米中対立の新常態-デリスキングとサプライチェーンの再構築対外投資規制へ動き出したバイデン米政権
規則制定と法制化が焦点に

2023年10月2日

米国のバイデン政権が、対外投資の規制に向けて動き出した。ジョー・バイデン大統領が2023年8月9日に署名した大統領令に基づいて、財務省が今後、詳細なルールを作る(2023年8月14日付ビジネス短信参照)。大統領令の背景にあるのは、中国が軍事力の現代化に重要な機微技術の生産能力を高めるために、米国からの投資を利用しているとの問題意識だ。

米国政府はこれまで、オープンな投資の流れが経済を活性化すると考え、米国企業による国外での活動をほとんど制限してこなかった。政権は新規制の実施にあたって、産業界と入念な調整を行う意向だ。政権と並行して、対外投資規制を検討する連邦議会の動向も今後の焦点となる。

トランプ前政権から続く対外投資規制の議論

対外投資規制を巡る議論はバイデン政権で始まったわけではなく、米中対立が先鋭化したトランプ前政権時にもみられた。例えば、2018年に成立した「外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)」の審議過程では、重要技術を持つ米国企業が合弁事業などを通じて知的財産などを外国企業に提供する取引についても、対米外国投資委員会(CFIUS)の審査対象に含める案が一時検討された(注1)。トランプ政権も、中国人民解放軍と関連する中国企業への米国人の証券投資を禁じる措置を導入し、対中投資を部分的に制限した(注2)。

これまで議会に提出された法案で議論の中心となってきたのが、ボブ・ケイシー(民主党、ペンシルベニア州)、ジョン・コーニン(共和党、テキサス州)両上院議員が2021年5月に提出した「国家重要能力防衛法案(NCCDA)」だ。同法案は、米国通商代表部(USTR)が率いる省庁横断の委員会を創設し、米国企業による対外投資を審査する権限を与える。同委員会は、医療用品や重要インフラの運用に不可欠な品目などの製造能力を中国など懸念国に移転する投資を審査する。大統領は委員会の勧告に基づいて、投資の禁止を含むリスク軽減措置を取ることが可能となる。新型コロナウイルスの感染拡大は、重要物資の供給を中国に依存するリスクを顕在化させた。NCCDAは、そうしたリスクを強く意識している法案となっている。

NCCDAが超党派法案であることが示すように、民主・共和両党は、中国を念頭に対外投資に伴う国家安全保障上のリスクに対処すべきとの総論では一致している。しかし、対処すべき具体的なリスクや規制の範囲・手法について意見が収斂(しゅうれん)せず、上下両院を通過するのに十分な支持を集める法案は出ていないのが現状だ。NCCDAも規制の範囲が広いことなどを問題視する産業界の反対を受け、成立には至らなかった(注3)。法案作成に時間がかかっていることを受け、2022年9月には上院民主党トップのチャック・シューマー院内総務(ニューヨーク州)らが政権に対し、議会に先行して対外投資を制限する措置を講じるよう要請していた。

大統領令はノウハウの移転に焦点

議会が具体的な法案を議論する中、バイデン政権も発足後、比較的早い時期から対外投資がもたらす国家安全保障上のリスクに対処する考えを示唆してきた。しかし、政権内では国家安全保障に重きを置くグループと企業活動への影響を懸念するグループの間に規制の範囲などを巡って意見に違いがあったとされ、関係省庁間の調整に時間がかかっていたもようだ。政権はまた、大統領令を準備する中で、産業界や同盟・パートナー国とも協議したとしている。

NCCDAがサプライチェーンの保護を重視するのに対し、2023年8月の大統領令は、対外投資に伴う「無形の便益」に焦点を当てたのが特徴だ。バイデン政権の高官は「われわれが防ごうとしているのは、中国への資金流入全体ではない。なぜなら、中国には十分な資金があるからだ。一方で、中国にないのはノウハウだ」と指摘し、ベンチャーキャピタル(VC)投資などに伴う経営支援や投資・人材ネットワークの提供を制限することが大統領令の狙いだと説明する。こうしたノウハウが可能にする中国による自前の先端技術の開発は、既存の輸出管理や対内投資審査制度では対処できない。これが、バイデン政権の対外投資規制の根底にある考えだ。

