特集:欧州で先行するSDGs達成に寄与する政策と経営「ものづくりの国」、リサイクル促進に動く(チェコ)

2021年12月6日

「ものづくりの国」チェコでは、持続可能な開発目標(SDGs、注1)のうち、「12 つくる責任、つかう責任」への取り組みの遅れが指摘されている。原料リサイクル率でEU平均を大幅に下回っている現状に鑑み、政府は2030年までに2019年比でこの比率を倍増させる目標を掲げている。こうした目標の実現に向けて、公共入札条件に社会・環境上の責任を追加したほか、国家復興計画に基づく補助金の利用も待たれる。

一方、国内の企業は、再生利用に向けてさまざまなプロジェクトを進めている。本稿では、プラスチック代替原料の開発に取り組み、2021年度SDGs賞を受賞したスタートアップにスポットを当て、その活動内容を紹介する。


循環経済の発展が課題

SDGs採択を受けて、チェコ政府は2018年10月、「チェコにおける持続可能な開発のための2030アジェンダの履行PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.30MB)」と称するガイダンスを発表した。これに先立って政府は前年4月に「チェコ2030戦略枠組みPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(9.88MB)」を発表し、持続可能な開発と人々の生活の質を2本柱として、1.人々と社会、2.経済モデル、3.強靭(きょうじん)なエコシステム、4.市町村と地方、5.グローバルな開発、6.良好な政治体制の6部門の現状分析と2030年までの目標設定を行っていた。「チェコにおける持続可能な開発のための2030アジェンダの履行」では、この「チェコ2030戦略枠組み」で設けた上記6部門の目標を国連のSDGs17目標に分類し、各目標を国内政策で対応するもの、あるいは対外政策で対応するものに分け、国内担当省庁を定めている。

GDPに占める工業の割合がEU平均を上回る(注2)「ものづくりの国」チェコが、国内政策の枠組みで対応できる範囲が広いものとしては、SDGs17目標うち、「12 つくる責任、つかう責任」が挙げられる。同目標は同時に、「持続可能な開発レポート2021外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」(注3)において、チェコの達成度について「重要な課題が残っている」と下から2番目の評価がなされ、今後の努力が求められている。その中でも特に「電子廃棄物(の処理)」は、「大きな課題が残っている」と最も低い評価を受けている。

廃棄物に関しては、目標12「つくる責任、つかう責任」において、「2030年までに廃棄物の発生を予防、削減、再生利用および再利用により大幅に削減する」とのターゲット5が設定されている。環境省は2021年7月に発表した「チェコにおけるアジェンダ2030の第2回自発的国家レビューPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(8.79MB)」(以下、「国家レビュー」)で、このターゲットに関して「チェコでは循環経済はやっと開始されたばかり」と厳しい評価をしている。2019年のチェコの原料リサイクル率は8.3%にとどまっており、EU平均(注4)の12.4%を大幅に下回っているが(図参照)、同レビューではその理由について、チェコでは近年の好調な経済成長を背景に物質・資源の需要が高まっているためと説明している。特にプラスチック廃棄物は急激に増加しており、EU統計局によると、2年前と比較して2016年が23.7%増、2018年が31.4%増と大幅に増加する傾向にある〔EU平均(注4)はそれぞれ2.6%増、11.9%増〕。また、電気・電子機器廃棄物(WEEE)指令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます で定めた1人当たりの電気・電子機器廃棄物の回収については、チェコは2018年が7.82キログラムで、EU平均(注4)の7.78キログラムをわずかに上回ったが、EU28カ国(注4)の中で13番目となっている。

図:チェコの原料リサイクル率の推移
2010年は5.3%、2011年は5.4%、2012年は6.3%、2013年は6.7%、2014年は6.8%、2015年は6.9%、2016年は7.5%、2018年は8.0%、2019年は8.3%。EU28平均の原料リサイクル率は、2010年は11.1%、2011年は10.7%、2012年は11.4%、2013年は11.6%、2014年は11.5%、2015年は11.7%、2016年は11.9%、2017年は11.9%、2018年は12.1%、2019年は12.4%。

注:この図の上で、EUには英国を含む。
出所:EU統計局

「国家レビュー」の中で、チェコは2030年までに原料リサイクル率を2019年比で倍増する目標を掲げており、その実現には、国家復興計画に基づく補助金や融資の利用が期待されている(2021年5月20日付ビジネス短信参照)。

一方、環境省は2021年4月に「チェコ・リサイクル経済の戦略的枠組み2040」の草案を作成し、5月7日までの意見公募を経て、最終版を2021年内に内閣に提出する予定だ。これは、チェコが気候変動を含む環境リスクに耐えうる持続可能な社会システムを確立すること、また、新型コロナウイルス感染拡大にも関連して、将来起こりうる問題に対応できるようになることを目指して、2040年までの見通しと目標、施策を定めたものだ。工業部門に関しては、その目標の1つとして、2040年までに原料リサイクル率を2017年の3倍増とすることを掲げている。なお、前述の図に示すように、2017年のチェコの原料リサイクル率は7.9%だった。

企業は再利用を強化、国の法整備の動きも

国内産業界では、個々のリサイクルプロジェクトが進行している。例えば、ソフトドリンク大手のコフォラ(本社:オストラバ市)は、2030年までにカーボンニュートラルを実現する方針の下、2020年に100%リサイクルのペットボトルのミネラルウォーターの販売を開始した。同社の試算では、同年に削減に成功したプラスチック使用量は420トンに上るが、環境に配慮した製品への需要の高まりにより、さらに多くの削減を期待できるとしている。なお、同社はスロベニアとクロアチアの子会社でも、同様の取り組みを実施している。

