民間事業者参画の枠組みは維持も、国の役割を重視(メキシコ)
メキシコの電力部門法(LSE)施行による変化を読み解く
2025年5月1日
メキシコで、発電事業における電力庁(CFE)の役割を強化する憲法改正案が2024年10月に国会を通過し、同月末に官報で公布された。これは、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)氏が、大統領時代の2024年2月5日に国会に提出した憲法改正案の1つだった。その内容を法律レベルに反映する電力部門法(LSE)が2025年3月18日に官報で公布され、翌日施行された。民間企業の参入機会を大幅に拡大した2014年8月の電力産業法(LIE)を廃止し、国の役割を強化することが新法の目的であるため、新法が民間事業を大きく制限する内容になることが懸念されていた。しかし、実際は、新法は民間部門が参画できる分野を明確にする内容となっており、売電を主目的としない自家発電事業などは、今までより円滑に実施が可能になるとみられる。新法LSE施行による変化について解説する。
AMLO大統領の「負の遺産」の1つ
クラウディア・シェインバウム大統領は2025年2月4日、エネルギー部門に関連する一連の法案を国会に提出した。2024年10月末に公布された、エネルギー分野で国の優先事項を定めた憲法改正の内容を反映するものだ。同改正は、AMLO前大統領が政権最終年に国会に提出したものの一つだ。2024年6月の上下両院選挙で与党の国会再生運動(MORENA)が大勝し、憲法改正に必要な3分の2以上の議席をほぼ獲得したことにより、2024年9~12月の会期に多くの憲法改正が成立した。一連の憲法改正について、ビジネス界は、メキシコの中長期的な競争力低下を招くことを懸念し、AMLO前大統領が残した「負の遺産」と捉えていた。
エネルギー部門に関連した以下の一連の法改正案は、MORENAが過半数を占める国会でほとんど修正されることなく成立し、3月18日に公布された。適用は翌日から開始している。
- 電力部門法(LSE)
- 炭化水素部門法
- 国家エネルギー委員会(CNE)法
- 国営企業法:電力庁(CFE)
- 国営企業法:石油公社(PEMEX)
- エネルギー計画・転換法
- バイオ燃料法
- 地熱法
本レポートでは、進出日系企業のメキシコでの電力事業に最も大きな影響を与える1.と3.について、重要なポイントを解説する。1.のLSEは、旧LIEに代わる電力事業の枠組みを定める新法だ。3.のCNE法は、電力事業や炭化水素関連事業の許認可を付与する従来のエネルギー規制委員会(CRE)に代わり、国家エネルギー委員会(CNE)を設立する組織法だ。両法の内容をまとめると、次が重要なポイントとなる。
- (1)
- 電力部門開発計画の強制力を強化
- (2)
- 公的発電・売電事業での国の優先
- (3)
- 規制機関におけるエネルギー省の影響力拡大
- (4)
- 分散型発電事業の上限引き上げ
- (5)
- 自家発電事業の許認可付与の円滑化と売電先の制限
- (6)
- CFEとの長期売電契約や大規模発電でCFEとの合弁を導入
- (7)
- 間欠性電源による発電事業で蓄電システムの整備を義務付け
- (8)
- 電力卸売市場(MEM)の存続と売電事業の既存枠組みの継続
(1)~(3)は、AMLO前大統領が国会に提出した憲法改正案を色濃く反映した、民間事業者にとって負の影響が強い内容だ。(4)~(8)については、電力開発に民間資本を活用する、相対的にポジティブな内容となっている。
電力部門開発計画に強制力、公的発電・売電事業で国の優先を確保
LSEの第4条は、電力供給を公共の利益と定めており、そのための発電、売電は競争原理に従うものの、改正後の憲法27条に基づき、民間企業が(国に対して)優位性を保つことはできないとしている。LSE第12条は、国(エネルギー省)が強制力のある電力部門開発計画を策定し、その中で国家電力系統に流される電力のうち、年平均で54%以上を国が供給することを保証すると定めている。電力部門開発計画には発電所の新設や既存発電所の撤去も盛り込まれるため、政府の計画の中で民間事業者のビジネスが意図的に阻害される懸念がある。ただし、改正後も「国の優位性は、電力系統の信頼性と安全性を確保した上で、コストを最小化する経済原則に従った送電により達成されるべき」としているため、国と民間事業者の間にもある程度の競争原理が働くものとみられる。
