特集:欧州で先行するSDGs達成に寄与する政策と経営政府と連携した開発途上国でのSDGsビジネスが盛ん(デンマーク)

2022年1月12日

デンマークは、国連の持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)による2021年のSDGs目標の達成率に関する国別ランキング(注1)で3位となり(2020年は2位)、SDGsの進展が見られる国として注目されている。特に「1.貧困をなくそう」「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「10.人や国の不平等をなくそう」の3目標に関して、「(2030年までの)達成に向けて順調または達成を維持」と評価されている。また、「世界で最も持続可能な100社外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(注2)には、2位にデンマークの環境エネルギー企業オーステッドが選出された。

この評価からも示唆されるように、今まで多くのデンマーク企業がSDGs関連の事業を推進し、また、公共性の高い組織や公的機関が持続可能性向上への取り組み支援を実施してきた。では、なぜデンマーク企業はSDGsに取り組むのだろうか。

社会における環境への関心が背景の1つ

廃棄物と資源のためのデンマークのネットワーク(DAKOFA)の記事によると、サステナビリティー先進国と言われるデンマークでは、1978年にリサイクルに関する世界初の法律を導入し、2001年にボトルや缶のデポジット制度を開始するなど、先進的な取り組みを早くから行ってきた。現在は国を挙げて再生エネルギーの生産・利用を積極的に進め、デンマークの非営利の官民パートナーシップ「ステート・オブ・グリーン」の2021年1月のニュース記事によると、2020年にはデンマークの電力消費量のうち、風力・太陽光を中心とした再生エネルギーのシェアは50%にまで拡大している。SDGsという言葉が広く使われるようになる前の2015年に、デンマーク法務局が「ザ・サーキュラーズ(The Circulars)」(注3)で循環型経済の発展・繁栄を可能にする環境を確立している都市・地域を対象とする賞を贈られた。デンマーク政府が戦略的プログラム「廃棄物のないデンマーク」で、グリーンなビジネスモデルや技術、廃棄物政策、トレーニングの改善などを推進していることが高く評価されてのことだった。

機関投資家の投資活動も影響

企業の積極的なSDGsへの取り組みは、北欧で活動する機関投資家が企業の社会的責任(CSR)やESG(環境、社会、ガバナンス)経営を行う企業への投資を積極的に進めてきたことも影響を与えていると思われる。

例えば、デンマークの投資機関として最大規模を誇る「労働市場補償年金機構(ATP)」(注4)はESG投資を積極的に進めている。ESG投資を行う機関投資家は、環境改善、社会貢献、企業統治の3つの観点から投資を行うが、ATPはさらに、責任をもって投資を行うための方針外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを定め、環境、気候、人権、従業員の権利、管理条件を考慮している。ATPはまた、企業による同方針への違反や、当該企業が問題の修正を望まないことが調査で判明した場合には、当該企業を投資対象から排除する可能性があるとしている。排除した企業の名前をすべて公開するなどの徹底的な透明性が特徴だ。

オランダの資産運用会社ロべコの2020年10月の分析によると、デンマークはATPに限らず、排除企業リストを全ての年金基金が開示している。周辺国を見ると、スウェーデンとオランダはおのおの80%の基金が開示しているが、ノルウェーは20%強にとどまる。デンマークでは公開しているリストのうち、201以上を排除企業としているものが30%ある。ノルウェーはそもそも20%強しかリストを公開していないものの、リストの60%が201以上を排除企業としている。スウェーデンは公開しているリストの60%は50社未満しか排除してない。

さらに、同分析によると、デンマークの年金基金はフィンランドやノルウェー、スウェーデン、オランダとの比較で、持続可能性に関する投資家主導の国際的なイニシアチブに参加している率も高い。国連の責任投資原則(PRI、注5)と「気候変動対策(Climate Action) 100+外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」へのデンマークの年金基金の参加率はそれぞれ100%だ。機関投資家によるイニシアチブへの参加は、関係する投資家や顧客、企業に対し、持続可能性を投資判断の材料とするとの強いメッセージを発信することになる。

国の競争力を上げるための戦略的選択

産業や機関投資家を含めて社会一般に環境への関心が高いというほかにも、デンマーク政府は循環型経済が国の競争力を向上させるという試算を行ったことが、SDGs目標達成に寄与する産業の育成や支援が高まっていく要因となった。

循環型経済の重要性が注目された2017年、筆者は元環境相のイーダー・アウケン議員にインタビューした。アウケン議員によると、デンマーク政府は、賃金水準の引き下げなどではなく、資源の使い方を見直して環境への配慮や持続可能性に注力する方が競争力をより高めることができると試算・分析した。以降、政府は持続可能な社会への責任を考慮した産業支援や育成を広く進めるようになった。

多種多様な政府の支援体制

デンマーク政府が積極的に行ってきた産業支援は多種多様だ。例えば、環境保全や再生可能エネルギー源、資源効率のいずれかに取り組む株式未公開企業などを融資対象とした2014年設立の「デンマークグリーン投資基金」がある。

2015年11月にエレン・マッカーサー財団が発表したレポート「循環型経済としてのデンマークの可能性」によると、2013年から2018年には、環境関連の新たなビジネスモデルとイノベーションを支援するグリーンビジネス開発基金に2,700万ユーロが充てられた。同基金を利用して、衣料品メーカーのビッガ高品質のベビー服を月ごとのサブスクリプション契約でサイズアップに応じて顧客に配送することで、低品質のベビー服の大量廃棄を防ぐビジネスモデルを立ち上げ、持続可能性に配慮したビジネルモデルの良い例として国内外で取り上げられている。

