欧州各国の脱炭素・循環型ビジネス最新動向自動車の循環型ビジネスモデル構築が進展(ドイツ)

2023年12月7日

ドイツの自動車分野で、循環型ビジネスモデル構築に向け取り組みが進んでいる。背景には、企業が掲げる二酸化炭素(CO2)排出量削減とカーボンニュートラルの目標達成に向け、取り組みを進めている事情がある。

その手法の1つとして、再生材を活用されるようになっている点が注目される。例えば次世代自動車に搭載される蓄電池では、使用済み蓄電池からリチウム、ニッケルなどの重要素材をリサイクルしている。こういった分野の循環型ビジネスには、日本企業にも参画機会がある。

本レポートでは、ドイツの自動車分野の循環型ビジネスについて事例を報告する。

乗用車の使用済み材料を新車に再利用

乗用車のライフサイクルは、設計・デザインに始まり、素材・部品の調達、生産、販売、アフターサービス、中古車としての流通、廃車へと続く。このライフサイクルの中で、新品の原材料・部品の投入をできるだけ抑え、乗用車に既に使用された素材の再利用や、他分野からの再生材を増やす動きがある。

まず、いわゆる「Car to Car リサイクル」と呼ばれる、廃車から取り出した部品などをリサイクルして新車に使用する取り組みについて、ドイツ企業の動きを紹介する。

BMW

自動車大手のBMWグループは2023年4月、「Car2Car」プロジェクトを発表した(2023年4月27日付ビジネス短信参照)。このプロジェクトでは、廃車由来の再生材を新車に利用する。BMWグループはプロジェクトに廃車500台を提供。回収対象は、アルミニウム、鉄鋼、ガラス、銅、プラスチックだ。提供する廃車は、同グループの小型車ミニから、最高級車のロールスロイスまで幅広い。動力も、内燃機関搭載車から、プラグインハイブリッド車(PHEV)、バッテリー式電気自動車(BEV)に及ぶ。結果として、多様な試行ができるようにする。

このプロジェクトはBMWが主導、大学(ミュンヘン工科大学など)や、研究機関(ヘルムホルツ研究所など)、リサイクル企業(ショルツ・リサイクリングなど)、鉄鋼・アルミニウム関連企業(ティッセンクルップなど)といった機関・企業も参画する。BMWの掲げる目標は、新車の再生材の使用比率を現状の約3割から5割まで高めることだ。また、「再生材第一主義(Secondary First)」の考え方の下、将来の乗用車には、再生材を優先する姿勢を鮮明にしている。

アウディ

アウディは自動車大手のフォルクスワーゲン(VW)・グループ傘下にある。同社は2023年3月、循環型ビジネスを実現するためのプロジェクトに関する取り組み内容を報告した(2023年3月14日付ビジネス短信参照)。プロジェクト名は「マテリアル・ループ(MaterialLoop)」だ。このプロジェクトでは、研究機関(フラウンホーファー研究機構など)や、リサイクル関係企業(ドイツのレモンディスなど)、自動車向けサプライヤー(オーストリアの鉄鋼大手フェストアルピーネなど)を含む15社・機関と協力している。

プロジェクトを通じ、2022年10月には約100台の自動車を解体。鉄鋼、アルミニウム、プラスチックなどに分別された。アウディは、回収された鉄鋼約12%を含むコイル6個を生産、品質はアウディの要求水準を満たすものだったという。今後、アウディ本社があるインゴルシュタット工場で、モデル「A4」の車両ドア内側1万5,000個の素材として使用する予定だ。

乗用車以外からの再生材活用も進む

自動車に使う材料・部品として、自動車本体以外からの再生材を使う取り組みも進んでいる。

VW

VWは2023年2月、バッテリー式の小型電気バス「ID.Buzz」で導入した再生材を、BEVのIDシリーズにも活用していくと発表した(2023年3月1日付ビジネス短信参照)。

ID.Buzzでは、内装部分に海洋プラスチックごみやペットボトル由来の再生材を利用している。例えば、シート表面には、漁網などの海洋ごみ1割、ペットボトルのリサイクル9割で構成するポリエステル糸から製造した繊維を使用。天井(ヘッドライナー)とフロアカーペットの表面は、100%リサイクルされたポリエステルで作られている。これら再生材は、従来の素材と同じ見た目、使用感、耐久性になっている。

BMW

BMWは2022年9月、新モデル「ノイエ・クラッセ」の内外装に、リサイクル素材を約3割使ったプラスチックを活用すると発表した(2022年9月20日付ビジネス短信参照)。ノイエ・クラッセは、2025年から販売予定。素材は、漁具(漁網、ロープ)などからリサイクルする。石油由来のプラスチック使用を減らし、海洋汚染も防ぐ狙いに基づく取り組みだ。