また、電力事業に関連した許認可を付与する機関の位置づけも変更となった。従来この役割を担っていたCREが省庁から独立した規制機関だったのに対し、新法でこの役割を引き継いだCNEはエネルギー省の下部機関となった。CNE法の第2条で、CNEは専門的な機関であり、技術面、運営面、手続き面、決定に独立性を有すると定めているものの、許認可付与や規制・規則・規格などを承認する専門委員会の委員構成では、エネルギー省の力が大きく強まった。CREの理事(審査委員)には、大統領が専門性を持つ人材の候補を選定し、上院の承認を得て任命していた。これに対し、CNEの専門委員会では、エネルギー相が委員長を務める。委員はエネルギー省電力担当次官、エネルギー省炭化水素担当次官、CNEの電力担当ユニット長、CNEの炭化水素担当ユニット長、3人のエネルギー分野の専門家から成る。8人の委員のうち、エネルギー省から3人が就任、2人のユニット長もエネルギー相が任命できるため、エネルギー省の意向が大きく反映される。エネルギー省が民間事業者への許認可付与に後ろ向きであれば、それが反映されてしまうため、同委員会の独立性の欠如を懸念する識者は多い。
LSEの第16条は、発電事業について、国、民間企業、国と民間企業の合弁により行うことができるとしており、民間企業の参入を認めている。民間事業者によって発電された電力のどこまでが、国が54%以上、民間が46%以下という制限を受けるのか、この範囲の特定が民間事業者の電力事業への参入機会を把握する上で重要だ。この点を中心に解説を進めていく。
分散型発電の上限拡大、一定規模までの自家発電事業許認可付与を円滑化
メキシコの発電事業への民間事業者の参画は、1992年に施行された電力公共サービス法(LSPEE)に基づく発電事業にさかのぼる。LSPEEで民間開放された発電事業の対象は、自家発電、独立発電事業者(IPP)、コジェネレーションで、原則として自己消費目的、またはCFEの下請けとしての発電事業に限定された。その後、2013年末のエネルギー改革を反映した2014年8月公布のLIEに基づき、電力卸売市場(MEM)が創設された。発電事業が全面的に自由化されるとともに、電力需要が1メガワット(MW)を超える大口需要家に対する売電も自由化された。
新法LSEは、国の役割を重視しつつ、民間部門による発電事業の枠組みを維持している。LSEの第17条は、民間発電事業の形態として、次の3つを定めている。なお、旧法の下で締結された契約や、与えられた許認可などは、それぞれの有効期限内は引き続き有効だ。ただし、エネルギー省は今後、新法体系下の契約や許認可への自主的な移行を推進する。
- (1)
- 分散型発電(Generación Distribuida)
- (2)
- 自家発電(Autoconsumo)
- (3)
- MEM向けの発電(Generación para el Mercado Eléctrico Mayorista)
(1)については、従来どおり発電許認可は不要だが、許認可が不要となる発電容量の上限が従来の0.5MW未満から0.7MW未満に引き上げられた。分散型発電とは、主に太陽光パネルなどを家屋や工場の屋根などに設置する自家発電事業を指す。CFEとの間で電力売買契約を締結し、専用の双方向メーターを設置する。そうすることで、(a)自ら発電した電力量の相当分をCFEからの購入量から控除した上で電力料金を支払うネットメータリング、(b)自ら発電した電力をCFEに市場価格で売電した上で、その分をCFEに支払う電力料金から差し引くネットビリング、(c)CFEからの電力調達がなく、純粋に発電した総量をCFEに売電する全量売電のいずれかを行うことができる。CFEから調達する電力の料金が市場価格よりも割高な産業用電力の場合、CFEからの購入量を減らすネットメータリングが有利だ。産業用中圧電力について、2022年末にネットメータリングを廃止する規則改定が検討されていた(2022年11月21日付ビジネス短信参照)が、同改定は実現しなかったため、今後もネットメータリングは利用できるとみられる。
(2)については、電力系統に接続する自家発電と、系統に接続しない自家発電に分類される。双方とも「再生可能エネルギー(RE)による発電が望ましい」(LSE第30条)とされている。系統に接続しない場合は、自社施設内、すなわち私用電力網の中で全て消費しなくてはならない。この場合は「電力供給」とはみなされず、「供給事業者」としての許認可は不要(発電許認可は必要)だ。系統接続する自家発電事業の場合、発電許認可に加え、系統接続許可が必要で、余剰電力は全てCFEに売電する必要がある。風力や太陽光など間欠性電源による発電の場合、蓄電システムによるバックアップを自ら設置するか、CFEに対価(注1)を支払う必要がある。
