ラオスで電気自動車(EV)の環境整備が進む

2023年3月30日

ラオスの電気自動車(EV)に関する動きは、2022年4月12日付地域・分析レポートにおいて、政府の余剰電力の活用や化石燃料の輸入削減を目的とした動きについて触れた。最近では、ガソリン不足や価格高騰を契機に中国メーカーを中心に正規代理店も増加し、電動自動車や電動二輪車をよく見かけるようになってきた。基準などの法整備はやや遅れている段階にあるが、充電コネクターや車両登録ルールなどの方針がほぼ定まる中、充電ステーションへの投資が相次いで発表されており、今後、EVが急速に普及する可能性がある。

中国メーカーの正規代理店が増加

ラオス政府はEVの導入政策を進めており、自動車全体に占めるEVの割合を2025年までに1%、2030年までに30%とする方針だ。タボーン・ポンケオ・エネルギー鉱山相(当時)は2022年6月に開催された通常国会で、2025年には8,000台の電動二輪車、150台の電動バス・トラック、1万1,850台の電動自動車を導入する計画と答弁した(2022年6月17日「パテートラオ」紙)。2023年2月までに政府が把握している電動自動車の販売台数は約1,400台で、充電ステーションは20カ所だ(2023年2月8日「パサソン」紙)。正規販売店も、BYD、GEELY、JMEV、NETAなどの中国メーカーのほかにも、ヒュンダイ、フォルクスワーゲン、ジャガーなどに拡大し、選択肢が広がっている状況にある。このような中、2023年2月にはBYDのショールームが首都ビエンチャン(以下、都内)中心部のショッピングモール内にオープンし、多くの客が詰めかけた。国民の高い関心がうかがえる。

一方、電動二輪車はこれまで、未舗装道路を2~3人乗りで走行する需要が高く、排気量110ccのエンジン車が主流だった。このため、走行能力が劣ると目されていた電動二輪車への関心は非常に低かった。ところが、2022年5月に首都を中心にガソリン不足が深刻化した(2022年5月12日付ビジネス短信参照)ことやガソリン価格の高騰がきっかけで、電動二輪車への関心が大きく高まり、普及が一気に進んでいるように思われる。2023年2月にエネルギー鉱山省が発表した数字では、電動二輪車の普及台数は約1,800台としているが、現時点ではあらゆる電動二輪車において車両登録制度がないため、正確な数を把握することは困難となっている。少なくとも、ペダル付き原動機付自転車のモペットを含め都内では頻繁に見かけるようになってきている。うち最もよく見かけるのは、320万キープ(約2万5,600円、1キープ=約0.008円)前後の低価格帯でモーター出力350~450Wのモペッドだ。これらは航続距離が40キロメートル程度であることから、比較的近場の通勤や通学、買い出しに主に使用されている。電動二輪車は通常、家庭で充電を行うことが一般的だが、家庭用電力価格は355~1,019キープ/キロワット時(kWh)(約3~8円/kWh)と比較的安いことは大きなメリットとして受け止められているようだ。


中国製電動二輪車「YADEA」の正規代理店(ジェトロ撮影)

基準策定への動きも

前述のように、ラオスではEVの普及が始まった段階にあるが、法整備が遅れており、後追いしている状況にある。ラオス公共事業運輸省は2021年11月12日付で「EV基準に関する提案書(No.702/MPWT)」を首相府へ提出し、2022年1月に首相による基本的合意を得たが、発効が遅れている。ただし、運輸局によると、詳細なEVの安全基準と輸入・製造・登録に関する詳細なルールを近く発布する予定で、現在、草案の最終段階にあるという。同草案によると、輸入と車両の登録が可能なEV(注1)はバッテリーとしてリチウムイオンに限定する。さらに、モーターの定格出力は電動自動車(セダン、ピックアップ、ジープ、バン)が15キロワット(kW)以上、電動バスおよびトラックは100kW以上とし、時速90キロ以上の速度で走行可能であることを条件としている(表参照)。定格出力は、電動二輪車で0.25kW以上、電動三輪車・四輪車で4kW以上とし、いずれも時速45km以上で走行可能な必要がある。この条件に満たない場合は、特殊車両や電動自転車は除いて、原則として公道で走行を許可しない方針である。

表:輸入と登録が可能な各EVの条件
車種 モーター定格出力 必要速度
電動二輪車 0.25kW以上 45km/h以上
電動三輪、四輪 4kW以上 45km/h以上
電動自動車(セダン、ピックアップ、ジープ、バン) 15kW以上 90km/h以上
電動バス、電動トラック 100kW以上 90km/h以上

