欧州各国の脱炭素・循環型ビジネス最新動向 リサイクルを軸に競争力強化へ(イタリア)
サーキュラーエコノミーの現状と課題

2023年12月21日

イタリアの環境・国土・海洋保全省(当時、注1)は2017年、2030年までの温室効果ガス(GHG)削減に関する国際枠組み「パリ協定」の達成に向け、「イタリアのサーキュラーエコノミー(循環型経済)モデルに向けて―枠組みと戦略的位置付けに関する文書―」を発表した。その後、脱炭素や気候変動への対応が急務となり、EUレベルで循環型経済モデルへの移行のための計画やプログラムが新たに策定されたほか、新型コロナウイルス感染拡大やロシアのウクライナ侵攻の影響による原材料不足などを受けて改定。環境移行省(当時)は2022年6月、「循環型経済のための国家戦略(イタリア語)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(11.2MB)」と「廃棄物管理のための国家計画(イタリア語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を同時に発表した。

2035年に向けた指針発表

「循環型経済のための国家戦略」では、原材料に乏しいイタリアで循環型経済への転換が、グローバル経済がもたらす変革に対応する手段だと重要性を強調し、2035年までの基本的な行動指針や目標、制度設計の方針などを示している。特に二次原料(リサイクル原料)の市場強化を明文化しており、未使用の原料と比較して、入手可能性、性能、コストの面で競争力を持たせることを目標としている。指針としては以下の5つを挙げている。

  • グリーン公共調達
  • 廃棄物の終了基準(end-of-waste criteria、注2)
  • 拡大生産者責任(EPR)
  • 消費者の役割
  • シェアリングの普及と「製品のサービス化(PaaS)」の実践

これらの実現には、ビジネスモデルの根本的な変革を必要としている。「はじめから終わりまで」循環するサプライチェーン、回収とリサイクル、製品寿命の延長などをポイントとして挙げているほか、デジタル化に伴って製造業のサービス化(サービタイゼーション、注3)を推進するべきとしている。また、ビジネスモデルだけでなく、新しい技術や専門家、それに伴う職業訓練や教育も必要になると指摘している。

企業が互いの資産を活用しながら共存する「産業共生(インダストリアル・シンバイオシス)」も推進されている。産業共生については、企業のアウトプットを別の企業が生産過程のインプットとして利用できるとし、企業のリソース(材料、副産物、技術、データベースなど)を共有できる総合的なシステムと定義している。実際の取り組みとしては、2017年に新技術・エネルギー・持続可能な成長のための国家研究機関のENEAが中心となり、SUN(Symbiosis Users Network)を立ち上げている。このネットワークには大学や研究機関、民間企業、地方自治体などを含む 39機関が参加しており、産業共生の普及に貢献している。

EPRについても、いまだ導入されていない分野や、特にイタリアが材料や製造技術で優位性がある分野に積極的に導入するとしている。特に明記しているのはプラスチックと繊維で、プラスチックに関しては、包装業とポリエチレンをベースとしている製品の管理でEPRを導入し、システムを改革するとしている。また、EUの定める目標を達成するには、回収・リサイクルする廃棄物の量だけに注目するのではなく、廃棄物の発生抑制や、リユース(再利用)への取り組み、リサイクル可能な原料が含有されているかなど、内容を発展させるべきと述べている。

繊維廃棄物に関しては、既に2022年1月1日から分別廃棄義務化が開始されている。また、「循環型経済のための国家戦略」で策定した内容をベースに、2023年2月に環境・エネルギー安全保障省が繊維・ファッション業界にEPRを適用する法案を発表した。同法案は、生産者には廃棄物の回収、再利用、リサイクルなどに向けた投資や組織化を要請しており、環境負荷の少ない製品設計なども義務化するという内容だ。

一方、「循環型経済のための国家戦略」と同時に発表された「廃棄物管理のための国家戦略」は、州や自治州の廃棄物管理に指針を示すもので、持続可能な循環型経済の発展に向けた公共政策や、民間の取り組みを奨励することを目的としている。バンニア・ガバ環境・エネルギー安全保障副大臣は「廃棄物処理施設の地域ギャップを埋め、分別収集とリサイクルの率を高め、エネルギー転換に貢献する」と説明している(「イル・ソーレ・24オーレ」2022年7月7日)。

