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強化される環境保護対策と日本企業への影響(中国)

2018年1月29日

習近平政権はグリーン発展(環境に配慮した発展)の実現のため、大気、水質、土壌の各方面から法規制の整備、行動計画の策定などを行いつつ、運用も厳格化している。特に、2017年が「大気汚染防止行動計画(略称は大気十条)」の第1段階の目標達成年にあたることから、「2017~2018年秋・冬季の京津冀および周辺地域における大気汚染総合防止のための行動方案」が8月に発表されるなど、取り組みが一層加速している。中国における環境保護対策の強化は、優れた技術を持つ日本企業にとってビジネスチャンスとなる面もあるが、環境基準違反による生産停止など、進出日系企業が対応を余儀なくされるケースも発生している。日系企業の担当者は環境対策により細心の注意を払う必要がある。

グリーン発展の名のもと汚染対策を総合的に推進

2012年11月に開催された中国共産党第18回全国代表大会で胡錦濤前総書記は、第17回党大会の「経済建設・政治建設・文化建設・社会建設」に「生態(エコ)文明建設」を加えた「五位一体」の国家建設を提唱した(表1参照)。環境汚染に対する国民の不満が高まっていることなどを受けて、資源節約と生態系や環境の保護の一段の強化を打ち出した。2013年に入ると、北京市を中心に河北省、河南省などを含め多くの地域で直径2.5マイクロメートル以下の粒子状物質である「PM2.5」の大気中の濃度が高まっていることが国内外で注目を集めた。これに対応すべく、国務院は2013年9月に、「大気汚染防止行動計画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表、2017年までに全国の地級市(注1)以上の都市の浮遊粒子状物質(PM10)の濃度を2012年比で10%以上低下させることなどを掲げたほか、揮発性有機化合物(VOC)などさまざまな汚染物質の排出を減少させるとした。

2015年1月には改正された「環境保護法外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」が施行された。罰金額上限が撤廃され、刑事責任の追及が規定されるなど罰則の強化が図られたほか、環境当局にも定期的なモニタリング状況の公表やブラックリストの作成が義務付けられた。2015年4月には、国務院が「水質汚染防止行動計画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(水十条)を発表、2020年までに全国水使用量を6,700億立方メートル以下に抑える、国内総生産(GDP)1万元当たり水使用量を2013年比35%以上減少させることなどを掲げた。汚染物質排出の全面抑制、工業用水の循環利用、水不足・水質汚染地域での再生水利用などにも取り組むとした。

2016年1月には改正された「大気汚染防止法外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」が施行され、脱硝(だっしょう)、水銀除去、VOC規制、残留性有機汚染物質(POPs)対策等が加えられた。2016年3月に発表された「国民経済・社会発展第13次5カ年規画要綱」でも、「五つの発展理念」の一つとしてグリーン発展の重要性が再確認され、大気・水質・土壌汚染対策行動計画を踏み込んで実施すること、特にスモッグ対策を目に見える形で進展させ、地級市以上の都市で空気の質が優良となる日の割合を年80%以上にすることなどが掲げられた。

そして、2016年5月には、国務院が「土壌汚染防止行動計画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(土十条)を発表、2020 年までに汚染された耕地の安全利用率を90%前後、汚染されたエリアの安全利用率を90%以上とし、2030 年までに汚染された耕地の安全利用率を 95%以上、汚染されたエリアの安全利用率を95%以上にすることを掲げている。そして、土壌汚染状況についての具体的な調査、土壌汚染防止法の立法の推進、法規と土壌汚染防止に関する標準(規格)や技術規範の整備などに取り組むとした(土壌汚染防止法は2017年6~7月に意見募集を実施)。

2018年1月には環境保護税法外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが施行された。これまで汚染物排出費が徴収されてきたが、それが租税に変更されたことで、徴収主体が環境保護主管部門から税務機関に移るため、徴収力が強まるとみられる。

