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特集:欧州に学ぶ、スタートアップの今世界最先端のIT国家は多くのスタートアップを輩出(エストニア)

2018年6月15日

バルト海に面するバルト3国のうち一番北に位置するエストニアは人口130万人の小国だが、国を挙げてIT化に積極的に取り組んでいる。同国で開発されたインターネット電話のスカイプの出身者が関与しているスタートアップが多い。また、政府は電子政府(e-Government)を2000年以降積極的に推進しており、今では99%の手続きがインターネットでできるため、海外のスタートアップが進出しやすいシステムも整備されている。

Skype発祥の地

エストニアのスタートアップは、スカイプ(Skype)の存在なしに語ることはできない。2003年に設立されたインターネット電話のスカイプは、2005年にイーベイ(e-Bay)に、さらに2011年にはマイクロソフトに85億ドルという高額で売却されたが、スカイプはエストニアで開発されたソフトウエアであり、現在でも開発本部はエストニアにある。スカイプはエストニアのスタートアップの成功例であり、エストニアのスタートアップにはスカイプ出身の技術者が携わっている例も少なくない。スカイプの技術者が関わっている代表的なスタートアップとして、タクシー配車アプリのタクシファイ(Taxify)、海外送金アプリのトランスファーワイズ(Transfer Wise)、データ・サイエンスを利用し、個人の嗜好(しこう)や生活・仕事のスタイルに合った移住先を見つける都市マッチングサービスのテレポート(Teleport:2017年4月に英国ムーブガイド社が買収)などが挙げられる。

スタートアップを輩出する風土

エストニアの政府機関である「スタートアップ・エストニア」が500社近いスタートアップ業界を支援している。スタートアップとインキュベーター、アクセラレーター、ベンチャーキャピタル、官民のパートナー企業など支援する企業が連携して、スタートアップに最高の環境を提供することを目指している。エストニアの人口当たりスタートアップ数はイスラエルに次いで世界第2位であるという。

スタートアップ・エストニアのマアリカ・トル代表とリボ・リストップ ストラテジストによると、エストニアでは2004年の欧州連合(EU)加盟以降、若年層の国外流出が顕著になっている。特にサービス業に従事する若者は西欧諸国の給与に魅力を感じ、国外に出ることが多い一方、IT関連のエンジニアはエストニアに残る傾向が強いという。エストニアでは小さい頃からビジネス感覚を身に着ける教育が行われ、プログラミング言語のジャバ(JAVA)でのコーディング(プログラムの作成)も小学生から学習する。そのため、IT技術に強い若者が多く、スタートアップの原動力となっている。また、海外からエストニア企業に就職する人、エストニアで起業する人に対してのビザ発行が迅速で、エストニアに魅力を感じる若者を各国から呼び寄せるための国の体制も強力だ。更に、小国ゆえに、外国語教育にも力を入れている。小学校1年生より母国語(エストニア語)以外に2カ国語を学習するため、若年層の大半は英語でのコミュニケーションに問題なく、全てのスタートアップでは英語が社内公用語になっているという。さらに国内で年間約250回開催されるスタートアップ関連のイベントも全て英語で行われる。


スタートアップ・エストニア主催のセミナー(スタートアップ・エストニア提供)

スタートアップに対するバックアップ体制が充実

スタートアップ・エストニアの主な活動の柱として、

  1. 統一的なスタートアップの生態系を構築し、マーケティングとブランディング戦略を作成し実行し、エストニアをスタートアップの拠点として売り込む
  2. スタートアップに不足している分野の研修を実施し、国際的競争力を向上させる
  3. 地元投資家の教育、海外投資家の誘致、アクセラレーター資金の設立
  4. 国内資金調達などを複雑にする規制や障壁の撤廃、EU域外の起業家に対するスタートアップビザの迅速な発行など、EU域外出身の起業家にとっての容易な開業に資する制度・手続きの導入

の4点が挙げられる。トル代表は「現在500社程度あるスタートアップを2020年には1,000社にすることを目標に活動している」と語る。スタートアップへの投資額も近年急上昇しており、2017年には約2.7億ユーロが投資された(図)。

図1:エストニアのスタートアップへの投資額と件数の推移
2006年から2011年までは毎年1,000万ユーロ程度で推移していたが2012年から飛躍的に伸びている。2015年には9,700万ユーロ、2016年は1億400万ユーロ、2017年は2016年から約2.5倍増の2億7000万ユーロに達した。投資件数は2013年以降毎年40件前後で推移している。
出所:
スタートアップエストニア

福岡市のスタートアップとの連携

リストップ氏によると、エストニアと福岡市はスタートアップに関してのMoU(覚書)を締結し、積極的に交流している。2018年の5月25~26日に首都タリンで開催されたエストニア電子政府が主体のスタートアップのイベント「ラティテュード59コンファレンス」へ福岡市はスタートアップ企業や投資家からなるのべ40名以上の代表団を派遣。福岡市ブースが開設された。さらなる交流の深化が期待される。

エストニアの電子政府

エストニアのITの先進性を示すものとして、電子政府(e-Estonia)が挙げられる。2000年より順次導入されている電子政府は世界の中でも先進的だ。国民が自身の多様な情報が保存されたIDカードを持ち、公共サービスや納税申告、選挙、個人の医療データ管理、処方箋の発行、住民登録、会社登記などを電子的に行うことができる。電子政府のホームページによると、現在では行政サービスの99%がデジタル化されているという。この電子政府はサイバーセキュリティーに関しても万全を期している。 (表参照)。