1992年に施行された旧LSPEEに基づく自家発電は、発電事業者とオフテイカー(注2)との間に資本関係があれば(オフテイカーが発電事業会社の株主であれば)、民間企業間での買電が可能となっていた。新法LSEでは、同スキームを問題視したAMLO前大統領の意向が反映され、発電した電力は許認可を受けた発電事業者の敷地内で消費されることが前提となっている。余剰電力が発生した場合は全てCFEに売却することが義務付けられている(表参照)。
なお、LSEの第30条は、0.7~20MWの系統接続自家発電事業については、許認可取得手続きが簡素化されると規定している。20MWであれば、一般的な工場の電力需要は賄うことができると考えられるため、売電を主目的としない自家発電の許認可は、円滑に取得できるようになると期待される。
表:電力部門法(LSE)発効による発電事業の変化
発電形態 | 旧法(LSPEE) | 旧法(LIE) | 新法(LSE) | 備考(LSE) | ||
---|---|---|---|---|---|---|
主要変更点 | 54%:46% | |||||
分散型発電 (CFEとの契約) |
規定なし |
許認可不要 0.5MW未満が対象 |
許認可不要 0.7MW未満が対象 |
対象外 | 現行規則が変更されない限り、ネットメータリングも維持される見込み。 | |
自家発電 | 系統接続なし | 要許認可。オフテイカーとの間に資本関係があれば買電可能。 | 要許認可。自社またはグループ内の需要向けに限定。 | 要許認可。自社施設内の利用に限定。 | 対象外 |
RE発電を優先。 0.7~20MWまでの許認可取得は簡素な手続きに。 間欠性電源による発電で蓄電設備を設置しない場合、CFEから関連サービスを調達することも可能。 |
系統接続あり | 要許認可。売電はCFE向けのみ。間欠性電源は蓄電能力確保が必要。 | 対象外 | ||||
独立発電事業者 (CFEとの長期売電契約) |
要許認可。 100%CFEに売電。 |
特別な規定なし。「発電事業者」として定義。 |
要許認可。 100%CFEに売電。 |
対象外 | 系統接続が前提。国家計画に従って発電所を建設。国はCAPEXを負担しない。 | |
MEM向けの 大規模発電 |
CFEとの合弁 | N.A. | 規定なし | 要許認可。CFEに優先調達権。 | 現状不明確 | 系統接続が前提。MEMに参加する事業者であればCFE以外にも売電可能。 |
民間のみ | N.A. | 要許認可。CFEまたは民間供給事業者に販売。 | LIEと同様。 | 対象 | ||
コジェネレーション |
要許認可。 余剰電力はCFEに売電。 |
特別な規定なし。通常の「発電事業者」として定義。 | 工業プロセスで必要な熱量を賄える範囲内の発電能力に限定。 | 対象外 | 以前より制限が加わるため、売電目的のコジェネ許可は出ない。 |
注:54%:46%は、公的部門が年平均で54%以上の発電を行うという制限の対象かどうかを示す。
出所:公共電力サービス法(1992年)、電力産業法(2014年)、電力部門法(2025年)条文などから作成
電力卸売市場の枠組みは維持、大規模発電事業にはCFEと合弁の可能性も
2014年8月に施行されたLIEで導入した電力卸売市場(MEM、2017年12月25日付地域・分析レポート参照)は、LSEの下でも存続する。MEMの市場原則や運用規則、系統接続に関するルールを定めるグリッドコードは、新たなルールが策定・公布されるまでは、既存のものが適用される。また、MEMで取引されるクリーンエネルギー証明書(CEL、注3)のメカニズムや取得要件についても、大きな変更はない。MEMで実施される競売制度の枠組みも現時点で変更が予定されておらず、AMLO前政権下では一度も行われなかったRE発電を推進するための長期電力競売(SLP)が今後は実施される可能性もある。
MEMで売電することを前提に発電する事業者は、CNEの発電許認可、系統接続許可を得る必要があるほか、民間事業者を合計して系統に流される電力量の年平均46%までに送電が制限される。
