特集:対内直接投資に見る中国の動向(2018年上半期)契約件数が大幅増、実行額は微増(香港)

2018年11月9日

中国側の統計によると、2018年上半期(1~6月)の香港の対中直接投資は、契約件数が前年同期比3.2倍の2万583件と急増した一方、実行金額は0.1%増の462億6,000万ドルと微増にとどまった(表1参照)。対中直接投資全体に占める香港の構成比は、契約件数が69.6%(2017年は50.7%)、実行金額が67.7%(72.1%)を占め、国・地域別で引き続き1位となっている(注)。

表1:対中直接投資における香港の契約件数・実行金額の推移(単位:件、%、億ドル)(△はマイナス値)
契約件数 実行金額
件数 構成比 前年
(同期)比
金額 構成比 前年
(同期)比
2016年 12,753 45.7 △ 3.0 814.7 64.7 △ 5.7
2017年 18,066 50.7 41.7 945.1 72.1 16.0
2018年上半期 20,583 69.6 222.6 462.6 67.7 0.1
注:
2018年上半期における実行額の構成比は、銀行、保険、証券を除く中国の対内直接投資額(683億ドル)から算出した。
出所:
中国商務部ウェブサイト、CEICを基に作成

2018年上半期の中国全体の対内直接投資をみると、契約件数が前年同期比96.6%増の2万9,591件と倍増に迫る伸びを示す一方、実行金額は4.1%増の683億2,000万ドルにとどまっており、香港の対中直接投資の傾向と似通っている。中国全体の対内直接投資動向について、中国商務部研究院外国投資研究所の張菲副主任は「非製造業分野の直接投資、特に、多額の投資を必要とせず、技術、ノウハウなどがより重視される教育、文化、医療、健康といった分野の投資案件が増えている」と指摘している。

小売企業は不採算店を閉鎖しつつも積極的に店舗を展開

個別案件をみると、香港の主力産業の1つである小売り分野では、2017年に引き続き、消費者の嗜好(しこう)の変化や所得水準の向上など中国市場の環境変化に応じて、店舗を閉鎖するなど販売戦略を見直しつつも、同時に中国本土での販売拡大に向けて全体としては店舗数を拡大する動きが目立つ(表2参照)。

表2:香港企業の対中国展開事例

小売り
企業名 事例
莎莎国際 中国本土の店舗数は55店舗(2018年3月末時点)。2017年4月から2018年3月にかけて10店舗を開店、11店舗を閉鎖。同期間における中国での売上高は前年同期比5.0%増の2億9,870万香港ドル。
長江和記実業 中国本土のドラックストアの店舗数は3,377店舗(2018年6月末時点)。2017年7月から2018年6月にかけて店舗数は363店舗の純増。2018年度上半期(2018年1月~6月)の同ドラックストアの売上高は前年同期比で2.0%増。
宝飾
企業名 事例
周生生 中国121都市で442店舗を展開(2018年6月末時点)。2018年1月から同年6月にかけて34店舗を開設し、14店舗を閉鎖。同期間における中国での売上高は前年同期比23%増の49億6,600万香港ドル。
六福 中国本土の店舗数は計1,561店舗(2018年3月末時点)。このうち直営店が157店舗、代理店が1,404店舗。2017年4月から2018年3月にかけての店舗数は直営店24店舗、代理店108店舗の純増。同期間における中国での売上高は前年同期比で34%増。
周大福 中国本土の店舗数は2,449店舗(2018年3月末時点)。2017年4月から2018年3月にかけて317店舗を開設し、114店舗を閉店。同期間における中国での売上高は前年同期比18.7%増。
不動産
企業名 事例
恒隆地産 2018年5月、中国・浙江省杭州市の商業用地を約107億元で取得。今後同社は、190億元を投じ、同商業用地にて延べ床面積19万4,100平方メートルの複合施設を建設する。
九龍倉 2018年1~6月における中国における総売上高は前年同期比29.0%増。2018年5月に湖南省長沙市に長沙IFSを開業。長沙IFS内に併設されるニッコロホテルは第3四半期に開業予定。2019年には江蘇省蘇州市にニッコロホテルを開業予定。
太古地産 2018年2月、同社間接子会社の誉都発展は、上海市の前灘地区の土地使用権を保有する上海前繍実業の株式50%を約13億4,900万元で取得。
医療
企業名 事例
希瑪眼科医療 2018年1月に北京にて眼科クリニックを開業。
銀行
企業名 事例
恒生銀行 2018年8月末時点で、北京や上海など中国19都市で47店舗を展開。
東亜銀行 2018年8月末時点で、中国44都市で101店舗を展開。
香港上海匯豊銀行 (HSBC) 2018年8月末時点で、中国50都市以上で170店舗を展開。中国本土で最大の支店網を有する外資銀行。
コングロマリット
企業名 事例
華潤グループ 2018年5月、広東省広州市の黄埔区政府、広州開発区管理委員会と戦略的協力協定を締結し、同地区にベイエリア計画関連事業の統括本部を設置すると発表。統括本部への総投資額は1,000億元超。
注:
香港に拠点を置く中国企業も含む。
出所:
各社ウェブサイト、報道記事などを基に作成

