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特集:欧州に学ぶ、スタートアップの今巨大な支援施設を整備、スタートアップイベントの地方ツアーも実施(ロシア)

2018年6月15日

ロシアでは経済におけるイノベーション促進の観点から、近年、科学技術・ハイテク分野の起業・中小企業育成に力を入れている。連邦、地方レベルにおけるスタートアップ支援施設などを通じて、人材育成、ファイナンスなどの支援を行っており、加えて、スタートアップ企業と投資家、ビジネスパートナーを結ぶイベントを開催している。

地方でもスタートアップ支援を実施

ロシアにおけるイノベーション分野のインフラ・整備が進展を見せている。2011年12月に連邦政府によって策定された「2020年までのロシア連邦のイノベーション発展戦略」では、連邦・地方レベルでのイノベーション活動の促進に向けた目標を掲げており、革新的プロジェクトの飛躍的な成長の実現、技術シフトの促進とそれに向けたインフラ・環境・文化の発展を目指している。特に科学技術・ハイテクイノベーション・エンジニアリング分野の起業・中小企業育成や人材教育、資金確保が重要だとし、スタートアップ支援機関やアクセラレーター、起業家支援センターを通じて支援を行っている。主なスタートアップ支援機関は表のとおり。

表:ロシアにおける主なスタートアップ支援機関
分類 名称 概要
連邦レベル スコルコボ・イノベーションセンター外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 2010年に設立。省エネ、IT、原子力、バイオを優先分野とし、新技術の商業化支援を行い、ロシア経済の多様化に貢献することを目的。同センターに入居者として認可されると、税制の優遇、施設の利用、商業化・販路開拓・ビジネス拡大、ファンドへのアクセスなどの面でスタートアップ支援が得られる。2018年1月時点の入居者数は約1800社。ロシア法人である必要があり、専門家によるビジネスプランの審査を経て、入居者として承認される。
インターネットイニシアティブ発展基金(IIDF)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 2013年創設。IT分野におけるアクセラレーター支援およびファンディング、人材育成・教育、大企業との共同プロジェクトの促進などを実施。地方に10カ所の拠点を有する。2016年までにアクセラレーター支援企業数293社。投資実施企業数は269社で総額16億9,000万ルーブル。
地方レベル アカデムパーク外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます シベリアのノボシビルスク市南部に立地。2005年に創設。支援対象分野は機器製造、IT、バイオ技術・バイオ医療、新素材・ナノテクノロジーで、356社が入居。オフィス・ラボ・生産施設の提供、小ロット生産やプロトタイプ製造における技術サービスの提供、ビジネスサービスの提供、各種イベントなどを開催。
イノポリス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます タタルスタン共和国カザン市に立地。2015年稼働開始。入居企業数は67社。IT、ハイテク分野が対象。入居者は各種税・社会保険の減免、自由関税地域の適用、各種施設・土地、インフラの利用などの優遇が受けられる。大学が隣接しており、質の高い安価な人材を活用できることが強み。
大学 モスクワ大学サイエンスパーク外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 1990年設立。モスクワ大学の研究者、学生のアイデアをスタートアップすることが目的。10~15年間活動を継続している100社ものベンチャー企業をこれまでに創出。毎年の起業数は25~50社で、分野は、石油ガス、ハイテク、テレコム・IT、バイオテック、新素材、化粧品、サービスなど。モスクワ大学卒業生のネットワークが強み。
HSEビジネスインキュベーター外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 2006年設立。高等経済学院(HSE)の学生・研究者によるスタートアップ企業に対して施設およびコンサルテーションサービス(知財、販促・マーケティング、法務、税務など)を提供。支援対象はHoReCa(ホテル・レストラン・カフェ)を除く全て。ICT、メディアマーケティング、ロボティクス、人口知能(AI)、フィンテックが多い。2017年には約200のスタートアップ企業を支援。
出所:
各機関ウェブサイトやヒアリングを基に作成

