トランプ米大統領、安全保障上の懸念に基づき、木材などへの追加関税賦課を決定
(米国)
ニューヨーク発
2025年10月01日
米国のドナルド・トランプ大統領は9月29日、木材・製材とその派生品に1962年通商拡大法232条に基づく追加関税を課す大統領布告を発表し、同日にファクトシート
も発表した。商務省産業安全保障局(BIS)は3月10日に、木材の輸入に対する232条調査を開始していた(2025年3月14日記事参照)。
232条は、特定製品の輸入が米国の国家安全保障に脅威を及ぼすと商務長官が判断した場合に、追加関税などの措置を発動する権限を大統領に認めている(注1)。大統領布告によると、商務長官は7月1日に調査報告書を大統領に提出した。報告書では、木材の輸入が米国の製材所の閉鎖や木材製品のサプライチェーンの混乱といった持続的な脅威をもたらし、戦争省(国防総省、注2)による軍事演習インフラの構築やミサイル防衛システムの部品などに影響が及ぶ恐れがあることなどから、安全保障上の脅威があると結論付けた。これらを踏まえ、大統領は木材の輸入に関税を課すことが適切だと判断した。
232条関税の対象となる品目の米国関税分類番号(HTSコード)は大統領布告の付属書1(Annex 1)に記載されており、米国東部時間2025年10月14日午前0時1分以降、次の232条関税が一般関税(MFN関税)などに上乗せされる(注3)。
- 木材・製材に10%。
- カウチ、ソファ、椅子などの布張り木材製品に25%。2026年1月1日から30%に引き上げ。
- キッチンキャビネット、洗面化粧台、それらの部品に25%(注4)。2026年1月1日から50%に引き上げ。
ただし、これまでの米国との交渉結果により、英国からの木材製品の輸入に対する232条関税率は10%を超えず、EUや日本に対しては一般関税率と232条関税率を合計して15%を超えないと定めた。また、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づくブラジル(2025年8月1日記事参照)、インド(2025年8月7日記事参照)への追加関税の対象となっている場合、木材製品に対する232条関税は対象外となる。
自動車・同部品に対する232条関税の対象となっている場合は、木材製品への232条関税は課さない。一方で、合成麻薬フェンタニルなどの流入阻止を目的にしたIEEPAに基づくメキシコ・カナダ産品への追加関税の対象となっている場合は、木材製品への232条関税を優先し、フェンタニル関税の対象にはならない(注5)。
大統領布告では、相互関税の対象外となっていたHTS44類に分類される木材(2025年9月8日記事参照)を相互関税の対象とするよう定めた。従って、232条関税の対象とならない木材製品は、原則として相互関税の対象となる。
そのほか、商務長官に対して、木材製品の輸入を監視し、2026年10月1日までに追加措置の必要性などを大統領に報告することを定めたほか、追加関税の対象品目を拡大するプロセスの確立も指示した。トランプ政権2期目で発動した232条関税は、対象品目の拡大プロセスの創設が特徴の1つとなっている(2025年9月17日記事参照)。
(注1)232条に基づく調査、報告、措置決定などの手続きの詳細は、2024年12月10日付地域・分析レポート参照。
(注2)トランプ氏は9月5日に、国防総省を戦争省と呼称することを認める大統領令を発表している。
(注3)木材・製材のHTSコードは4403.11.00、4403.21.01、4403.22.01、4403.23.01、4403.24.01、4403.25.01、4403.26.01、4403.99.01、4406.11.00、4406.91.00、407.11.00、4407.12.00、4407.13.00、4407.14.00、4407.19.00。布張り木製製品のHTSコードは9401.61.4011、9401.61.4031、9401.61.6011、9401.61.6031。キッチンキャビネットと洗面化粧台、それらの部品のHTSコードは9403.40.9060、9403.60.8093、9403.91.0080。
(注4)部品に対しては、キッチンキャビネットや洗面化粧台向けに使用される場合のみ追加関税を課す。
(注5)トランプ政権は複数の追加関税措置を同時並行で発動していることから、特定の追加関税措置に対しては、累積して関税を課さない措置をとっている(2025年4月30日記事参照)。現在の優先順位は、(1)自動車・同部品、(2)鉄鋼・アルミニウム、銅、木材、(3)カナダ・メキシコ産品に対するIEEPAフェンタニル関税となっている。
(赤平大寿)
(米国)
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