欧州各国の脱炭素・循環型ビジネス最新動向循環型ビジネスに取り組む大企業、スタートアップと研究機関(ドイツ)

2024年3月21日

資源の調達、製造、使用、廃棄までのリニア(直線)型の経済システムから、循環型経済への移行は、一つの企業や国単体ではなし得ない。ドイツにおいて循環型経済への転換は、主要産業である化学や自動車の大手企業が先行し、スタートアップが新たな技術を開発、また研究機関などは企業と連携して、循環型経済を実装するための課題の特定や枠組みの構築に資する研究を行っている。本レポートでは、ドイツにおける企業や研究機関などの活動に関する事例を紹介する。

化学や自動車の大手が産業界を牽引

ランクセス

特殊化学品メーカーのランクセスは、「クライメイト・ニュートラル(気候中立)2040」の目標を掲げ、自社施設からの温室効果ガス(GHG)排出量を大幅に削減するための戦略の1つとして、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現に取り組んでいる。化学産業は化石資源に大きく依存するとともに、産業のバリューチェーンでは中間に位置することから、循環型経済システムへの移行は容易とはいえない産業だ。同社は、循環型のビジネスモデルの構築には、リサイクルのみならず、関係するすべてのステークホルダーと協業し、価値創造システム全体を変革する必要性があるとして、数多くの取り組みを推進している。例えば、ケミカルリサイクル(化学的再生法)の領域では、パートナー企業と協力して、ポリスチレン・ループ・プロジェクトを実施。使用済みの難燃性ポリスチレン系断熱パネルを完全にリサイクルし、その過程で回収される臭素も持続可能な難燃剤の生産に再利用できる方法を研究している。さらに2050年までに、原材料の調達や、物流、最終製品などの間接排出を含めたバリューチェーン全体の気候中立を達成するため、二酸化炭素(CO2)排出量を自動的に計算するソフトウェア(Product Carbon Footprint Engine)を開発。社内および外部から収取されたCO2 排出量を含むデータを集計、処理し、原材料データと統合、調和させる。このソフトウェアツールを利用することで、製品および法人レベルで、さまざまなKPI(Key Performance Indicator)を追跡することが可能となる。原材料の排出量に関するデータの透明性を最大化することで、特に調達先を決定する際の選択肢を増やすことが可能になる。

BMW

自動車大手メーカーのBMWは、100%の再生資源使用率と100%のリサイクル、そしてランクセスと同様に、2050年までにバリューチェーン全体の気候中立達成を目標としている。生産から車両のライフサイクル全体に至るまで、資源効率における主導的地位を拡大し、循環型経済の進展におけるパイオニアを目指すという。BMWは2021年9月に開催された国際モーターショー「IAA MOBILITY 2021」で、持続可能なモビリティに対するBMWの包括的かつ一貫した考え方を示すコンセプトカー、BMW i ビジョン・サーキュラーを発表。材料のリサイクルを含む製造プロセスの徹底的な再考、開発と最適化(RE:THINK)、部品や素材の削減(RE:DUCE)、再製造と再設計を可能とすることでライフサイクルを伸ばす再使用(RE:USE)、使用材料は製品ライフサイクルの終了時に再利用するリサイクル材の使用の重視(RE:CYCLE)という、循環性を最優先にした車両デザインにあたり、同社が定めた4つのサーキュラーデザインの原則に基づいて設計されている。このほか、BMWは、バッテリーのリサイクル、廃棄物のリサイクル、バイオベース素材の原料・素材の開発や利用、再生プラスチックの活用、生産拠点における太陽光や風力発電などのグリーン電力の利用など、持続可能性を高め、CO2排出削減に貢献し、循環と資源を保護する活動を推進している。

メルセデス・ベンツ

大手企業がスタートアップの技術を活用して、サステナビリティーと循環型システムに臨む事例もある。自動車大手メーカーのメルセデス・ベンツは、化学大手BASF と廃タイヤの熱分解を専門とするスタートアップ、ピュルム・イノベーション(Pyrum Innovations)と協力し、同社の電気自動車「EQE」と「Sクラス」のドアハンドルに利用されるプラスチックをリサイクル原料に置き換えている(2022年9月20日付ビジネス短信参照)。BASFは、農業廃棄物によるバイオメタンと、ピュルム・イノベーションの廃タイヤ由来の熱分解油を組み合わせることで、再生原料由来の高品質なプラスチックを生産する。再生資源の回収により、化石資源の使用量のみならず、代替されたプラスチックのCO2排出量も削減されることになる。