廃棄物処理事業への補助金政策を実施

イタリア政府は2021年11月、戦略的なサプライチェーンによる廃棄物管理とリサイクルの革新的なプロジェクトに対する補助金制度に関する政令を発表した。同制度は、灯台を意味する「Faro」の呼称で、対象となるのは電気・電子機器、紙・段ボール、プラスチック、繊維の4分野だ(表参照)。廃棄物回収を向上させるための処理施設の新設・増強を基本とし、不法投棄を防止・抑止するために衛星やドローン、人口知能(AI)などを利用した監視システムの構築なども想定している。

表:戦略的なサプライチェーンによる廃棄物管理とリサイクルの革新的なプロジェクトに対する補助金制度(Faro)の概要
No. 対象製品 内容 予算 承認済みプロジェクト(件数・時期)
1 電気・電子機器、風力タービンのブレード(羽根)、太陽光パネル 廃棄物の回収・物流・リサイクルの向上を目的とした工場の建設・近代化(既存工場の増強を含む)など。 1億5,000万ユーロ 67件(2023年2月)
2 紙・段ボール 廃棄物の回収・物流・リサイクルの向上を目的とした工場の建設・近代化(既存工場の増強を含む)など。 1億5,000万ユーロ 70件(2023年2月)
3 プラスチック(海洋プラを含む) 廃棄物の回収・リサイクルのための工場の建設。 1億5,000万ユーロ 75件(2023年4月)
4 繊維 消費前や消費後の繊維を回収・リサイクルする工場やシステムの建設・近代化。 1億5,000万ユーロ 23件(2023年2月)

出所:環境・エネルギー安全保障省の資料に基づきジェトロ作成

対象プロジェクトの経費の35%を上限とする返済義務なしの補助金で、2023年12月末までに工事を発注し、2026年6月30日までに完了することが求められる。投資総額は6億ユーロで、新型コロナ危機からの復興計画の「再興・回復のための国家計画(PNRR)」で掲げた6つのミッションのうち、「ミッション2:グリーン革命および環境移行」の「コンポーネント1:循環型経済と持続可能な農業」(2022年9月28日付地域・分析レポート参照)に準じ、対象となる4分野にそれぞれ1億5,000万ユーロを割り当てる。2023年2月にプラチックを除く3分野で合計160件、同年4月にプラスチック分野で75件のプロジェクトが承認された。

リサイクル軸に競争力強化

イタリアで、循環型経済への期待は大きい。「メード・イン・イタリー」の競争力促進を目的とした業界団体のシンボラ財団は2023年5月、外務・国際協力省などの協賛により「イタリア・イン10セルフィー 2023」と題し、イタリアの長所を分析した報告書を発表した。同報告書の中では、ファッションやデザインなどの伝統的な分野を抑えて、循環型経済が筆頭に挙げられている。

期待を裏付けているのは、高いリサイクル率だ。2023年6月にイタリアで循環型経済を推進する産業団体「サーキュラーエコノミー・ネットワーク」がENEAの協力で発表した「イタリアの循環型経済に関するレポート」によると、2020年は廃棄物のリサイクル率は72% に達し、EU主要国のトップとなり、EUの平均53%を大きく上回った。次点のドイツには17ポイント以上差をつけており、3位がスペイン、4位がフランスだった。また、イタリアではリサイクル率の上昇も目立っており、2012年の64%から8年間で8ポイント増となった。同期間でドイツが1ポイント増、スペインが3ポイント増だったのと比べると、突出している。また、2021年のリサイクル由来の原料の利用率は18.4%で、EU 平均の11.7%を上回っている。

イタリアは、包装廃棄物のリサイクル率も高い。全国包装材コンソーシアム(CONAI)の2023年9月4日の発表によると、2022年のリサイクル率は約71.5%で、廃棄された1,450万トンの包装容器のうち1,040万トンがリサイクルされた。包装材の総回収率は80.5%だった。欧州委員会は2022年11月30日発表の「包装・包装廃棄物に関する規則案」(2022年12月2日付ビジネス短信参照)の中で、各加盟国の包装廃棄物のリサイクル率の目標を2025年までに少なくとも65%、2030年までに70%と提案しており、イタリアの数字は既にこのEUの目標を超えている。ジルベルト・ピケット・フラティン環境・エネルギー安全保障相は「同省は持続可能な包装設計、質の高い回収、リサイクル、廃棄物の発生予防に注力してきた」と述べ、この結果はイタリアの卓越している部分であり、国内外の競争力強化のための要素となるとした。