表1:強化される環境保護対策について
年月 内容
2012年11月 開催された共産党第18回全国代表大会で、「経済建設・政治建設・文化建設・社会建設」に「生態(エコ)文明建設」を加えた「五位一体」の国家建設を提唱。
2013年9月 国務院が「大気汚染防止行動計画」を発表。
2015年1月 「環境保護法」が改正、施行。
2015年4月 国務院が「水質汚染防止行動計画」を発表。
2016年1月 「大気汚染防止法」が改正・施行。
2016年3月 第13次5カ年規画要綱で、「五つの発展理念」の一つとしてグリーン発展の重要性を確認。
2016年5月 国務院が「土壌汚染防止行動計画」を発表。
2018年1月 環境保護税法が施行される。
注:
土壌汚染防止法は2017年6~7月意見募集を実施
出所:
政府発表をもとに著者整理

京津冀地域を中心に加速する大気汚染防止の取り組み

中国全体で環境保護の取り組みが加速する中、京津冀(北京市、天津市、河北省)および周辺地域における大気汚染対策が政府の重点分野となっている。前述の2013 年9 月の「大気汚染防止行動計画」では、目標の中で、特に京津冀、長江デルタ、珠江デルタなど各地域の大気の質を明確に改善させるとし、具体的な指標目標として、2017 年までに京津冀、長江デルタ、珠江デルタなどの地域のPM2.5の濃度を、2012 年比でそれぞれ25%程度、20%程度、15%程度低下させること、うち北京市についてはPM2.5 の年間平均濃度を1 立方メートル当たり60 マイクログラムに抑えることを掲げた。その直後(同年9 月)には、環境保護部、国家発展改革委員会、工業・情報化部、財政部、住宅都市農村建設部および国家エネルギー局が、「京津冀および周辺地域大気汚染防止行動計画を着実に実行するための実施細則外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を通知し、汚染物質の排出削減や自動車による大気汚染防止などに重点的に取り組むとした。

2016 年9 月には、環境保護部、北京市、天津市、河北省政府が「京津冀地域の大気汚染防止強化措置(2016~2017 年)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(384KB)」を公布、前述の取り組みをベースに2016~2017年の強化措置を策定し、これまで以上に力を入れて取り組むこととした。天津市や河北省のPM2.5の年間平均濃度をそれぞれ1立方メートル当たり60マイクログラム、67マイクログラムに抑えることなどが目標に掲げられた。

環境保護部の「2016 中国環境状況公報PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(9.9MB)」で2016年の74都市環境大気質量総合指数のランキング下位 15位を見ると、下から衡水市、石家荘市、保定市、邢台市、邯鄲市、唐山市、鄭州市、西安市、済南市、太原市、滄州市、廊坊市、ウルムチ市、北京市、蘭州市となっており、京津冀地域が9都市も含まれていたことから、同地域の汚染状況がいまだ深刻であることがうかがえる。また、2016年の北京市のPM2.5の平均濃度をみても、2015年比で9.9%低下したものの1立方メートル当たり73マイクログラムで、「大気汚染防止行動計画」の2017年までの目標と一定の距離があった。

こうした中、環境保護部、国家発展改革委員会、工業・情報化部などの中央政府10部門と北京市、天津市、河北省、山西省、山東省、河南省の地方政府6部門は共同で、「2017~2018年秋・冬季の京津冀および周辺地域における大気汚染総合防止のための行動方案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を2017年8月に発表した(注2)。前述の通り「大気汚染防止行動計画」の中で、2017年は全国の大気の質を改善し、重度汚染の発生日数を大幅に減少させる第1段階の目標達成年とされていることから、この秋・冬季(2017年10月~2018年3月)に大気汚染防止に全力で取り組むとした。近年、地方政府各部門が大気汚染防止の取り組みを進めているため、京津冀および周辺地域の大気の質は全体としては改善傾向が続いているものの、特に秋・冬季における大気の質の改善が明らかでないとの認識を踏まえたものである。

