特集:欧州で先行するSDGs達成に寄与する政策と経営多様な分野で持続可能な製品・サービスの投入進む(ドイツ)

2021年12月6日

2015 年の国連持続可能な開発サミットで、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。このアジェンダは、「持続可能な開発目標(SDGs)」を掲げたことで知られる。目標は17あり、その下に169のターゲットが設定されている。

一方、ドイツ連邦政府とドイツ企業は持続可能性やSDGsに、長年取り組んできた。その取り組みには、国際的にも評価が高い。

本レポートでは、連邦政府とドイツ企業4社の最近の動きを紹介する。

国家戦略を策定、SDGsの達成状況を指標で可視化

持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)は、SDGs目標の達成度に関し国別ランキングを発表している(注1)。その2021年ランキングで、165 カ国中、ドイツは4位。ちなみに、日本は 18 位だった。ここからも、ドイツが環境先進国であることがわかる。

持続可能な開発は、国として長年にわたり取り組んできたテーマだ。連邦政府は2002年に「国家持続可能性戦略」を策定。今後の課題や達成すべき目標を明確化した。その後も、連邦政府はこの戦略を定期的に更新してきた。2016年には、SDGsの17目標に基づいた内容に改められた。さらに2021年3月、新型コロナウイルス禍を踏まえて更新(2021年3月18日付ビジネス短信参照)。現時点で、2021年版PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(10.97MB)が最新となっている。

この戦略では、17目標ごとに具体的な指標が設定されている。同時に、レビューサイクルが採用され、進捗状況や2030年までの達成見込みがわかりやすく示される。指標と各年の達成度を判断できる統計情報などは、連邦統計局の専用ページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにまとめられている。

段階的に企業の非財務情報の開示義務付け

ドイツで進んでいるのは、SDGs達成の戦略策定だけではない。企業に非財務情報の開示を求める法も整備されている。

2014年に発効したEUの「非財務情報開示指令(Non-Financial Reporting Directive外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」に基づき、EU各加盟国は、環境や社会的課題、ガバナンスなどの非財務情報を企業に開示させる法制度整備が求められた(注2)。これを踏まえ、ドイツ連邦政府は2016年9月、商法など関連法を一括で改正する法案を閣議決定。議会審議を経て、「企業の社会的責任(CSR)指令実施法(CSR-Richtlinie-UmsetzungsgesetzPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(120KB))」として成立した。なお、同法は2017年4月に施行された。

現在、ドイツでは非財務情報開示に関しては、主に商法(Handelsgesetzbuch外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の年次決算書と状況報告書に関する部分に規定がある。対象となるのは、上場企業または銀行、保険会社、投資信託会社のうち、売上高が4,000万ユーロまたは総資産が2,000万ユーロを超える従業員501人以上のもの。該当する企業に、CSRに関連する非財務情報の開示が義務付けられる。より具体的には、状況報告書、グループでの状況報告書または個別の非財務報告書の中で、従業員、社会や環境の課題、人権の尊重、腐敗防止に関する重要なリスクやその対応を明らかにする必要がある。また、上場企業の一部は経営層のダイバーシティーポリシーに関する詳細を追加することも求められる。なお、欧州委員会は、2014年発効の非財務情報開示指令の改正案を2021年4月に発表した(2021年4月23日付ビジネス短信参照)。その結果、2024年1月1日以降に発表される持続可能性報告書では、開示対象が非上場の企業も含む全ての大企業と、一部例外を除き中小企業を含む全ての上場企業に拡大するとみられる。このように、今後対象が順次拡大されていく予定だ。

高く評価されるドイツ企業

カナダの出版・調査企業のコーポレート・ナイツ(Corporate Knights)は2021年1月、2021年版の「世界で最も持続可能な企業100社」を発表した(コーポレート・ナイツウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。これは、総売上高が10億ドル以上の上場企業を対象とした持続可能性に関する世界ランキングで、同社が2005年以降毎年発表している。2021年版は、2019年度の企業の年次報告やサステナビリティーレポート、各社のウェブサイトなどからの情報を基に、独自に開発した分類によって上位100社を選出した。