EUの規制との協調も課題

しかし、EUが定める規制と足並みをどうそろえるかという課題もある。欧州委員会の包装・包装廃棄物に関する規則案について、飲料用の使い捨てプラスチックボトルや金属製の缶類などの返却に対するデポジット返金制度などを中心に置いた内容だとして、リサイクルを重視した取り組みを行ってきたイタリアでは、官民ともに大きく反発を招いた。

ガバ環境・エネルギー安全保障副大臣は、同規則案は「イタリアの優越性を否定している」と批判し、「デポジット制度を義務化するということは、既にリサイクルに関してEUの目標を9年も早く達成しているイタリアで(包装材のリサイクルを推進してきた)コンソーシアムの役割を狭める」と述べた(2022年11月30日付同省プレスリリース)。また、デポジット制度は、消費者が(商品価格として)デポジットを負担するもので、現在の廃棄物回収システムに比べて高コストになるとの疑念を示した。

また、イタリア産業連盟の前会長で、包装大手SEDAの社長、欧州紙包装連合(EPPA)の代表でもあるアントニオ・ダマート氏も、同規則案は「環境、経済、そして何百万人もの労働者にとって壊滅的なもの」と批判し、「欧州委が継続しようとしている環境への負荷削減という目的とは矛盾している」とコメントした(「コリエーレ・デラ・セーラ」2022年11月25日)。

イタリア商業連盟副会長のリノ・ストッパニ氏も、2023年4月に開催されたイタリア議会(上院)のEU政策委員会の公聴会で、「イタリアの経済・社会的構造にそぐわない規制が含まれており、抜本的な変更がなければ、国内産業全体に大きな打撃をこうむる」と発言した。

繊維廃棄物に関しても、前述したEPRの法制化が進まないのは、EUとの足並みをそろえるためという見方もある(「イル・ソーレ・24オーレ」2023年7月17日)。繊維廃棄物に関しては、上述した分別廃棄義務化をきっかけとし、2022年8月には販売代理店団体やポリエチレン廃棄物の管理団体などが参画するコンソーシアム「Ecotessili」も結成された。同年10月には、繊維廃棄物のリサイクルやEPRへの対応を目的としたコンソーシアム「Re.Crea」が、イタリアファッション商工会議所を筆頭に、ドルチェ&ガッバーナやプラダグループなど名だたるファッションブランドが参画して設立された。いわば、法制化を手ぐすね引いて待っているという状況ともいえるが、現在、代替案は示されていない。欧州委は2023年7月に繊維廃棄物も含む廃棄物枠組み指令の改正案を発表しており(2023年7月13日付ビジネス短信参照)、イタリア国内で凍結状態のEPRに動きがでることが期待される。

前述した「イタリアの循環型経済に関するレポート」では、消費動向調査も行われた。過去3年間で「中古品を購入したことがある」と回答したのが45%、「リサイクル製品を購入したことがある」は36%、この2項目に加えて、レンタルやシェアリングなどを含めて「一切利用したことがない」と回答したのは25%だった。今後に関する質問では、「中古品を購入する」と答えた人が82%、「リサイクル製品を購入する」とした人が77%と、将来に向けた意識は高い。伝統的にも古き良きものを大切にする国民性を循環型経済という大きな動きの中で生かし切ることができるのか。EUの枠組みとすり合わせつつ、イタリアならではの競争力を発揮できるか、政府の手腕が問われている。


注1:
環境・国土・海洋保全省、環境移行省はともに当時の名称。現在は環境・エネルギー安全保障省。
注2:
特定の廃棄物がリサイクルなどを経て、一定条件を満たす場合に廃棄物とみなされなくなる(製品または二次資源となる)基準。EUでは廃棄物枠組み指令にその条件を規定している。
注3:
モノを製造して販売するだけでなく、デジタル化によって取得したデータを活用し、販売後の製品稼働状況の把握や、適切なメンテナンス施策を行うなど、「モノ+サービス」の提供に価値を置くビジネスモデル。
執筆者紹介
ジェトロ・ミラノ事務所
平川 容子(ひらかわ ようこ)
2021年からジェトロ・ミラノ事務所に勤務。