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特集:欧州に学ぶ、スタートアップの今 国外スタートアップの誘致に注力(オーストリア)

2018年6月15日

オーストリアでは、スタートアップ企業は推定で毎年500~1,000社が設立されている。政府は、法的環境の改善によって起業を簡素化し、有利な条件での融資を通じた資金提供をするほか、ウィーン市も世界的なスタートアップ拠点となることを目指す。また、政府の発案で設立されたグローバル・インキュベーター・ネットワークは、国内のスタートアップ企業の国外進出を促進する一方、海外のスタートアップ企業をオーストリアに誘致している。

本格的なスタートアップ政策は2015年から

オーストリアで「スタートアップ」という言葉が注目されるようになったのは比較的最近のことだ。2014年11月~2015年4月の間、経済省は起業家、投資家、エンジェル、ベンチャーキャピタリスト、さらには各種の支援団体などとの徹底的な議論に基づいて、オーストリアをスタートアップ企業にとって魅力的な場所にするための「スタートアップ戦略」を策定した。同戦略は、5分野(イノベーション、資金調達、社会教育、ネットワーク、インフラ・法的環境)で具体的に40の政策を提案、2020年までにスタートアップ企業が10万人の雇用を創出することを目標とする。2016年、当時の社民党と国民党の連立政権は、研究開発に対する補助や融資・債務保証などの形で2019年までの3年間に1億8,500万ユーロを拠出することを決定した。これには、研究開発に対する補助金、大学からのスピンオフのための補助金、技術系スタートアップの起業のための補助金、民間投資家のための優遇税制などが含まれる。制度面では、会社設立手続きの簡素化(有限会社のオンライン登録など)、外国人起業家の滞在・労働許可取得の条件の緩和(1年目のみ特別ビザの発給)などがある。

2017年12月に発足した新政権(国民党と自由党による連立)も、政策プログラムにおいて「スタートアップ、中小企業、大企業にそれぞれ最適な経済環境を整備する」と宣言するとともに、特にスタートアップに関しては起業の簡素化のため「代替的資金調達の拡大、国立産業振興銀行(AWS)による信用保証額の拡大、国際的なアクセラレータのオーストリアへの誘致、起業家に対する支援の強化」などを挙げているが、現時点では具体的な政策は実現していない。

ウィーンを中・東欧の主要なスタートアップハブに

政府は2015年、「グローバル・インキュベーター・ネットワーク」(以下GIN)を設立した(予算は3年間で400万ユーロ)。GINは、オーストリアにおいて、スタートアップへの資金提供を狙う国内外の投資家の窓口であると同時に、国内スタートアップ企業の国外展開支援と、海外スタートアップ企業のオーストリアへの誘致を行う「スタートアップのためのワンストップショップ」の役割も担っている。GINが年2回行う国外スタートアップ向けプログラム「ゴー・オーストリア」では、国外企業10社が2週間オーストリアに滞在し、オーストリアの経済環境について知識を深めるほか、専門家、投資家、同業者などと交流することでネットワークを広げる。2018年は5~6月と9~10月に実施する。これまで、日本からは2社が参加している。また、国内スタートアップ向けの「ゴー・アジア」は、アジアのホットスポットを紹介するもので、これまで東京、テルアビブ、香港などに出向いた。2018年は5月に東京とソウルで開催、10月にはシンガポールを予定している。

海外スタートアップのオーストリア拠点設立が増加

オーストリア投資庁(ABA)によると、2017年の外国人によるスタートアップの拠点設立は前年比30%増の24社だった。スタートアップへの投資も大幅に拡大した。コンサルタント大手のアーンスト・アンド・ヤング(E&Y)によると、2017年にオーストリアのスタートアップは前年比406%増の1億3,800ユーロの融資を受けた。融資受け入れ額が最も大きかったのはバイオテクノロジー系スタートアップの「Hookipa」で5,300万ユーロ、同分野のの「Arsanis」が4,000万ユーロ、小型スピーカーの「USound」が1,200万ユーロで続いた。

ただし、欧州全体みると、オーストリアでの動向は限定的である。E&Yの調査によると、オーストリアにおける投資額1億3,800万ユーロは欧州で14位、ノルウェー(1億4,600万ユーロ、13位)やベルギー(1億2,300万ユーロ、15位)と同水準だった。なお、1位の英国は64億2,400万ユーロで、オーストリアとの人口・経済規模の差を考慮しても、投資額の規模はオーストリアはるかに上回っている。

スタートアップ起業家は30代前半の男性

オーストリアでのスタートアップ企業の定義は、「創立10年未満、最先端の技術またはビジネスモデルを活用、売り上げまたは従業員の大幅な増加がみられる」企業だが、その数や実態は十分に把握できていない。商工会議所に相当するオーストリア連邦産業院(WKO)は、その数は現状2,000~4,000社で、毎年500~1,000社が設立されていると推定する。欧州各国のスタートアップ支援団体の上部組織である欧州スタートアップ・ネットワークによると、オーストリアにおけるスタートアップの創業者は男性が92.9%、平均年齢は30.8歳、オーストリア国籍保有者人は67.8%、従業員数は2~3人、起業経験を持つ割合は40%以上となっている。また、創業者の90%弱が自己資産を投資し、55.4%が国の支援金を受け、20.9%がエンジェルから資金提供を受けているという。業種別では、IT・デジタル(ソフトウエアサービス17.2%、ソフト開発14.9%、モバイルアプリ8.2%など、合計60.4%)が最も多い。また、スタートアップの76.9%は国際的に活躍しているが、アジアとの取引をしている会社は10%にすぎない。その一方、39.9%はアジアを将来的に有望な市場とみている。

ウィーンでスタートアップ・キャンパスが設立

スタートアップを育成、支援するスタートアップ・キャンパス「ウィー・エクセラレート」(weXelerate)が2017年11月に開業した。ベンチャー起業出身者5人が創業し、銀行や保険会社、電気通信大手など16社のほかウィーン市も資金を提供している。オーストリアおよび中・東欧で最大のハブになることを目標とし、サンフランシスコの「プラグ・アンド・プレイ・テックセンター」やスイスの「デジタル・スイス」をモデルにスタートアップのためのエコシステムを提供する。例えば、アクセラレータ・プログラムでは、有望なスタートアップ100社が100日間キャンパスに入居し、起業経験のあるマネジャーから指導を受け、投資家や将来の顧客にプロジェクトを紹介するとともに、同業者や関係者とのネットワークを構築する。応募者の70%は外国籍の企業だ。


「ウィー・エクセラレート」の入居ビル(©G.Menzl_weXelerate)

オーストリアのスタートアップの成功例はまだ少ないが、国際的に注目された例として、まず、スポーツ健康アプリの「ランタスティック」(Runtastic)が挙げられる。2009年に創業した同社は、2015年に2億2,000万ユーロでドイツのスポーツ用品大手のアディダスに売却された。また、モバイルバンキングの「N26」は既に欧州17カ国で75万人の利用者があり、これから英国と米国市場への進出を狙う。同社はオーストリア人がオーストリアで創業した後に、資金調達環境が優れているドイツ・ベルリンに本部を移転している。


執筆者紹介
ジェトロ・ウィーン事務所
エッカート・デアシュミット
ウィーン大学日本学科卒業、1994年11月からジェトロ・ウィーン事務所で調査(オーストリア、スロバキア、スロベニアなど)を担当。

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