大規模発電事業については、国と共同で実施することも可能だ。LSEの第38条は、国と民間事業者との電力の共同開発について、次のとおり規定している。
- (1)
- 長期(契約)発電
- (2)
- 共同投資
- (3)
- その他施行規則や細則で定める形態
(1)は、国の電力部門開発計画に従い、CFEが民間事業者との間で長期契約を締結することにより、民間事業者の出資で発電所を建設し、発電した電力の全量をCFEが買い取るスキーム(LSE第39条)だ。LSPEEに基づく独立発電事業者(IPP)のスキームとほぼ同様だが、同事業者は別の形態の許認可を得ることはできず、CFEとの契約で約束した以上に発電したとしても、他社に余剰分を販売することはできない(LSE第39条Ⅲ項)。ただし、MEMでは、LSE第39条V項に基づいてCFEが民間事業者を代表することになる(注4)ため、国の発電事業とカウントされるとみられる(民間部門の46%までの送電制限の枠外)。
(2)は、国と民間事業者が合弁で発電事業会社を設立し、MEMに向けた発電事業を行うという形態だ(LSE第40条)。この場合、国が54%以上を出資する。発電した電力の優先購入権はCFEが持つが、CFEが購入しなかった電力については、MEMで販売することが可能。この合弁企業が発電した電力は国の発電とみなされるのか、民間の発電とみなされるのか、法律の解釈では不透明だ(注5)。施行規則などで明確になることが期待される。
LSEの第41~43条は、コジェネレーション(熱電併給)について規定している。発電事業許認可の一形態として規定しているが、1992年のLSPEEに基づくコジェネレーションと比べると、要件が厳格化されている。発電容量は、事業所の工業プロセスで必要となる熱エネルギーを満足させる量に限定され、工場の排熱から発電する場合は、当該排熱を利用して発電できる容量に限られる。
売電事業に関する規則に大きな変更なし
LSEは、発電以外の分野では旧LIEと比べて大きな変化がない。ただし、電力需要が1MWを超える有資格利用者(注6)以外の利用者(民生、商業、工業)に電力を供給する基礎サービス供給事業者には、国営企業のCFEしかなれないと明記された(注7)。送配電事業は、国のみに許された戦略的事業領域として憲法が規定しているため、CFEが引き続き担う。電力の販売(供給)事業に関しては、大口の有資格利用者に対する売電事業は、CNEから有資格供給事業者としての許認可を得れば、民間企業でも実施できる。有資格供給事業者は、MEMを通じて発電事業者から電力を調達し、有資格利用者に販売する。
LSE第61条は、以下に相当する場合、「売電事業」(Comercialización)に該当せず、供給事業者としての許認可や登録は不要としている。この規定は、旧LIEの第46条の規定からほとんど変更がない。
- (1)
- 最終消費者から第三者への売電で、当該電力が私設配電網の中で利用される場合
- (2)
- 第三者から最終消費者への売電で、当該電力が最終消費者の敷地内、または私設配電網の中で分散型電源により発電された場合
(2)は、家庭や工場などが第三者の所有する太陽光パネルなどの分散型発電設備によって発電された電力を購入する場合を指すとみられる。(1)については、2018年12月17日に公示されたCREの解釈基準が参考になる。次のようなケースが該当する。
- A)
- 電気自動車(EV)充電スタンド運営業者がEV所有者などに売電する
- B)
- レンタルオフィス・アパートの所有者が賃借人に売電する
- C)
- ショッピングモールの開発業者(所有者)がテナントに売電する
- D)
- レンタル工場の開発業者(所有者)が入居企業に売電する
- E)
- 空港など公共施設の所有者が携帯電話などの充電サービスを提供する
前述の解釈基準に従うと、工業団地などが最終消費者となった上で自家発電を行い、同じ敷地内の入居企業に電力を販売しても、「売電事業」とはみなされない。0.7MW以上ならば発電許認可が必要となるが、供給事業者としての許認可は不要と解される。ただし、工業団地内の敷地をレンタルではなく、入居企業が「所有」している場合、最終消費者と「同じ敷地内」または、最終消費者の「私設配電網内」とはみなされず、民間企業間の「売電事業」としての規制を受ける可能性が高い。
時の政権の意向が強く反映される危険性も
