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特集:欧州に学ぶ、スタートアップの今 「ゼロ・メンテナンス」センサーでサプライチェーンに変革をもたらす(スイス‐3)

2018年6月15日

グローバリゼーションの深化やEコマースの普及など、物流を取り巻く環境が急速に複雑化する中、物流の世界でもIoT(モノのインターネット)技術やデジタル技術を活用したサプライチェーンマネジメントの高度化が始まっている。スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)のスピンオフで、インダストリアルIoT向けのセンサーモジュールを開発するネクシオット(Nexiot)は、サプライチェーンにおける価値と信頼の新基準を創り出し、物流業界に変革をもたらそうとしている。創業者兼最高経営責任者(CEO)のクリストフ・ヴァートマン氏、マーケティング・セールス担当ディレクターのダニエル・マックグレガー氏に聞いた(2018年2月28日)。

サプライチェーンのデジタル化に商機を見いだし起業

スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)のスピンオフで、インダストリアルIoT向けのセンサーモジュールを開発するネクシオットは、サプライチェーンにおける価値と信頼の新基準を創り出し、物流業界に変革をもたらそうとしている。創業者兼CEOのヴァートマン氏は、かつてETHZで超低消費電力とエネルギー・ハーベスティング(環境発電)を専門とする研究室を主宰し、その技術を産業用途に応用することでモノの管理に新しい付加価値をもたらせると考えていた。特にサプライチェーンについては技術の更新が遅れており、大規模な取引が期待できることから、2015年3月にネクシオット社を立ち上げた。当初2名だった従業員数も現在は32名にまで成長し、スイスのスタートアップ支援企業ベンチャーラボが発表した「2017年のスイスのスタートアップトップ100」にも選ばれている。

電力に依存しない通信ソリューションで物流を変える

ネクシオット社は、(1)「グローブホッパー(Globehopper)」と呼ばれるモニタリングセンサー、(2)センターが収集した情報を高速処理するクラウドエンジン、(3)情報を視覚化・共有化する接続プラットフォームの三つを提供している。顧客対象は、輸送用コンテナ、鉄道貨車、箱、パレット(梱包(こんぽう)資材)といった産業用移動貨物を用いてサプライチェーンを管理する企業だ。同社のセンサーの特徴は、超低消費電力とエネルギー・ハーベスティングの技術を組み合わせることにより、電力供給や充電を必要とせずワイヤレスでアップデート可能な、「ゼロ・メンテナンス」を実現している点である。移動貨物に取り付けられたセンサーは、振動や温度差、わずかな太陽光から給電しながら、制御システムからの指令を5分ごとに受信し、位置情報や走行距離、温度、衝撃度などの情報を送信する。しかし、「センサーは単なるツールに過ぎず、われわれの付加価値はあくまでデータ」と、ヴァートマン氏は強調する。

センサーが収集した情報は高速処理され、顧客はリアルタイムで貨物の状況を把握し、世界規模で監視することが可能になる。衛星利用測位システム(GPS)の誤差を補正するアルゴリズムの採用により、より正確な位置を特定することができる。また、クラウド上で管理されたデータは可視化され、さまざまな端末からアクセスできるうえ、運送状、写真やその他デジタル文書の生成が可能だ。ブロックチェーン技術で保護された記録情報には日付と時刻のスタンプが含まれ法的な証拠能力があるため、例えば輸送中に破損があった際にもその責任の所在が明確になり、保険手続きの円滑化にもつながる。同社はデバイスを販売するのではなく、データの使用料によって収益を上げるビジネスモデルであるため、顧客にとっては先行投資が少なく導入しやすいというメリットがある。

サプライチェーン業界はデジタル化の初期段階にある。多くの中間業者が介在するため貨物の位置や状態を正確に把握することが難しい。また多くの手続きが紙ベースで行われおり、貨物の紛失や事故が起きた際の責任の所在が判別しづらいという問題もある。技術の最新化による改善余地が大きいにも関わらず、管理規模が広大かつ構造が複雑であることから、既存企業は設備投資をちゅうちょする傾向にある。またIoT化に関しては、センサーの電力供給とバッテリー寿命という二大問題が導入の障壁になっていた。

ネクシオット社の画期的な点は、こうした問題を解決し、電力に依存しない通信ソリューションを提供することで、物流会社の資産管理コストの削減や新サービスの創出に貢献する点だ。

欧州最大の民間貨物車両プロバイダーが採用

物流関連のメディア数社によれば、欧州最大の民間貨物車両プロバイダー兼物流会社で、液体やガス、鉄鋼資源などの物流を得意とするドイツのVTG Aktiengesellschaft社(本社:ハンブルク)は2017年2月、今後数年間で自社が保有する全8万台の貨物車両にネクシオット社のセンサーを実装すると発表した。センサーから位置情報、遅延の可能性につながる事故等の発生状況、国境通過状況などをリアルタイムで監視することで、顧客は到着予定時刻や貨物の積載量、インターモーダル(複合一貫輸送)輸送中の輸送手段や貨物形態の変化などを把握することが可能となる。輸送の最適化によるコスト削減、付加価値の高いサービス提供は、導入企業の競争力を高め、サプライチェーン全体に変革をもたらすことが期待される。

顧客からの信頼獲得が課題

グローバルサプライチェーンを運営管理するような大企業の顧客からいかに信用を得るか。それが社歴の浅いネクシオット社が現在直面している課題だ。同社は起業にあたり、スイス連邦技術革新委員会(CTI、2018年1月よりInnosuisseに名称変更)の教育プログラム修了企業に与えられる「CTIスタートアップラベル」を取得し資金助成も受けている。しかし両氏によれば、顧客にとって重要なのは製品が付加価値をもたらすか、信用に足る相手かどうかであり、「ETHZのスピンオフ」や「CTIラベル」といった看板は、B2B企業として潜在顧客と商談する際にはほとんど役立たないという。受注規模が大きい場合、必要量のセンサーの納入が完了するまでに時間を要するため、双方にとって長期のコミットメントになる。「われわれの課題は、3年後もここにいることを顧客に信じてもらうこと」とヴァートマン氏は語る。信頼性確保のため、同社はISO9001やISO27001といった規格認証を取得し、モジュールに関しては危険物輸送に必要な防爆規格ATEXクラス1認定を受けているほか、過酷な条件にも対応できるよう入念なテストを行い、品質管理に万全を期している。

ネクシオット社がターゲットとする物流業界は世界に広がるが、まずは見通しの利く欧州市場で足場を固め、米国でも事業を展開中だ。日本を含むアジアも間違いなく潜在性が高い市場として注目しており、投資家とのコンタクトにも関心を示している。同社はハンブルクにオフィスを開設したばかりで、近々米国とアジアにも拠点を出す予定だ。同社によれば、今期の目標はサービスの開発・提供、チームの拡大、そして顧客の需要を満たす事業を展開することだ。


同社のモニタリングセンサー「グローブホッパー」(ネクシオット社提供)

センサーを取り付けたVTG社の貨物車両
(ネクシオット社提供)

マックグレガー氏(ネクシオット社提供)
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
杉山 百々子(すぎやま ももこ)
2002年ジェトロ入構。貿易開発部、展示事業部、ジェトロ横浜(2011~2013年)、海外調査部調査企画課(2014~2015年)を経て、2015年8月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
マリオ・マルケジニ
ジュネーブ大学政策科学修士課程修了。スイス連邦経済省経済局(SECO)二国間協定担当部署での勤務を経て、2017年より現職。

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