米中対立の新常態-デリスキングとサプライチェーンの再構築 施行2年目の米ウイグル強制労働防止法
輸入差し止めは幅広い産業に拡大

2024年1月11日

米国でウイグル強制労働防止法(UFLPA)が2022年6月21日に施行されてから1年半が経過した。UFLPAは、中国の新疆ウイグル自治区で全部または一部が生産された製品の米国への輸入を原則禁止している(注1)。施行直後は主に太陽光パネルなど優先分野の輸入が差し止められていたが、対象分野は徐々に拡大している。バイデン政権は強制労働を含む人権侵害への対処を重視し、連邦議会もUFLPAの執行強化を追求している。産業界は、米国政府のガイダンスなどに基づいてサプライチェーンの透明性を高める取り組みが求められる。

輸入差し止めは幅広い産業に拡大

UFLPAは、米国の強制労働関連の輸入規制に大きな影響を与えた。UFLPAの執行を担う米国税関・国境警備局(CBP)の統計外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2023年12月22日更新)によると、UFLPAに基づいて輸入差し止めの対象となった貨物は施行から12月4日までに6,315件(22億500万ドル相当)に達した。差し止められた貨物のうち、2,724件(43%)は輸入が許可された一方、2,547件(40%)は輸入が認められず、残りは審査中のため保留となっている(注2)。CBPによると、2023会計年度(2022年10月~2023年9月)に強制労働の疑いを理由に差し止められた輸入貨物は計4,415件に上る。この数字にはUFLPAだけでなく、個別企業を対象とする違反商品保留命令(WRO、注3)などに基づく差し止めも含まれるが、UFLPAが全体の9割超を占める計算となり、CBPが同法の執行に注力していることがデータでも顕著に表れている。

執行件数を産業別に見ると、エレクトロニクスが2,932件(18億4,400万ドル)と半数弱を占める。次いで、アパレル・履物・織物(1,093件、4,600万ドル)、工業・製造材料(1,083件、6,800万ドル)、農産物・調製品(356件、1,800万ドル)などが続く。UFLPAの執行戦略(2022年6月21日付ビジネス短信参照)で優先分野とされているポリシリコンを含むシリカ製品やアパレル・綿製品、トマト製品を含む産業で執行が多い傾向が見て取れる(注4)。他方、輸入差し止めは2023年に入って優先分野以外にも広がっている(図参照)。例えば、卑金属の1カ月の平均執行件数を見ると、2022年は4件であったが、2023年は21件と5倍強に増加している。

図:UFLPAに基づく執行件数・額の推移
UFLPAに基づく執行件数と執行額は、2022年6月43件、760万ドル、7月479件、 1億1,290万ドル、8月590件、2億710万ドル、9月417件、1億4,140万ドル、10月318件、1億2,500万ドル、11月359件、1億2,470万ドル、12月262件、5,150万ドル、2023年1月264件、7,160万ドル、2月425件、1億480万ドル、3月353件、1億810万ドル、4月344件、1億5,010万ドル、 5月434件、1億8,920万ドル、6月385件、2億4,040万ドル、7月348件、1億380万ドル、8月300件、6,380万ドル、 9月237件、9,640万ドル、 10月462件、1億9,770万ドル、11月295件、1億2,470万ドルと推移。 優先分野と優先分野以外に分けた場合のそれぞれの執行件数は、2022年6月38件、5件、7月389件、96件、8月500件、119件、9月348件、79件、10月281件、46件、11月313件、53件、12月167件、114件、2023年1月166件、114件、2月225件、210件、3月206件、153件、4月183件、173件、5月202件、247件、6月224件、199件、7月163件、207件、8月227件、80件、9月189件、51件、10月320件、149件、11月240件、56件と推移。

注1:UFLPAに基づく輸入禁止措置は2022年6月21日に発効。
注2:優先分野はエレクトロニクス、アパレル・履物・織物、農産物・調製品の3つの産業を含む。優先分野以外は工業・製造材料、消費財、医薬・化学品、機械、卑金属、自動車・航空宇宙の6つの産業を含む。
出所:CBP統計(2023年12月22日更新)からジェトロ作成

輸入差し止めは中国以外からの製品にも及んでいる。UFLPAは新疆ウイグル自治区産の原材料を用いて中国外で生産された製品にも適用されるためだ。執行件数を原産国・地域別に見ると、中国が2,160件と最も多いが、次点のベトナムは2,128件で中国に肉薄しているほか、マレーシアが1,623件、タイが283件と、東南アジア諸国に執行が集中している。執行額では、マレーシアが11億6,700万ドルと最大で、次いでベトナムが5億7,200万ドル、中国は2億8,100万ドルにとどまる。東南アジア諸国はエレクトロニクスや工業・製造材料など少数の産業に執行が偏る一方、中国はアパレル・履物・織物を筆頭に幅広い産業で輸入差し止めがみられるのが特徴だ(表1参照)。