スタートアップ企業と投資家、ビジネスパートナーなどを結びつける主要なイベントはいくつかある。1つ目はスコルコボ基金が主催する「スタートアップ・ビレッジ」(毎年6月開催)で、スタートアップ企業や若手研究者、投資家、ビジネスパートナー、専門家などが参加し、プレゼンテーション・交流が行われる。ロシア・CIS地域で最大のスタートアップカンファレンスであり、2017年に開催した際には、80カ国以上から2万人が来場。投資家1,000社、スタートアップ企業4,500社が参加し、商談が1,500件実施された。日本関係のセッションも設けられ、日本の大手家電メーカー・重電メーカー・半導体製造装置メーカーが参加した。2018年は「日本におけるロシア年」「ロシアにおける日本年」であることを背景に、「ジャパン・ロシア・テックマッチ2018」というイベントが開催された。日本の大企業、日ロ双方のスタートアップ、支援企業・団体など24社が発表を行った。

もう一つの主要イベントは10月に開催されるフォーラム、「オープン・イノベーション」だ。2012年から毎年開催されており、2017年には98カ国から1万8,200人が参加した。同フォーラムは経済発展省、モスクワ市政府のほかロスナノや対外経済銀行(ロシア開発銀行)が共催者となるなど、より政府が関与した形になっている。

このほか、スコルコボ基金では地方におけるスタートアップ企業支援のため「スタートアップツアー」を各都市で開催している。同ツアーでは、投資家、潜在的な顧客、ビジネスパートナーとのネットワーキングなどが含まれており、IT、医療におけるバイオ技術・農業、各種産業分野の三つの部門でコンテストが実施され、優勝者には最大で500万ルーブルの補助金が付与される。2011年から2017年の間に63都市で開催され、延べ1万3,000件の応募、4万人の参加者を集めている。2018年は11都市での開催が実施・予定されている。

スコルコボの支援で販路を開拓

スタートアップ企業の成功例の一つとして「トライフィット・テクノロジー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」社が挙げられる。同社はスコルコボ・イノベーションセンターの入居企業で、3次元で足の形状とサイズを測定し、スマホのアプリを通じて自動的に自分に合った靴をリストアップ、購入できるシステムを開発した。測定機材(写真)に両足を枠内に置き、4方向からのカメラと複数のセンサーを使って1,000万ピクセル単位で測定するもの。足の形状は歩くとき、走るとき、跳ぶときにかかる圧力で最大15%程度変化するが、この変化も測定に反映させている。測定したデータはタブレット上で反映され、それをQRコード化したものをスマホのアプリで読み込むと自分のアカウントを作成でき、自動的に自分の足のサイズとのフィット度を10点満点で評価し、リストアップされる。同様の技術を開発している企業は主にドイツ、スウェーデン、オランダに存在するが、実際に走るときの足の形状変化を計算して反映させるのは同社のみであるという。軍事や航空機分野での3D解析技術を開発した経験を元にしている。

同社はアディダスや仏系スポーツ用品小売り大手デカトロンなどと提携関係にある。トライフィット・テクノロジーのワガン・マルティロシャン社長は「デカトロンや大手ロシアのECサイト・オゾンなどとのコンタクトやマーケティングについてスコルコボ基金が大きな役割を果たしてくれた」とし、「スコルコボの支援なしではデカトロンへの販路開拓はできなかった」と強調する。デカトロンとの交流は上述の「スタートアップ・ビレッジ2017」が最初であり、その後、モスクワ市北部の店舗に測定装置を設置することで合意したと報じられている(「スコルコボ基金ニュース」(2017年8月16日))。


トライフット・テクノロジーの測定装置(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所 所員
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸を経て、2014年6月より現職。ジェトロ・モスクワ事務所では調査業務、進出日系企業支援業務(知的財産保護、通関問題)などを担当。編著にて「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所 次長
浅元 薫哉(あさもと くにや)
2000年、ジェトロ入構。2006年からのジェトロ・モスクワ事務所駐在時に調査業務を担当したほか、農水産輸出促進事業、知的財産権保護事業にも携わる。本部海外調査部勤務時に「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。2017年7月から再びジェトロ・モスクワ事務所勤務。

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