特集:欧州で先行するSDGs達成に寄与する政策と経営EU復興基金の投資計画、SDGsとも連関、気候変動に重点(イタリア)

2021年12月6日

2015年の国連サミットで、持続可能な開発目標(SDGs)が採択された。2030年までによりよい世界を築いていくのが、その目標だ。貧困や気候変動、ジェンダー平等など内容は幅広い分野にまたがり、途上国のみならず先進国でも積極的な取り組みが期待されている。

欧州の中で比較すると、イタリアの目標達成への進捗は後れを取っているようにも見受けられる。しかし、政策面や実際の企業の取り組みで前向きな動きも見られる。本稿では、イタリアでのSDGsに関連する政策動向と、企業の取り組み事例を紹介する。

EU復興基金に対応する計画は、SDGs目標に連関

国連関連機関による2021年のSDGs目標達成度の国別ランキング(注1)で、国連加盟193カ国のうち上位17カ国全てが欧州で占められた。片やイタリアは、26位。欧州の他国の後を追うかたちだ(日本は18位)。

いきおい、2030年に向けてさらなる取り組みの強化が期待される。そうした中、イタリアのSDGsの目標達成と密接に関係してくるのがEUの復興基金に基づく事業展開だ。新型コロナウイルスによる社会的・経済的打撃を緩和するため、EU各国には復興基金(2020年9月23日付地域・分析レポート参照)が配分される。この基金に関し、イタリアはその投資計画である「再興・回復のための国家計画(PNRR)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を策定し、2021年5月に発表(2021年5月10日付ビジネス短信参照)。7月13日のEU理事会で承認された。約2,400億ユーロの大型の投資計画に基づき、今後具体的な施策が進められていくことになっている。

PNRRは「グリーン革命および環境移行」「包摂と結束」など6つの柱から成り立つ。より公平な世界を目指し、また気候変動などでも積極的な働きかけを呼び掛けるSDGsの目標とも親和性が高い。実際、イタリア国家統計局(ISTAT)は、SDGsの17目標とPNRRで掲げられている6つの柱の連関について表のとおり示している(注1)。

表:イタリアの復興パッケージ「再興・回復のための国家計画(PNRR)」とSDGs目標の連関
PNRRの柱 連関するSDGsの目標
デジタル化、イノベーション、競争、文化および観光 1 貧困をなくそう
4 質の高い教育をみんなに
8 働きがいも 経済成長も
9 産業と技術革新の基盤をつくろう
12 つくる責任 つかう責任
17 パートナーシップで目標を達成しよう
グリーン革命および環境移行 2 飢餓をゼロに
6 安全な水とトイレを世界中に
7 エネルギーをみんなに そしてグリーンに
9 産業と技術革新の基盤をつくろう
11 住み続けられるまちづくりを
12 つくる責任 つかう責任
13 気候変動に具体的な対策を
14 海の豊かさを守ろう
15 陸の豊かさも守ろう
持続可能なモビリティーのためのインフラ 3 すべての人に健康と福祉を
9 産業と技術革新の基盤をつくろう
11 住み続けられるまちづくりを
12 つくる責任、つかう責任
教育と研究 4 質の高い教育をみんなに
8 働きがいも 経済成長も
9 産業と技術革新の基盤をつくろう
包摂と結束 1 貧困をなくそう
2 飢餓をゼロに
3 すべての人に健康と福祉を
4 質の高い教育をみんなに
7 エネルギーをみんなに そしてグリーンに
8 働きがいも経済成長も
10 人や国の不平等をなくそう
11 住み続けられるまちづくりを
健康 1 貧困をなくそう
2 飢餓をゼロに
3 すべての人に健康と福祉を
6 安全な水とトイレを世界中に
7 エネルギーをみんなに そしてグリーンに

出所:イタリア国家統計局(ISTAT)「SDGsレポート2021」

PNRRとSDGsいずれも広範なテーマをカバーしているが、とくにカギとなるものの1つが、気候変動対策だ。SDGsの目標では、「13  気候変動に具体的な対策を」が完全に合致。そのほか、「7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「14. 海の豊かさを守ろう」「15 陸の豊かさも守ろう」なども関連し得る分野横断的なテーマだ。

気候変動対策の重要性はPNRRにも表れている。実際、同計画の6つの柱のうち、最大額(全体の約3割に当たる)が割り振られているのが「グリーン革命および環境移行」だ。また、ISTATが表で示した連関で、最も多くのSDGsの目標とリンクされているのがこの柱だ。

植樹システムで社会・環境面で貢献する企業も

企業のビジネスモデルがSDGsで掲げられている目標(特に気候変動対策)とリンクし、社会的意義をもたらしている例もみられる。その1つが、2010年にイタリアのフィレンツェで創立された企業ツリーダム(Treedom)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますだ。「地球を緑化しよう(Let’s green the planet)」をモットーとし、世界で初めて遠隔地に植樹をすることができるプラットフォームを立ち上げた。