大統領令に基づいて新設される対外投資プログラムは、米国人(注4)による特定技術・製品に関わる懸念国(現時点では香港とマカオを含む中国のみ、注5)の個人や事業体との取引について、国家安全保障に特に深刻な脅威をもたらす取引を禁止する。そのほかの取引は、財務省への届け出を義務付ける。対象分野は、半導体・マイクロエレクトロニクス、量子情報技術、人工知能(AI)の3分野で、財務省は対象取引として、株式の取得〔M&A、プライベート・エクイティ(未公開株式)投資、VC投資〕、株式に転換可能なデットファイナンス取引、グリーンフィールド投資、合弁事業を検討している(表1参照)。対象取引の範囲や対象技術・製品の詳細な定義は、実施規則で定める。財務省は利害関係者から募集したパブリックコメント(パブコメ)を基に規則案を作成する予定だ。

表1:対外投資プログラムで検討されている届け出・禁止対象取引
対象技術・製品の分野 届け出対象 禁止対象
半導体・エレクトロニクス
  • 集積回路の設計・製造・パッケージング(禁止対象以外のもの)
  • 先端集積回路に関わる電子設計自動化ソフトウエアの開発または生産
  • 先端集積回路に関わる半導体製造装置の開発または生産
  • 先端集積回路の設計・製造・パッケージング
  • スーパーコンピュータの設置または第三者への販売
量子情報技術 現時点では検討せず
  • 量子コンピュータおよび特定の部品の生産
  • 軍事、政府の情報活動、または大規模監視の最終用途専用に設計された量子センサーの開発
  • 量子鍵配布など安全な通信専用に設計された量子ネットワークまたは量子通信システムの開発
AIシステム
  • AIシステムを組み込んだソフトウエアで、サイバーセキュリティーへの応用や顔認証などの用途専用に(または、主にこれらの用途のために)設計されたものの開発
  • AIシステムを組み込んだソフトウエアで、軍事、政府の情報活動、または大規模監視の最終用途専用に(または、主にこれらの最終用途のために)設計されたものの開発

注:表中の活動に従事する中国の個人や事業体との取引が対象。詳細は財務省の8月14日付官報のⅢ.F~Ⅲ.I節を参照。
出所:連邦官報からジェトロ作成

米国メディアの報道によると、政権は対象分野にクリーンエネルギーやバイオテクノロジーも含める案を検討していたとされるが、これらは最終的に除外された。この点で、規制の範囲は事前の予想より狭く設定された。他方、半導体については、先端集積回路に関わる取引が禁止対象となる一方で、非先端集積回路に関わるほぼ全ての取引は届け出対象として検討されており、潜在的に非常に広範な規制といえる。米国の専門家は、AIに関わる対象取引の範囲をどう画定するかに注目する。シンクタンクのアトランティック・カウンシルのサラ・バウアリー・ダンズマン氏らは、半導体や量子情報技術は技術指標で定義できる一方、AIはより非定形なカテゴリーだとして、規制する取引を明確に定めるのは容易ではないとの見方を示す(2023年8月10日付論考)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

財務省はパブコメに基づいて規則案を作成した後、規則案に関しても意見を募るとみられる。そのため、最終規則が施行されるのは2024年以降になる可能性が高い。政権の高官は規則制定過程で、大統領令に明記された3分野以外に対象を広げることは想定していない、と説明した。それでも、米国の産業界は規制の範囲が過度に広がらないよう、規則制定に積極的に関与していく構えだ(2023年8月16日付ビジネス短信参照)。産業界はこれまでも議会に対し、曖昧な規制を一方的に敷かないよう度々要請しており、政権にもパブコメなどを通じてこうした意見を伝えていくとみられる(表2参照)。

表2:対外投資規制に関する米国産業界の主な要請事項
要請事項 内容
規制範囲
  • 国家安全保障に明確に関連する分野・取引のみを対象に
  • 対象取引は明確に定義し、規制順守の負担軽減を
  • 輸出管理などの既存の規制との重複を回避すべき
所管省庁
  • 規制を円滑に実施するのに十分なリソースと経験を持つ政府機関が主導すべき
国際連携
  • 米国企業だけが規制による不利益を被ることがないよう、同盟・パートナー国と協調を
  • 各国がバラバラに規制を行うと世界の貿易システムが混乱、規制順守コストも増大

