特集:対内直接投資に見る中国の動向(2018年上半期)英国からの投資は6倍に、日本は3割減(山東省)

2018年11月9日

2018年上半期の山東省における対内直接投資額(実行ベース)は前年同期比3.8%増の655億1,957万元だった。国・地域別にみると、香港と韓国が依然として上位2位を維持した。また、英国からの投資が大幅に増加した一方、ドイツ、米国、日本からの投資額は減少した。都市別でみると、済南市への投資が大幅に増加し、煙台市に代わり投資先2位の都市となった。産業別では、第三次産業が前年同期に比べ急増した。

日本、EU、米国からの投資が減少

2018年上半期の山東省における対内直接投資は、契約件数が前年同期比37%増の1,033件、投資実行額は3.8%増の655億1,957万元(約1兆483億1,312万円、1元=約16円)となった。日本のイオンモール、伊藤忠商事、ドイツのMAN(フォルクスワーゲン傘下のトラックメーカー)、ボッシュ、韓国のポスコ、LGなど、フォーチュン・グローバル500にランクインしている企業15社が山東省において26件のプロジェクトに投資し、投資額は前年同期の3.1倍の15億7,000万ドルに達した(注)。

中国への投資を国・地域別にみると、香港からの投資額(実行ベース)は32.3%増の364億8,489万元(構成比55.7%)で引き続き1位であった(表1参照)。韓国は11.2%増の84億6,434万元で、2位を維持した。一方、EU、米国、日本からの投資額は減少した。EUでは、ドイツの投資額が72.5%減の14億8,326万元と減少に転じた。英国は前年同期の6倍の14億683万元と大幅に増加した。英国大手総合石油会社のBPが2018年2月、山東省の東明石化集団と、山東省、河南省、河北省にハイエンド精製油サービスステーションを建設する合弁契約に調印したことなどが投資増加の要因とみられる。また、中国との貿易摩擦を抱える米国は56.2%減の15億236万元と落ち込んだ。日本は29.7%減の14億5,336万元で6位であった。これについて、山東省商務庁は2017年にジェトロが実施したインタビューで、「2017年の契約件数が減少したため、投資プロジェクトの実行までの時間差を考慮すると2018年の実行額は減少する」と述べており、そのとおりの結果となった。


表1:山東省の国・地域別対内直接投資(2018年上半期)(単位:件、%、100万元)(△はマイナス値)
国・地域 契約ベース 実行ベース
件数 構成比 前年同期比 金額 構成比 前年同期比
アジア 807 78.1 43.1 52,678 80.4 27.0
階層レベル2の項目 香港 320 31.0 41.0 36,485 55.7 32.3
階層レベル2の項目 韓国 321 31.1 41.4 8,464 12.9 11.2
階層レベル2の項目 日本 45 4.4 73.1 1,453 2.2 △ 29.7
階層レベル2の項目 台湾 57 5.5 26.7 833 1.3 △ 42.1
階層レベル2の項目 ASEAN 39 3.8 2.8倍 5,400 8.2 2.1倍
階層レベル3の項目 シンガポール 23 2.2 2.9倍 2,356 3.6 △ 5.2
アフリカ 16 1.5 2.3倍 533 0.8 4.2倍
欧州 84 8.1 35.5 4,251 6.5 △ 47.8
階層レベル2の項目 EU 73 7.1 40.4 3,519 5.4 △ 54.2
階層レベル3の項目 ドイツ 23 2.2 35.3 1,483 2.3 △ 72.5
階層レベル3の項目 英国 16 1.5 77.8 1,407 2.1 6.0倍
階層レベル3の項目 フランス 7 0.7 △ 12.5 221 0.3 34.7
南米 13 1.3 62.5 2,810 4.3 8.5
北米 83 8.0 80.4 2,467 3.8 △ 35.7
階層レベル2の項目 米国 63 6.1 70.3 1,502 2.3 △ 56.2
階層レベル2の項目 カナダ 18 1.7 100.0 335 0.5 △ 14.7
オセアニア 19 1.8 35.7 645 1.0 △ 26.2
階層レベル2の項目 オーストラリア 12 1.2 50.0 382 0.6 27.8
合計 1,033 100.0 37.0 65,520 100.0 3.8
出所:
山東省商務庁の資料

