欧州各国の脱炭素・循環型ビジネス最新動向連邦政府、洋上風力を通じて脱炭素化推進(ベルギー)
再エネ分野で日本市場目指すスタートアップも

2023年12月26日

ベルギー連邦政府と各地域政府(注1)は2017年、低炭素社会への移行とパリ協定へのコミットメントを再確認し、同国のエネルギー転換に向け、共通の目標を定めたエネルギー協定を締結した。同協定を踏まえ2019年に策定された「国家エネルギー・気候計画2021-2030」では、主に洋上風力発電の開発を通じて、2040年までにエネルギー需要全体の40%を再生可能エネルギー(再エネ)で賄い、2050年には全量を再エネ由来とする目標を掲げている。2019年時点では、原子力発電が段階的に廃止される見込みで、その発電分である6,000メガワット(MW)を再エネで補填(ほてん)することが求められていた。

その後、連邦政府は2021年、北海の洋上風力発電の発電容量を約3倍まで拡大し、国内の総発電量の4分の1を賄うことを目指す(2021年11月5日付ビジネス短信参照)と発表した。しかしながら、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻と、それに伴うエネルギー価格の高騰を背景として、原子力発電についての方針を転換、国内で稼働中の7基の原子炉のうち、2基の稼働を10年間延長することを決定した(2022年3月24日付ビジネス短信参照)。ただし、再エネを通じて気候中立を目指す政策に変更はないとし、洋上風力発電を中心とした再エネ分野への投資を継続・強化する姿勢を明確にした。その具体的な取り組みとして、北海のフランス海域側に開発中の洋上風力発電区域の整備の加速や、風力タービンの建て替え(リパワリング)による既存の発電施設の発電容量の拡大、洋上風力送電網の近隣諸国と相互接続などが挙げられた。

また、2022年5月には、「北海サミット」が開催され、ドイツ、デンマーク、オランダとともに、洋上風力およびグリーン水素に関する協力協定を締結。複数国にまたがる洋上風力発電の連携事業を共同で開発し、北海地域を「欧州のグリーン電力発電所」とすることを目指すとした。ベルギーでは、「エネルギーアイランド」(注2)を建設し、デンマークなどの周辺国と電力系統を相互接続することで、2030年までに5.8ギガワット(GW)、2040年までに8GWの洋上風力発電容量を確立するとした。

さらに、2023年4月には、ベルギー北西部のオステンドで、第2回北海サミットが開催された。参加国は新たにフランス、英国などを含む9カ国に増え、北海を世界最大級のグリーン電力発電所とするための「オステンド宣言」が発表された(2023年4月28日付ビジネス短信参照)。北海海域の洋上風力の発電容量を2030年までに120GW、2050年までに300GWまで引き上げるとし、第1回北海サミットで定めた目標の約2倍となる野心的な目標が掲げられた(表1参照)。

表1:洋上風力発電の発電容量拡大に向けた連邦政府の取り組みと目標値
発表年月 内容
2019年12月 「国家エネルギー・気候計画2021-2030」で再エネや電力市場改革などを通じて、原子力発電停止による不足分(6,000MW)を補填する方針を発表。
2021年10月 北海の洋上風力発電の発電容量を、約3倍となる5.8GWに拡大することを発表。
2022年5月 「北海サミット」で洋上風力およびグリーン水素に関する協力協定を締結。
洋上風力と国境を越えた電力系統の相互接続を組み合わせた開発を発表。参加国で2030年までに合計発電容量65GW、2050年までに合計150GWまで拡大させる目標を設定。
ベルギー国内では、2030年までに5.8GW、2040年までに8GWの洋上風力発電容量を確立させることを目標として設定。
参加国:ドイツ、デンマーク、オランダ、ベルギー
2023年4月 「第2回北海サミット」で、参加国で北海海域の洋上風力の発電容量を2030年までに120GW、2050年までに300GWまで拡大させる目標を設定。
参加国:第1回の4カ国に加え、フランス、ルクセンブルク、ノルウェー、英国、アイルランド

