ 2.8
階層レベル2の項目 卸・小売業 18 △ 38.0 14,989 156.3 13,317 41.0
階層レベル2の項目 ホテル・飲食業 5 △ 16.7 6,594 313.4 122 713.3
階層レベル2の項目 金融業 2 △ 80.0 67,850 43.9 115,897 23.5
階層レベル2の項目 不動産業 12 1100.0 49,983 270.2 27,845 19.9
階層レベル2の項目 リース・ビジネスサービス業 13 △ 40.9 97,471 149.3 52,024 51.4
階層レベル2の項目 科学研究・技術サービス業 10 42.9 1,706 △ 34.6 644 全増
階層レベル2の項目 水利・環境・公共施設管理業 0 0 2,362 △ 94.9
階層レベル2の項目 住民サービス・その他サービス業 2 △ 33.3 82 90.7 0
階層レベル2の項目 教育業 0 △ 100.0 0 △ 100.0 0
階層レベル2の項目 衛生・社会保障・社会福利厚生業 3 △ 25.0 753 △ 91.3 376 △ 86.5
階層レベル2の項目 文化・スポーツ・娯楽業 5 全増 39 △ 94.3 0 △ 100.0
出所:
重慶市商務委員会提供資料

重慶市における日系企業の動きとしては、日立化成が、2018年6月に日立化成工業(重慶)内に、異方導電フィルム(注、以下ACF)を用いて電極を接続したディスプレイ部材の信頼性評価などを行う施設を開設すると、4月9日に発表した。この評価施設では、電極接続後のACFの接着力測定、ACF中の熱硬化性樹脂の反応率測定、電極接続部分の断面観察などを行うことができる。これにより、中国内陸部顧客のディスプレイ開発期間を短縮することが可能になるとしている。

自由貿易試験区への投資が牽引

2018年上半期の重慶市の域内総生産(GRP)は前年同期比6.5%増と、中国全体の成長率6.8%を0.3ポイント下回った。上半期の一定規模以上の企業の工業生産増加額(付加価値ベース)も1.8%増と、中国全体の伸びを4.9ポイント下回った。業種別でみると、電子製造業が17.9%増、自動車製造業は9.4%減となった。重慶市統計局は経済動向について、「重慶市経済は概して良好であるが、自動車製造業を中心に成長スピードの鈍化が顕著である。一方、戦略的新興産業は、相対的に高い成長を遂げており、『高成長』から『質の高い成長』への移行が着実に進展している」としている。

重慶市商務委員会は2018年上半期の投資について、中国(重慶)自由貿易試験区向けの投資が全体の伸びを牽引したことを、特徴として挙げた。2017年4月から稼働した中国(重慶)自由貿易試験区は、2018年6月末時点で新規設立登記企業が5,290社に達し、新規初期資本金額は601億5,900万元(約9,625億4,400万円、1元=約16円)であった。

重慶市人民政府弁公庁は2018年3月23日、「中国(重慶)自由貿易試験区産業発展規画(2018~2020年)に関する通知(渝府弁発「2018」32号)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」(以下、通知)を公布し、自由貿易試験区での一層高いレベルの開放を図り、質の高い発展を促すとした。また、重点分野として、ハイエンド製造業、現代物流業、国際商業貿易業、金融サービス業、情報サービス業、文化観光産業などを挙げた。今後、こうした分野での外資誘致が進むか注目される。


注:
ディスプレイ部材であるガラス基板。フレキシブルプリント基板などに配置された複数の電極を一括で接続する材料(同社プレスリリースより)。
執筆者紹介
ジェトロ・成都事務所
王 植一(おう しょくいち)
2014年、ジェトロ入構。2014年11月よりジェトロ・成都事務所勤務。