表1:国別の執行件数上位5産業
順位 中国 ベトナム マレーシア タイ
1 アパレル・履物・織物(595件) エレクトロニクス(995件) エレクトロニクス(1,622件) エレクトロニクス(274件)
2 農産物・調製品(345件) 工業・製造材料(742件) 消費財、機械(いずれも1件) 自動車・航空宇宙(8件)
3 工業・製造材料(336件) アパレル・履物・織物(387件) なし 機械(1件)
4 消費財(321件) 消費財(3件) なし なし
5 卑金属(260件) 機械(1件) なし なし

出所:CBP統計(2023年12月22日更新)からジェトロ作成

執行強化が続く一方、運用の不透明感はいまだ拭えず

米国政府は輸入差し止めの範囲を徐々に広げつつ、新たな執行強化策を継続的に打ち出している(表2参照)。UFLPAに基づいて輸入禁止対象となる事業者をまとめた「UFLPAエンティティー・リスト」には、2023年6月以降、4回にわたって中国企業を計10社追加し、掲載事業者は30企業・団体となった(併せて指定されている子会社や関連組織を除く)。もともとリストに指定されていた事業者はいずれも現行のWROや輸出規制の対象で、既に米国政府が人権侵害への関与を特定していた事業者だった。一方、新たに追加された企業はこれらの規制対象には該当せず、また、扱う製品を見るとUFLPAの当初の優先分野に属さない企業も含まれている。こうした事実からは、UFLPAをより広範に適用しようとする米国政府の意図が読み取れる。

表2 :UFLPA施行後の米国政府の主な対応
日付 対応
2022年6月21日 UFLPAに基づく輸入禁止措置が発効
8月3日 国土安全保障省(DHS)、UFLPAエンティティー・リストの改定手順を発表(2022年8月4日付ビジネス短信参照
2023年2月23日 CBP、UFLPAの適法性審査に関する追加ガイダンスを発表(2023年5月30日付ビジネス短信参照
3月14日 CBP、UFLPAの執行に関する統計サイトを公開
3月18日 CBP、新疆ウイグル自治区で製造された可能性のある製品の輸入者に対する早期警告システムとして「UFLPA地域アラート」を導入(2023年3月17日付ビジネス短信参照
6月9日 DHS、UFLPAエンティティー・リストの更新を発表。中国企業2社とその子会社8社を追加(2023年6月12日付ビジネス短信参照
8月1日 DHS、UFLPAエンティティー・リストに中国企業2社を追加すると発表。UFLPA執行戦略の更新も発表(2023年8月3日付ビジネス短信参照
9月26日 DHS、UFLPAエンティティー・リストに中国企業3社を追加すると発表。国務省、2021年7月に発表した新疆ウイグル自治区に関する産業界向け勧告書への付属書を発表(2023年9月27日付ビジネス短信参照
12月8日 DHS、UFLPAエンティティー・リストに中国企業3社を追加すると発表(2023年12月12日付ビジネス短信参照
2024年1月27日(予定) CBP、輸入貨物の差し止めに関わる手続きを電子システム(ACE)上で行えるよう、新たなシステムを導入。同システムは2023年5月に導入予定だったが延期されていた(2023年12月18日付ビジネス短信参照

出所:米国政府の発表からジェトロ作成

2023年8月には、米国政府の強制労働執行タスクフォース(FLETF)を指揮する国土安全保障省(DHS)がUFLPAの執行戦略の更新を発表し、NGOや民間部門との協力策などについて報告した。輸入業者にとって注目すべきは、DHSが報告書で、NGOが強制労働のリスクがあると特定した分野を監視する重要性を強調したことだ。具体的には、鉄・アルミニウム製品や自動車部品など8分野を挙げた(参考参照)。これらの分野は、UFLPAの「優先分野」に明示的に追加したわけではない。しかし、米国のメディアや法律事務所によると、CBPは既にこれらの分野についても、優先分野と同様にリスクのある製品として扱っているもようだ。幅広い産業に執行が拡大している背景には、こうした米国政府の方針変更があるとみられる。