出所:米国商工会議所、米中ビジネス評議会(USCBC)、情報技術産業協会(ITI)、BSAの発表資料から作成

規制は米国企業以外にも影響する見込み

新規制が企業活動に与える影響は、規則案が明らかになるまで読めない部分がある。日本企業にとっては、新規制が米国企業以外にも適用され得ることに留意が必要だ。規制を順守すべき「米国人」には、米国の法律に基づいて組織された事業体も含まれ、日本企業の在米子会社も対象となるためだ。そのほか、財務省は、米国人が直接または間接的に50%以上所有する外国の事業体が行う取引に関わる届け出・禁止要件も定める見通しで、日本に所在する米系企業にも規制が及ぶ可能性がある(注6)。また、規制対象には、中国企業が直接または間接的に50%以上所有する企業や、対象分野に関わる中国企業の親会社(当該子会社が連結売上高や純利益の50%超を占める場合)も含めることを検討しており、新規制の適用対象となる企業は中国外に所在する企業との取引も制限される可能性がある。

対中投資全体へのインパクトはどうか。米国企業の対中直接は近年、新型コロナウイルスの感染拡大や米中対立に起因する規制強化などの影響で低調とされる。米国調査会社ロジウム・グループによると、米国の対中直接投資は2005~2018年に年平均140億ドルだったが、その後5年は同100億ドルに減少。2022年は82億ドル(暫定値)と過去20年で最低になった。VC投資も2022年は13億ドルと、2018年の144億ドルから10分の1以下に落ち込んだ。新規制の分野は限定的であるものの、米国の対中投資のさらなる押し下げ要因となることが予想される。大統領令発表前の2023年6月には、米国の有力VCのセコイア・キャピタルが組織改編により、中国とインド・東南アジアを管轄する部門を切り離すと発表した。同社は分割の理由として地政学的な課題には触れなかったが、大統領令による規制強化を見越した策だったとの見方もある(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版2023年6月7日)。

次なる焦点は法制化

バイデン政権の規制には、議会の動きも影響を与えそうだ。NCCDAを推進する議員は、対外投資審査制度の創設を断念しておらず、ロサ・デラウロ下院歳出委員会少数党筆頭理事(民主党、コネチカット州)らは2023年5月、NCCDAの修正法案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2023年NCCDA)を提出した。NCCDAを最初に提出したケイシー、コーニン両上院議員も7月、独自の「対外投資透明性法案(OITA)」を上院の2024会計年度国防授権法案(NDAA)の修正案として提出した。OITAは超党派の支持を得て、NDAAの一部として可決されている(注7)。

バイデン政権はこうした議会の取り組みを評価し、対外投資規制に向けたアプローチを議会と調整していく姿勢を示している(2023年8月16日付ビジネス短信参照)。通商法に詳しい米国の法律事務所は、議会が審議中の法案を大統領令に沿った内容に調整する可能性を指摘する。政権も規制を最終的に法制化し、制度の一貫性や正当性、予算を確保したいと考えるかもしれない。実際、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、対中投資の透明性を高めるための立法措置に支持を表明している(「ワシントン・ポスト」紙電子版2022年7月13日)。

現在提出されている各法案と大統領令に基づく規制を比較すると、対象となる分野や取引に共通する部分がある半面、規制の範囲や手法に乖離もある(表3参照)。対象分野については、2023年NCCDAとOITAは、大統領令で指定された半導体、量子情報技術、AIよりも幅広い分野に網をかけている。規制手法に関しては、2023年NCCDAが投資案件ごとの審査(いわゆる「逆CFIUS」)を規定しているのに対し、大統領令に基づく規制ではそうした審査は想定されていない。OITAは取引の禁止規定を含まず、届け出要件のみを定める。