SDGs関連の事業を実施するデンマーク企業を分析すると、国内で持続可能性を目指す企業と、国外で持続可能性を目指す企業に大きく分かれる。前者は、主に循環型経済や二酸化炭素(CO2)削減など環境への取り組みや、労働環境などの人権に配慮した取り組みが見られる。一方、後者は、主に開発途上国における先進国との経済格差の是正を目指すような科学技術の導入のビジネスモデルが採用されているように見受けられる。

後者は、一見すると、途上国支援にも見える。しかし、その本質は、新たな市場の戦略的な開拓だ。デンマーク外務省が2019年に発行したレポート「デンマーク企業にとってのチャンスに満ちた世界(A World of Opportunities for Danish Businesses外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」では、デンマークが強みを持つ水やエネルギー、食、都市(街づくり)などの分野を取り上げ、ニーズが拡大しているとして、SDGs開発目標に絡めた開発途上国での新ビジネスに商機を示した。

当該レポートでは、持続可能なソリューションの世界市場の拡大に関連する市場規模予想を示し、途上国でのSDGs解決に寄与するデンマーク企業の事例を取り上げている。また、ビジネス展開先国に所在するデンマーク大使館との連携を含むデンマーク政府とのパートナーシップは展開時のリスクを軽減し、官民パートナーショップのオプションは増えていると総括している。

大企業が関係する事例としては、世界最大規模のコンテナ輸送企業マースクがナイジェリアでNGOや地元企業、国際機関との協力の下、コールドチェーンと冷蔵施設を整備することで、生産地の南部から消費地の北部への輸送中のフードロスを削減する取り組みを行っている。乳製品メーカーのアーラフーズも、地元の酪農家や農家と協力し、アフリカ最大の乳製品市場のアルジェリアで、乳製品バリューチェーンにおける市場主導の持続的成長に貢献している。

ブルータウンは、郊外にインターネットを行き届かせ、オンラインサービスとの連携も支援する途上国向けの通信事業を提供するデンマーク企業だ。現地の地域産業やさまざまな専門組織と協力し、オンライン診断や医療相談、オンライン教育、零細農家の収穫物のオンライン販売、ネット銀行、オンライン投票などへの貧困層のアクセス(電子社会参画)を支援する。既にガーナ、インド、タンザニアでサービスを提供している。同社は、公的開発援助機関のデンマーク国際開発援助(ダニダ)の市場開発パートナーシップがガーナで推進する新たな枠組みの商業パートナーになっている。


タンザニアでのブルータウンの電子社会参画事業(ブルータウン提供)

上下水道やガス供給用のバルブ、消火栓など製造するAVKは、水質資源の効率的利用と持続可能な管理を推進するなど、デンマークが得意とする水質向上分野のエンジニア企業だ。現在は南アフリカ共和国の水インフラの経済的に持続可能な再構築のために、高品質・ハイテク製品を提供。生産・流通への投資で300人超の雇用を創出した。また、研修なども併せて提供している。

ノルディックフルーツは2008年設立で、80カ国超から高品質の果物や野菜の輸入を手がけている。持続可能なサプライチェーンの管理の重要性を一層認識していた同社は、ウガンダ北部にある難民受け入れコミュニティーでの野菜・果物の有機生産の導入に関して、複数の有機栽培農家とパートナーシップを提携した。同社は投資により、社会性の高さと高品質の製品提供によってブランド力が高まり、5年間でノルディックフルーツの収益の10~15%を占めるまでの成長を見込むとした。本事業はダニダの支援を受けて、外務省と協力しており、最高経営責任者(CEO)のトルベン・ルンングホルム氏は、彼らから知見提供を受けることでビジネスの成功につながったと述べている。

このように、途上国支援につながるデンマーク企業のSDGs関連事業には、大規模なものから小規模なもの、企業のコアビジネスに付帯する支援プログラムから、スタートアップの地域支援ビジネスモデルまで、多種多様な事業があり、多くの場合、デンマーク外務省や国際支援組織ダニダとの支援や協力の下に展開されている。

デンマークをはじめとした北欧では、社会全体で環境や持続可能性に対する意識が高く、近年では、国際競争力の向上や維持などの観点からも、SDGを考慮することが不可欠と認識されるようになっている。途上国支援の枠組みに入るビジネス展開には、産業育成や将来的な伸び代を見越し、政府の支援が提供される例が散見されるようになってきた。


注1:
2012年に国連事務総長の後援で設立した国際的な専門家ネットワーク「持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)」が2021年6月14日に発表した「持続可能な開発レポート2021外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」10ページに掲載されている、表2.1「2021年のSDG指数総合点(SDG Index scores)」上の順位。SDGsの17目標に関する各国の総合的なパフォーマンスについて、最高のアウトカムを100%とした場合に何%まで達成できているかを数値化し、順位付けしたもの。
注2:
カナダのメディア・調査会社のコーポレート・ナイツが2021年1月に発表。
注3:
世界経済フォーラムが選出した世界に変化もたらす40歳以下の優れた人材「ヤング・グローバル・リーダーズ」のイニシアチブによるアワードプログラム。その後、アクセラレーションプログラムへと形を変えて発展し、現在は「ザ・サーキュラーズ・アクセラレーター」へとなっている。
注4:
2020年の純資産額は約9,598億デンマーク・クローネ(約16兆7,005億円、1デンマーク・クローネ=約17.4円)。
注5:
2006年に国連で提唱され、投資にESG(環境、社会、ガバナンス)の視点を組み入れることなどを含む投資原則。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
安岡 美佳(やすおか みか)(在デンマーク)
京都大学大学院情報学研究科修士、東京大学工学系先端学際工学専攻を経て、2009年にコペンハーゲンIT大学でコンピュータサイエンス博士取得。2006年よりジェトロ・コペンハーゲン事務所で調査業務に従事、現在コレスポンデント。