メルセデス・ベンツ

メルセデス・ベンツグループ傘下の中核、メルセデス・ベンツは2022年8月、廃タイヤのケミカルリサイクル(注1)で得られる原料を活用し、部品を生産すると発表した。ドイツ企業ピュルム・イノベーションズ(Pyrum Innovations、熱分解のスタートアップ)と、ドイツの化学大手BASFと協力する。具体的には、廃タイヤを熱分解し分解油を得る。これと有機性廃棄物由来のバイオメタンを使用してプラスチックを製造する。用途としては、BEVのドアハンドルや衝撃吸収装置を想定する。

メルセデス・ベンツは、この素材は石油由来のプラスチックと全く同じ特性で、塗装の観点や衝突安全性能からも問題ないとしている。

循環型ビジネス構築でCO2削減

ドイツ自動車メーカーが再生材などを積極的に活用する背景には、企業が掲げる気候中立目標の達成への寄与がある。例えばメルセデス・ベンツグループの目標は、2039年までに、新車のバリューチェーン全体とライフサイクル全体を気候中立化することだ。VWグループは、2050年までに完全にカーボンニュートラルな企業になるとしている。またBMWグループは、2050年までにバリューチェーン全体を気候中立にするという。

CO2排出量削減対策には、さまざまな手法がある。再生可能エネルギーの利用や、サプライヤーへのCO2排出量削減要求などは、しばしば取り上げられる例だ。その他にも、循環型ビジネスモデルの構築や再生材の活用でもCO2排出量を削減できる。

例えば、メルセデス・ベンツグループによると、アルミニウムは品質を落とすことなく再利用可能だ。しかも、リサイクルに必要なエネルギーは新品のアルミニウム製造の約5%にとどまる。すなわち再生アルミニウムの導入は、CO2排出量削減効果が高いと言える。BMWグループも、再生材を活用することで、アルミニウムで最大8割、鉄鋼で最大7割のCO2排出量削減が可能と指摘。また、同社が「ノイエ・クラッセ」の内外装に漁具由来の再生材を活用する前述のケースでは、従来のプラスチックに比べ、CO2排出量を約25%削減できるとした。そのほか、VWが海洋ごみ、ペットボトルをリサイクルしたポリエステル糸を使用する例では、従来の素材に比べ、CO2排出量を約3割削減できるという。

乗用車に使用する素材としては、鉄鋼が最も多い。これに、アルミニウムなどの非鉄金属、プラスチックなどが続く。このため、これら素材に注力して循環型モデルを構築することで、効率的にCO2排出量削減を達成しようとする企業が多い。VWグループは、まずは蓄電池、鉄鋼、アルミニウム、プラスチックに集中するとしている。メルセデス・ベンツグループも、鉄鋼、アルミニウム、プラスチックに注力するとしている。使用量が多く、製造時のエネルギー消費も多いためだ。

蓄電池リサイクルモデル構築に向けて

次世代自動車に搭載する蓄電池の循環型ビジネスモデルの構築も、進みつつある。オラフ・ショルツ首相が率いる現政権は、2030年までにBEVの乗用車を国内で少なくとも1,500万台普及させる目標を掲げている。2023年7月1日時点で、乗用BEV保有台数は117万632台だ。目標どおりに普及が進むと、電気自動車(EV)用蓄電池需要は急増する。同時に、蓄電池のリサイクルも求められることになる。フラウンホーファー研究機構システム・イノベーション研究所は2023年1月、欧州でのリチウムイオン電池の年間リサイクル量予測に関する調査結果を発表した。それによると、現時点では約5万トン。それが、2030年に42万トン、2040年に210万トンに及ぶ。メルセデス・ベンツグループも、現時点での予想では、2030年代から蓄電池リサイクルの重要性が高まるとした。

リサイクル需要が高まる理由の1つは、蓄電池も製造段階で多量のCO2を排出するためだ。しかし、蓄電池の回収・リサイクルや再生材の利用を強化することで、その削減に寄与することができる。また、蓄電池には、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルトなどが使用されている。こうした素材は、採掘・製錬地が特定の国・地域に偏在するのがむしろ通例だ。ドイツの自動車メーカーにしてみると、使用済み蓄電池からこれらを抽出できると、調達先の多様化を図り強靭(きょうじん)性を確保できることにもなる。

またEUは2023年8月、バッテリー規則を施行した。同規則には、原材料別の再資源化率やリサイクル済み原材料の最低使用割合が規定されている(2023年8月21日付ビジネス短信2023年11月27日付調査レポート参照)。この点からも、蓄電池のリサイクルへの対応が不可避になっていると言える。

以下、ドイツで進む蓄電池リサイクルの取り組み事例を紹介する。

BASF

化学大手のBASFは2023年6月、ドイツ東部のブランデンブルク州シュバルツハイデに、電池工場を開所した。電池材料(正極材)を生産するとともに、併設施設でリサイクルする。電池リサイクル工場では、リチウムイオン電池を熱処理した後に得られる粉体(ブラックマス)を製造。そこからリチウム、ニッケル、コバルト、マンガンなどを取り出し、正極材製造に活用する。ブラックマスの製造は、2024年に開始する予定だ。