同方案では主な目標として、「大気汚染防止行動計画」の評価指標を全面的に達成することのほか、2017年10月から2018年3月までの京津冀大気汚染伝播都市(注3、「2+26」都市)のPM2.5の平均濃度を前年同期比15%以上低下させること、重度汚染の発生日数も前年同期比15%以上減少させることを掲げている。ちなみに、PM2.5の平均濃度や重度汚染の発生日数の引き下げ目標は都市ごとに設定されている(表2参照)。例えば、PM2.5の平均濃度の前年同期比の低下率は、北京市と天津市は25%以上、河南省鄭州市は20%以上、河北省廊坊市は18%以上と設定されている。

表2:2017年10月~2018年3月「2+26」都市空気質量改善目標
省・都市 PM2.5平均濃度の
前年同期比低下率
重度汚染日数の
前年同期比減少率
北京市 25% 20%
天津市 25% 20%
河北省 石家庄市 25% 20%
(辛集) 25% 20%
唐山市 22% 20%
邯鄲市 20% 18%
邢台市 20% 18%
保定市 22% 20%
(雄安新区) 22% 20%
(定州) 22% 20%
滄州市 18% 15%
廊坊市 18% 15%
衡水市 18% 15%
山西省 太原市 25% 20%
陽泉市 15% 15%
長治市 10% 10%
晋城市 10% 10%
山東省 済南市 18% 15%
淄博市 15% 15%
済寧市 10% 10%
德州市 15% 15%
聊城市 15% 15%
濱州市 18% 15%
菏沢市 15% 15%
河南省 鄭州市 20% 15%
(鞏義) 20% 15%
(航空港区) 20% 15%
開封市 10% 10%
(蘭考) 10% 10%
安陽市 20% 18%
(滑県) 20% 18%
鶴壁市 18% 15%
新郷市 15% 15%
(長垣) 15% 15%
焦作市 18% 15%
濮陽市 15% 15%
出所:
「2017~2018年秋・冬季の京津冀および周辺地域における大気汚染総合防止のための行動方案」をもとに著者作成

具体的な取り組みには、「散乱汚」企業(注4)への対応強化などがある。大気汚染排出の状況から淘汰(とうた)類に分類されている企業を2017年9月末までに一掃することや、石炭汚染の防止強化などが挙げられた。他にも、「2+26」都市における暖房燃料の石炭から電気・天然ガスへの切り替えを2017年10月末までに300万世帯以上で実現するとした。さらに、石家庄市、唐山市、邯鄲市、安陽市などで、暖房期間中に鉄鋼の生産能力を50%に制限することや、「2+26」都市で環境が悪化している都市に対しては、中央政府が査察を行うことにも言及した。各都市の取り組みが不十分な場合は厳しく責任を問うともしている。なお、同行動方案の付表には、都市ごとに重点任務、期限、具体的措置などがまとめられており、各都市の大気汚染防止の取り組みを把握する際の参考となる。

このほか、環境保護部、国家発展改革委員会、財政部、交通運輸部、国家質量監督検査検疫総局、国家エネルギー局の中央政府6部門は、9月13日付で「第13次5カ年規画期の揮発性有機化合物(VOC)汚染防止のための行動方案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表した。同方案では、PM2.5やオゾン(O3)などのもたらす大気複合汚染が依然として深刻で、二酸化硫黄(SO2)、窒素酸化物(NOx)などの排出コントロールが明らかに進展を見せたのに対して、VOCの排出量は依然増加しており、大気への影響が突出しているとVOC対策の重要性を示唆した。

主要目標としては、2020年までにVOC汚染防止管理システムを立ち上げ、重点地域、重点産業でVOCの排出削減を図り、排出量を10%以上引き下げる。そして、NOxなどの汚染物と共同でコントロールし、大気の質を持続的に改善するとした。

重点地域としては、北京市、天津市、河北省、遼寧省、上海市、江蘇省、浙江省、安徽省、山東省、河南省、広東省、湖北省、湖南省、重慶市、四川省、陝西省の16省市を挙げた。また、重点産業として、石油化学、化学工業、包装・印刷、工業塗装などを挙げつつ、自動車や石油製品貯蔵・運送・販売などの分野の汚染防止にも力を入れていくとした。