表3:対外投資規制に関する法案と大統領令に基づいて検討されている規制の概要
項目 2023年NCCDA OITA 大統領令
所管省庁 省庁横断の「国家重要能力委員会(NCCC)」を設立。USTR、商務省、財務省など13省庁で構成。議長は大統領が指名した省の長 財務省 財務省
適用主体 米国人(米国市民、米国民、永住者、および米国の法律または米国内の管轄権に基づいて組織された法人、パートナーシップ、そのほか他の事業体) 米国人(米国市民、米国民、永住者、および米国の法律または米国内の管轄権に基づいて組織された法人、パートナーシップ、そのほかの事業体) 米国人[米国市民、永住者、米国の法律または米国内の管轄権に基づいて組織された事業体(米国外の支社も含む)、および米国内に存在する個人・事業体]
対象分野 国家重要能力分野:半導体製造・先端パッケージング、大容量バッテリー、重要鉱物・素材、AI、量子情報科学・技術、医薬品有効成分、自動車製造、大統領が指定したそのほかの分野 先端半導体・マイクロエレクトロニクス、AI、量子科学・技術、極超音速、衛星通信、軍民両用のネットワーク化されたレーザースキャニングシステム 半導体・マイクロエレクトロニクス、量子情報技術、AIシステム
対象国 懸念国:米国の国家安全保障と米国人の安全に著しく有害な慣行に長期的に従事している国。中国、ロシア、イラン、北朝鮮、キューバ、ベネズエラのマドゥロ政権を含む 懸念国:北朝鮮、中国、ロシア、イラン(合衆国法典第10編第4872条で指定されている国) 懸念国:中国(香港とマカオを含む)
対象取引
  • 国家重要能力分野における次の活動:
    (1)懸念国の事業体の株式取得など
    (2)懸念国の事業体の債務に対する持ち分に関する取り決め
    (3)懸念国における完全子会社の設立(グリーンフィールド投資など)
    (4)懸念国における、または懸念国の事業体との合弁事業の設立など
    (5)懸念国の事業体との業務協力、同事業体の取締役会代表権の取得、同事業体への業務サービスの提供など
    (6)米国政府の資金援助の受給者による懸念国の事業体または懸念国に関する活動
    (7)米国の国家安全保障機関の年次調達から一定の利益を得ている事業体による懸念国の事業体または懸念国に関する活動
    (8)別途規則で定められた、懸念国または懸念国の事業体が関わるそのほかの活動
  • 一定金額に満たない取引、米国の国益に資する取引、別途規則で定義される「通常ビジネス取引」は適用除外
  • 対象分野に関わる次の活動:
    (1)懸念国の事業体の株式取得など
    (2)懸念国の事業体の債務に対する持ち分に関する取り決め
    (3)懸念国における完全子会社の設立(グリーンフィールド投資など)
    (4)懸念国における、または懸念国の事業体との合弁事業の設立など
    (5)懸念国の事業体との業務協力、同事業体の取締役会代表権の取得、同事業体への業務サービスの提供など
  • 一定金額に満たない取引、財務長官が米国の国益に資すると判断した取引、別途規則で定義される「通常ビジネス取引」は適用除外
  • 対象分野の特定技術・製品に関わる懸念国の個人・事業体・政府との取引。具体的には、株式取得(M&A、プライベート・エクイティ、VC)、株式に転換可能なデットファイナンス取引、グリーンフィールド投資、合弁事業
  • 第三国の事業体を介した特定の間接取引も対象
  • 規制が適用されない除外取引も指定。具体的には、公開市場で取引されている証券やインデックスファンド、上場投資信託(ETF)への投資、米国の親会社から子会社への資金移動など
  • 米国の国家安全保障に並外れた利益をもたらす取引などについても禁止要件から除外
規制手法
  • 対象活動の開始予定日の90日前までにNCCCに届け出を義務付け。NCCCは45日以内に審査を行うかを通知。審査開始から90日以内に審査結果を公表し、取引がもたらす国家安全保障上のリスク軽減措置の強制や、対象活動の禁止が可能
  • NCCCは届け出のなかった対象活動についても自主的に審査を行うことが可能
  • 無担保取引の場合は完了予定日の14日前までに、有担保取引の場合は完了日の14日後までに、財務省に届け出を義務付け
  • 届け出のなかった対象活動を特定するプロセスも別途制定
  • 届け出取引と禁止取引をそれぞれ規定
  • 届け出取引については、取引完了後30日以内に財務省に届け出るよう義務付け
罰則
  • 禁止された取引の実行、対象取引を届け出なかった場合、NCCCに提出した情報における重大な虚偽記載または記載漏れ、リスク軽減措置に違反する行為、規則に基づく禁止事項の回避は、最高25万ドルまたは対象活動の倍額の民事制裁金の対象
  • 大統領は司法長官に対し、米国地方裁判所において対象活動の売却を含む救済措置を求めるよう指示することが可能
別途規則で制定。対象取引を届け出なかった場合、または財務省に提出した情報に重大な虚偽記載または重大な事実の記載漏れがあった場合が対象
  • 財務省に提出した情報・文書における重大な虚偽記載または記載漏れ、禁止取引の実行、届け出取引を適宜に届け出なかった場合は、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく民事罰の対象
  • 財務省は大統領令に基づき、規則施行後に実行された禁止取引の無効化または売却を強制することが可能