ただ、こうしたプロジェクトは、再生資材とリサイクルの需要が不十分なことから、その拡張に歯止めをかけられている状況にあると、「国家レビュー」は指摘している。この状況は、2021年1月1日に発効した公共入札改正法によって国家・地方自治体に対して、入札の際に社会・環境上の責任を考慮する義務が課されたことから、今後の需要増加が期待されるとしている。

欧州委員会が2021年4月21日に公表した非財務情報開示指令の改正案(2021年4月23日付ビジネス短信参照)に関しては、国内各関連機関で分析がなされているところである。チェコ会社法が大企業に対して報告を義務付けている非財務情報は現在のところ、(1)環境保護、(2)社会的責任と従業員の雇用環境、(3)人権の尊重、(4)贈収賄防止に関する事項の4点だ。欧州委員会は、一部の条件を満たす企業にサステナビリティー開示規制を課すことを提議している。

国内企業の中には、既に持続可能な開発に関する報告に対応しているところもある。ただし雇用者代表機関のチェコ産業連盟は4月、報告義務対象の拡大により、対象企業数が現在の5倍に増えることや、より詳細な報告が求められるようになることから、企業にさらなる業務負担、財務負担を強いるものとなるとの懸念を表明している。

スタートアップがプラスチック代替原料を開発

チェコでは、非営利団体のチェコ・ソーシャルレスポンシビリティー連盟が2017年から、国内の企業や団体、個人に対してSDGs賞を毎年授与している。2021年は環境省、外務省、チェコ開発庁(外務省外郭団体)、インパクト・ハブ・チェコ(アクセラレーター)の協力・後援の下、2021年9月16日に授賞式が行われた。今回は238の応募プロジェクトから、ビジネス、公共部門、ヤング・リーダー、教育、レポーティングの5部門の優勝・入賞者のほか、クロスセクション・カテゴリーのチェコ開発庁賞、ムーンショット賞の優勝者が発表された。そのうち、持続可能な成長で世界的なインパクトを与える可能性を持つプロジェクトに対して与えられるムーンショット賞に選ばれたのが、チェコのスタートアップ、レフォーク外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (Refork、本社:プラハ)だ。

レフォークは2019年に設立された技術開発・製造企業で、木紛をベースとしたプラスチック代替原料の研究開発や、これらの原料を用いたフォーク、ナイフの製造を行っている。2019年は研究開発に集中、2020年に大量生産の準備を行い、2021年1月に月間100万点の試験生産を開始した。6月にはプラハ郊外に設立した新工場に製造を移転し、段階的に月間生産数を2,000万点にまで増やす予定だ。

同社が開発した製造技術は特許を取得しているが、その基盤となっているのは、一般のプラスチック製品製造技術で、事業規模の拡大が可能なものといえる。また、製造過程では、水使用量や廃棄物の排出量はともにほぼゼロに抑えている。

原料の木粉には、木材加工の際に発生する木くずを利用しており、これに、自然界に存在する天然ポリマーや鉱物を加えて製造している。原料の木粉とその他の要素の割合は現在6対4だが、3年後には100%木粉(廃棄物)利用達成を目指す。当該原料はカトラリー以外の製品にも利用可能で、硬質プラスチック製品の大半に関して代替が可能とみられている。同社は2021年中に歯ブラシの販売を開始する予定だ。

また、同社は現在、木粉以外の原料開発にも取り組んでおり、欧州域外の国で多く排出される廃棄物(米のもみ殻、タケノコの廃棄部分、クルミの殻など)の利用可能性に関して、研究を進めている。これが実現すれば、世界各地でその地の条件に合わせた製造が可能となり、いかなる地域でも環境改善が図れることになるとして、国外進出にも意欲を示している。


代替プラスチック製カトラリー
(レフォーク提供)

製造過程(レフォーク提供)

なお、チェコ・ソーシャルレスポンシビリティー連盟が2021年5月に実施した世論調査の結果PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.70MB)によると、持続可能な開発目標に関して「聞いたこともない」と回答した人は48%にも上った。前年の51%より微減したものの、依然として国民の約半分は全く認識していない状態にあるのが現状だ。

レフォークは持続可能な開発に関する知見向上にも力を入れており、顧客のみならず、一般をも対象に分解性、ライフサイクルなどをテーマに啓発活動を行っている。


注1:
SDGs は2015年に国連で採択され、17の目標から成る。
注2:
2019年のGDPに占める工業の構成比は、EU27カ国の平均が19.7%なのに対して、チェコは29.2%だった(2021年10月22日時点で確認したEU統計局データを基に、ジェトロが算出した結果)。
注3:
持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)は2021年6月14日、「持続可能な開発レポート2021」を発表した。このレポートではSDGsの17目標に関して、各国のパフォーマンスが目標別に4段階で評価された。なおSDSN は、国連事務総長が後援して2012年に設立された国際的な専門家ネットワーク。
注4:
ここでいう「EU」には、英国を含む。
執筆者紹介
ジェトロ・プラハ事務所
中川 圭子(なかがわ けいこ)
1995年よりジェトロ・プラハ事務所で調査、総務を担当。

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