各地方はその産業構造の特性、VOC排出源などに応じて、その地方のVOCコントロール重点産業を確定するとした。さらに、各地方での指導小組(グループ)の設立、地域の状況に応じた実施方案の制定を求めている。実施方案については、環境保護部への報告、地域・年度ごとの任務設定、確実な実行などが必要となる。また、汚染防止の責任主体である企業は、適切に責任を履行する必要があるとしている。

具体的な取り組みとして、京津冀大気汚染伝播都市では、2017年9月末までにVOCを排出する「散乱打」企業の総合整理を終え、重点地域のその他都市では2017年末までに基本的に「散乱打」企業の調査を行い、管理台帳を作成し、2018年末までに整理を完了する。また、重点地域において石油化学、化学工業、包装・印刷、工業塗装などのVOCを多く排出するプロジェクトを厳しく制限する。このほか、自動車の排ガス排出や燃油蒸発のコントロールを強化すること、重点地域において重点産業以外の建築装飾、自動車修理、クリーニング、レストランなど生活・農業関連のVOC管理も強化すること、環境保護部が製薬、農薬、自動車塗装などの産業の大気汚染物排出基準の制定・修正を行うことなどが盛り込まれた。

2016年1月から改正施行された大気汚染防止法でVOC対策が導入され、各地方がVOC排出削減の取り組みを強化している状況にあるが、今回の行動方案を受けてその取り組みが加速するとみられ、状況を注視していく必要がある。

昨今、政府による監督・検査も強化されている。2015 年 7月1日、中央全面深化改革指導小組が「環境保護査察方案(試行)」を可決した。同方案は非公開であるが、2016 年から約2年ごとに各省(自治区、直轄市)に対し、環境保護査察チームを派遣し、環境保護政策の執行状況、特に重要な環境問題の解決状況、企業等の環境保護責任の執行状況を監督・検査するよう求めている。河北省での試行を経て、2016年7月から2017年9月にかけて、4回に分けて全省に査察チームが派遣された。中国共産党中央委員会、国務院が批准して実施するものであり、これまでと執行レベルが異なることから、単独部門や地方レベルでの裁量を加えることが難しく、厳格に査察が行われたとされる。2017年10月の共産党第19回大会の記者会見で、環境保護部の李幹傑部長は、既に全国1巡目の査察を終え、その総括を踏まえて、2巡目の派遣(2017年末もしくは2018年初と言及)を行うとした。また、地方レベルにおいても同様の取り組みがなされていることから、日系企業は工場管理等に細心の注意が必要である。

求められる環境対策への細心の注意

政府のこうした環境保護対策の強化は、一定の効果を生んでいる。環境保護部が2017年12月に発表したところでは、同年11月の前述の京津冀大気汚染伝播都市(「2+26都市」)のPM2.5の1立方メートル当たりの平均濃度は、前年同月比37%減の68マイクログラムとなった。都市別では、北京市は46マイクログラム、廊坊市は52マイクログラム、天津市は53マイクログラムなどとなった。また、環境保護部のウェブサイトに掲載されている中国環境報2017年12月4日付けの記事では、2017年1~11月の北京市のPM2.5の平均濃度が60マイクログラムに近づいたとの環境保護部の李幹傑部長の声を伝えている。北京で暮らす筆者も大気の質の改善を感じている(写真参照)。

改善の一方で、環境保護対策が一部の企業の生産活動に影響を及ぼしている側面もある。環境保護部が2017年4月の定例記者会見で発表したところでは、2016年の環境保護法関連弁法の適用件数は前年比93%増の2万2,730件となり、日割り連続処罰案件(日割りで連続して罰金を受けた案件)が42%増の1,017件、差し押さえ案件が2.4倍の9,976件、生産制限・停止案件が83%増の5,673件、身柄拘束案件が94%増の4,041件、犯罪立案(立件)案件が20%増の2,023件となった。


北京の空の様子。2016年12月の大気汚染が深刻な日(ジェトロ撮影)