参考:強制労働のリスクが潜在的にあると特定された分野

(1)レッドデーツおよびそのほかの農産物
(2)ビニール製品および派生品
(3)アルミニウムおよび派生品
(4)鉄および派生品
(5)鉛バッテリー・リチウムイオンバッテリー
(6)銅および派生品
(7)エレクトロニクス
(8)タイヤおよびそのほかの自動車部品

出所:UFLPA執行戦略の更新に関する報告書(2023年8月発表)

執行強化の動きと並行して、米国政府は追加のガイダンスを発表するなどして、産業界の規制順守を支援してきた。UFLPAの運用を巡っては、産業界からかねて透明性の向上を求める声が上がっていたが、現在もそうした要請がなくなったわけではない。民間企業などの代表者がCBPの運営に関して助言を行う商業税関運営諮問委員会(COAC)は2022年12月と2023年9月に採択した勧告で、UFLPAの運用のさらなる改善を求めている。例えば、輸入差し止めに関わるプロセスの詳細な説明資料の提供や、税関全体における執行の一貫性の向上などを要請した。とりわけ、産業界は、差し止め貨物のより詳細な分類や、差し止めの根拠(原材料やサプライヤー)について明確な情報が提供されていない現状に懸念を抱いているようだ。これらの情報は、企業がUFLPAを順守する上で役立つ情報であり、今後のガイダンスが待たれる。

サプライチェーン見直しも進行

UFLPAの施行から1年以上が経ち、企業のサプライチェーンへの影響も徐々に明らかになってきた。特に、UFLPAの優先分野に当初から指定され、連邦議会から執行強化の圧力が高まるアパレル産業や太陽光発電産業では、米国向けのサプライチェーンを中国から移転しようとする動きが目立っている。

アパレル産業では、調達先の東南アジア諸国などへのシフトが進みつつあるようだ。米国農務省によると、中国で生産される綿の9割が新疆ウイグル自治区産とされる。そのため、米国ファッション産業協会(USFIA)などが2023年4~6月に実施した調査(2023年8月4日付ビジネス短信参照)では、米国に本社または主要拠点を置くファッション企業の86%がUFLPAへの対応として「中国からの綿製衣料品の調達を減らした、または減らす予定」と回答した。今後2年間の衣料品全般の調達を巡っては、78%が中国からの調達を減らすとした一方、37~52%がインドネシア、カンボジア、インド、バングラデシュ、ベトナムからの調達を増やすとした。こうした動きは貿易額の変化にも表れており、米国商務省の統計によると、米国の綿製衣料品の輸入(金額ベース)に占める中国の割合は2019年の22%から2023年(1~9月)に12%と大きく減少した。対照的に、USFIAの調査で調達を増やす先として挙がったアジア5カ国のシェアは42%から50%に増加している。

太陽光発電製品では、材料のサプライチェーンで再編が起きているとされる。同製品は、UFLPAの優先分野のポリシリコンが材料に使われるため、同法施行直後に最も影響を受けた分野だった。業界専門メディア「PVテック」(2023年4月3日)によると、UFLPAに基づく太陽電池モジュールの輸入差し止めは2022年に1,423件(約7億1,000万ドル)に上った。同製品だけで2022年の輸入差し止め全体(2,468件)の58%を占めた計算だ。こうした状況に対し、影響を受けた太陽光発電製品メーカーは、米国向けの製品では北米や欧州産のポリシリコンを使うようになったとの報告がある。実際、米国太陽エネルギー産業協会(SEIA)などによると、調達先の変更に加え、輸入者がCBPの書類審査に適応し始めたことにより、2023年に入って差し止められていた太陽電池モジュールなどの輸入が徐々に許可され始めたという。

調達先の多様化により、UFLPAに抵触するリスクは減らせるとみられる。だが、サプライチェーンから中国を完全に分離するのは困難との見方があるのも現実だ。調達先を中国外に移しても、サプライヤーが中国からの原材料に依存していたり、生産に必要な原材料で中国が大きなシェアを持っていたりする場合があるからだ。例えば、アパレル産業で代替調達先として期待されるベトナムは、衣服の製造に使うボタンや糸などの資材を中国製に頼っており、現地で生産される資材は30~40%にすぎないとの分析もある(ブルームバーグ2023年10月30日、注5)。太陽光発電製品でもポリシリコンを含むサプライチェーンの各段階で中国が8割以上のシェアを握っており、国内需要を米国製品だけで賄うのは難しい(2023年4月3日付地域・分析レポート参照)。そのため、これらの産業にとっては、当面は新疆ウイグル自治区以外の地域に由来する製品の輸入がどれだけ進むかが焦点となりそうだ。

