リチウム国有化に向けた鉱業法改正を施行

(メキシコ)

メキシコ発

2022年04月21日

メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領が4月17日に国会に提出した鉱業法改正(2022年4月19日記事参照)は、4月18日に下院、4月19日に上院を通過し、4月20日付連邦官報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで公布された。発効は翌21日。上院の採決では、野党の市民運動党(MC)も賛成票を投じた。主な改正内容は以下のとおり。

  1. リチウムを公共利益と宣言し、民間部門へのコンセッションや許認可などを与えない。リチウム埋蔵地帯を鉱業保護区と見なす。リチウムを国の所有とし、探査、開発、掘削、利用をメキシコ国民の利益のために留保する。リチウムのバリューチェーンは、第10条が定める国営独立機関により運営、管理される。メキシコ地質調査所(SGM)は、リチウムの埋蔵確認や評価において、上記国営独立機関を補佐する(第5条Bis)。
  2. リチウムや他の「戦略的鉱物」については、国が民間に与える開発コンセッションの対象から外す。リチウムの探査、開発、掘削、利用については、国の独占とし、連邦政府が定める国営独立機関により実施される(第10条改正)。
  3. 連邦政府は法改正施行後90日以内に、国営独立機関を創設する規則を策定、公布する。同機関の創設は2022年度予算の範囲内で行い、歳出予算の増額はない(法改正令付則第3条)。

リチウム国有化の草案は、電力再国有化に向けた憲法改正案の一部だったが、同改正令(案)付則6条に規定されていた「経済省から正式に承認された探鉱活動が改正発効日までに民間企業により行われていた場合、同コンセッションは破棄されない」という内容は、今回の鉱業法改正の中には見当たらない。

メキシコ鉱業会議所は法的不安定さが増すと問題視

リチウム国有化に関しては、電力再国有化とは異なり、民間部門の中にも賛成の声がある。メキシコ・リチウム会議所のマルコ・アントニオ・サンチェス会頭は、大手テレビ局「テレビサ」の4月19日朝のニュース番組に出演し、リチウムは国防の観点からも戦略的な資源とし、国の管理の下で開発を進める意義を認めている。他方、メキシコ鉱業会議所(CAMIMEX)は4月19日付でプレスリリースPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を出し、憲法第27条に基づき、以前からリチウムは他の鉱物資源とともに国の所有(注)とされていたため、あえて鉱業法を改正する必要がなかったこと、既存のコンセッションの扱いやリチウム以外の「戦略的鉱物」について明確に規定されていないことにより法的不安定さが増していること、メキシコではリチウムの埋蔵についての十分な調査が行われておらず、民間を排除して経験のない国営企業だけで開発するには無理があること、などを問題視している。

また、メキシコのリチウムの鉱床は、地層(粘土層)の関係から、他国と比べて開発技術とコストの問題が大きいといわれており(2022年4月4日付JOGMECレポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)、緊縮財政を敷く現政権下では、開発の進展に相当な期間を要するだろう、と指摘する識者も多い。

(注)憲法第27条は、全ての鉱物資源を国の所有としている。ただし、炭化水素資源や放射性鉱物を除き、民間部門へのコンセッションを付与することにより、民間部門が資源開発することを認めている。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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