済南市への投資額が大幅に増加

山東省への実行投資額を都市別にみると、投資先1位の都市は依然として青島市で、前年同期比4.1%増の342億8,888万元と、山東省全体の52.3%を占めた(表2参照)。2018年6月には上海協力機構(SCO)サミットが青島市で開催され、同機構の加盟国間の往来や貿易を促進するために、23の提携文書が調印された。これにより、青島市への海外投資の一層の増加が期待される。

また、2014年以来2位を占めていた煙台市に代わって、省都である済南市が2位に浮上した。済南市への投資は79.6%増の70億675万元となった。3位は煙台市で19.1%減の61億6,622万元、4位は威海市で4.1%増の51億8,057万元であった。上記4都市で山東省への投資額全体の80.3%を占めた。

日本企業の投資案件としては、三菱重工サーマルシステムズと、業務用エアコンの家電最大手ハイアールとの合弁会社である三菱重工海爾(青島)空調機(MHAQ、三菱重工サーマルシステムズが55%を出資)の本社・工場の移転が青島市であり、4月20日に開業した。また、イオンモールは2018年5月25日、同社にとって山東省初となるショッピングモール「イオンモール煙台金沙灘」を煙台市にオープンした。

表2:山東省の対内直接投資 (単位:件、%、100万元)(△はマイナス値)
省・市 契約ベース 実行ベース
件数 構成比 前年
(同期)比
金額 構成比 前年
(同期)比
山東省 2016年 1,477 100 △ 2.1 111,067 100 9.8
2017年 1,479 100 0.0 121,055 100 9.0
2018年上半期 1,033 100 37.0 65,520 100 3.8
階層レベル2の項目 青島市 2016年 680 46.0 △ 10.9 46,059 41.5 11.4
2017年 650 43.9 △ 4.0 52,483 43.4 14.0
2018年上半期 513 49.7 57.4 34,289 52.3 4.1
階層レベル2の項目 済南市 2016年 104 7.0 0.0 11,226 10.1 14.7
2017年 110 7.4 6.0 12,635 10.4 12.6
2018年上半期 123 11.9 161.7 7,007 10.7 79.6
階層レベル2の項目 煙台市 2016年 232 15.7 3.6 13,601 12.2 14.2
2017年 207 14.0 △ 11.0 14,489 12.0 6.5
2018年上半期 112 10.8 0.9 6,166 9.4 △ 19.1
階層レベル2の項目 威海市 2016年 188 12.7 15.3 7,992 7.2 15.0
2017年 191 12.9 2.0 8,795 7.3 10.1
2018年上半期 100 9.7 △ 2.0 5,181 7.9 4.1
出所:
山東省商務庁の資料

第三次産業への投資が46.6%増

山東省への投資実行額を産業別にみると、第一次、第二次産業は減少したものの、第三次産業は前年同期比46.6%増の313億2,653万元と全体の47.8%を占めた(表3参照)。

第二次産業のうち、環境規制の強化によって、日系企業を含め数多くの企業が操業停止となった化学関連産業は、2017年に投資額が前年比28.4%減と落ち込んだが、2018年上半期は27.7%増の17億2,386万元と増加に転じた。