出所:連邦政府のプレスリリースからジェトロ作成

連邦政府の電力市場とインフラ整備に向けた支援

連邦政府は、洋上風力発電市場の支援メカニズムの改革にも積極的に取り組んでおり、2023年6月、最新の5カ所の洋上風力発電所を対象に新しい支援メカニズムを導入することを発表した。新たなメカニズムは、二重の差額決済契約(Contract for Difference、CfD)に基づくもので、例えば発電量が増えることで売電価格が下がり、収益が悪化、風力タービンを停止せざるを得ないような場合、政府は発電事業者に対し、基準価格(ストライクプライス)との差額の補填を行う。反対に、売電価格がストライクプライス以上に上昇し、超過利潤が生じた場合、事業者はその利益を政府に還付する。これにより、ベルギー連邦政府は2023年に1億9,000万ユーロの歳入を得る見込みとしている。ベルギーでは、ロシア・ウクライナ情勢とエネルギー価格の高騰に加え、風況の悪い年が続き、洋上風力発電事業者は、予期せぬリスクにさらされてきた。二重のCfDの導入により、再エネ発電事業者の潜在的なリスクを減らす一方、政府にも財政的なメリットをもたらすことで、長期的な視点に基づくバランスの取れた制度となっている。

また連邦政府は、「エネルギー転換基金(Energy Transition Fund、ETF)」と呼ばれるエネルギー転換のための研究開発、イノベーション支援を目的とした基金を2017年に設立し、毎年、複数のプロジェクトに資金拠出を行っている。2023年には、ベルギーのエネルギー転換における2つの中核テーマである再エネと需給調整の柔軟性に関するプロジェクトを中心に、21件のプロジェクトが採択され、合計2,500万ユーロを拠出する(表2参照)。

2023年に採択されたプロジェクトのうち、洋上風力発電に関するプロジェクトでは、ブレードのリサイクルに焦点を当てた「North-C-Blade」や、既存の洋上風力タービンとその基礎の耐用年数を延ばす「FlexWind」など、洋上風力発電所のアップグレードに関連したプロジェクトが採択された。また、洋上風力発電施設の維持・管理の最適化を目指す「PROOF」、洋上風力発電施設の廃棄に向けた基礎研究を進める「OWiDEX」などのプロジェクトも採択されている。

表2:ETFを活用した洋上風力発電に関する2023年の主な採択プロジェクト
プロジェクト名 内容 参加企業・団体
North-C-Blade ガス化溶融による使用済みブレードの廃棄・リサイクル ゲント大学、Engie Laborelec(エネルギー大手エンジーの研究機関)、アルセロール・ミッタル(鉄鋼、本社ルクセンブルク)、INEOS INOVYN(化学、本社英国)、ノース・シー・ポート(北海港湾)
FlexWind 洋上風力タービンとその基礎構造の長寿命化のための研究 ゲント大学、リエージュ大学、OCAS(鉄鋼処理の民間研究機関)、など
PROOF 洋上風力発電施設管理の最適化 エリア(Elia、送電)、N-Side(送電管理サービス)、モンス大学
OWiDEX 洋上風力発電施設廃棄のための基礎研究 パークウインド(洋上風力発電)、ゲント大学、ブリュッセル自由大学(VUB、オランダ語)、など
BEL-Float 浮体式洋上風力発電に関する基礎研究 パークウインド、ゲント大学、VUB、Marlinks(海底ケーブルサービス)、24Sea(モニタリングサービス)

出所:各政府・企業・団体のプレスリリースからジェトロ作成

ジェトロは、2023年にETFの支援対象に選出されたプロジェクトに参加する再エネ分野のスタートアップ2社(N-SIDE、24Sea)に、大学を中心としたベルギーの起業エコシステムと、日本市場を含めた今後の事業展望について聞いた。

ソフトウエアで資源利用の最適化を実現するN-SIDE、研究から実用化に向け起業

ベルギー南部の大学都市ルーバン・ラ・ヌーブに拠点を置くN-SIDEは、応用数学と人工知能(AI)を利用し、電力市場用に変動率が高い再エネの需要と供給を最適化し送電できるよう、管理を支援するソフトウエアを開発するスケールアップ企業だ(2023年10月5日付ビジネス短信参照)。同社は、2000年にルーバン・ラ・ヌーブ大学からスピンオフし、欧州(英国とノルウェーを含む)、インド、米国市場向けにサービスを提供している。同社のフィリップ・シュヴァリエ最高経営責任者(CEO)は、大学教授として教えるなか、研究と実社会での技術の実用化のギャップに直面し起業。同社の製品は、まず企業からの指名を受けて開発を始め、大学の支援を受けてスピンオフし、製品化されたという。ベルギーの大学では、重要業績評価指標(KPI)の1つとして、企業連携による地域経済の活性化や雇用創出という観点が重視される。N-SIDEは大学からスピンオフした際、大学のスタートアップ支援プログラムである、従業員1人に対する2年分の給与負担制度を活用した。企業設立当初には、大学からの出資も受けた。このほか、ワロン地域政府貿易・外国投資振興庁(AWEX)が提供する支援スキームを活用し、各国で開催される見本市出展などを通じて海外市場展開や研究開発を進めてきた。

