米環境保護庁、石油・ガス規制の順守期限を18カ月延長

(米国)

調査部米州課

2025年12月04日

米国環境保護庁(EPA)のリー・ゼルディン長官は11月26日、バイデン政権下で策定された石油・ガス業界向けの大気浄化基準(NSPS OOOOb/c、注1)について、順守期限を延長する最終規則を決定した外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。対象は、石油・ガス製造にかかわる設備を新設または改修・交換する際のメタンガスのリーク(漏れ)検査やタンク管理などに関する義務、既存設備に対する州別メタン排出量削減計画の提出義務、さらに1時間あたり100キログラム以上のメタン漏洩を検出・是正する「スーパーエミッタープログラム」(注2)の義務付け開始について、いずれも18カ月、2027年1月22日まで期限を延長した。また、また、フレア装置の熱量監視や代替試験の期限も当初予定していた2025年11月28日から180日間延長され2026年5月26日となった。

EPAは「非現実的な規制を是正し、11年間で約7億5,000万ドルのコスト削減につながる」と説明した。石油・ガス業界にとっては規制遵守のための準備に1年半の時間が得られた形だが、メタンは温室効果ガスの中でもっとも害が大きく、二酸化炭素の80倍の温暖化をもたらすとされる。石油・ガス事業は米国におけるメタンの主な産業排出者であり、バイデン政権は同規則によりメタンの排出量に加え、発がん性物質として知られるベンゼンなどの揮発性有機化合物の排出量も削減することを目的としていた(11月27日付ブルームバーグ)。環境団体はEPAの決定に対し「大気汚染と健康被害を長引かせる」と批判している。なおEPAは7月29日、大気浄化法に基づく温室効果ガス排出規制の根拠となる2009年の「危険因子判定(Endangerment Finding)」撤回提案も発表(2025年7月30日記事参照)、9月22日まで公開意見募集を行ったが、現時点で「最終決定(つまり撤回)には至っていない。

(注1)大気浄化法に基づく石油・ガス設備の排出規制で、温室効果ガス(GHG)や揮発性有機化合物(VOC)を対象とする。法文中にはGHGと記載されているが、規制の中心はメタン削減であるため、「メタン規制」と報道されることが多い。

(注2)EPAが導入した制度で、衛星や航空機などを使った遠隔検出技術を使うことで1時間あたり100キログラム以上のメタン漏洩(スーパーエミッター)を確認した場合、事業者に通知し、15日以内の調査・是正を義務付ける仕組み。

(岩井晴美)

(米国)

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