例えば、香港の財閥企業の1つである長江和記実業傘下のドラッグストア「ワトソンズ(屈臣氏)」は、2018年6月末時点における中国本土での店舗数を前年同期比12%増の3,377店舗に増やし、販売網を拡大している。加えて、ワトソンズは「電子商取引の普及や消費者の嗜好の変化を踏まえ、革新的なスペースと新たなショッピング体験を顧客に提供することで、若い世代を実店舗に引きつける」ため、フランス化粧品大手のロレアルと提携し、新たなコンセプトの化粧品販売店「カラーラボ・バイ・ワトソンズ」(以下、カラーラボ)の展開を始めた。カラーラボは2018年上半期、広東省深セン市(1店舗)、広州市(2店舗)、上海市(1店舗)に相次いで出店した。

このほか、宝飾小売りの大手香港企業も軒並み中国本土での店舗数を増やしている。例えば、宝飾品販売大手の周大福は、2017年4月から2018年3月にかけて中国本土で114店舗を閉店する一方、新たに317店舗を開店した(2018年3月末時点の中国本土の店舗数は2,449店舗)。

不動産分野では、本土での用地取得を再開する企業も

不動産分野をみると、香港のデベロッパーが本土の主要都市において用地取得を再開する動きがみられる。香港紙の「サウスチャイナ・モーニングポスト」(電子版6月6日)は、香港企業が中国本土の主要都市で約5年ぶりに用地を取得した例として、香港の大手デベロッパーの恒隆地産が2018年5月に、浙江省杭州市の商業用地を約107億元(約1,712億円、1元=約16円)で取得した案件を紹介している。また同紙は、中国・上海市の複合商業施設「上海新天地」付近の商業用地の取得について、香港デベロッパーの瑞安房地産と香港置地が入札の最終段階に進んだ、と報じている。

加えて、英系香港複合企業のスワイヤー・パシフィック傘下の太古地産の間接子会社である誉都発展は2018年2月、上海市の前灘地区の土地使用権を保有する中国の不動産開発企業の上海前繍実業の株式50%を約13億4,900万元で取得することで、同社と合意した。太古地産は、複合商業施設の「興業太古匯」(2017年11月完工)に続き、上海市で2件目となる商業施設の開発を前灘地区で進める予定である(延べ床面積:11万6,000平方メートル)。

その他の分野では、香港で眼科クリニックを運営する希瑪眼科医療が2018年1月、北京市に眼科クリニックを開業した。

ベイエリア計画の本格始動を見据えた投資の動きも

中国政府が推進している地域発展計画である「広東・香港・マカオグレートベイエリア(粤港澳大湾区、以下、ベイエリア)計画」の本格始動を見据え、ベイエリア域内で先行投資を行う企業の動きもみられる。中国の国務院国有資産監督管理委員会が管理する中央国有企業の1つで、香港証券取引所に上場している華潤グループは2018年5月、広東省広州市の黄埔区政府、広州開発区管理委員会と戦略的協力協定を締結し、同地区にベイエリア計画関連事業の統括本部を設置すると発表した。華潤グループは同統括本部において、ベイエリア域内の都市開発、金融サービス、イノベーション、医療・ヘルスケア、商業・小売り、総合エネルギーなどの主要事業を手掛ける予定であり、同統括本部への総投資額は1,000億元超に上る(中国紙「南方日報」電子版5月7日)。また、香港のデベロッパーである嘉華国際グループも、ベイエリア計画の進展を見越し、2017年の8月および10月に広東省江門市の土地2区画の使用権を約19億元で取得した。同社は今後、同地での住宅開発のために40億元を投じる予定である(「明報」電子版3月27日)。さらに、香港大手デベロッパーの恒基兆業地産も、ベイエリア計画の推進を受け、中国本土のデベロッパーの中国奥園地産グループと戦略的協力協定を締結し、ベイエリア域内の不動産開発や市街地整備、ハイテク分野の開拓などで、同グループと協力する予定である(「香港商報」5月15日)。

香港において、鉄道事業および沿線の不動産開発を手掛ける「香港鉄路(MTR)」[香港特別行政区政府(以下、香港政府)が同社株式の過半数を保有]も、ベイエリア域内の不動産開発事業への出資を計画している、と報じられている(「香港経済日報」1月22日)。

ベイエリア計画の進展に伴い、香港企業による対中直接投資がさらに活発化するか、また、医療など香港が強みを持つサービス業分野において、ベイエリア計画を通じた商機をうかがう香港企業の新たな投資に向けた中国側の規制緩和措置が実施されるか、今後の動向が注目される。


注:
2018年10月末の時点では、香港特別行政区政府は、2018年の対内・対外直接投資統計に関するデータを発表していない。
執筆者紹介
ジェトロ・香港事務所 経済調査・企業支援部長
吉田 和仁(よしだ かずひと)
金融庁勤務を経て、2016年7月より現職。

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