注:草案段階のため変更される可能性がある。
出所:ラオス公共事業運輸省運輸局へのヒアリング結果から作成

また、充電コネクターの規格は、家庭などで使用する普通充電器(AC)では Mennekes(Type2)、充電施設などで使用する急速充電器(DC)ではCCS Combo2を採用する予定である。どちらも欧州タイプの、ASEAN諸国でも広く採用されているものである。バッテリーの安全基準では、国連規則(UN R100、UN R136)および米国連邦自動車安全基準第305号(FMVSS305)の基準を採用する方針で、高電圧警告ラベルをバッテリーに貼り付けることが義務付けられる。なお、ラオスでEVを輸入販売する場合は、ガソリン車と同様にメーカーと代理店契約を締結していること、ショールームやアフターサービスを備える必要がある。ほかにも、バッテリー安全性試験報告書やバッテリー廃棄計画などを提出する必要がある。また、運輸局によると、電動二輪車を含めEV用のナンバープレートの新設を当初は計画していたが、既存のナンバープレートをそのまま適用し、その代わりにEVロゴを車体に別途貼り付ける方式を採用する計画だ。

充電ステーションについては、ラオス市場では既に中国規格であるGB/Tが広まりつつある。しかし、2022年9月9日付けで「EV充電ステーションに関するエネルギー鉱山大臣合意(No.1828/MEM)」が発布され、国際電気標準会議(注2)のIEC61851に準拠したCCS ComboとGB/Tの両方式を採用した。

充電ステーションも拡大へ

法整備や利用者の増加が進むにつれて、全国でEV充電ステーションの設置の動きもみられるようになってきた。ラオスの若手実業家によるスタートアップLOCAは、ラオス各地でアプリによるタクシー配車サービスを展開している(2018年9月13日付ビジネス短信参照)。同社は、現在提携する710台のタクシーのうち85台がEVであるが、今後の戦略としてはEV導入を進め、2025年までに1,000台、2030年までに提携するタクシーをすべてEVとするという。また同社は、一般のEV利用者が利用できる充電ステーション(GB/TおよびCCS Type 2に対応)の設置を各地で進めており、2022年7月には充電用のアプリ(Loca EV外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )も発表した。202年2月までに7カ所の設置が完了し、近く2カ所が追加されるという。現在利用者に提供している充電価格は2,700~3,100キープ/kWh(約22~25円/kWh)で、これに設備利用料〔6,000~1万キープ(約48~80円)〕や充電時間あたり200~300キープ/分(2円前後/分)を加算した価格構成となっている。各家庭での充電(355~1,019キープ/kWh)に比べると割高にはなるが、充電時間も短く利便性が高いことから、利用が600台以上に増えているという。同社は今後、充電ステーションのフランチャイズ化も進め、2025年までに全国で少なくとも40カ所の充電ステーション網を構築する計画だ。


都内の充電ステーション(ジェトロ撮影)

ほかにも、次々と充電ステーションへの参入が始まっている。2023年1月にラオス全国でガソリンスタンドを展開するタイ石油公社は、ラオス企業のラオタニと提携してガソリンスタンドに充電ステーションを設置する事業を行うことで合意した。2023年中に、全国の主要な都市部10カ所に充電ステーションを設置する予定だ。さらに、2023年2月には韓国車などの販売やオートバイ生産を行うコーラオが、ラオス電力公社と合弁会社を設立し、充電ステーションとEVメンテナンスサービスや商業施設を組み合わせたコンプレックスを展開すると発表している。BYDも、2025年までに充電ステーションを200カ所で展開するという。 このように、ラオスではEVの普及や法整備は始まったばかりであるが、今後、ガソリンと比較して電気代が安いことやEVへの減税措置により急速に普及する可能性がある。また、ラオスは2021年の総発電量4万4,912ギガワット時(GWh)のうち、水力や太陽光などの再生可能エネルギー源が74%を占めていることから低炭素モビリティの導入という観点からも注目に値するだろう。


注1:
同草案によると、EVはバイク、スクーター、モペッドなどの二輪車や三輪車、セダン、ピックアップ、バンなどの四輪車、バス、トラック、ゴルフカート、重機などのうち、動力源として(1)BEV:100%バッテリー式、(2)HEV:ガソリンと電気ハイブリッド式、(3)PHEV:ガソリンと外部電源利用可能な電気ハイブリッド式、(4)FCEV:燃料電池式を使用する車両を指す。
注2:
電気・電子技術分野の国際規格を策定する国際標準化機関。
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう)
2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員