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特集:欧州に学ぶ、スタートアップの今 「フレンチテック」は国外見本市でも存在感(フランス)

2018年6月15日

エマニュエル・マクロン大統領が「フランスをデジタル大国にする」と宣言し、積極的なスタートアップ支援が世界から注目を集めるフランス。政府主導で2013年末に始動した「フレンチテック」では、起業家、投資家、エンジニア、デザイナー、デベロッパー、業界団体(インキュベータ、アクセラレータ)、メディア、公的機関、R&D機関を集結させ、ITエコシステムの構築に取り組んでいる。

政府の手厚いスタートアップ支援により国内外企業誘致が加速

フランス政府は2013年11月より、パリを中心としたIT企業家支援対策の一環である「フレンチテック」と呼ばれるスタートアップ支援策を実施している。パリ、リヨン、ナントなどフランス国内13都市を「フレンチテック」主要都市に指定し、スタートアップ企業と大企業や研究機関、起業支援団体の活発な交流を促進することで、起業ネットワーク形成とコミュニティーの醸成に注力している。現在までに総額2億ユーロの「アクセラレーション基金」を民間向け起業資本とし、スタートアップを支援している。

フレンチテックの推進により、フランスには多くのスタートアップ投資の集積が進んでいる。現地メディアによると、ベンチャーキャピタルからの資金調達総額は27億ユーロ(2017年1月~8月)に達し、英国の23億ユーロ、ドイツの11億ユーロ(いずれも同期間)をしのぐ勢いで世界中から多くのスタートアップ企業を呼び込む結果となっている。

2018年1月に米国で開催された世界最大級の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」に出展したフランス企業数は米国に次ぐ第2位で、フランス・パビリオンには365社のフランス企業が参加、そのうちスタートアップ企業は274社で前年の178社から拡大した。フレンチテックによるブランド戦略のもと、参加企業数のみならず、オープンエコシステムで培ったスタートアップの高度な技術とデザイン性がハードウエア市場におけるフランスの存在感を飛躍的に高めたと言えよう。

フレンチテックはスタートアップの海外展開支援に対して多くのプログラムを用意しているが、日本のスタートアップ企業も活用できるのは「フレンチテック・チケット」だ。これに採用されると、4万5,000ユーロの奨励金が支給され、41カ所のフレンチテック・チケット指定のインキュベータ施設のうちの一つを最大12カ月間無料で利用できるなどの特典がある。2015年にはフレンチテック・チケットに722件の申請があり、23件が採用され、2016年は申請1,220件、採用が70件だった。2016年に申請が最も多かったのはインド企業で、米国、エジプト、ブラジル、ロシアが続く。なお、アジア地域ではインド、中国、韓国、インドネシアなどの企業が採用されたが、日本はなかった。

他にも、海外起業家のフランス滞在許可証の取得支援プログラム「フレンチテック・ビザ」(「パスポート・タラン」ビザ)や、世界22カ所にアクセラレーション拠点として「フレンチテック・ハブ」を設置するなどして、フランスのスタートアップの海外展開を促進するとともに、外資スタートアップ企業の国内誘致に取り組んでいる。

フレンチテックによる手厚い支援のほかに、パリには世界最大級のインキュベーション施設である「ステーション・エフ(Station F)」がある。パリの中心部に位置しながら3万4,000平方メートルの広大なスペースに3,000人分のオフィス、会議室、多目的ホール、レストラン・カフェなどを完備する。ステーション・エフ は、2017年6月29日に公式営業を開始し、既に1,000以上のスタートアップ企業が入居している。米国の大手IT企業のフェイスブック、マイクロソフト、アマゾンやフランスのバントプリベ、HEC、BNPパリバなどのパートナー企業が、人口知能(AI)、ロボット開発などさまざまなIT分野での起業支援プロジェクトを提供している。特にフェイスブックは、AI研究部門の拠点をパリに置いたこともあり、人工知能分野での支援が期待されている。このほか、投資ファンドも入居し、スタートアップ企業に必要な全ての環境が整い、年中無休・24時間アクセス可能な創造の場となっている。

