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特集:欧州に学ぶ、スタートアップの今欧州宇宙機関(ESA)の特許を利用したスタートアップを支援(チェコ)

2018年6月15日

チェコにはスタートアップ企業は2,000社以上あると言われ、ICT、ソフトウエア、フィンテックなどの分野に多い。チェコインベスト(ビジネス・投資開発庁)が運営する、欧州宇宙機関(ESA)のインキュベーション施設にはESA特許を利用した技術開発を行う有力なスタートアップ企業も入居している。

欧州宇宙開発機関の施設が支援

チェコでは、大学からスピンオフしスタートアップ企業が生まれることは難しいとされる。その背景には、大学が所有する特許が民間に譲渡されにくいことがあると言われている。チェコ全体を見ると大学が保有する特許の数は毎年伸びているが、企業の特許数は毎年減少している。それでも中欧4カ国(チェコ、スロバキア、ハンガリー、ポーランド)の中では最も特許登録が多い。

チェコにおけるスタートアップ支援は産業振興策として主に産業貿易省が管轄しているが、分野により教育省、運輸省なども支援を行っている。また、産業貿易省傘下のチェコインベストには、スタートアップ支援部署があり、欧州宇宙機関(以下ESA)のプロジェクトの一部となっているビジネスインキュベーションセンター(BIC)プラハを運営している。

チェコインベストのスタートアップ支援は、2010年からスタートしているが、専門部署ができたのは2年前で、現在は13名の体制で支援を行っている。具体的な支援策としては、7カ月にわたる経験豊かな企業家やコンサルティング会社によるメンタリングとコンサルティング、そしてシリコンバレーでの2週間の「ブートキャンプ」への参加などである。これまでに100社に300万ユーロ(1社あたり3万ユーロ)の支援を実施した。また、3カ月のアクセラレータープログラムには60社が参加、210万ユーロ(1社あたり3万5,000ユーロ)の支援を行っている。さらに、シリコンバレーやニューヨーク、ロンドン、シンガポールなどでの投資家とのマッチングイベントを開催し、48社が参加している。

同プログラムに参加している最も有力な企業は、ネット・セキュリティーソフト開発のコグニティブ・セキュリティーが挙げられる。同社は、チェコインベストのプログラムにてシリコンバレーで研修を受けたのち、米国のコンピューターネットワーク機器開発最大手のシスコに買収されたが、その後開発センターをプラハ市内に設立した。また、モバイルアプリケーションを扱うSTRDは、チェコインベストのサポートを受け、サンフランシスコに進出した。

さらにチェコインベストは、(1)工科大学とのパイプを保ち、良いスタートアップ企業の発掘、(2)最大5万ユーロの融資を手当、(3)パートナー企業とのマッチング支援を行っている。

多岐な分野にわたるスタートアップ

ESAのBICプラハは2016年から運営を開始し、スタッフ4名が運営に携わっている。同施設には現在10社が入居し、最大2年間の施設の使用が認められている。ESAのBICプラハでは、入居時に企業が目標設定を行い、施設のスタッフが定期的に進捗(しんちょく)の検証を行う。施設内ではコンサルティングやメンタリングのほか、技術支援や知的財産保護分野など法律関連のアドバイスも受けられる。

BICプラハに入居する最も有望な企業としては、フェストカがある。同社は宇宙船にも使われる特殊なカーボンとグラファイトを使用して超軽量のバイク(自転車)を製造している。高級バイクを製造するフェラーリなどから引き合いがあるようで、既に市場展開している製品を有する意味ではチェコのスタートアップの中でも足が速いと認識されている。その他には、オートバイ用のナビゲーションソフトのナビライダー、旅行案内アプリのトップフッド、エックス線を使用した古い画像の検証サービスを提供するインサイトアートなど多岐の分野にわたる有力企業がある。特にナビライダーは日本の市場に関心を持っており、3月28~29日に東京で開催されたスタートアップ企業の国際コンファレンスである「スラッシュ東京」にも参加した。

表:ESAインキュベーション施設の主な利用企業一覧 
会社名 業務内容
ナビライダー オートバイ・ナビゲーション・ソフト
レッツ・アース 家庭の水、電力需要最適化アプリ
フェストカ カーボンファイバー製超軽量バイク製造
フォックスワークス・エアロスペース 航空・宇宙空間シミュレーター
スマップUQ 自動車などのデザイン・シミュレーション・ソフト
インサイトアート エックス線を利用した絵画のスキャナー、データ分析ソフト
トリップフッド 旅行案内アプリ
NGアヴィエーション 航空機管制データのデジタル化
トゥディトゥディ 旅行案内アプリ
ビッグ・テラ アフリカにおける農業最適化用データ解析
出所:
チェコインベスト

ESAの特許を利用した開発を促す

ジェトロは2018年2月27日、ESAのBICプラハを管轄するチェコ交通省宇宙技術アプリケーションユニット課長のオンドレイ・シュバーブ氏にインタビューした。同氏によると、BICプラハの目的はスタートアップ企業にESAの特許を利用し製品化または商業化してもらうこと、ESAの特許に関係する企業を増やすことであり、特許使用料を受け取っていない。ESAとしては、自ら持つ特許技術を宇宙開発に関わった企業だけでなく、より多くの企業に使用させて、商業化の過程で発生する特許技術に関連するデータや課題解決の方法などを取得したい考えがあり、そうした活動を通じて産業の裾野を広げて、競争力を強化する狙いもあるようだ。

現時点ではスタートして間もないため卒業した企業はないが、支援期間の終了後は他のインキュベーション施設を紹介するなどし、継続的なサポートプロジェクトへの参加を促している。

チェコではBICプラハ以外にも、民間運営による10以上のインキュベーション施設やアクセラレーター、40以上のコワーキングスペース、また、IBMやチェコのインターネット企業向け投資会社ロックアウェイ、中小企業組合、チェコICTアライアンスなどが協力した組織「チェコ・スタートアップ.org」がスタートアップ企業向けにイベントの開催、関連情報などの配信、データベースの整理などを行っている。

執筆者紹介
ジェトロ・プラハ事務所長
村上 義(むらかみ ただし)
1994年、ジェトロ入構。海外事業部、1996年3月鳥取貿易情報センター、1999年4月経理課、2002年4月ジェトロ・ブダペスト事務所、2007年3月先端技術交流課課長代理、2011年インフラ・プラントビジネス支援課長、2014年4月より現職。

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