国別選出企業数で1位は、米国(20社)。2位のカナダ(13社)、3位のフランス(9社)。ドイツ企業は、次いで7社だった(表1、表2参照)。

表1:2021年版「世界で最も持続可能な100社」国別選出企業数が上位の5カ国
順位 国名 企業数
1 米国 20
2 カナダ 13
3 フランス 9
4 ドイツ 7
5 英国 5
デンマーク 5
日本 5
フィンランド 5

出所:コーポレート・ナイツ発表資料を基にジェトロ作成

表2:2021年版「世界で最も持続可能な100社」で選出されたドイツ企業
順位 企業名 業種・分野 本社所在地
23 オスラム・リヒト 照明器具 バイエルン州・ミュンヘン
25 シーメンス 総合電機 バイエルン州・ミュンヘン
49 アリアンツ 保険・金融サービス バイエルン州・ミュンヘン
67 コメルツ・バンク 銀行 ヘッセン州・フランクフルト
76 アディダス スポーツ用品 バイエルン州・ヘルツォーゲンアウラハ
84 SAP ソフトウエア バーデン・ビュルテンベルク州・バルドルフ
88 ヘンケル 総合化学 ノルトライン・ウェストファーレン州・デュッセルドルフ

出所:コーポレート・ナイツ発表資料を基にジェトロ作成

鉄道にクリーンエネルギー、リサイクル率も高い車両

「世界で最も持続可能な企業100社」で、ドイツからは製造業や金融、ITなどの業種から選出されている。いずれも、持続可能性、循環経済の実現に貢献する製品やサービスの展開を追求する企業だ。ここからは、このランキングで高評価だったドイツ企業の最近の注目すべき取り組みを紹介する。

25位に選出されたのは総合電機大手シーメンス。ドイツ国内外で様々な取り組みを行うが、例えば傘下のシーメンスモビリティーは2016年、電車車両「ミレオ(Mireo)」の開発を発表した。軽量な骨組みや、改善した空気力学の適用、エネルギー効率の高い部品の使用、スマートな配線管理などにより、従来の電車と比較してエネルギー消費量が最大25%削減できるという。また、車両の寿命後のリサイクル率が95%以上に上る。さらに、2020年11月には、水素をエネルギー源とする燃料電池電車に改良した新しいミレオの試験運行で、ドイツ鉄道と協力すると発表した(2020年12月2日付ビジネス短信参照)。2024年から1年間、ドイツ南西部バーデン・ビュルテンベルク州のテュービンゲン市周辺で運行する。従来型のディーゼル列車の代替として運行し、年間約330トンの二酸化炭素(CO2)排出量の削減が見込まれる。2021年7月には、同社はバイエルン州と同州内で燃料電池電車の試験運行を実施する覚書を交わしたことを発表(2021年7月29日付ビジネス短信参照)。ドイツ鉄道は約3万3,000キロの路線網を有する。しかし、路線の約40%は非電化のため、これらの路線で走行可能な燃料電池列車の必要性が高い。

なお、ドイツでは2021年6月、改正気候保護法(Klimaschutzgesetz外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)が成立。温室効果ガス(GHG)排出量の削減目標を引き上げ、削減スケジュールを具体化した。このほか、2030年までの分野別の許容排出量を厳格化した(2021年7月6日付ビジネス短信参照)。また、鉄道を含む交通分野では、エネルギー産業と製造業に次ぐ許容排出量が設定された。そのため、毎年確実にGHG出量を削減していく必要がある(表3参照)。

表3:2020年~2030年の分野別許容排出量(CO2換算)(単位:100万トン)
分野 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年 2026年 2027年 2028年 2029年 2030年
エネルギー産業 280 257 108
製造業 186 182 177 172 165 157 149 140 132 125 118
交通 150 145 139 134 128 123 117 112 105 96 85
建築物 118 113 108 102 97 92 87 82 77 72 67
農業 70 68 67 66 65 63 62 61 59 57 56
廃棄物やその他 9 9 8 8 7 7 6 6 5 5 4