新しいLSEの枠組みには、電力分野で国の影響力を強くする内容が盛り込まれている。全ての国民に電力という生活必需サービスを安定的に提供するのは国の役目という考えから、条文では「エネルギーの正義(Justicia Energética)」という言葉も用いている。他方、RE発電事業を中心に、国営企業だけでは不十分な部分を民間投資により補うという意向もみられる。特に20MWまでの自家発電事業の許認可を円滑に出すことにより、RE発電の比率を高めていきたいと考えるシェインバウム現政権の特徴も垣間見える。
新法で問題となるのは、民間事業者の参入が認められている発電分野で、政権の意向が反映されやすいということだ。国が策定する国家電力開発計画は強制力を持つ。その中には発電所の増設や撤去も盛り込まれるため、新設の発電所はCFEを優先し、民間に発電許認可を出さないという対応を国が行いうる。また、許認可を審査するCNEの委員の大半がエネルギー省関係者となるため、AMLO前政権下でデファクトで行われていた(注8)民間事業者に対する新規許認可を出さない、申請プロセスを意図的に遅延させるといった対応も可能になる。
民間企業との連携を重視するシェインバウム現政権下ではこのようなリスクは高くないかもしれないが、政権交代によって再びエネルギーナショナリズムの強い政権が生まれた場合、新法の法的枠組みが民間事業者にとって大きなリスクになる可能性は否定できない。
- 注1:
- 自ら設置した蓄電システムがない場合は、CFEのバックアップ電源を利用することになるが、その対価をCFEに支払う必要がある。
- 注2:
- 事業会社が提供するサービスを購入する者、引き取り手。
- 注3:
- クリーンエネルギー発電事業者に対して、CNEが発電量に応じて発行する証明書で、MEMで自由に売買される。MEMに直接参加する資格がある電力の大口需要家〔需要電力が5MW以上、かつ年間の消費電力量が20(ギガワット時)GWh以上〕、あるいは、電力調達先を自由に選択できる需要家(需要電力が1MW以上)に代わってMEMで電力を調達して販売する電力供給事業者は、1年間の総消費(購入)電力量の一定比率以上の電力量に相当するCELを取得し、精算しなければならない。CELの取得・精算義務を満たさない大口需要家や卸売り事業者に対しては、罰金が科される。
- 注4:
- 長期契約で民間事業者から購入した電力を、MEMにおいてCFEの名で第三者に販売することになる。
- 注5:
- 法律事務所やコンサルティング会社のレポートをみると、国がマジョリティを占める事業会社の発電なので100%国の発電とみなされるべき、出資比率に応じてカウントされるべき、CFEが購入した分は国の発電としMEMを通じて民間に売電した分は民間の発電とみなすべき、などさまざまな見解が存在する。
- 注6:
- 電力需要が1MWを超える事業者で、CNEに対して必要な登録を行った大口の電力利用者(消費者)のこと。CFE以外の有資格供給事業者から電力を自由に調達することも可能。電力需要の要件を満たしても、CNEに対して有資格利用者としての登録を行わない場合、基礎サービス供給事業者であるCFEから電力を調達することになる。
- 注7:
- LIEでは、国営企業でなければ基礎サービス供給事業者になれないという明確な規定は存在しなかったが、実際は今までもCFEのみが基礎サービス供給事業を行っている。
- 注8:
- AMLO前政権下では、LIEに基づき、許認可の要件を満たす発電許認可の申請であっても、さまざまな理由を使って却下したり、意図的に審査を遅らせたりしていた。米国政府はこの行為を「法の不作為」と称し、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に違反するとして、同協定の紛争解決の枠組みで協議を申し入れた(2022年7月21日付ビジネス短信参照)。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部米州課主幹(中南米)
中畑 貴雄(なかはた たかお) - 1998年、ジェトロ入構。貿易開発部、海外調査部中南米課、ジェトロ・メキシコ事務所、海外調査部米州課を経て、2018年3月からジェトロ・メキシコ事務所次長、2021年3月からジェトロ・メキシコ事務所長、2024年5月から調査部主任調査研究員、2025年4月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『グローバルサプライチェーン再考: 経済安保、ビジネスと人権、脱炭素が迫る変革』、『NAFTAからUSMCAへ-USMCAガイドブック』など。