リスクに基づいた対策を

UFLPAの執行は、CBPのリソースが拡充され、輸入差し止めの実績が蓄積するにつれ、今後より強まっていくことが予想される。これに対し、企業は米国政府の執行戦略を把握し、リスクに基づいてサプライチェーンの透明性を高める取り組みを継続的に進めていくことが肝要だ(注6)。

執行戦略に関しては、今後もUFLPAエンティティー・リストの拡大が見込まれる。UFLPAの執行状況を監視する連邦議会は「リスト掲載事業者の数と範囲は、FLETFによるUFLPAの実施へのコミットメントを示す重要な指標」との考えを示し、バイデン政権にリストの拡充を要請している。一方、FLETFの議長を務めるDHSのロバート・シルバース次官は2023年6月に議会に宛てた書簡で、追加すべき企業を積極的に評価していると説明し、政権がリスト拡大を優先していると強調した。

製品分野については、米国政府が強制労働のリスクがあると既に公表している製品に加え、NGOなど非政府機関が発信する情報に気を配る必要がある。米国政府は、リスクがある製品や企業を特定する上で、NGOや学術機関の報告を重視している。これらの情報は議会による個別調査やCBPによる執行の前触れとなる可能性があるため、デューディリジェンスを行う上での重要な指標となる(注7)。

製品やサプライヤーに関わるリスクに基づいてサプライチェーンを検証する際、中国以外の国にも目を向けることが必要だ。輸入差し止めが中国以外の国の製品にも及んでいることからも、CBPが複数国にまたがるサプライチェーンの分析に取り組んでいることは明らかだ。この点で、CBPの統計は、各国からの輸入でどのような製品にリスクがあるのかを特定するのに役立つだろう。

UFLPAへの積極的な対応は、輸入差し止めに伴うコストの回避・軽減だけでなく、企業のレピュテーションリスクの管理という点でも大切だ。また、サプライチェーンの見える化は、法令順守のためだけでなく、供給途絶時のサプライチェーンの予測可能性を高めるための取り組みでもある。こうした視点も取り入れ、UFLPAをサプライチェーン再評価のきっかけにすることもできるだろう。


注1:
UFLPAは2021年12月23日に成立、2022年6月21日に施行。UFLPAの概要については、2022年8月5日付地域・分析レポートを参照。ジェトロの特集ページ「ウイグル強制労働防止法」では、UFLPAに関する最新動向を随時紹介している。
注2:
差し止められた貨物について、ほとんどの企業はUFLPAの適用対象外であることを示すための「適法性審査」をCBPに求めているとされる。企業は適法性審査のほかに、輸入例外を申請することもできるが、これまで例外が認められたとの発表はない。CBPによると、適法性審査には通常2~3週間かかる。ただ、これは審査を行うのに十分な情報がそろっている場合で、CBPは生産工程や関連事業者間の関係性について情報が不足していると判断すれば、輸入者に追加書類の提出を求める可能性もある。
注3:
WROは、強制労働を使用して生産された製品の輸入を禁じる1930年関税法307条に基づいて発令される。関税法307条で、強制労働は「ある者が不履行に対する罰則の脅威の下で強要され、かつその労働者が自発的に提供しない一切の仕事またはサービス」と定義している。
注4:
各産業に含まれる製品の例は、CBPの説明資料外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで確認できる。各産業は関税分類番号(HTSコード)で分類されている。
注5:
実際、USFIAの調査でも、7割以上の企業が糸や生地、付属品(ボタンなど)を中国から調達しているとの結果が出ており、USFIAは原材料の中国依存を短中期的に解消するのは難しいと指摘している。
注6:
UFLPAを含む米国の人権関連法・規制や、実務上の対応などについては、ジェトロの調査レポート「グローバル・バリューチェーン上の人権侵害に関連する米国規制と人権デューディリジェンスによる実務的対応」「米国の経済安全保障に関する措置への実務的対応」も参照。
注7:
バイデン政権が2023年9月に発表した、新疆ウイグル自治区に関する産業界向け勧告書の付属書「Xinjiang Supply Chain Business Advisory Addendum」PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(555KB)では、学術機関やNGOが発表した各種の報告書が列挙されている。連邦議会上院で通商を所管する財政委員会のロン・ワイデン委員長(民主党、オレゴン州)は2022年12月、同付属書でも挙げられている英国シェフィールド・ハラム大学の報告書を受け、自動車産業のサプライチェーンに関する調査を開始している(2023年3月30日付ビジネス短信参照)。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所〔戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員〕
甲斐野 裕之(かいの ひろゆき)
2017年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課、海外調査部米州課を経て、2022年2月から現職。