フランスの起業プログラムの詳細は「2017年度日本発知的財産活用ビジネス化支援事業エコシステム調査-フランス編-」を参照されたい。

新旧のスタートアップイベントが起業を後押しする

ここでは、フランスで開催されるスタートアップ向け展示会の中で、特に参加者数の多いものを中心に紹介する。

「ビバ・テクノロジー(VIVA TECHNOLOGY)」は、2016年が初開催とまだ新しい展示会だが、来場者数は2016年が約4万5,000人、2017年は約6万8,000人と順調にその数を増やし、2018年は5月24~26日に開催され、10万人以上が来場した。イノベーションをテーマとし、世界各国から大企業や投資家、研究機関などを集めている。ブース出展に加えて、講演会、カンファレンス、ワークショップ、ビジネスマッチングなどが実施される。

同じく2017年に6万人以上の来場者を記録したのが展示会「サロン・デ・ザントルプルヌール(Salon des entrepreneurs)」で、パリでは毎年2月開催される。2018年に25回目を迎える長い歴史を持つこの展示会は、今年は、200以上のスタートアップイベントを行う予定である。なお、同展示会はリヨン、マルセイユ、ナントなどの地方都市でも年間を通して開催される予定。

前述展示会は、特に参加者数の多い展示会であり、日本のスタートアップにとって大企業や投資家とのマッチングに有効な場となりそうだ。

また、フランス公的投資銀行(Bpifrance)が主催する「イノ・ジェネラシオン(Bpifrance Inno Génération)はスタートアップと大企業、投資家とのマッチングを図ることを目的に、毎年10月頃パリで開催される。2015年と2016年は1日目の正午から2日目の正午まで24時間連続でピッチを実施、2017年は60のスタートアップ企業が8分の持ち時間で自身のスタートアップ経験を順に語っていくという一風変わった試みがあった。

加えて、政府によるデジタル産業クラスター政策の一端を担う非営利団体「キャップ・デジタル(Cap Digital)」が2009年から毎年6月頃にパリで開催しているイノベーション支援のイベント「フューチャーズ・イン・パリス(FUTUR.E.S. in Paris)」も注目される。企業だけでなく一般にも幅広く公開されているイベントで、2017年には、スマートシティー、クリエーティブ産業、小売業、Eヘルス、労働、教育の六つのテーマでピッチが開催された。2018年は初めてモロッコのカサブランカで「FUTURE.E.S in Africa」が開催された。

前述二つの展示会は、2017年の参加者数が合わせて5万7,000人を超えており、ビバ・テクノロジー、サロン・デ・ザントルプルヌールと合わせてスタートアップにとって重要な展示会になっている。


ビバ・テクノロジーの会場内風景(ビバ・テクノロジー提供)

モビリティ分野に広がるスタートアップ企業

フランスでのスタートアップの成功は、特にモビリティの分野で目覚しい。中国のカーシェアリング企業、滴滴(DiDi)と業務提携をしているエストニアのスタートアップ企業タクシファイ(Taxify OÜ)が2017年にパリでアプリを通じたタクシー配車サービスを開始した。運転手への利益還元を重視するなどの特色をだし、米国ウーバー(Uber)の追い上げを狙う。

自転車レンタルサービスでは、中国企業の小黄車(Ofo)、シンガポール企業のオーバイク(oBike)などのアジア系のスタートアップが2017年にパリで営業を開始した。いずれも駐輪ステーションは設置せず、全地球測位システム(GPS)を利用して自転車を配車しており、パリ市が運営するレンタルサービス「Vélib(ベリブ)」に対抗する。

電動スクーターを提供する中国企業の小牛(NIU)もフランスへの上陸を果たした。2014年に設立されたニウは、中国ではすでに自社製品35万台を販売している。同社は2017年に複数のベンチャーキャピタルから合計6,000万ドルの調達に成功。さらにクラウドファンディングで2,400万ドルを調達した。

フランスでスタートアップが成功する背景には、国をあげたスタートアップへの手厚い支援がある。「フレンチテック・チケット」や「フレンチテック・ビザ」といった外国起業家が利用しやすいサービスが整備されていることに加えて、アクセラレータやインキュベータが活躍できる施設や提供プログラムの数が増加傾向であること、集客力の高い見本市やイベントにおけるピッチの機会が多く与えられていることも背景にある。

2013年以降スタートアップを支えてきたフレンチテック戦略は、政府が進めているイノベーション政策の成果を反映させ、より進化した内容に改善される予定であり、さらなるスタートアップの躍進が期待される。

執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
長屋 幸一郎(ながや こういちろう)
2007年、ジェトロ入構。2014年より現職。機械・ハイテク分野の展示会事業・調査業務に従事。

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