第三次産業では、構成比の大きい卸・小売業と不動産業がそれぞれ2倍、2.5倍と大幅に増加し、牽引役となった。また、文化・スポーツ・娯楽、ホテル・飲食、衛生・社会保障・福祉の分野はそれぞれ1,448.9倍、9.6倍、7.8倍と急増した。うち、衛生・社会保障・福祉分野については、山東省政府が6月25日に「山東省医療養老健康産業発展規画に関する通知」(魯政字〔2018〕134号)を発表し、2022年までに医療・養老・ヘルスケア産業の規模を1兆1,500億元増加させる目標を掲げ、優遇策も打ち出している。これにより、今後は同分野への投資が一層増加していくことが予想される。

表3:山東省の産業別対内直接投資(2018年上半期) (単位:件、%、100万元) (△はマイナス値、―は値なし)
産業 契約ベース 実行ベース
件数 構成比 前年同期比 金額 構成比 前年同期比
総計 1,033 100 37.0 65,520 100 3.8
第一次産業 25 2 92.3 981 1.5 △ 2.5
第二次産業 339 32.8 11.2 33,212 50.7 △ 18.5
階層レベル2の項目 採鉱業 1 0.1 91 0.1 △ 68.4
階層レベル2の項目 製造業 306 29.6 14.6 30,801 47.0 △ 15.8
階層レベル3の項目 紡績業 6 0.6 20.0 910 1.4 2.3倍
階層レベル3の項目 化学関連業 11 1.1 0.0 1,724 2.6 27.7
階層レベル3の項目 医薬製造業 4 0.4 △ 50.0 576 0.9 △ 15.0
階層レベル3の項目 汎用設備製造業 58 5.6 5.5 6,452 9.8 △ 20.4
階層レベル3の項目 専用設備製造業 43 4.2 10.3 3,209 4.9 △ 7.2
階層レベル3の項目 通信・電子設備 19 1.8 46.2 3,181 4.9 24.9
階層レベル2の項目 電力・ガス・水関連 15 1.5 △ 42.3 1,680 2.6 △ 50.3
階層レベル2の項目 建築業 17 1.6 41.7 639 1.0 34.1
第三次産業 669 64.8 53.4 31,327 47.8 46.6
階層レベル2の項目 卸・小売業 292 28.3 46.7 8,475 12.9 2.0倍
階層レベル2の項目 運輸・倉庫・郵便 18 1.7 80.0 1,445 2.2 △ 28.0
階層レベル2の項目 ホテル・飲食 21 2.0 10.5 177 0.3 9.6倍
階層レベル2の項目 情報・PCサービス・ソフトウエア 55 5.3 48.7 1,100 1.7 △ 36.6
階層レベル2の項目 金融業 89 8.6 128.2 1,783 2.7 △ 13.5
階層レベル2の項目 不動産業 24 2.3 60.0 12,889 19.7 2.5倍
階層レベル2の項目 リース・ビジネスサービス 64 6.2 14.3 2,981 4.5 35.8
階層レベル2の項目 科学研究・技術サポートなど 68 6.6 94.3 1,350 2.1 △ 61.9
階層レベル2の項目 水利・環境・インフラ管理など 6 0.6 20.0 131 0.2 △ 60.8
階層レベル2の項目 住民サービスなど 13 1.3 62.5 94 0.1 31.4倍
階層レベル2の項目 教育 8 0.8 60.0 36 0.1 △ 56.4
階層レベル2の項目 衛生・社会保障・福祉 2 0.2 △ 50.0 139 0.2 7.8倍
階層レベル2の項目 文化・スポーツ・娯楽 9 0.9 3.0倍 724 1.1 1448.9倍
階層レベル2の項目 公共管理・社会組織 0 0.0 1 0.0
出所:
山東省商務庁の資料

注:
契約されたプロジェクトのうち、批准(審査認可)されたものの投資額。
執筆者紹介
ジェトロ・青島事務所
董 玥涵(トウ ゲツカン)
大連外国語学院日本語学部卒業後、日本の東北大学環境科学研究科で環境技術政策マネジメントを専攻。2016年、ジェトロ・青島事務所入所。ヘルスケア事業、総務、調査を担当。