表1:エストニア電子政府(e-estonia)の構成図

e-アイデンティティ 相互運用性サービス 保安と安全
デジタルサインの使用率は欧州一
  • IDカード(選挙、医療記録、税申告、処方箋)
  • モバイルID(携帯電話を使ったID)
  • e-residency (外国人の電子居住)
  • スマートID
800年分の人件費の節約
  • X-ロード(官民のデータベースの連携)
  • e-Land Register (土地登記)
  • 住民登録
  • シェアマインド(データ分析プラットフォーム)
KSIブロックチェーンはエストニアで開発
  • KSIブロックチェーン
  • e-law (司法省のデータベース)
  • e-court(裁判手続きの管理)
  • e-police(電子警察システム)
ヘルスケア e-ガバナンス(電子管理) モビリティ・サービス
データ保護にブロックチェーンを採用
  • e-HealthRecords (電子原稿記録)
  • e-prescription(電子処方箋)
国民サービスの99%は電子サービス
  • e-voting(インターネット投票)
  • State e-Services Portal (国家の電子サービスポータル)
  • e-Cabinet (政府用情報システム)
2017年から無人運転車を許可
  • インテリジェント交通システム
  • 自動モバイル駐車場
  • 国境通過管理サービス(ロシア国境3カ所)
ビジネスと金融 教育
18分で会社設立手続きが完了
  • e-tax (オンライン納税、利用率95%)
  • e-banking (インターネットバンキング)
  • e-business register (インターネット会社設立)
  • インダストリー4.0
生徒のITキャリアはOECDの2倍
  • e-school(教育用ウェブアプリケーション)
  • dream apply(大学向けアプリケーション)
  • エストニア教育情報システム
  • ELLIS(幼稚園の保護者と教師の連絡ツール)
出所:
エストニア電子政府ホームページよりジェトロ作成

この中でとりわけ海外のスタートアップに魅力的なのはe-residencyと言われる外国人の電子居住制度だ。所定の手続きをすれば海外に住みながらエストニアの「電子」住民になり、政府が提供する種々の電子サービスを受けることができる。この制度を利用して法人の登記も可能だ。電子政府によれば登記手続きはオンラインにて18分で完了する。海外に在住しながらエストニアに会社を設立し、そこを拠点にEUでのビジネスを展開することも可能となる。さらに20%の法人税は、配当金を分配する際にのみ発生し、配当をしない限りは利益にも法人税がかからないという大きな魅力がある。

多くの分野で世界に飛躍

エストニアのスタートアップのうち、既に世界を市場にして活動している企業も多い。

2014年創業の世界の短期求人サイトを運営するジョバティカル(Jobbatical)は、世界中の短期契約の求人情報を掲載するサイトを運営している。国境を越えた求人サイトの運営は同社が初めてだという。40カ国以上2,300社が求人掲載登録をし、世界中で16万人以上(2018年3月時点)が同サイトに登録しており、今も増加中という。求人の職種で最も多いのはITのプログラマーだ。多くのスタートアップではプログラマー人材の不足が深刻で、世界的に能力の高いプログラマーに短期間集中的に業務を依頼したいという要望が多いという。

外国語学習アプリのリングビスト(Lingvist)は2013年に創業した。人工知能(AI)を使ったスマホ用外国語学習アプリ「リングビスト」を開発している。既に14コース(学習対象の言語+学習するために使用する言語の組み合わせ)があり、日本語で英語を学習するソフトは日本でも販売されている。リングビストの大きな特徴は、全学習者のデータをビッグデータとして蓄積し、学習者ごとの進捗(しんちょく)や学習の傾向をAIで解析し、カスタマイズ(個別化)された学習方法、アドバイスを提供していくことにある。

自動車のバリューチェーン管理プラットフォーム制作のアウトバーン(Autobahn)は2012年末にスカイプのエンジニアが中心となって創業し、ドイツにも拠点を構える。顧客が自動車を発注してから納入に至るまでの過程で、その自動車が発注・生産・出荷・納車のどの過程にあるのか分かりにくいという声が製造者(OEM)、輸入者、車ディーラーや購入者から多く出ていた。そこで、アウトバーンは、一連のバリューチェーンの関係者がその自動車の状況を確認できるプラットフォームを開発した(図2参照)。

図2:アウトバーンのプラットフォームでの情報伝達のフロー
従来車の製品、提案、発注、配達、納車、アフターサービスの情報は製造者、輸入者、ディーラーがバラバラに把握しており、各々が電話やメールで状況を確認する必要があった。アウトバーンのプラットフォームを導入すれば、情報が一元化され、必要な関係者が共有でき、納期確認などに要する時間を大幅に削減することが出来る。
注:
〇は情報の起点と終点を示し、その間にある組織も共有。
出所:
アウトバーン
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課 アドバイザー
我妻 真(あがつま しん)
電機メーカーで30年以上海外とのビジネスに携わり、海外の顧客に機器を販売。
米国・ヒューストン、ロサンゼルス、ドイツ・フランクフルトと通算10年以上にわたる海外駐在を経験。営業、マーケティング、予算作成・管理、サプライチェーンマネジメント、労務管理、契約、法律/規制の調査等に携わる。2016年4月より現職。

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