2023年6月には同社の電力マッチング・アルゴリズムを、日本卸電力取引所(JEPX)に提供する共同プロジェクトを発表した。異なる周波数や電力供給をもつ日本市場では、多様な電力市場を持つ欧州各国やインドでの電力市場の取引、需給調整支援の実績があるアルゴリズムが生かされる、と実感したという。また、日本も再エネの利用拡大を目指している点や、日本もベルギーも自国内にエネルギー資源を持っておらず、エネルギーネットワークの構成や管理方法で共通した課題を抱えており、経験を共有できることが多い、と考えている。今回の日本進出を機に、アジア太平洋市場開拓の足掛かりにしたい意向だ。


N-SIDEのフィリップ・シュヴァリエCEOとエネルギー分野責任者ソフィー・マルケ氏
(ジェトロ撮影)

洋上風力発電設備のモニタリングサービスを提供する24Sea、産学連携で誕生

24Seaは、洋上風力発電の基礎構造物向けの試験サービスおよび短期から長期間のモニタリングシステムを開発・提供する。重力式、モノパイル構造、ジャケット構造、浮体式など、洋上風力発電の全ての種類の基礎構造物の形式に対応しており、専用のハードウェアを構造物に設置、構造物の傾斜や、風・波による影響を常時収集し、同社独自のアルゴリズムで解析することで、基礎構造物の健全性や寿命を測定する。この遠隔モニタリングによって、洋上風力オペレーターは、運用・保守コストを低減できるとともに、収集したデータは、将来的な基礎構造物のコスト削減にも活用できるという。

同社は、2016年にブリュッセル自由大学(VUB、オランダ語)からスピンオフし、ベルギーやオランダ、フランス、ドイツ、英国などの西欧各国と、台湾などのアジアで、約150基(6.4GW相当)の風力発電設備にサービスを提供している。主なビジネスパートナーは、ベルギー大手洋上風力発電事業者パークウインド(注3)や洋上風力発電所運営会社のC-Powerなどだ。

ベルギーではVUBが中心となり、2010年に風力発電分野に特化した研究機関OWI-labが設立された。同機関は、産学連携を広く行うことで、風力発電における研究開発やイノベーションの促進に取り組んでいる。24Seaは、このようにフランダース地域が産学を挙げて風力発電の強化に向かう中で誕生した。共同設立者の1人は現在もVUBの現役の教授で、洋上風力発電に関する研究活動にも従事している。同社は、大学と国内の洋上風力コンソーシアムのネットワークを活用し、様々なプロジェクトに参画している。

同社は、日本市場への進出も視野に入れている。既に進出している台湾と日本は、同じアジア地域で、気象・海洋条件も類似していると考えており、その経験を生かしたいという。プロジェクトマネージャーのピーター・ペラール氏によれば、欧州の洋上風力発電市場が飽和状態に向かう中で、海外市場にも目を向けるようになったとのことだ。台風や地震といった自然災害を踏まえたモニタリングに対応している台湾での経験が、日本でも生かせると判断している。日本市場参入への課題として、言語のほか、日本では日本企業同士のパートナーシップを好む傾向があるのではとの懸念をペラール氏は挙げる。しかし、今後、洋上風力発電が増加するとみられる日本市場は魅力的だという。さらに、欧州の洋上風力発電の市場が再び拡大しているため、ポーランドやリトアニア、アイルランドなど欧州内でのさらなる事業展開も目指しているとした。


24Seaの企業ロゴ(同社提供)

連邦政府は、ETFの第8回公募を2023年11月9日から2024年1月23日まで実施する。公募開始を前に連邦政府は2023年10月、より多くの案件を募集すべく、ETFの対象である洋上風力、水素、バイオ燃料、エネルギー安定供給の4分野の過去の採択プロジェクトを紹介するイベントを開催し、事業者に対して公募への参加を呼び掛けた。ベルギーでは今後も、洋上風力発電を中心とした脱炭素化に向けた取り組みを継続、拡大させていくとみられ、その動きが注目される。


注1:
ベルギーは連邦制を採用しており、連邦政府と地域政府、言語共同体政府が異なる政策分野を管轄している。環境分野は地域政府の管轄となる。
注2:
再生可能エネルギーを生産・貯蔵するための人工島。
注3:
日本の発電大手JERAが2023年3月に買収を発表。
執筆者紹介
ジェトロ・ブリュッセル事務所
大中 登紀子(おおなか ときこ)
2015年よりジェトロ・ブリュッセル事務所に勤務。