ソフトウエアで資源利用の最適化を実現するN-SIDE、研究から実用化に向け起業

(ベルギー)

ブリュッセル発

2023年10月05日

ベルギー南部の大学都市ルーバン・ラ・ヌーブにあるN-SIDEは、エネルギーとライフサイエンス分野において、応用数学と人工知能(AI)を利用し、資源利用を最適化するソフトウエアを開発するスケールアップ企業だ。2023年6月には同社の電力マッチング・アルゴリズムを、日本卸電力取引所(JEPX)に提供する共同プロジェクトを発表した。ベルギーの大学を中心とした起業エコシステムの現状と、日本市場を含めた今後の展開について、フィリップ・シュバリエ最高経営責任者(CEO)とエネルギー分野の責任者ソフィー・マルケ氏にインタビューを行った(2023年9月13日)。

N-SIDEは、2000年にルーバン・ラ・ヌーブ大学からスピンオフし、欧州(英国とノルウェーを含む)、インド、米国市場向けにサービスを提供している。エネルギーとライフサイエンスは異なる分野であるものの、資源の利用を最適化するための判断ができるよう支援する点では共通しているという。

例えば、再生可能エネルギーは生産量が拡大する一方、依然として変動率が高い。このため同社は、需要と供給を最適化し送電できるよう管理を支援するソフトウエアを電力市場用に開発した。また、製薬企業用のソフトウエアは、データを活用した治験の最適化のみならず、新薬の開発プロセスの短縮や廃棄される治験薬の軽減も支援する。

シュバリエCEOは、大学教授として教えるなか、研究と実社会での技術の実用化のギャップに直面していた。両製品は、企業から指名を受けて開発を始め、大学の支援を受けてスピンオフし、製品化した結果だという。ベルギーの大学では、重要業績評価指標(KPI)の1つとして、企業連携による地域経済の活性化や雇用創出という観点がある。N-SIDEは大学からスピンオフした際、大学のスタートアップ支援プログラムである、従業員1人の2年分の給与負担制度を活用した。企業設立当初には、大学からの出資も受けた。このほか、現地のワロン地域政府貿易・外国投資振興庁(AWEX)のスキームを活用し、各国で開催される見本市出展を通じた市場の拡大や研究開発を行ってきた。

日本市場への進出のきっかけは2022年12月、約600人に及ぶ、ベルギーのアストリッド王女が率いる日本への経済ミッションに参加した経験だ。異なる周波数や電力供給をもつ日本市場では、多様な電力市場を持つ欧州各国やインドでの電力市場の取引、需給調整支援の実績があるアルゴリズムが生かされると実感したという。また、日本も再生可能エネルギーの利用拡大を目指している点や、日本もベルギーも自国内にエネルギー資源を持っておらず、エネルギーネットワークの構成や管理方法で共通した課題を抱えており、経験を共有できることが多いと考えている。今回の日本進出を機に、アジア太平洋市場開拓の足掛かりにしたい意向だ。

写真 フィリップ・シュバリエCEO(右)とソフィー・マルケ氏(ジェトロ撮影)

フィリップ・シュバリエCEO(右)とソフィー・マルケ氏(ジェトロ撮影)

(大中登紀子)

(ベルギー)

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