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特集:欧州に学ぶ、スタートアップの今ビザのスピード発給と軽減税率で優遇(ラトビア)

2018年6月15日

ラトビアはバルト3国の真ん中に位置する人口230万人の小国だが、スタートアップ企業を多く生み出している。ラトビア政府は起業時の資金調達の支援、欧州連合(EU)域外の起業家に対するスタートアップビザの取得手続きの簡略化や、スタートアップに対する税制面の優遇施策を導入している。

ラトビアは歴史的に首都のリガが港湾都市として東西の欧州の中継地点と機能していたことから、物流業が盛んである。さらに、農業、木工や化学も国の経済を支えてきた。これらの伝統的産業に加え、近年、IT産業が急成長している。それに伴い高速のインターネット回線などのインフラ整備が政府により進められたこともスタートアップの誕生を後押ししている。スタートアップが増えてくるにつれ、その支援組織も精力的な活動をしている。

その一つである2016年に設立された非政府組織「スタートインLV」はスタートアップ、インキュベーター、アクセラレーターや投資家などで構成され、現在88社が加盟している。スタートアップが抱える問題を吸い上げ、経済省などの関係省庁に発信することを目的として発足した。また、スタートアップのコンペ、ハッカソン(注1)、会議の開催やパートナー・スポンサー希望者とスタートアップとの顔合わせの機会を頻繁に提供している。


スタートインLVのメンバー:右から3番目がベリンスカ氏(スタートインLV提供)

ビザの容易な取得や減税策が柱

スタートインLVのエグゼクティブディレクター、アロナ・ベリンスカ氏によると、同組織はラトビア政府と共にスタートアップ支援プロジェクトを実施している。政府はスタートアップの初期の資金調達を支援するために2017年1月に1,500万ユーロの基金を設立した。同時に、スタートアップへのビザの発行手続きの簡略化および短縮化を導入した。EU域外の起業家に対して、定められた条件を満たす場合には最大3年間の滞在ビザが短期間で発行される。さらに、税制面での優遇もある。一定の基準を満たしたスタートアップの従業員は、給与の額に限らず所得税と社会保障税の合計が一律252ユーロで済む(ただし、月給4,050ユーロ以上の場合は超過税が適用される)。また、博士号を持つ従業員に対しては、全ての社会保障税と所得税はEU資金によって国が支払う。これらは政府機関であるラトビア投資開発局(LIAA)により運営されている。

ラトビア経済省は2017年12月、スタートアップ法の改正、研究開発への支援の拡大や企業と学校のさらなる協力などを骨子とした2018年のスタートアップに関する計画を発表した。同計画には、政府の代表を米国シリコンバレーに常駐させることも盛り込まれた。

2017年は6,200万ユーロ超の投資

ベリンスカ氏によると、2017年はラトビアのスタートアップに対して6,200万ユーロを超える投資があり、そのうち90%はラトビア国外からであったという。また2017年末時点でスタートアップ企業数は350社で、産業分野別にみると、SaaS(注2)をはじめ、フィンテックやディープテック(科学的発見や技術革新に基づいて事業を展開)、ドローン関連のスタートアップが多いという(図参照)。

図:ラトビアのスタートアップの業種別内訳(企業数)
SaaS(サービスとしてのソフトウェア)が最も多く32%を占める。他国と比べて特徴的なのはフィンテックが18%と高い比率であること。次いでディープテック、モビリティ(車・交通など)、ソーシャルとなる。
注:
ソーシャル:人々の生活を革新する取組み(Uber, Airbnbなどが代表例)。
出所:
ラトビアンスタートアップ

フィンテックをはじめ多岐にわたるビジネス

ラトビアのスタートアップで成功を収めている企業として、フィンテックでは2009年創立のトゥイノ(TWINO)がある。P2P(ピア・トゥ・ピア)で、資金を低金利で貸し付けるプラットフォームの運用を2015年に開始した。ロシア、ジョージア、カザフスタン、ポーランドなどでは貸付金利が、西欧諸国に比べると高い水準にある。その金利差を利用して、主に西欧諸国の個人出資者から貸し付け用の資金を集め、金利の高い国の個人に銀行より低い金利で資金を貸し付ける。個人投資家は平均すると年10%以上の配当を受け取っているという。ラトビアのほか、投資先の多いロシア、ポーランド、ジョージアにも支店を持つ。

ラトビアのスタートアップで企業数の一番多い業種のSaaSでは2015年創立の医学用3D画像アナトミー・ネクスト(Anatomy Next)がある。人間の臓器や骨の構造やその階層を3Dで表現するソフトウエアや人体の構造に関する画像集を開発・販売している。書籍は日本でも翻訳されて代理店経由で販売されている。3D画像での手術シミュレーションは医師の理解向上に大きく貢献する。体の部位ごとの筋肉、骨、神経、血管を回転、拡大、表示することで、各構造を理解することの助けとなる。この先の製品としては、提携しているマイクロソフトのホロレンズ(注3)でMR(Mix Reality:複合現実)体験できる手術用のシミュレーションソフトの開発を進めている。

RCGライトハウスは2015年創立のLEDライトの設置・販売・管理を進めるスタートアップだ。同社は中国のLEDメーカーと契約し、輝度の高い(光量あたりのコストが安い)LEDを安価で購入し、大規模量販店などを中心に従来の照明からLEDへの付け替え作業を請け負う。LEDの費用や設置費用ではなく、定額を顧客から徴収し、5年間サービスを提供する。LEDに交換後の電力の消費状況などは自社開発のソフトウエアでモニターを行う。顧客は初期投資と保守費用が不要、またLEDに変更することで光熱費の支払額が減るため、全体の光熱費関連のコストを削減することができる。

ラトビアは国として資金の貸し付け、ビザのサポートや税金の優遇策などを導入しており、バルト3国の中ではスタートアップへの支援の充実度が高い。今後もさまざまな分野でスタートアップが誕生し、世界に向けて活躍することが期待される。


注1:
ソフトウエアなどのエンジニアリング行為を意味する「ハック(Hack)」とマラソンを組み合わせた造語で、エンジニア、デザイナー、マーケティング担当者などがチームを作り、短期間でサービスやシステムを開発し成果を競うイベント。
注2:
サース(Software as a Serviceの略)。ユーザーのコンピューターにソフトウエアを導入するのではなく、ソフトウエア供給者側のコンピューターで稼働させ、ユーザーはその機能をネットワーク経由でアクセスし使用する形態のこと。
注3:
HoloLens:現実の世界に3Dの物体を重ねて表示できる、頭に着ける複合現実ヘッドマウントディスプレイ(MR HMD)。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課 アドバイザー
我妻 真(あがつま しん)
電機メーカーで30年以上海外とのビジネスに携わり、海外の顧客に機器を販売。
米国・ヒューストン、ロサンゼルス、ドイツ・フランクフルトと通算10年以上にわたる海外駐在を経験。営業、マーケティング、予算作成・管理、サプライチェーンマネジメント、労務管理、契約、法律/規制の調査等に携わる。2016年4月より現職。

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