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特集:欧州に学ぶ、スタートアップの今 製造および金融分野でのデジタル関連スタートアップ動向に注目(ドイツ・バイエルン州)

2018年6月15日

自動車やIT、保険産業が集積するドイツ南部のバイエルン州では、製造分野や金融分野のスタートアップ支援に力を入れている。また州独自のベンチャーキャピタル(VC)の存在により、民間VCでは手が出しにくい、ビジネスモデルやコンセプトはあるが製品やサービス化はできていない準備段階(シードフェーズ)にあるスタートアップの支援も充実している。州内にはミュンヘン工科大学をはじめとした優れた研究・教育ネットワークが存在し、これらの大学や研究機関発のスタートアップにも注目が集まっている。

産官学のネットワークに秀でるバイエルン州

ドイツ南部に位置するバイエルン州は、国内総生産(GDP)の約18%を占める産業の一大集積地で、好調な自動車関連産業を中心に、近年日本企業の進出も増えている州の一つだ。州内には、BMWやアウディ(自動車)、マン(自動車・機械)、シーメンス(電機・エンジニアリング)といった世界的な大手メーカーほか、国際的に競争力の高い中小・中堅企業も多数集積している。

また、州内には、欧州最大の応用研究機関であるフラウンホーファー研究機構をはじめとした研究開発機関や、ミュンヘン工科大学やルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンといった高等教育機関が所在しており、これらの機関も同地におけるスタートアップの創出と発展の中で、重要な役割を果たしている。例えば、ミュンヘン工科大学の関連団体として設立されたウンターネーマー・テゥーム(UnternehmerTUM)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます では、セミナーやコーチングを通じた同大学の学生や研究者などへのビジネスマインドの養成や、上述のような既存産業との提携機会の提供、関連ベンチャーファンドからの資金獲得の支援、1,500平方メートルの敷地と大型の3Dプリンターなどの最新設備を備えた「MakerSpace」における試作品の作成支援など、多彩な支援機能を有しており、特に情報通信、医療、クリーンテック分野での技術立脚型スタートアップの起業支援に取り組んでいる。

主要グローバル企業の進出により製造業のデジタル化の欧州の中心地に

バイエルン州経済・メディア・エネルギー・技術省は2017年5月に、デジタル化推進政策として「バイエルン・デジタルII」を発表し、2018年から2022年までの5年間で30億ユーロを投資し、域内企業のデジタル化促進や雇用の創出を目指す方針を示した。特に注力する分野として人工知能(AI)や3Dプリンター、5Gネットワーク、自動運転、サイバーセキュリティー、マイクロシステム技術、E-ヘルス(IT技術などを活用した医療サービス)、生活支援ロボットなどを挙げている。

最近では、IBMがグローバルIoT(モノのインターネット)本社を2015年にミュンヘンに設立し、2017年2月には、同地でのパートナー企業とのIoTや人工知能などによる協業を推進すると発表したほか、マイクロソフトもIoT&AIインサイダー・ラボをミュンヘンに設立するなど、同地で人工知能の活用やIoTの推進に取り組む外国企業も目立ち、欧州におけるデジタル製造業の核となっている。これらの関連分野で研究開発や市場参入を目指す企業にとっては、グローバル企業との協業や最新テクノロジーに触れることができる環境が整いつつある。

欧州における起業の地No.1を目指すバイエルン州

デジタル化の推進を進めるうえで期待されるのが、新しい技術や斬新なアイデアを持つスタートアップの存在だ。バイエルン州では、「グリュンダーラント・バイエルン(Gründerland.Bayern)」というイニチアティブを発足し、2015年から2020年までに、3億3,000万ユーロを投入することで起業環境の整備や起業家支援を実施する方針を示している。スタートアップ支援の中心的な役割を担うのは、「バイ・スタートアップ(BayStartUp)」だ。バイ・スタートアップは、州内に20カ所ある「デジタル起業センター」(Digitale Gründerzentren)などを整備、関係機関と協力し、イノベーションや技術移転に関して大きな潜在性を有するスタートアップに対し、VCや提携候補企業とのネットワーキング機会の提供、起業やビジネスモデルの確立に向けた指導プログラムの提供や、ビジネスコンテストの開催を通じた露出機会の提供などを通じて支援している。