このプロジェクトは、欧州委員会が2019年12月に承認した「欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)」の一環で、連邦政府や州政府の助成を受ける。助成により、蓄電池材料分野の研究、生産、リサイクルへの取り組みを支援する。助成は総額1億7,500万ユーロに及ぶ。連邦政府が全体の約7割、州が約3割を負担することになっている。

メルセデス・ベンツ

メルセデス・ベンツは2023年3月、ドイツ南部バーデン・ビュルテンベルク州で、蓄電池リサイクル工場の定礎式を開催した(2023年3月10日付ビジネス短信参照)。この工場では、年間2,500トンのリチウムイオン電池のリサイクルが可能だ。回収する素材は、蓄電池モジュール5万個以上に相当する。メルセデス・ベンツのBEV用蓄電池モジュールに再利用する。

BEVまたはPHEVから回収したリチウムイオン電池は、まず、定置型蓄電池としての利用を促進する。その後、定置型でも使用が難しくなった蓄電池を同工場でリサイクルする。その実績を見計らい、中・長期的には工場の処理能力を拡大する可能性がある。2023年末までには、リチウムイオン電池リサイクルの破砕工程を開始する予定だ。

なお、蓄電池をリサイクルする手法としては、湿式製錬方式を採用。リサイクル率96%以上を目指す。コバルト、ニッケル、リチウムのほか、将来的には黒鉛も回収する。このプロジェクトにあたっては、技術提携先のプリモビウス(Primobius、注2)と協業する予定だ。

VW

VWは2021年1月、ドイツ北部ニーダーザクセン州ザルツギッターに、同社初のEV用電池リサイクル施設を開設。パイロット運用を開始した。リチウム、ニッケル、マンガン、コバルトなどの希少金属やアルミニウム、銅、プラスチックをリサイクルする。貴重な素材などを自社内で再利用する循環型のクローズドループ方式(注3)によるリサイクルにより、将来的には90%以上のリサイクル率を目指す。再生材とグリーンエネルギーのみで電極を生産した場合、62キロワット時(kWh)の電池当たり1.3トン以上のCO2排出量が削減される。

日本企業も参画

ドイツの自動車分野で進む循環型ビジネスは、日本企業が参画する機会にもなりうる。ここでは、その主な事例を紹介する。

東レ

東レの欧州拠点は、BMWの「未来志向のサステナブルな自動車素材〔Future Sustainable Car Materials(FSCM)〕」に参画している。FSCM は、2023年1月に発表された持続可能な素材の活用を志す実証プロジェクトだ。自動車生産バリューチェーン内で金属やプラスチックなどの素材を再利用する仕組みを強化し、再生材の利用やバイオ由来素材使用の割合を高めることで、CO2排出量削減を進める。

プロジェクトでは特に、自動車生産でのCO2総排出量の中で大きな割合を占める鉄鋼とアルミニウムに重点を置く。また、連邦経済・気候保護省が3年間にわたりプロジェクトを助成する。

プロジェクト幹事はBMW。18社・企業・団体が参画する。民間企業ではBMWや東レのほか、スペシャルティケミカルのエボニック、鉄鋼のティッセンクルップ、自動車部品のドレクスルマイヤーなどが参加。大学・研究機関からは、ミュンヘン工科大学やフラウンホーファー研究機構などが加わる。

JX金属

JX金属は2021年8月、使用済みEV用リチウムイオン電池リサイクル事業と電池材料事業を推進するための新会社をフランクフルトに設立した。同社は、使用済みEV用リチウムイオン電池が今後、大量に発生すると予見。そうした時代に備え、使用済み電池に含まれるレアメタルを新たな電池の素材として再使用する(注4)。

また2022年6月には、関係会社のタニオビス(TANIOBIS)を通じ、コンソーシアム「HVBatCycle」に参画すると発表した。このコンソーシアムは、EV用リチウムイオン電池使用材料の回収と再利用に関して共同で研究開発するのが目的だ。同社は、特に電池を構成する正極材、電解液、グラファイトのクローズドループ・リサイクルに関する手法に関して参画する。なお、この手法は2019年からVWが主導し、ドイツ国内産業界、アーヘン工科大学、フラウンホーファー研究機構などの研究機関が調査や研究を進めていた。


注1:
廃タイヤや廃プラスチックなどの廃棄物を化学的に分解し、化学製品の原料として再利用すること。
注2:
プリモビウスは、(1) SMSグループ(ドイツの金属産業向け設備エンジニアリング大手)と、(2)オーストラリア企業ネオメタルズ(Neometals)の合弁会社。
注3:
クローズドループ方式では、ある製品に含まれる素材を抽出し、不純物を取り除いた上で同じ製品に再使用する。無限に循環利用でき廃棄物が発生しにくいため、環境負荷が小さい
注4:
使用済みEV用リチウムイオン電池に含まれる素材を抽出して再生するので、クローズドループ・リサイクルということになる。
執筆者紹介
ジェトロ海外展開支援部主幹
高塚 一(たかつか はじめ)
1999年、ジェトロ入構。2009年~2012年ジェトロ・デュッセルドルフ事務所、2020年~2023年ジェトロ・ミュンヘン事務所長、2023年10月から現職。