2017年12月の大気良好な日
(ジェトロ撮影)

また、2017年1~10月の環境保護法関連弁法の適用件数は前年同期比2.3倍の3万2,227件となり、日割り連続処罰案件が58%増の936件、差し押さえ案件が2.4倍の1万4,692件、生産制限・停止案件が2.1倍の7,193件、身柄拘束案件が2.6倍の7,093件、犯罪立案案件が54%増の2,313件となっている。

2017年1〜11月の工業生産(年間売上高2,000万元以上の企業が対象)は前年同期比6.6%増(実質)であるが、化学原料・化学製品製造業は3.8%増、鉄金属精錬・圧延加工業は0.4%増、非鉄金属精錬・圧延加工業は1.1%増と全体の伸びと比較して低い伸びになった。特に鉄金属精錬・圧延加工業については、前年同月比でみると9月、10月、11月は3カ月連続でマイナスの伸びとなっている。2017年7、8月頃から各地で環境保護対策の取り組みが加速したとの声が聞かれる中、その影響を受けたとの指摘がある。

10月18~24日に開催された共産党第19回全国代表大会の中央委員会報告において習近平総書記は、生態文明体制改革を加速し、「美しい中国」を建設するとした。具体的には、特に重要な環境問題の解決に力を入れる、大気汚染対策を実施し続け、青い空を守る戦いに勝利するなどとした。

進出日系企業としても、関連法規制の順守はもちろんのこと、地域の発展計画、産業政策、規制強化の動向、国家レベルのイベントの開催などを正確に適時に把握することが望ましい。中国の環境分野に明るい日中環境協力支援センターの大野木昇司・取締役社長は、日系企業が環境アセスメント、産業廃棄物、工業廃水、VOC排出などの問題を指摘され、処罰される案件が増加しているとし、中国の環境関連法規制が変化しており、また、厳格に運用されるようになっていることから、しっかりとそれを認識し最新動向をフォローする重要性を指摘している(2017年11月27日)。

そして、各種汚染物を排出する際に、社内で定めた基準・方法に沿った正しい運用がなされているか、必要に応じて第三者の専門家の力も借りつつ、監督・管理する体制を構築することも必要である。さらに、自社のみならずサプライチェーンにおける環境対策を把握し、サプライヤーなどと協力して取り組むことも有益である。2017年9月にベアリング原材料サプライヤーの上海界竜金属拉糸が環境保護問題で生産停止となったことを受けて、ドイツのベアリング大手のシェフラー中国の張芸林CEOが、納入危機に直面しており、完成車メーカー49社、200超のモデルが3カ月生産停止に追い込まれるかもしれず、約3,000億元(約5兆1,000億円、1元=約17円)の損失が生まれる可能性があると発表して、注目を集めたケースもある(注5)。大野木・取締役社長も、昨今求められるVOC対策においては、VOC処理装置を設置するだけでなく、例えば揮発性の少ない塗料、接着剤を調達・使用するなど、サプライチェーン全体で生産工程を工夫することも有益と指摘している。

なお、生産活動に影響を受ける企業がある一方で、より厳しくなっていく環境基準を満たすために必要とされる技術等を活用して、ビジネスチャンスを見いだす進出日系企業もある。ZEエナジー(本社:東京都)は2017年2月15日、湖北省宜昌市で船舶機械、冶金(やきん)機械等の製造を行う中国船舶重工の子会社へ、炭化装置の開発技術に関するライセンスを供与することを発表した(注6)。大気汚染が大都市およびその近郊都市を中心に深刻な影響をもたらしていることなどから、ZEエナジーの技術、製造ノウハウ、技術的支援をもとに、同子会社は環境保全に優れた小型ごみ処理装置を製造販売する事業を立ち上げ、今後大きな成長が見込まれる環境保全設備市場に参入する計画である。