仕組みはこうだ。まず、ユーザーは任意に、自分の好きな木の種類と国の組み合わせをメニューの中から選択する(例えば、「タンザニアにパパイヤの木」などと指定)。メニューには植樹により削減できる二酸化炭素(CO2)排出量も記載されている。支払いを完了すると、現地の農家が指定の木を植え、その後、継続的に世話をする。ユーザーはマイページでその木の写真を参照可。植えられた場所も地図上で確認できる。月ごとのサブスクリプション契約も選択可能だ。

プロジェクトの実施に当たっては、ツリーダム自身が農家に植樹と管理のノウハウを提供する。また、植えられる木の種類は現地原産のもの、あるいは生物多様性に考慮したものが選抜されている。

このビジネスモデルにより、多面的な効果が生み出される。まず、植樹によってCO2の吸収、空気の質の向上、生物多様性の促進、土壌浸食の防止など、環境面のメリットが生じる。気候変動対策としてのプラス効果だけではない。プロジェクトに参画する現地の農家に、植樹にかかる財政的援助がもたらされる。成った果実も農家が享受できる。

同社のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(最終アクセス日2021年11月1日)によると、これまで個人84万3,794人、企業6,758社が参加。アフリカ、南米、アジア、イタリアで227万2,217本の木が植えられ、13万3,659人の農家に寄与してきた。最も多く木が植えられたのはケニアの約70万本で、次いでカメルーン約66万本、ハイチ約19万本となっている。実際、イタリアの肌着メーカーのインティミッシミは、CO2削減に寄与するため、ツリーダムを通じて2020年にアフリカ・中南米、イタリアの7カ国に約5万本を植樹外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしたという。

外部的評価も高い

気候変動対策や農家への経済的貢献など多角的な社会的意義をもたらすツリーダムの活動。同社はこれらの取り組みを通じて、SDGsの17目標のうち「貧困・飢餓の削減」「気候変動対策」など10の目標に貢献するとしている。

同社の活動とビジネスモデルには、対外的な評価も高い。2014年には、Bコーポレーションを取得外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした(注2)。この認証の取得により、同社が企業として従業員や顧客、コミュニティー、環境などに配慮していることが示されたかたちだ。

ツリーダムはこのほか、国連が開催した「全ての人に良い食料を(Good Food for All)」コンペティション(注4)でも評価を得た。コンペティションの狙いは、健康的で持続可能な食料へのアクセスを改善するため、インパクトのあるソリューションを持つ中小企業を顕彰するところにある。2021年7月、同社は135カ国2,000社の応募のうち、受賞対象の上位50社に選定外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますされた。国連は受賞者について、(1)対象となるコミュニティーのために、より健康的で持続可能で公平な食料に対して、ビジネスがどのように貢献しているか、(2)未来に向けたビジョンの強さ、(3)ビジネスがもたらす現在および未来のインパクトをいかにうまく伝えているか、などの観点から選抜したとした。

非財務情報開示を国内法制化

SDGsは、近年急速に関心が集まるESG(環境・社会・ガバナンス)とも関連性が強い。ESGに関連する企業向けの規則として、イタリアでは、EUが2014年に発表した非財務情報開示指令を2016年に国内法制化した(立法令2016年254号)。これにより、イタリアまたはEU圏内の市場に上場する企業のうち、事業年度の従業員を平均500人以上有し、(1)貸借対照表の合計が2,000万ユーロまたは(2)販売およびサービスからの総純収入が4,000万ユーロ以上の大企業は、非財務情報を開示する義務を負うこととされた(2021年6月20日付地域・分析レポート参照)。

今後の政策と企業の動きに注目

復興基金の投資計画であるPNRRに対し、イタリアは欧州委員会から、250億ユーロを既に受領済みだ(8月13日時点)。これは、割り当てられる総額の13%に当たる。

SDGsの期限である2030年が徐々に近づく中、イタリアにおけるPNRRをはじめとした関連政策の動向、および画期的なビジネスモデルを展開する企業の動きに引き続き注目が集まる。


注1:
「持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)」は2021年6月14日、「持続可能な開発レポート2021外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表。その10ページ目には、表2.1「2021年のSDG指数総合点(SDG Index scores)」が掲載された。SDGs17目標に関し、想定される最高のアウトカムを100%とした場合に何%まで達成できているかを数値化したもの。これにより、各国の総合的なパフォーマンスが把握できる。本文で言及したのは、この順位。
なおSDSN は、2012年に国連事務総長が後援して設立した国際的な専門家ネットワーク。
注2:
SDGsに関する2021年版年次報告書「SDGsレポート2021外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の中で示された。この報告書は、ISTATが8月9日に発表した。
注3:
Bコーポレーションは、民間認証のひとつで、社会・環境面でのパフォーマンス、透明性、アカウンタビリティーなどで利益と意義のバランスを取っている企業に贈られる。
注4:
「全ての人に良い食料を」コンペティションは、SDGs達成に向け国連事務総長が主催した「国連食糧システムサミット外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」に併せて開催された。
執筆者紹介
ジェトロ・ミラノ事務所
山崎 杏奈(やまざき あんな)
2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課・途上国ビジネス開発課、ジェトロ金沢を経て、2019年7月より現職。