また、シードフェーズなど、特に初期段階では、投資側にはリスクが大きいため、民間VCが単独では手を出しにくいケースも多いが、その際に主要な役割を果たすのが、官製ファンドの存在だ。「バイエルン・キャピタル(Bayern Kapital GmbH)」は、バイエルン州開発銀行(LfA Förderbank Bayern)傘下の官製ベンチャーキャピタルで、1995年の設立以来、州内の250社以上スタートアップへの総額2億6,000ユーロ以上の投資実績を有する。投資対象は、バイオテクノロジーおよびライフサイエンス、ソフトウエア・IT、原料・新素材、ナノテクや環境技術など幅広く、シードフェーズから起業、拡大の各ステージでの支援メニューが用意されている。また、投資にあたっては、他のベンチャーキャピタルやエンジェル投資家、連邦レベルでの政府系ベンチャー投資ファンドである「ハイテクスタートアップファンド」(High-Tech Gründerfonds)(注1)などと、協力して投資を行うケースも多い。


バイ・スタートアップの支援施設内の様子(バイ・スタートアップ提供)

バイ・スタートアップによるネットワークイベントの様子(バイ・スタートアップ提供)

バイエルン・キャピタルが支援した例としては、2001年に設立されたサンヒル・テクノロジーズ(sunhill technologies)が挙げられる。同社は、セキュリティーと利便性に優れた携帯電話でのキャッシュレスの支払い機能を提供しているスタートアップで、ドイツテレコムやボーダフォンなど、大手キャリアと提携し、特に駐車料金の支払いなど、モビリティ分野でのサービスを提供している。前述のハイテクスタートアップファンドやドイツ復興金融公庫(KfW) などの投資資金も活用し、事業を拡大、現在の顧客数は200万を超え、欧州全土約150カ所で同社のサービスが提供されているという。2015年にはフォルクスワーゲン傘下の金融サービス会社が、同社の株式の92%を取得している。

インシュアテックの中心地として高まる存在感

同州はアリアンツやミュンヘン再保険など、大手保険会社の集積地としても知られ、近年ではフィンテックやインシュアテック(保険サービスとIT技術を合わせたもの) など、関連するスタートアップの創出・支援にも力を入れている。デジタル起業センターの一つで、共同ワーキングスペースも完備するヴェルク・アインツ(WERK1)はアリアンツやミュンヘン再保険といった大手保険会社などと協力し、「W1>>InsurTecH外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」という6カ月間のプログラムを提供している。人工知能やビッグデータ/スマートデータ、ブロックチェーン(注2)などの技術やドローン、スマートホーム、ウエアラブル機器など、デジタル化技術を持つスタートアップや研究チームなどが対象で、国に関係なく、応募が可能だ。選抜されると、WERK1の施設を6カ月間無料で利用できるほか、著名な専門家やコンサルタント、保険関連の市場の有識者などとの協業機会が与えられる。さらに潜在的な投資家やパートナー企業などとのネットワーキング支援も受けることができる。


ヴェルク・アインツ(WERK1)外観(ヴェルク・アインツ(WERK1)提供)

注1:
連邦経済エネルギー省(BMWi)やドイツ復興金融公庫(KfW)、民間企業からの出資で構成する官製ベンチャーキャピタル。
注2:
分散型のコンピューターネットワークにより、破壊や改ざんが困難なネットワークを作る技術。従来の集中管理型のシステムに⽐べ、「改ざんが極めて困難」であり、「実質ゼロ・ダウンタイム」なシステムを安価に構築可能という特性を持つともいわれる。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター
森 悠介(もり ゆうすけ)
2011年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課(2011年4月~2012年8月)、対日投資部誘致プロモーション課(2012年9月~2015年11月)を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。

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