注:—は法律に定めがないこと。
出所:改正気候保護法を基にジェトロ作成

鉄道網のさらなる電化と同時に、水素燃料活用の拡大に期待がかかる。

消費者に身近な日用品でも

産業界だけではない。消費者に身近な日用品の分野でも、持続可能な製品の導入が進んでいる。

76位に選出されたスポーツ用品大手アディダスは、2021年4月にキノコ由来の素材を使った靴「スタン・スミス・マイロ」を発表。2022年の春・夏コレクションから発売予定という。マイロ(Mylo)という素材は、見た目や質感は革のようだ。しかし、従来の動物性素材や合成皮革などの素材ではなく、キノコの根の菌糸体から作られている。この新素材開発は、次世代の先端素材の開発をするバイオテクノロジー企業ボルト・スレッズとの提携によって実現した。菌糸体は、垂直農法で2週間以内に効率的に育てることが可能だ。


スタン・スミス・マイロ(アディダス提供)

またアディダスは、2015年から環境保護団体のパーレイ・フォー・ジ・オーシャンズ(Parley for the Oceans)とも提携。海岸や海沿いの地域で回収されたプラスチック廃棄物から作ったアップサイクル(注3)の糸を使用し、靴を生産・販売している。2020年には7,000トン弱のプラスチック廃棄物を回収。プラスチック廃棄物を再生産した素材を用いた靴の生産は、2020年には1,500万足、2021年には1,700万足を見込む。さらに2024年以降、全製品で使用されるポリエステルについては、再生品を100%使用するという目標を掲げている。目指すのは、持続可能な素材の開発・使用や資源の再利用を通じて循環型の製造販売を実現することだ。

88位に選出された総合化学大手のヘンケルは、2021年8月に同年上半期の業績を発表。同期の売り上げや利益は順調に伸び、2021年度の売上高を上方修正している。中でも、植物由来の洗剤「ラブ・ネイチャー(Love Nature)」シリーズがドイツ市場で好調とした。このシリーズは、洗剤そのものの成分の78~98.5%が天然由来で環境への負荷が低く、容器は100%再生プラスチックから作られている。さらに、国内の一部のドラッグストアやスーパーマーケットに、対象商品を店内で詰め替えできる「リフィルステーション」を設置している。同社によると、この取り組みにより2021年11月11日時点で5万7,880本の容器を削減できたという。


デュッセルドルフ市内のドラッグストアのリフィルステーション
(ジェトロ撮影)

CO2排出量の可視化・管理サービスを提供

自社製品の製造や販売領域で持続可能な取り組みをするだけでもない。持続可能な取り組みをサポートするデジタルツールを提供する事例もある。

SAPは、84位に選出されたソフトウエア大手だ。同社は2020年6月、アプリケーション「製品炭素排出量アナリティクス(Product Carbon Footprint Analytics)」を発表した。このアプリで、原材料調達から生産、エネルギー消費、運輸などバリューチェーン全体で排出する二酸化炭素(CO2)の量を可視化し分析することができる。企業が導入することで、製造、販売などの活動ごとや地域・製品ごとに炭素排出量を分析し、CO2排出抑制を可能にすることを目指す。企業による可視化で、消費者は気候変動に配慮した製品の購入や消費が可能となる。

さらに、2021年5月に発表したクラウドベースのアプリ「製品フットプリントマネージメント(Product Footprint Management)」は、CO2排出量だけではなく、水やエネルギーの消費、土地利用による環境への影響などの評価が可能だ。その利用により、企業は定期的に、製品ライフサイクル全体での環境への影響を計算することができる。同社は、2021年9月にこのアプリの提供を開始した。気候変動対策の意識が一層高まる欧州の製造業にとって、このようにCO2排出量が可視化・分析できるツールの必要性は高まりそうだ。


注1:
SDSN は、2012年に国連事務総長が後援して設立した国際的な専門家ネットワーク。2021年の国別ランキングは、2021年6月14日にSDSNが発表した「持続可能な開発レポート2021外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」に掲載されている。
SDSNは、SDGs17目標に関する各国の総合的なパフォーマンスについて、最高のアウトカムを100%とした場合に何%まで達成できているかを「SDG指数総合点(SDG Index scores)」として数値化。その結果を順位付けしたのが、このランキングだ。
注2:
従来、開示を義務付けられるのは企業の年次報告書上で財務情報に限られていた。詳細は調査レポート「EUにおける企業の非財務情報開示指令案を巡る動向PDFファイル(689.74KB)」を参照。
注3:
廃棄物を新しい素材やより良い製品に再生し、付加価値を高めること。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。

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