注:2023年9月12日時点の情報に基づく。
出所:議会、ホワイトハウス、財務省発表の各種資料からジェトロ作成

法制化を巡っては、有力議員間の意見調整が注目点となる。米国VCの対中投資を調査している下院の「米国と中国共産党間の戦略的競争に関する特別委員会」のマイク・ギャラガー委員長(共和党、ウィスコンシン州)は、案件ごとの審査制度には否定的な見方を示す一方、規制の対象分野の拡大や、大統領令に基づく規制で対象外となる見込みの受動的投資の規制も求めている(「ワシントン・ポスト」紙電子版2023年8月29日)。一方、同じ共和党でも下院金融サービス委員会のパトリック・マクヘンリー委員長(ノースカロライナ州)は、新たな対外投資規制の有効性を疑問視し、既存の制裁の強化を優先すべきとの立場を取る(政治専門紙「ポリティコ」2023年7月25日、注8)。民主党では、シューマー上院院内総務らが2023年5月、「CHIPSおよび科学法」に続く対中競争法案の第2弾の一環として、対外投資審査の導入を目指すと表明した。

対外投資規制に積極的な議員は「大統領令は歓迎すべき第一歩だが、ゴールではない」という認識で一致する。今後も法整備の議論が続くことは確実で、対中ビジネスに従事する企業は政権の規則制定と並行して議会の動きにも目を配る必要がある。


注1:
CFIUSは、外国からの投資が米国の国家安全保障に与えるリスクを審査する省庁横断の委員会で、財務省が議長を務めている。対外投資に関する条項は、最終的にFIRRMAから削除された。FIRRMAの概要については、調査レポート「対米外国投資委員会(CFIUS)および2018年外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)に関する報告書」を参照。
注2:
ドナルド・トランプ前大統領は2020年11月、中国人民解放軍と関連する中国企業の上場株式への米国人の投資を禁じる大統領令を発表し、バイデン大統領は2021年6月に対象企業の範囲を拡大した(2021年6月7日付ビジネス短信参照)。「非特別指定国民 中国軍事産業複合体企業リスト(NS-CMICリスト)」に基づく証券投資の禁止措置に関しては、調査レポート「米国の経済安全保障に関する措置への実務的対応」も参照。
注3:
NCCDAは、下院でロサ・デラウロ議員らが同様の法案を提出し、2022年2月に半導体産業への資金援助を盛り込んだ「米国競争法案」の一部として可決された。米国競争法案は、上院の対案である「米国イノベーション・競争法案」と調整の末、同年8月に「CHIPSおよび科学法」(2023年8月10日付ビジネス短信参照)として成立したが、NCCDAは同法には含まれなかった。
注4:
米国市民、永住者、米国の法律または米国内の管轄権に基づいて組織された事業体(米国外の支社も含む)、および米国内に存在する個人・事業体を指す。
注5:
大統領令は、懸念国について「米国の国家安全保障を脅かす方法で米国の能力に対抗するために、軍事、諜報、監視、またはサイバー能力にとって重要な機微技術・製品の進歩を指示、促進、または支援する包括的かつ長期的な戦略に関与している国・地域」と定義している。懸念国は、大統領令の付属書の改定により、今後追加される可能性がある。
注6:
財務省は、米国人が支配する外国の事業体が行う取引のうち、米国人が行った場合に届け出・禁止対象となる取引についても、当該米国人に届け出を求めたり、禁止取引を防止するための措置を講じるよう求めたりすることができる、と大統領令は定めている。
注7:
上院と下院は今後、それぞれ可決したNDAAを一本化する作業を行う予定。下院のNDAAには対外投資規制に関する条項は含まれておらず、OITAの成立には下院の支持が必要になる。
注8:
制裁に基づいて対外投資を規制する法案として、下院金融サービス委員会のアンディ・バー議員(共和党、ケンタッキー州)は2023年2月、「2023年中国軍事・監視企業制裁法案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を提出している。同法案は大統領に対し、国防総省が2021会計年度NDAAに基づいて公表している中国軍事企業リスト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますと財務省のNS-CMICリストの掲載企業に制裁を科すよう義務付ける内容となっている。この法案が成立した場合、米国人は各リストの掲載企業への投資を含むあらゆる資産取引が禁止されることになる。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所〔戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員〕
甲斐野 裕之(かいの ひろゆき)
2017年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課、海外調査部米州課を経て、2022年2月から現職。