スタートアップの役割も拡大

循環型ビジネスモデルへの転換には、イノベーションが必要とされる。大企業とスタートアップの協業による新たなビジネスモデルの開発を支援する組織、サーキュラー・リパブリックは、2023年3月に「サーキュラーエコノミー部門のスタートアップマップ」(ドイツ語)を公開した。この調査では、(1)再生可能またはリサイクル材料による製品の提供、(2)製品のサービス化(Product as a service)、(3)共有プラットフォームとしてユーザーにサービス提供、(4)製品寿命の延長支援、(5)再資源化に関するビジネス、のうち少なくとも1つ以上を行う企業を「循環型スタートアップ」として分類。ドイツの循環型スタートアップは171社が特定された。地域別では、49社がミュンヘンとその近郊都市から成るミュンヘン大都市圏、45社がベルリン、18社がライン川沿いのルール工業地帯に所在する。以下、「循環型スタートアップ」に特定されたスタートアップを3社紹介する。

メード・オブ・エアー

ベルリンのスタートアップ、メード・オブ・エアー(Made of Air)は、化石燃料由来のプラスチックやアルミニウムなどの既存の材料の代替となる、カーボンネガティブ化合物を開発。通常、木質廃材は焼却時に樹木として生育中に吸収したCO2を大気中に放出するが、メード・オブ・エアーは木質廃材からつくるバイオ炭に独自の処理を施し、バイオ炭のCO2を固定、バイオポリマーと組み合わせペレットを製造し、最終製品に加工する。CO2の排出削減のみならず、リサイクルによる循環型製品を建築、消費財などの分野に提供する。ミュンヘン郊外にあるアウディ販売店、ヘックスアウディ(HexAudi)の外壁にメード・オブ・エアーのパネルが採用され、10トン超のCO2排出削減に寄与した。

リブサイクル

ミュンヘンのリブサイクル(LiBCycle)は、電気自動車の増加に伴い課題となっているリチウムイオン電池の廃棄物処理を含めた、循環型経済に特化した物流サービスを提供する。電池の分類から梱包(こんぽう)、積載、輸送、保管に至るまで、リチウムイオン電池のバリューチェーンに沿った物流をサポートする。法に準拠した安全な梱包を行うため、自社開発による専用のバッテリーボックスの開発、提供も行っている。

トゥーゼロ

ミュンヘンのトゥーゼロ(tozero)は、化学物質を利用して金属を回収する湿式冶金(やきん)リサイクル技術を用い、使用済み電池から貴重な材料を回収する欧州初のスタートアップだ。リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、グラファイトなど、重要原材料を回収が可能だ。2023年9月に、リサイクル電池から重要原材料を回収するパイロット工場を稼働させた。また、産業規模の設備において、白金とリチウムの生産と、耐用年数が終了した電池を回収する業務も行っている。

産業団体や研究機関は企業と積極的に連携、活動

循環型経済への転換およびその構築は、バリューチェーンやビジネスモデルを再設計する好機になる、と期待される。また、クリーンエネルギーやモビリティの移行に伴い需要の増加が見込まれる重要原材料は、欧州域外から調達されており、その供給リスクを軽減する処方箋としても期待されている。一方で、耐久性が高く持続可能性があるリサイクル可能な製品を設計し、それらを循環的に管理するには、適切な枠組み条件が必要となる。そして、循環型経済の市場には多様なステークホルダーが存在する。このことから、ドイツでは、産業界、学術界、行政、市民団体などが連携し、資源効率の高い生産や研究開発、消費において連携を図るためのイニシアチブや研究・調査を行っている。最後にその取り組みを表で紹介する。

表:循環型経済に向けた産業団体や研究機関の主な取り組み
イニシアチブ・研究 団体名 概要
BDIサーキュラー・エコノミー・イニシアチブ ドイツ産業連盟(BDI) ドイツ産業連盟が主体となり、60社・団体で構成されるイニシアチブ。ドイツ政府やEUに対する政策提言や製品開発からリサイクルまでの循環型経済を実現する技術や枠組み条件を特定する。
プラスチックの循環型経済のためのVDIラウンドテーブル ドイツ技術者協会(VDI) ドイツ技術者協会が実施したラウンドテーブル。2045年の気候中立[温室効果ガス(GHG)の排出実質ゼロ]達成を掲げる中、ドイツで生産されるプラスチックのうち85% が化石原料由来となっている。このギャップを解決し、プラスチック生産における原材料の完全な循環と利用を目指し、白書「プラスチックの循環型経済を再考する」(2023年1月)を発行した。
CIRCONOMY®ハブ フラウンホーファー研究機構 ドイツ全土に76の研究所を擁する応用研究機関、フラウンホーファー研究機構が形成する分散型イノベーションエコシステム。建設資材リサイクルをテーマにした「建設分野における物質循環」、循環炭素技術に取り組む「サーキュラーカーボンテクノロジー CCT」など分野別のハブがある。
サーキュラー・リパブリック ウンターネーマートゥム
(UnternehmerTUM)
ミュンヘン工科大学の起業支援機関であるウンターネーマートゥムによるイニシアチブ。循環型経済に関連するスタートアップのアクセラレーションや、BMWやSAPなどの大手企業のオープンイノベーションを支援する。

出所:各団体のホームページからジェトロ作成

執筆者紹介
ジェトロ・ベルリン事務所
中村 容子(なかむら ようこ)
2015年、ジェトロ入構。対日投資部外国企業支援課を経て現職。