また、日揮(本社:神奈川県)は2017年3月9日、世界初の低温から中温までの排ガス向け乾式脱硫・脱硝システムを開発し、中国で排ガス規制が強化されたコークス炉など向けに、技術供与およびシステム導入に関する事業を展開していることを発表した(注7)。中国では、改正された大気汚染防止法に対応する同社の脱硫・脱硝システムが注目されており、協力先の北京のエンジニアリング企業が新たに同システムによる5件の脱硫・脱硝設備を受注し、日揮と協業している。日揮は、この脱硫・脱硝システムに関し、中国では今後コークス炉のみならずゴミ焼却、ガラス工場への適用拡大が期待できることから、前述のエンジニアリング企業と協力して取り組み、将来的には両社出資による事業会社の設立も視野に入れ、マーケット拡大を目指している。この他にも、日本経済新聞2017年10月8日付け報道では、規制に対応できない現地企業が生産を減らす中、王子ホールディングス(本社:東京都)や北越紀州製紙(本社:東京都)が環境対応に優れる強みを生かして紙原料のパルプや包装用の厚紙を増産すると報じている。王子ホールディングスの取り組みは木材由来のパルプで、製造時の環境負荷が大きい竹やあしなど非木材パルプを代替するものであり、北越紀州製紙の取り組みは、白板紙の製造で使用した薬品を取り除くことなどを求める環境規制を受けて、環境対応に優れる新型工場を武器に販売を増やそうというものである。さらに、NNA2017年11月28日付け報道では、室内の空気を浄化し、新鮮な状態に保つ換気システムの需要拡大を受けて、パナソニック(本社:大阪府)の中国現地法人である松下電器(中国)の換気・送風機器事業の売り上げが好調であることを伝えている。

このほか、2018年4月から「乗用車企業の平均燃費と新エネルギー車クレジットの並行管理弁法」が施行される予定であり(ジェトロセンサー地域分析レポート「中国で急速に進む新エネルギー車へのシフト」参照)、乗用車を3万台以上生産または輸入・販売する企業は、2019年から一定比率の新エネルギー車を生産または輸入・販売することが求められる。中国で新エネルギー車市場の拡大が予想されることを受けて、同分野に絡む日系企業の進出もみられる。多くの専門家が、環境分野において、日本以外の外資系や地場企業の技術力が高まり、競争が激化している点を指摘しているが、優れた技術・製品を持つ日本企業にとって、環境分野に依然としてビジネスチャンスが存在している点は変わっていない。


注1:
地級市は中国の地方行政単位の一つ。基準は、a.都市部の非農業人口が25万人以上、b.域内総生産(GRP)が2億元以上、c.第3次産業の割合が第1次産業を上回り、かつGRPの35%以上。
注2:
2017年2月にも環境保護部、国家発展改革委員会、財政部、国家エネルギー局と北京市、天津市、河北省、山西省、山東省、河南省の地方政府6部門は共同で、「京津冀および周辺地域における2017年大気汚染防止行動方案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を打ち出していた。
注3:
京津冀大気汚染伝播都市とは、北京市、天津市、河北省の8都市(石家庄市、唐山市、廊坊市、保定市、滄州市、衡水市、邢台市、邯鄲市)、山東省の7都市(済南市、淄博市、済寧市、德州市、聊城市、濱州市、菏沢市)、河南省の7都市(鄭州市、開封市、安陽市、鶴壁市、新郷市、焦作市、濮陽市)、山西省の4都市(太原市、陽泉市、長治市、晋城市)を指し(「2+26」都市)、この中に河北省の雄安新区、辛集市、定州市、河南省の巩義市、蘭考県、滑県、長垣県、鄭州航空港区なども含む。
注4:
「散乱汚」企業とは、産業政策と現地の発展計画に合致しておらず、関連手続きを経ていない、安定的に排出基準を満たしていない環境汚染企業を指す。
注5:
新京報網2017年9月20日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注6:
株式会社ZEエナジープレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注7:
日揮株式会社プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所 経済信息部 部長
宗金 建志(むねかね けんじ)
1999年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジアチーム、ジェトロ岡山、ジェトロ・北京事務所、海外調査部中国北アジア課を経て、2012年12月より現職。

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